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□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

76612

 祝日は特に何もなく過ぎた。
 長門家近くの交差点でアスファルトに陽炎が揺らめくのを見たときから、俺は家を一歩も出ない方法で休日を満喫することに決めていた。
 谷口から電車でナンパしに出かけないかと誘われたが、それも断った。
 まったく、このクソ暑い日によくそんな元気が出るもんだ。
 まあ一日中家に居れば、そりゃなにかヘンテコ事象に出くわす確率はぐんと下がる。
 よって、何も起きなかった。
 以上、論理的な矛盾はどこにもない。自然すぎて説明が要らないくらいだ。
 だが、妹とソファーでアイスをかじりつつ芸人だらけのトーク番組を鑑賞しているとき、俺は正直妙な気分だった。
 なんというか、なにかが足りない。
 勘違いしないでほしいのは、変わった事件に遭遇したいのではない。断じてない。
 普段の生活が超自然現象のド真ん中で営まれているようなものだし、たまには普通の、ごく一般的で小市民的な休日があってしかるべきだ。
 ただ、この一般的休日の水面下で何かしらのトラブルが進行している気がする、とでも言えばわかるだろうか。
 たぶん俺の、いままでの学校生活で培われたカンが告げているのだろう。
 ハルヒはなにかをやらかす。
 絶対に、ビデオ鑑賞会などしちまったからにはタダで済むはずなどない、と。
 テーブルに置いてあった携帯電話が突然鳴り出した。
 当然だろうな、と思って俺はため息をついた。
 
 
 しかし、携帯の着信表示を見て驚いた。
 長門からだ。てっきり古泉の野郎からだと思ってたんだがな。
「もしもし、どうした」
 答えはなく、ザーザーと雨の降るような音だけが俺の耳に届く。
「おい、どうした」
「……ザ……『学校』……ザ、ザ」
「もしもし? ちょっと声が遠いな」
 なんとか言葉の聞き取れる場所に行こうと、玄関に走る途中で、
「……ザ……『学校に』……ザザ……」
 と言ったきり、プツリと切れた。電波が無くなったのかもしれない。
 俺はしばらく携帯の画面を見つめてみたが、得られる情報は通話時間のみ。
 あの長門の声なのに、だいぶ焦っているように聞こえた。
 ……そんなことがあり得るのか?
 俺は妹に一言二言で急用が出来たことを説明すると、まったく事情が飲み込めない家族を置いて、家を飛び出した。靴だってまともに履けちゃいない。
 胸でうずくピリピリしたものを感じつつ、自転車のペダルをぶん回すことに集中する。 十分も走った後、ようやく学校正門前に到着、自転車を止める。カギはいいか。
 まったく、夜だから辛うじて倒れなかったようなものの、昼なら脱水症状じゃすまなかっただろうな。服が汗でくっついて気持ち悪い。
 両膝に手をついて息を整えながら、学校の正門を見やる。
 いったい誰が開けたんだ。今日は祝日で休みなんだよな?
 歩けるだけ体力が回復したところで、門をくぐって、敷地内に入る。
 校舎から長門が出てきた。なんだ無事じゃないか、無駄に焦らすなよ。
「心配したぜ、何があったんだ」
「涼宮ハルヒにより、学校周辺の事象が改変された」
 俺は大きな、やや芝居じみてさえいるため息をついた。またアイツか。
「で、具体的には何がどうなったんだ」
「様々な出来事が平行して起きた。詳しくは中で」
 言うなり、足早に学校へ戻る長門。やれやれ、と再度ため息をつき、俺もそれを追った。
 
 
 校内は暗く、水を打ったように静かだった。
 こつこつと、俺たち二人の足音が遠くまで飛んでいき、そして戻ってくるのがわかる。
 休日の学校だから静かなのは当たり前だ。
 が、どうしても腑に落ちないことがある。
「なあ、長門」
「なに」
「なんで廊下に先生方が寝てるんだ」
 暗い廊下にときおり横たわる人影。携帯電話のライトで照らしてみると、教員や事務員たちだった。なぜかみんな、モデルガンらしきものを手に手に持っている。
 いい大人が集まって休日の学校でサバゲー大会かよ。つくづく日本って平和だよな。
「寝てはいない。死んでいる」
「なに!?」
 廊下に俺の声が反響した。お前が冗談なんて珍しいじゃないか。
「生命活動を停止している」
「そんな……」
 しゃがみこみ、手近の教員の口に耳を寄せる。何も聞こえない。手を取り、脈を計ってみる。脈も無い。俺は胸がしめつけられる感覚を無視しようとやっきになった。目を上げれば廊下いっぱいに横たわる、死体の群れ。
「……何が起きたんだ」
「始まりは、この学校に異星人が侵入したことにある」
 
 
 長門の話をまとめるとこうだ。
 今をさかのぼること一年前、この学校の教員がごっそり入れ替わった(ということに、ハルヒがした)。
 新しい教員の正体はなんと遠い星から来た異星人であり、彼らは学校の生徒を使って、ある暗号を解こうとしていたのだった。
「スケイサス・パラダイム」と呼ばれるそれは、言わば神の言葉、宇宙の真理とでもいうべきもので、解けば全時空を意のままに操ることが可能だという。
 学校のパソコン室において、表向きホームページ作りの演習と称し、知能を増大させた生徒達に暗号解読を行わせていたのだ。
 
