明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

フェスエとリテミスの家へ

 正確に言えば、もちろんシーリングファンでは無い。
 天井に取り付けるには大きすぎるし、そもそも自力で飛んでいる。
 それにプロペラも(相対的に)いささか小ぶりだ。だが最も違う点は、そのゆっくりと回転するプロペラの上に大きなテーブルがあり、そのテーブルの上に城塞都市が築かれていることだろう。
 モン・サン=ミシェルの模型をテーブルの上に乗せ、シーリングファンをテーブルの下に取り付ければ、かなり近い見た目になると思われる。
 だが、よく見ると空飛ぶ城塞都市は、モン・サン=ミシェルより十倍ほど規模が大きいようだ。
 エレベーターがおそらく時速百キロを越えるスピードで遠ざかっているにもかかわらず、見た目の大きさがほとんど変わらない。
 また空気中のホコリで白っぽくなっているのに、形がはっきり分かるほど大きく見える。
 全長一キロメートルというところか、と紳士は当たりをつけた。
「あの城みたいな扇風機みたいのが、図書館の外観だ。あれと同じか、もっと大きいのがこの惑星上に百以上散らばってる。気づいてるかもしれんが、図書館は廊下でもドアでもなんでも、あっちこっちが超空間を使って遠くとつながってるから、別に不便は無い」
「惑星? 館長さまがここは宇宙の外だとおっしゃっていましたが?」
 紳士の言葉に、リテミスが肩をすくめる。
「さあ、俺もそう説明されてるけど、よく知らん。たぶん、他のどこともつながってない個人的な宇宙にあるんだろう。ていうか、お前は二回もここに飛び込んで来れたんだから、お前のほうが詳しいんじゃないのか?」
 紳士がゆっくりとかぶりを振った。
「いえ、以前はたまたまこの図書館に拾って頂けただけで、今回もそのとき覚えた時空間座標を使用しただけなのです。なので、詳しいことは何もわからなくて……それにしても、かなり大きい施設だったのですね」
 あの全長ならば、施設というより島が飛んでいると言った方が正しいだろう。
「デカいヤツはあんなもんじゃないぞ、仰ぎ見れば視界が全部埋まっちまうくらいだ」
 紳士は何か引っかかるものを感じた。
 聞けば聞くほど、コストを余分にかけているように感じる。
 宇宙を創造するだけでなく、惑星を造りだし、天候を調整し、生態系を調整し、巨大な図書館を宙に飛ばす。
「ならば惑星など作らず、図書館をそのまま宇宙船にすれば良かったのではないですか?」
「まあ、そっちの方が効率いいし、安いよな。でも、こうなってる理由はわかる気がする」
 今ではエレベーターは、草原とそこに点在する森の上を飛んでいた。
 フェスエがエレベーターの床にひざまずき、眼下の飛びゆく森を熱心に観察している。
 その様子をリテミスが指差して、こう言った。
「真っ暗な空と、あの大理石の廊下ばかりじゃあ、参っちまうだろうからな」
 なるほど、と紳士はうなずいた。
 
 
 エレベーターは数分滑空し続け、遠くに村らしきものが見えてきた。
 空に浮かぶ図書館から伸びたレールは全てここに集まっているらしく、村はずれの草原に並んで突き刺さっている。あれが終着点だ。
 村に近づくにつれ、速度を落とす。
 どうやら、黄色みがかった石造りの家がたくさん集まっているらしい。
 エレベーターはゆっくりと停止し、扉が開いた。
 ガラスの扉を通り抜け、飛び降りて草原を踏みしめ、陽光をじかに浴びる。
 司書二人はどちらからともなく、腕を上げて大きく深呼吸していた。海から飛んでくる風と潮の香りが心地よい。
 エレベーターは誰かに呼ばれたのか、再び不透明になり、図書館に戻っていった。
 ちょっと休憩すると、リテミスが村に向けて歩き始める。
「よし、ちょっと歩くぞ。大丈夫、家はすぐ近くだ」
 四人は草原を抜けてアスファルトの道をしばらく歩き、ようやく家にたどり着いた。
 アスファルトの道はどうやら道路で、自動車らしきもの(タイヤがあったりなかったりした)が脇に駐めてあるのがちらほらと目に付く。
 大通りに面した家で、隣はショーウインドウの内容から推測するに、服屋らしい。
 いったいどこで私服を着るのだろう、と紳士は思ったが、まあ図書館以外に行くところが無ければ商売自体が成り立たないわけだし、ちょっと散歩くらいはするだろう。
 家の前に立って、リテミスが内ポケットから何か取り出した。驚くべきことに、それは金属製のカギだった。かなり荒い造りで、先端部の突起が二本しか無い。スケッチか何かすれば、簡単に偽造できそうに見える。
 蜂蜜色のレンガの壁に取り付けられた木製ドアの錠前にカギを差し込み、ひねって開け、中に入った。
 図書館のハイテクノロジーを目にしてきた紳士にとって、にわかには信じられない光景だった。スキャンしてみたが、カギも錠前も見た目通りの機能しかない。さっきは名刺が通信機器(しかも超空間通信機器)になっていたというのに。
 リテミスが家の匂いをかぎ、一言。
「なんか久しぶりに帰るなー。この匂いがなつかしいぜ」
 フェスエも同じく匂いをかぐ。
「あれ? 生ゴミ捨ててましたっけ?」
 そういえば、かすかにそんな匂いもするような。
 リテミスが決まり悪そうに咳払いし、横目で紳士を確認した。
「お客さんの前では、そういうこと言わないように」
「あ、すみません」
 紳士がくつくつと笑い声を漏らし、フォローを入れる。
「大丈夫ですよ、お気遣いなく」
 司書二人は若干決まり悪そうに、紳士を先導していった。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/05/04
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/81-043b43a3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)