明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

中央カウンターに到着する

 中央カウンターには、もはや司書も客も、誰も見当たらなかった。
 その代わりに、家ほどもあるガラスの破片が床中に刺さっている。
 また四十二番カウンターで見たように、〈無〉の黒い霧は床や壁や天井、さらにその間の空間をも広く覆っている。
 中央カウンターの象徴たる巨大なガラスチューブも黒い霧によってほぼ隠されてしまい、見えている部分でもヒビが入ったり、穴が開いていない部分は無い。
 今も大小様々な〈無〉のボールや霧がそこら中で気まぐれに発生し、中央カウンターを飲み尽くそうとしている。
 これではホーラもとっくに逃げているに違いない……そう思ったとき。
『繰り返します、お近くのエレベーターで五番、八番、二十二番、三十一番のカウンターへ避難してください! 繰り返します、五番、八番、二十二番、三十一番のカウンターへ避難してください!』
 中央カウンター中に、聞き慣れた声が響いた。
「ホーラさん!」
『繰り返します、って、ええ!? フェスエちゃん、何やってるのこんなところで!』
「おいおい、何やってるは無いだろ。せっかく迎えに来たのに」
『あなたまで! いったいなんのつもりなの!? ここは危ないからどっか行きなさい!!』
 自分への文句に耳をふさぎつつ、リテミスがホーラに向けて片手を挙げた。緊急放送用の大音量でわめかれているのだから、耳が痛くてしょうがない。
「わかった、わかったから」
『わかってないじゃない! ちゃんと決めたでしょう! 危なくなったら』
「それ、図書館中に中継されてるんだろ」
『中継!? ……ああ、そうね』
 ホーラが顔を赤くしつつ、マイクのスイッチを切る。
「どうだ、避難の状況は?」
 リテミスがさりげなく聞くと、ホーラがそちらを向き、胸に指を突きつけた。
「大体終わったわ、あなた達以外は! なんで逃げないのよ!?」
 両手を広げて、目をまん丸にして見せるリテミス。
「逃げ損ねたんだよ! あとフェスエが全然言うこと聞かねえし!」
 ホーラとの再開に涙ぐんでいるフェスエの方を見て、言葉を継ぐ。
「こいつが、お前とじゃなきゃ逃げないって……譲らなくてな」
「……そう」
 ホーラがフェスエの前にかがみ込んで、その頭をなでた。
「ごめんなさいね、フェスエちゃん。ありがとう」
「良かった、です、生きてて、ぐすっ」
 ドガッシャアアン!!
 頭上で大きな、馬鹿でかいガラスが割れて崩れ落ちたような音がしたので、三人は上を向いた。
 ガラスチューブの幹から枝のように伸びていた数百本の鉄のレール、その構造の一部が砕け、崩壊したのである。
 真っ黒な闇のカーテンの間から、鋼鉄のレールとガラスの破片の群れが豪雨のように、真っ逆さまに落ちてきていた。
 
 
 数秒後。三人が居た場所にも、それらは着弾した。
 鉄のレールは床に突き刺さって、そこかしこにまるで即席の墓場が出来たようになった。だが幅が三メートル、厚みが一メートルもあるガラスの破片が大挙してその上に折り重なったおかげで、即座に破壊される。
 その破壊された墓場、割れたガラスの山のふもとに、三人は居た。
 リテミスがホーラとフェスエに覆い被さるようになって、全員が倒れている。
「大丈夫か? 二人とも」
「ええ」
「大丈夫、です」
 いたた、と言いながらリテミスが立ち上がる。
 ホーラがその傍らに立ち、おずおずと声をかけた。
「ねえ、大丈夫?」
「ん? ああ、ちょっとヒザ打っちゃっただけだ」
 両手でヒザをさするリテミスの目をひたと見据えて、ホーラが言い添えた。
「ありがとう」
「お? おお」
 リテミスは照れて、思わず顔をそらしてしまった。
 くす、とホーラが笑う。
「ほら、フェスエ! これで満足だろ? 三人で逃げるぞ!」
 顔を赤くしながら、リテミスが早口でフェスエに話しかける。
 が、フェスエはゆっくりと首を振った。
「いえ、逃げません」
 リテミスもホーラも、一瞬あっけにとられてしまう。
「ちょっと待てよ、話が違うじゃないか!」
「そうよフェスエちゃん! ここは危ないのよ!」
 フェスエは固い固い決意を秘めた顔で、二人に言った。
「ジタンファさんと館長さんも助けます!」
「ええー!?」
 二人は驚くと同時に、肩をがっくり落とす。
 こいつは絶対、この意見を曲げないに違いない。
 ギギ、ギギギギ……。
 そのとき、また不吉な音が中央カウンター中に響いた。
 仕方なさそうに、三人でそちらを見る。
 なんと中央のガラスチューブ自体が、こちらに倒れてこようとしていた。
 下から百メートルほどのところで上と完全に分断され、土台のガラスもほとんど〈無〉に食い尽くされていた。かろうじて向こう側に残っているガラスが、ぐらぐらとしなって不気味な鳴き声を上げている。
 高層ビルほどもあるガラスのカタマリにつぶされれば、もちろん危ないだろう。
「に、逃げるぞ、駆け足!」
 三人はカウンターから飛び出し、漆黒のカーテンを避けながら走り出す。
 バシバシ、ビシパシッ!
 異常な負荷のかかったガラスチューブが、割れて崩壊していく音が耳に届く。
 ガシャアアン!!
 遠くで鉄のレールが五十本かそこらまとめて床に落ちて、雷鳴のような轟音を立てる。
 中央カウンターは消滅しようとしていた。
 バキンッ!
 そして、ついにガラスチューブが折れて、床に倒れ込む刹那。
 三人は扉を開けて、廊下に脱出した。
 閉じた扉の向こうでガラスチューブが、そして中央カウンター全体が壊れ、崩れる音が響いた。
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Date:2014/05/05
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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