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□ 図書館グーゴルプレックス □

時にはパブで、フェスエの部屋で

 同時刻、地元のパブ。
 リテミスがビールで満ちたジョッキを持ち上げる。
「それでは、二人の再会を祝して! かんぱーい」
「はい、かんぱーい」
 かちーん。
 リテミスと紳士は持っていたビールジョッキを打ち合わせた。
「何回目だよ、だんな」
 パブの亭主は半ば呆れながら笑っている。
 なぜなら、彼らがパブに入ってからかれこれ二時間も経つのに、ジョッキにビールが新しく注がれるたび、こうして乾杯をしていたからである。
「まあまあいいじゃんか、嬉しいんだよ、久しぶりに会えたんだ、なあ!」
 顔を真っ赤にしながら、紳士の肩を叩くリテミス。軽くろれつが回っていない。
「ええ、そうですね」
 苦笑いしながらも、丁寧に答える紳士。こちらはパブに入ったときと全く変わらない。
「お前全然酔ってねーな?」
「ええ、機械ですので。このおつまみも全て、純粋なエネルギーに変わります」
 手元に置いてあったピーナッツの小袋を振って見せる。
「ああ、そうだったな、忘れてた」
 リテミスは、紳士が遠い目をしているのに気づいた。
「どうした?」
「ああ、いえ。六十年というのは、長い歳月ですね」
「ふん、そうだな」
 言いながら、ジョッキに口をつける。
「あの新米司書が、今や職務中に堂々と客人をパブに案内して、自分も飲んでいる」
「ぶっ!」
 リテミスは思わずビールをちょっと吹いてしまった。
「おい、チクるなよ? 館長にバレたら免職かもしれん」
 くくく、と紳士が笑う。
「ええ、心得ておりますよ。『男の約束』というものですね」
「そうそう、わかってるじゃん」
 
 
 二時間後、フェスエの部屋。
「もう、全然帰ってこないのね? 殿方二人でそんなに話すことがあるのかしら?」
 フェスエのベッドに座った少女は、いかにも退屈そうに足をパタパタさせていた。
「確かに遅いですね」
 壁掛け時計の時刻を確認する。もうすっかり日も暮れて、夕食時も過ぎている。
 近所の散策から帰ってきた少女とフェスエは、買い置きの材料を簡単に調理して夕食を済ませていた。
「することも無いですし、寝ちゃいましょうか?」
「ええー? まだ早いわ、眠くないわ」
 そりゃあんだけ寝ればなあ、とフェスエは苦笑する。
 だが少女もちょっと考えてみて、確かにすることも無い、と結論が出たようだった。
「わかったわ。でも眠くないし……そうだわ、ご本を読んでくださらない?」
「え、本ですか」
「どんなものでもいいわ。絵本なら」
 絵本なんてあったかなあ、とフェスエは本棚に探しに行く。
 意外なことに、それはあった。技術書に挟まれてホコリを被っている。
「『ライオンとくま』……ああ、懐かしいですね」
 まだ小さいころ、リテミスがこれを買ってくれたときのことを思い出す。
 なんで今まで忘れていたんだろう? あんなに嬉しかったのに。
「あったかしら?」
「ああ、はい。じゃあ、読む前に寝巻きに着替えちゃってください」
「わかったわ……あっ!?」
 少女が何かに気づき、すっとんきょうな声を上げた。
「困ったわ。寝巻きとか必要なものは、いつもタイムキーパーが現地調達するのよ。パブから呼び戻すのも悪いし……」
 おろおろする少女を見かねて、フェスエがタンスから小さいパジャマを取り出す。
「これ、わたしの小さいころのパジャマです。たぶんサイズは問題無いと思うんですけど、これでいいでしょうか?」
「あら、ありがとう」
 少女はそれを受け取ると、手早く着替えを済ませた。
「面白い形ね。まるで男性用みたい」
「それじゃ、ご本読みますよ。ベッドに入ってください」
 ごそごそと少女がベッドに入り込み、かけ布団を被る。
「じゃあ、読みますね。

