明日から書く。

□ 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱 □

長門の夜の夢

※グロテスクな表現が含まれます。








Q:あなたはだれ?
 
A:あなたたちの同業者。あるものを探している。
 
Q:なにを?
 
A:生きるために必要なもの。……あるべき記憶を。
 
 
 あのときと同じく、教室は極彩色に歪んでいた。
 あのときと同じく、長門は槍に身体を刺し貫かれていた。
 教室のフローリングに、血溜まりが出来ていた。
 ただ違ったのは、そこにキョンという風変わりなニックネームの少年が居ないこと。
 そして、
「やはりあなたがそれを所有していましたか」
 長門の背中に十数本もの茶色い槍を突き入れたのが、朝倉ではないこと。
 無感情な声で話すのは少女……いや少女の形をしたインターフェース。
 形状はかつての朝倉涼子と同じ。
 だが感情というものの全くないその顔は、やはり人間らしいとは言いがたい。
「それはわたしが朝倉涼子を引き継ぐために必要なものです」
 長門はインターフェースに背を向け、床の一点を見つめながら荒い息を続けている。
 やがて、その見つめる先の空間がモザイク状に変化しはじめた。
 何もなかったはずの床に、朝倉涼子が現れた。
 乳児なみに小さいが、かつて朝倉だった存在であり、そして今も朝倉だ。
「あ……ああ……」
 床に座り込んで手を突き、知らず知らずにおびえきった声を出している。
 長門が空間を擬装して朝倉を隠していたのだが、擬装が維持できなくなったらしい。
 朝倉の存在を視覚によっても確認すると、インターフェースが話を続ける。
「長門さん、そこのブラックボックス」
 すう、と腕を上げ、朝倉を指差す。
「回収させて頂きます」
 インターフェースがゆっくりと、朝倉目指して歩き始めた。
 動くことのできない朝倉に、長門があやすように声をかける。
「あなたは動かなくていい……へいき」
 口の端から、どろりとした血が首筋をつたって垂れていった。
 朝倉は怖いと思った。
 
 
 長門が何ごとかつぶやく。
 すると突然、インターフェースに向かって無数の槍が殺到してきた。
 インターフェースはとっさに歩みを止め、両手で槍を結晶化して迎撃しながら、さらに状況の分析を試みる。
 この槍は長門有希に対してわたしが、そして朝倉涼子が使ったものと同じだ。
 教室内部の物質情報を改変し、新たな形状および運動エネルギーを与える。
 粗雑だが簡単で、効果的。
 おそらく先の対朝倉戦で長門有希が学習したのだろう。
 降り注ぎ続ける槍の豪雨をしのぎながら、インターフェースは約二秒ほど使って、ゆっくりと考えた。
 効果的な対抗策が見つかった。すぐに実行する。
 インターフェースの右腕が触手のように伸び、長門の背中を貫通した。
 結果、心臓が粉々になり、右肺が破裂した。
 長門の頭ががくりと落ちた。
 傷口から新たな血液が噴き出して、触手を伝ってぼたぼたと朝倉に落ちた。
 