 
「じゃあここで死んでるのは、みんな宇宙人だってのか?」
「そう」
 歩きながら、倒れている教員の顔をよく眺める。こいつは朝の校門によく立ってて遅刻を取り締まる生活指導担当、こいつは保健の先生……。
「知ってる顔ばかりだぞ」
「あなたが入学する前から彼らは侵入していた」
「とても信じられん。人間にしか見えないしな」
「彼らは擬態が得意」
 その論法だと、たぶん誰にも反論できないんだが。
「百歩譲ってこいつらが宇宙人だとしても、俺の知能は増大なんぞしてない」
 長門が急にこちらを向いて、短く問いを発した。
「358×214は?」
 なんだって? 俺はいま死体の話をしたいんだよ。出来ればしたくないけど。
「答えて」
 わかったわかった。そんなもん、計算に一秒もかからんじゃないか。
「76612」
「ローマ帝国の初代皇帝のフルネームは」
 なんなんだ、お前は俺をコケにしたいのか?
「ガイウス・ユリウス・カエサル・オクタウィアヌス・アウグストゥス」
「最も簡易的な超光速移動の方法は」
 あーもうなんなんだ、さっきから常識問題ばかり出しやがって。
 わかった教えてやる。ようく聞けよ。
「それはだな、ワームホールにカシミール効果によるマイナスエネルギーを注ぎこんで」
 俺は口を押さえた。
 ちょっとまて、俺はワームホールについて教科書で読んだり黒板を写したり暗記したりテストに答えたりしたか? 物理Ⅰの時間に? いいや違う。
 知識だけはあるのに、それを習った記憶がごっそりと欠落している。じゃあなんで俺はそれを知ることが出来たんだ?
「どれも本来のあなたには答えられない問い。異星人によって知能が向上している。ただ、あなたの場合は改変の影響が完全ではない」
 俺は頭を掻いた。やれやれ、どうやらマジでいろいろ「改変」されてるらしい。
「じゃあなんとかそれを元に戻して、先生方を救わないとな」
「それは後回し」
 俺は驚き、長門の顔を見た。話しながらも、まるで物音を聞きつけた猫のごとく、廊下の先を一心に見つめて警戒している。おい、そこに何が居るっていうんだ?
「ここまでは涼宮ハルヒの行った改変による直接的影響。しかし、彼らが死亡したのは偶発的事故」
 
 
 またしても話をまとめさせてもらう。
 学校に侵入し乗っ取った彼らは、つい昨日になって、スケイサス・パラダイムを部分的に解読することに成功した。
 そこで、その力を試すべく、祝日である今日を狙ってある実験を行った。
 時空間に裂け目を作って異なる時間と場所を結ぶ、簡単な実験だ。
 しかし詳細不明の事故がおき、彼らの想定外のバケモノを呼び寄せてしまった。
 
 
「そのバケモノが、こいつらを殺したってことか」
「そう」
 俺はぞくっと何か冷たいものが背中を走り抜けるのを感じ、身震いした。
 おいおいおい、そんな危険な話だとは聞いてないぞ。
「殺したヤツは近くに居るのか?」
 情けなくも、廊下をきょろきょろと見回しながら聞く。ああ、電灯が点いていないのがもどかしい。
「居ない。おそらく。でも校内のどこかに居る」
 俺はまたしても、長門の顔を注視した。ひどくあやふやな物言いだったからだ。
 全然こいつらしくないじゃないか。
「あれは自身の存在を隠蔽することが出来る。探知は困難」
 長門にも探知できない? そんな生き物が存在することそのものが驚きだぞ俺には。
 しばらく暗い廊下を歩く。俺たちがどこに向かっているのか、だんだんわかりはじめた。
「パソコン室に向かってるのか」
「そう」
「なんでだ?」
「あれを学校の外に出さないため。今はわたしが空間を封鎖しているから、脱出不能」
 一呼吸置いて、続ける。
「でも、スケイサス・パラダイムを悪用されればその限りではない」
 と言われてもだな。正直、外に出しちまったほうが俺たちは安全なんだが。
 それきり黙って、廊下を歩く。
 ときおり遭遇する、光の届かない部分がやけに際立って真っ黒に見える。
 情けない話だが、なんか話でもして気を紛らすしかないな。
「あー、なんで俺を呼んだんだ? 俺にはお前のような力はカケラもないんだけどな」
「最後の手段」
「なに?」
「もし、わたしがあれを止められなかった場合、あなたにしてもらいたいことがある」
 俺の脳内に不吉なビジョンが炸裂する。
「おい、縁起でもないこと言うな。お前の最後を看取れなんて、冗談じゃないぞ」
「そうではない。あなたにしか出来ないことがある。チャンスは一度きり。だからあなたを連れて行く」
 俺はまた黙って歩くことにした。長門はこれ以上、詳細を喋らない気がした。
 まあ事態は正直あんまりつかめていなかったが、とりあえず俺にも何か仕事があることはわかった。
 それに(こんな状況で言うのもなんだが)こいつみたいな万能宇宙人に頼りにされるっていうのも、悪くはない気分だ。
 待てよ、重要なことを聞き忘れてるな。
「長門、そいつはどういうやつなんだ? 名前はあるのか?」
 その問いが発せられた瞬間、長門はどこかに痛みを覚えたかのように、一瞬だけ表情を曇らせた。もちろん、俺にもようやくわかるという程度にだが。
「……ダーレク」
 忌々しいタブーであるかのように、長門はその名前を口にした。
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Date:2014/05/14
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