 ライオンとくまは、だいのなかよしです。
 あるゆきのつもったひ、ライオンはくまのうちをたずねました。
『こんこん、くまさん、おきてますか』
『ええおきてます。いまからおりますね』
 くまはドアをあけました。
 すると、ライオンがもっていたこづつみをだしました。
『さむくなりますから、これをつけるといいですよ』
『わあマフラーだ。ありがとうライオンさん』
 ふたりはてをとりあって、もりをぬけていきました……」
 
 
「町中が誘拐騒ぎで騒然としていました。わたくしも捜査に参加しようと席を立ったとき、お嬢さまがわたくしの袖を引いてこう言いました。
『見て、タイムキーパー、そこで綺麗な石ころを拾ったのよ』
 それを見て、わたくしは思わず変な声を上げそうになりました。お嬢さまが持っている石ころこそ、まさに誘拐された子供だったのですから」
「あっ、はははは!」
 リテミスはひざを叩いて大笑いした。
「お嬢さまはただの水晶か何かだと思っていたのですが、それは結晶生命体の赤ん坊だったというわけなのです」
「ああ、あるある。俺も一度間違えたことあるよ。持って帰らなくて良かったな」
「ええ、危うく国際……いえ、銀河間問題に発展するところです。さりげなくお返しして、事なきを得ましたが」
「ははは、危なかったなあ」
 言いながら、グラスに入った酒をすする。ビールは飽きたので、ウィスキーのロックだ。
「お前はいっつもそんな危ない旅ばかりやってるのか?」
「ええ、その方が喜ばれます」
 いたずらっぽく笑う紳士。少女と居るときよりも、だいぶ砕けた印象だ。
「ん? そういえば、なんでお前たちは旅をしてるんだっけ? 聞いたっけ?」
「ええ、六十年前に。ですが、もう一度お答えしましょう」
 ひとくちウィスキーを口に含むと、先を続ける。
「スターマウント家に限らず、名家と呼ばれる家柄の跡継ぎはみな、幼少期に見聞を深めるための旅に出されます。思考に柔軟性があるうちに色々な経験を積むことで、学習効果が高められると考えられているからです」
「ほー。で、実際、効果はあるのか? ほら、前のお嬢さん……えーと」
「シルヴィアお嬢さまですか?」
「そう、そのお嬢さま」
「ええ、旅のおかげで、異星の慣習にも戸惑われることはほとんどありません。太陽系外から来られたお客さまをおもてなしする際には、ある程度の剛胆さは必要不可欠ですから」
 なるほど一理あるな、とリテミスは思った。
「あのーなんていう星だったかな、生体工学がやたらめったら発達してる」
「デリンギノ・ネマストラシコ・アミナナメリカですか?」
「そうそう、そうだ。その星の人が二年前くらいかな、図書館に来てな。オシャレな帽子だなーと思ったら色を塗った肝臓だし、首にぐるぐるカラフルな小腸が巻き付けてあるし、カバンだと思ったのは角質化した皮膚でな、なんて褒めたものか迷ったよ。
『素敵な皮膚ですね』
 とか言うのもヘンだろ? フェスエもさすがに目玉ひんむいて黙っちゃってな」
 くつくつ、と紳士がグラスに口をつけながら笑う。
「なるほど確かに、普通はそうなりますよね」
「ミシェルお嬢さまはもう、そういうの平気か?」
 ちょっと考えてみてから、紳士は言った。
「いえ、おそらくまだかと思います。大人と同じように落ち着いて振る舞われていますが、五歳でいらっしゃることには変わりありませんので」
「まあ、限界はあるわな。さすがに」
「その星の方とお会いする機会があれば、お嬢さまが意識を失われないように、こちらで対策を講じなければなりませんね」
「はは、確かに気をつけたほうがいいな。内臓は見た目もあるが、やっぱ臭うしな」


