明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

図書館が災厄に見舞われる

 ジリリリリリリリ!!
 突然、図書館内に警報が鳴り響いた。
 フェスエはカウンターに置いて読んでいた本から、しぶしぶ顔を上げた。
 火事でも起きたのだろうか? たぶん、スプリンクラーが消し止めてくれると思うが。
「おい、フェスエの嬢ちゃん」
 カウンターの後ろ、「事務室」と看板のかかった部屋からリテミスが出てきた。
「あ、リテミスさん」
「あ、じゃないよ。呑気に本読んでる場合か?」
「えーでもー、ただの本じゃないんですよ、コレ」
 本を手に持って、振って見せる。
「なんでもいいの。火事かもしれないんだぜ、こういう場合はどうするんだっけ?」
 腰に手を当てたリテミスを見ながら、フェスエはなんとか記憶をほじくり返した。
「えっと、エレベーターは危険だから、廊下を使って中央カウンターまで、でしたっけ」
「その通り。じゃあ行くぞ」
 つかつかとリテミスはカウンターから出て、廊下につながるドアに向かう。「ハイパーリンク」の近くだ。丸めた新聞紙を持っているのは、「事務室」で読んでいたからだろう。
 フェスエも急いで貴重品を持ちだそうとカウンター周りを探したが、家に置きっぱなしだったことを思い出した。
「うわっ!?」
 リテミスの悲鳴が聞こえた。
 フェスエがそちらを見ると、リテミスの眼前には闇が広がっていた。
 
 
 そこには廊下につながるドアと、そして部屋の壁があったはずだった。
 しかし、今そこにあるのは漆黒の闇。
 ただ真っ黒な空間。
 墨汁で出来た霧のようなものが、リテミスの目の前に突然現れたのだ。
 それは壁を瞬く間に覆い、さらに天井や床にまで広がりつつある。
 まるで炎だ。煙も音も熱もない、黒い炎。
 ふとリテミスは手元を見た。丸めた新聞紙の先っぽ、壁に向けていた方が消滅している。
 何が起きているのか、ようやくリテミスにはわかりはじめた。
 これは〈無〉だ。とうとう起きたのだ。
「きゃっ!?」
 フェスエの悲鳴が聞こえた。
 リテミスがそちらを見ると、カウンターの半分が、黒いボールに飲み込まれていた。
 ボールは見ている間に、どんどん大きくなる。
「嬢ちゃん、こっちだ! 早くそこを出ろ! その黒いのに絶対触るな!」
 ボールの向こうから、息を切らせてフェスエが走ってきた。
「よかった、無事だな」
「な、な、なんなんですかコレ?」
 リテミスの服のそでをぎゅっと強く持って、不安そうな瞳を向けてくる。
 リテミスは安心させようかと思ったが、部屋の片側すべてが黒い霧に覆われてしまっているのに気づいた。
 おまけに、空中のあちこちで続々と黒いボールが生まれつつある。
 空間が喰い尽くされるまで、思ったより時間が無い。避難することが最優先だ。
「ああ、あとで説明する。『ハイパーリンク』は……」
 そちらを見ると、「ハイパーリンク」どころか、壁も床も天井も無くなっていた。
 これでは、どこかの宇宙への脱出は不可能だ。
「くそっ。エレベーターは無事だな。あれに乗るぞ! 早く!」
「は、はい!」
 リテミスがエレベーターに向かって、部屋を横切って走り出した。
 突然、それを邪魔するように黒い〈無〉のボールが現れる。
 なんとか避けた。危うく頭が持って行かれるところだ。
 フェスエも後を追おうとしたが、思い直してカウンターまで戻った。
 さっきまで読んでいた本を手に取ると、カウンターを飛び越えて走り出す。その刹那、背後でとびきり大きな〈無〉が生まれ、全てを食い尽くした。
「おい、何やってんだ!」
「いま行きます!」
 何でも良いから、図書館に居た証が欲しかったのかもしれない。
 走り出したのはいいが、ランダムに出現するボールを避けるのに手間取り、たどり着くまでに大分かかってしまう。
 エレベーター前で待っているリテミスには、フェスエを待つ時間が永遠に続くように思われた。
 ようやく、闇のカーテンの向こうからフェスエが現れる。もはやボール同士がつながり合い、部屋を飲み尽くそうとしている。
「遅いぞフェスエ! なんで戻った! 何やってんだ!」
 焦りと安心から、つい怒鳴ってしまう。
「す、すみません」
 いつもと違うリテミスの様子にショックを受け、うなだれるフェスエ。
 しまった、とリテミスは思ったが、あらかじめ決めてあるこれからの作戦のため、謝ることはしなかった。
 ようやくエレベーターの扉が開き、二人が乗り込むと、閉まり始める。
 黒い霧は四十二番カウンター全体を完全に征服しており、もはや何も見えなかった。
 「事務室」も「検索室」も、フェスエお手製の「検索エンジン」も、全てが消え去っている。
 まるで初めからそこには何もなく、フェスエの思い出が全て偽物、ただの白昼夢だったとでもいうかのように。
 フェスエは持ってきた本をしっかり抱いて、四十二番カウンターに別れを告げた。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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