 
 槍の雨は止んだ。
 教室はいつもの姿を取り戻した。
 朝倉の悲痛な悲鳴が上がった。
「崩壊因子は検出できませんでした。わたしの勝ちでよろしいでしょうか?」
 無機質ながら勝ち誇った声。
「長門さん! 長門さんしっかり! しっかりして!」
 血を噴き続ける長門の足にしがみつき、必死にゆさぶる朝倉。
 長門からの返事はない。
「ふむ……しかし完全を期するべきでしょうね」
 触手に力が入ると、串刺しになった長門が床から持ち上がった。
 頭ひとつぶんほど上昇したところで、第二の触手……左腕が腹を貫いた。
「があっ……!」
 意識を取り戻した長門の表情が苦悶に歪む。脊髄を叩き折られたのだ。
 その口と腹に開いた穴から、新たな血液がごぼりと流れ出た。
「あなたはとても優秀なユニットですから」
 左腕を抜き、もう一度勢い良く突き入れる。
「がは……っ!」
 穴が大きくなった。胃と腎臓が完全に破壊された。
「さきほどのように不意打ちされたら、負けてしまうかもしれない」
 また引き抜いて、別の部分に突き刺す。
「か……は」
 床に赤い染みが広がっていく。左肺が破裂した。呼吸ができなくなった。
 それに血液を失いすぎた。もはや目と意識の焦点が合わなくなってきている。
「やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい。いい言葉ですよね」
 もう一度引き、突き入れる。赤黒い血が飛び散った。
 長門の頭がまた力なく垂れた。全身の筋肉に力がなくなった。
「これくらいでいいでしょう。循環器系もまんべんなく破損していますし……ん?」
 インターフェースは、朝倉が自分をにらみつけているのに気づいた。
 無害な生物。移動能力のあるブラックボックス。
 問題はない。すぐに視線を戻す。
「ああそうだ、もっと効果的な手段を失念していました」
 勢いをつけるために血まみれの触手を引き抜いて、自分の身体の横まで持ってくる。
「脳を破壊すれば一撃じゃないですか。うっかりしていました」
「やめろおおお!」
 朝倉が突進してきて、インターフェースの足に体当たりした。
 無論、ダメージはない。
「長門さんをいじめるなあ!」
 泣きながら何度も何度も、体当たりを続ける。
 蹴りつける。拳をぶつける。
 効果などないとわかっているはずなのに。
 インタフェースはそれを眺めながら、実に非効率的だ、と思った。
 左腕を通常形態に戻し、憤怒の表情を浮かべた朝倉の頭をつかみあげる。
「あなたのせいじゃないですか? あなたが逃げたりしなければ、こうはならなかった。長門さんがひどい目にあったのは、あなたのワガママが原因じゃないですか」
 諭すように言うと、暴れていた朝倉が凍りつく。
「それに、先に攻撃してきたのはそちらです。正当防衛ですよ」
 血まみれでぼろぼろの長門を見やる。
 触手だけを支えにぶらりと垂れ下がり、ゆらゆら揺れている。
 死にかけている。
「……わたしだって、もっとスマートに事を運びたかったんですがね。まったく」
 乱暴に右腕も引き抜く。長門が床に落ちて倒れた。
「ほら、見てください」
 目で長門を指し示す。しぶしぶ、朝倉もそちらを見た。
「こうしている間にも、長門さんは回復を始めているのですよ。これではキリが無い」
 心の底からうんざりだ、という声色。
「ですからやはり、ここでひと息に殺すことにしますよ」
 右腕の先を壁際まで下げて、構える。
「頭を粉々にしてね!」
 触手の先が容赦ない速度で、長門の頭蓋めがけて飛んでいった。
「やめてえええええ!」
 叫ぶ朝倉の目の前に、何かが落ちてきた。
 触手が急停止した。
 
 
 インターフェースは目を疑った。
 いや、視覚のみならず全ての感覚器官からの入力情報、その情報の処理過程、果てには論理構造そのものを大急ぎで点検した。
 間違いはなかった。結論は変わらなかった。
 目の前に、左手でインターフェースの触手をつかんだ朝倉涼子が居た。
 さきほどまでは乳児の大きさだったのに、今は同じ高さに目がある。
 触手の先は、長門の頭部手前三センチあたりで止まっていた。
「やめて、って言ったじゃない」
 触手をつかんだ手に怒りをこめると、触手が結晶化する。
 すぐに割れてバラバラになり、破片が涼しげな音をたてて床に散らばった。
 いつの間にか、朝倉の右手に大きなナイフが握られている。
「間に合ったようですね」
 天井から声がした。
 なぜか犬の形をした黄緑色の風船が浮いており、しかも喋っていた。
 ナイフの鞘が表面にくっついている。
「もー、遅いよキミドリさん!」
「はは、まあ無事に戻れたようで何よりです。“あの頃の”朝倉さんにね」
 そう言うと、風船はすーっと飛んで、教室のドアから出て行った。
 朝倉は軽くナイフを放り投げてキャッチした後、インターフェースに視線を戻した。
「さて、じゃあどうしてほしい? すぐに終わらせてほしい? それともずっと痛いのがいいかな? どこを切ってほしい? 頭がいい? 首がいい? 胸がいい?」
 ナイフの刃を少し舐めると、ぞっとするような冷たい微笑を浮かべた。
「どうやって殺してほしい?」
 インターフェースは破壊された右腕を修復しようとする。
 できない。なぜ。
「無駄なの」
 遠くで朝倉の勝ち誇った声が聞こえる。
「さっきあなたの構成情報に割り込ませてもらったから。じゃ、次はわたしの番ね」
 ババ抜きでトランプを引くときのような笑顔。
 一瞬後、それがインターフェースの眼前にある。
 とっさに頭を横にそらせると、頭の占めていた空間にナイフの金属光があった。
 インターフェースは右腕にナイフを出現させる。
 朝倉に斬りかかると、ナイフで軽々と防がれた。
 ナイフ同士の接近戦になる。乾いた金属音が教室に響く。
 振り下ろす。防がれる。なぎ払う。よけられる。
 なぜだ。なぜダメージを与えられないんだ。こんな旧式のインターフェースに。ただのバックアップに。
「そんなニセモノじゃ、勝てないよ」
 朝倉がナイフを横に払う。
 ナイフの刃の部分が、教室の床に落ちて刺さった。すぐに砂と化して消滅する。
 インターフェースは切断されたナイフを捨てる。そして、
「じゃ、死んで」
 首にナイフを突き刺された。根元まで貫通し、刃の先が逆の端から飛び出る。
「あ……あ……」
「情報結合、解除」
 インターフェースの身体中から光が噴き出たかと思うと、全身が結晶化し……床に落ちて、粉々に砕けた。
 破片もすぐに空気に溶けて混ざってしまう。
 