「『グオオオオオオ!!』
 狂獣と化したライオンが、熊の喉元を目掛けて飛び掛ってきた。
 熊は右腕を差し出した。
 ライオンが右腕を噛み砕く音がする。
 皮膚が、筋肉が、骨が削られていく。
 だが、熊は痛みではなく、悲しみに涙を流した。
 悪いのはライオンではない。狂獣化ウイルスを作り出した人間どもだ。
『マフラーの礼だ! 右腕はくれてやるッ!!』
 素早く右腕をひるがえし、上顎に右腕を、下顎に左腕をあてがう。
『地獄に落ちろオオオオオオ!!』
 全身の力を込め、右腕と左腕を上下に開く。
 ライオンは真っ二つに裂け、死んだ。
 熊は自身の血みどろの両手にかけ、誓った。
 必ず百獣の王に登りつめ、人間どもを始末してやると。
 だがその行く手には、まだ見ぬ野生の猛者どもが待ち構えているのだった……。

 完

 ご声援ありがとうございました」
 フェスエは本を閉じると、目の端をちょっとぬぐった。
 いい話だった。自分も自然環境を壊さないように気をつけよう。
「え、今ので終わりかしら?」
「はい、『完』です。眠れそうですか?」
「どうやら、ご本が逆効果みたいだわ。なんだか得体の知れない闘志がみなぎってきて、とても眠れそうにないわ」
 そうかそういう効果があるとは、とフェスエは腕を組んだ。困ったなあ。
「はあ……まだかしら、タイムキーパーは? まだ帰ってこないのかしら?」
 布団の上でもぞもぞと少女が動き始めた。
「わたしのことを放り出して、いったい何をしているのかしら?」
 もぞもぞもぞもぞ。もぞもぞもぞもぞ。
「わたしのこと、忘れてしまったわけではないわよね……?」
 不安そうにつぶやく少女。
 くす、とフェスエは思わず笑ってしまう。
「あら、何がおかしいのかしら?」
「いえ、すみません。本当にタイムキーパーさんが大好きなんだなあ、って思って」
「好っ」
 少女が固まり、顔がみるみる赤くなっていった。
 始めは何か言い訳を考えていたようだが、フェスエにまっすぐ見つめられているので、しまいには諦め、細いため息をついた。
「そうよ。好きだわ。認めるわ」
「あー、やっぱりです」
「ちょっと、あまり笑わないでくださる? わたし、これでも真剣なのよ」
「真剣?」
「そうよ……駆け落ちしようか、と思ったことだってあるわ」
「駆け落ち!」
 これにはさすがにフェスエも驚いてしまう。マセてるというか、なんというか。
 だが少女は切なく息を吐き、目を伏せる。
「でもね、それは出来ないの」
「ご両親が許してくれないんですか?」
 思わず少女は笑ってしまった。
「ふふ、許してくれるなら駆け落ちにならないわ。そうじゃなくて」
 再び、顔が曇る。
「タイムキーパーはね、わたしの持ち物なの。あれはただの時計なのよ」
「時計」
 言われてみれば確かに、とフェスエは思った。確かに時計というか、機械だ。
 しかし、機械ではあるが。
「でも、ただの時計にしては、なんというか……」
「かっこいいでしょ? それが問題ね。悪質なデザインだわ」
 しかし厳しい言葉とは裏腹に、少女はうっとりとした表情になる。
「タイムキーパーは……わたしのお目付役で、世話役で、執事で、護衛で、通訳で、現地のガイドブックで、目覚まし時計で……旅の大事なパートナー。誰よりも、優しい男性(ひと)。あらやだ」
 我に返り、はっと口を押さえた。
「わたしったら、言ってることがメチャクチャだわ」
「ふふ、でもわかりますよ。かっこいいですもん! 優しくて紳士で」
 あまりに直球で賛同されたので、少女は再び顔を赤らめる。
「そ、それはそうなんだけど! でも、彼は……あれは、機械なの。表面を取って、中身を見せてもらった事だってあるわ。わけのわからない部品がギッシリ。でも、でもまた皮を元に戻すと……」
「紳士になる、と」
「ええ。やっぱり、これっておかしいわよね? おかしいのかしら? 自分の時計に本気で恋をするなんて、やっぱり変よね? 相手はただの機械なのに」
 言うなりうつむいてしまった少女を見て、フェスエは少し考えた。
 機械と人間。その違いはなんだろう? 見た目だろうか、それとも構成元素?
「いえ、変じゃないと思いますよ」
 思いがけない言葉に少女は驚き、顔を上げる。
 フェスエの顔は真剣そのものだった。常識に反することを真剣に言っている。
「人間かどうかは、身体が何で出来ているかでは決まらないと思います。要は、ここ」
 胸のあたりを、とんとん、と指して見せた。
「心臓?」
「心ですよ」
「ああ」
「タイムキーパーさんは、誰よりもお客さんのことを思ってくれるんでしょう?」
「そうだけど、でもそれは、そういう風に、人間のフリをするように命令が書き込まれているからだわ、頭脳のところに」
 少女が頭を指差す。
「わたしたち人間だって、似たようなものですよ。頭脳の神経細胞に命令が書き込まれているんです。機械と大した違いはありませんよ」
 フェスエも頭を指差した。
「え、そ、そうなのかしら……?」
 少女はすっかり混乱してしまった。


