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□ 図書館グーゴルプレックス □

リテミス、フェスエの両名が避難する

 エレベーターの扉が閉まると、息をつく間もなくリテミスが口を開いた。
「まだ[ハイパーリンク]が無事なカウンターはどこだ?」
 これはフェスエへの質問ではなく、エレベーターの命令系統への質問である。
 間も無く、落ち着いた女性の声で応答があった。
『五番、八番、十一番、二十二番、三十一番です。それ以外のカウンターは使用不能です』
「よし、そのどれでもいいから向かってくれ」
『了解しました』
 エレベーターは動き始めた。リテミスがほっと息をつく。
 おそらく、あの〈無〉も超空間を通るチューブ内には侵入できまい。おそらく。
 すると、自分の服のそでがまた引っ張られていることに気がついた。
「どうした、嬢ちゃん」
「いったい、何が起きてるんですか?」
 自分を見上げる、不安に震える瞳。
 確かに、今なら説明も出来るだろう。
「ああ。よく聞いてくれ」
『緊急放送にゃ! これは緊急放送にゃ!』
 急に館内放送が入ったので、言葉がかき消されてしまった。
『現在、館内中で〈情報崩壊〉が起きてるにゃ! 繰り返すにゃ、館内中で〈情報崩壊〉が起きてるにゃ!』
 聞き慣れない単語のハズなのに、フェスエは「情報崩壊」と聞こえたとたん、その目を見開いた。当惑と混乱と不安がその顔を走り抜ける。
 リテミスはいぶかしんだ。まさか、知っているのか?
『もうこれは止められないにゃ。よって』
 館長は一瞬だけ決断する間を置いて、言った。
『当グーゴルプレックス図書館は放棄されるにゃ』
 そのときフェスエの顔にあったのは、ただ悲しみだけだった。
 
 
「知ってた、のか」
 リテミスがフェスエに聞くと、フェスエはうなずいた。
「はい。いちおう原理だけは……でも、絶対起きないから大丈夫だって、言われてました」
 なるほど、とリテミスは思った。
 フェスエが図書館の構造を勉強していれば、当然この問題には気づくだろう。
 図書館の不安定化は、原理的には避けられないものだから。
「こういうことも、あるんですね」
 フェスエがうつむきながら、努めてさりげなく言う。リテミスの胸がずきんと痛む。
 図書館が崩壊する。他の世界を知らないフェスエにとって、それは故郷を永久に失ってしまうということだ。
 また館長のアナウンスがエレベーター内に響いた。
『当館職員および来館中のお客さまは、最寄りのカウンターで避難するにゃ! 出身宇宙に帰るにゃ、早くするにゃ! 〈ヌル領域〉を広げないため、[ハイパーリンク]は間も無く全て切断されるにゃ!』
 はっ、とフェスエが顔を上げた。
「と、止めてください! エレベーター停止!」
 がくん、とエレベーターが止まる。
「おい、なんで止めたんだ!」
「リテミスさん、[ハイパーリンク]で、別の宇宙に避難するつもりなんですね?」
 フェスエににらまれて、リテミスは言葉に詰まってしまった。
「ホーラさんはどうなるんですか! ほっといて逃げるつもりですか!」
 さっきまでオドオドしていたのが嘘のように、フェスエの口調には迷いが無い。
 思ったより気づくのが早い、とリテミスは思った。
 だが、譲るわけにはいかない。フェスエを死なせてしまうわけにはいかない。
 これは全部、こいつのために決めておいたことなんだ。
「ああ、その通り。エレベーター再起動!」
「エレベーター停止!」
 動きかけたエレベーターが、がくんとまた止まる。
「フェスエ・ジーリー・ウェルズ二級司書による緊急ロック、生体認証! わたしが良いというまで動かさないでください!」
『フェスエ・ジーリー・ウェルズ二級司書を認識しました。緊急ロック作動』
 く、とリテミスがほぞをかむ。どうしても動かさないつもりか。
「お前、このままじゃ死んじまうぞ! ここは安全かもしれんが、聞いただろ! [ハイパーリンク]はもうすぐ切断されちまうんだ! そうしたら最後なんだぞ! 逃げる場所なんかどこにもありゃしねえんだ!」
「わかってます! でも」
 ひと息吸い込み、リテミスとしっかり目を合わせる。
「ホーラさんも一緒に逃げるんです!」
 リテミスは二の句が継げなくなった。
 まるでダイヤモンドのごとく純粋で強い意思が、フェスエの瞳に宿っているのが見える。
 エレベーターの壁に、ぐったりと身体を預けた。
 まったく、本当にやれやれだ。矢でも鉄砲でもザップガンでも、こいつは動きゃしない。
「すみません、リテミスさん。でもこれだけは……絶対に譲れません。家が無くなって、しかも家族まで居なくなっちゃったら、わたし……わたし」
 言いながら、ぐす、とすすり上げる。
 リテミスは重い重いため息をついて、言った。
「わかった。わかったよ」
 自分の心が通じたと、フェスエの顔色が明るくなる。
「だがな、これはホーラと決めたことなんだ。ホーラを迎えに行くと危険な場合は、俺とフェスエだけで逃げるって」
「そんな!」
「エレベーター! アルベルト・リテミス一級司書の権限により、フェスエ・ジーリー・ウェルズ二級司書の緊急ロックを解除!」
『アルベルト・リテミス一級司書を認識。フェスエ・ジーリー・ウェルズ二級司書の緊急ロックを解除しました』
「リテミスさん!」
 フェスエがリテミスに走り寄り、制服のえりをつかんで揺さぶりはじめた。
 泣き叫びながら、力一杯揺さぶり続ける。
 だがリテミスは意に介さない様子で、素早く命令を続けた。
「[中央カウンター]に向かってくれ」
『了解しました』
 フェスエの手が離れた。
「え、リテミスさん……?」
「そこにホーラが居るんだよ。司書とか客の避難誘導をしてる……してるハズだ」
 リテミスのお腹に強い衝撃が加わった。
 何事かと見ると、フェスエが思い切り抱きついているのだった。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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