 
 朝倉は一息つくと、長門のもとに駆けよった。
「長門さん、大丈夫?」
「……へいき」
 血溜まりから起き上がる。もう身体にも制服にすらも穴が開いていない。
 朝倉がかがんで手を伸ばすと、素直にすがりついた。
「肉体の」
「『損傷はたいしたことない』?」
 朝倉がおどけて言葉を引き取ってみると、長門は若干困って、
「そう」
 と言った。朝倉がクスクス笑いをもらす。
「うそだよー。ハラワタがほぼ無かったじゃない」
「修復は可能」
「そう。長門さんらしいね」
 懐かしい気持ちが沸いてきた。忘れていた、言えなかった言葉を思い出した。
 言わなければいけない言葉を。
「……ごめんね、あの時は。殺そうとして」
「いい。気にしてない」
 自分を殺そうとした相手に、これだ。人間への道はまだまだ遠そうだと朝倉は微笑んだ。
「そう、よかった。ねえ、さっきの戦闘だけど」
 責める口調にならないよう、さりげなく切り出す。
「なんで手を抜いたの? 死んじゃうとこだよ?」
 長門は目をそらし、一拍おいて、言いづらそうに答えた。
「……彼女を破壊したくはなかった。協力すれば仕事にも役立つから」
「そ。優しいのね」
「そういうことではない」
 くくく、と笑いをかみ殺す朝倉。ふと気づいて足元を見る。
 音もなく、朝倉の身体が足元から結晶化していた。
 やれやれ、とあの少年なら言うだろう。
「力を使い果たしちゃったみたい。ダメね、あの頃とはやっぱり違う」
 腰から下が全て輝く砂になり、砕けて消滅する。
「わたしが居なくてもやっていけるよね? 長門さん」
 胸の下まで無くなってしまった。
「……いけない」
 長門のつぶやきを無視して言葉を続ける。目がなぜか痛い。
「ちゃんと栄養バランスを考えて食事を作ってね。キミドリさんにもお手伝い頼んでね」
「作れない」
 長門がいやだと首を振り、朝倉の制服のすそをぎゅっと掴む。
 朝倉の両目から暖かい液体が出てきた。そうだ、あの時は出なかった、こんなもの。
 お互いに、あの頃とはずいぶんと変わってしまったものだ。
 そんなことを考えているうちに、もう残っているのは頭だけになった。
「ちゃんと高い場所を忘れずに掃除してね。あと、そうだ」
 頭が下から順番に存在しなくなっていく。
「ありがとう」
 朝倉涼子は消滅した。
 
 
「大丈夫ですか朝倉さん! 長門さん!」
 教室の外からキミドリさんが走って戻ってきた。
 床に積もった砂山に気づき、その前で立ち尽くす。
「そ……んな」
 頭が白くなり、身体が細かく震え始める。
 止めようのない振動が悲しみを加速する。
「うああー! 朝倉さん! 朝倉さんがー!」
「来て」
 長門と抱き合った。
「う、う、うっ、ぐす、あさ、朝倉さん、こんな、こんなこと、ううっ」
「彼女はこうなることを知っていた」
「そんな、わたし、しら、知らなくて、う、うっ」
「わたしに復活させることが出来れば、すぐにでもそうしている」
 キミドリさんは、押し付けられた長門の頬が急に湿り気を帯びたのを感じた。
「くやしい」
 二人は少しの間、そうしていた。
 教室の中は静かで、キミドリさんの嗚咽だけが聞こえている。
 突然砂山が動いた。
 砂が崩れ、中から見慣れた人影が現れた。頭と肩に積もった砂を払う。
「ぺっ、ぺっ。なんでわたし砂の中に……?」
 朝倉だった。乳児どころか携帯サイズになっていた。
「あれー? ここどこですかねー?」
 長門とキミドリさんは朝倉に飛び掛った。
「ちょ、なんですか! なんなんですか!」
「よかったー! よかったよおー!」
「どうしたんですかキミドリさん! なんで顔を押しつけるんですかー!」
「よかった。本当によかった」
「長門さんまで! ってなんか顔濡れてますよどうしたんですか?」
 三人はいつまでもいつまでも、固く抱き合っていた。
 めでたしめでたし。
 
 
 
 
「と言う夢を見た」
「なんか前より膨らんでる!?」
「しかも私にもちゃんと使いどころを用意するとは……やりますね」
 
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Date:2014/05/05
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Thema:二次創作:小説
Janre:小説・文学

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