「なあ、タイムキーパーよ」
 リテミスはだいぶ酔いを深めていた。普段なら聞かないような事にも、つい口を出してしまうような状態だ。
「なんでしょう」
「あのお嬢ちゃん、お前さんが好きみたいだぜ」
 言った後、しまったと後悔する。言ったって別に問題が解決するわけでもないのに。
「ええ、わたくしもお嬢さまを心からお慕いしております」
 さらっと返されて、リテミスはちょっと考えた。
「あーいや、そうじゃなくて。つまりあれだよホラ……恋ってやつ」
 何か苦いものを食べたような顔で、しっしっと手を振る。
「恋? わたくしにですか?」
「そうだよ、お前にだよ。まったく、出来れば遠回しに言いたかったのに」
 口直しでもするように、ウィスキーをすする。
「そうですか、それは……」
 困ったことになった、とひたいに手を当てる紳士。
「気づいてたクセに」
 横目でじとーっと睨まれたので、紳士はあっさりと演技を止めた。
「おや、どこで気づきました?」
「たまにそれを利用してる節がある」
 大げさに肩をすくめ、笑ってみせる。
「おやおや、次からはバレないように気をつけましょう」
 くいっ、とグラスに残ったウィスキーを流し込むリテミス。
「俺が聞きたいのはな、その恋をどうするかってことだよ。気づかないフリを続けるのも手かもしれないけどな」
 笑っていた紳士の表情が、若干曇るのがわかる。
 ひとくちウィスキーを飲むと、ぽつぽつと打ち明け始めた。
「正直に申し上げますと、どうすればいいのかわからないのです。わたくしがお嬢さまをお慕いしているのは本心です。しかし……恋となると」
 そりゃそうだ、と苦笑いするリテミス。
「まあ、相手がチビっ子じゃあなあ」
「いえ、わたくしには恋愛が出来ないのです。その機能が実装されていないもので」
 紳士が頭を指す。
「……そうか」
「出来れば、なんとか答えて差し上げたいのですが」
 言いながら、ふうう、と胸の底から出るようなため息。
 しばらく考えてみた後、リテミスはとりあえず思ったことを口にした。
「とりあえず、出来る限りあのお嬢ちゃんを大切にしてやるしかないんじゃないか。まだ子供だし、もしかしたら将来、いい相手が見つかるかもしれないしな」
「そうですね、そうなることを祈ります」
 そうかい、とリテミスは氷水を飲む。
「……相手は、そう思ってないだろうけどな」
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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