明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

図書館から外へ

 リテミスの名刺が振動しながら鳴りだしたのは、「閲覧室」を去ってから二時間ほど経ったときだった。
 そのとき、フェスエとリテミスはカウンターに座って、ケーキ屋(図書館内コンテストで優勝経験あり)で買ってきた新作のプリンケーキに舌鼓を打っていた。
 リテミスが名刺を取り出して通話ボタンを押すと、紳士のいささか困った顔が現れる。
「どうした、タイムキーパー?」
「ええ、実はお嬢さまが、どうやら体力の限界のようで」
 四角く切り取った景色が動き、少女を映した。確かに限界のようで、机につっぷして寝てしまっている。
「ご覧の通りお休みになっています。どこか横になって休むことの出来る場所はございませんか? 一時間か、長くとも二時間ほど貸して頂ければ結構なのですが」
「休める場所ね……ふーむ」
 リテミスはスプーンをくわえたまま少し考えたが、すぐに打ち切って言った。
「まあ、とりあえずそっちに行くよ。ちょっと待っててくれ」
「はい、ありがとうございます」
 司書二人はプリンケーキを早めに食べきって、残った皿をカウンター近くの「事務室」にあるキッチンに置くと、「閲覧室」へ向かった。
 
 
 エレベーターを降りると、紳士と目が合う。
「先ほどまでずっと絵本を夢中で読んでいらっしゃったのですが、突然パタリと倒れ込むようにお休みになりました」
 リテミスが少女に近づき、手でちょっと押してみることにした。
「おーい。お客さん。おーい。寝てるー?」
「むう、むーうー!」
 一瞬だけ起きたが、眠たげな抗議の声を上げると、すぐにまた眠りの世界に沈んでいく。
「こりゃダメだ。体力を限界まで使ったらしい。はは、フェスエも昔よくこうなってた」
「ちょ、なんでイキナリそんなこと言うんですか! 恥ずかしいです!」
 突然矛先が自分に向いたので、フェスエはびっくりして声が大きくなってしまった。
「いいじゃねえか別に、小さかったんだし」
 紳士が感慨深げな表情で、少女を眺める。
「お嬢さまがこのように無防備なお姿をお見せになるのは、わたくしが就任して以来一度もなかったことです」
 少女の頭をそっと、ガラス細工にでも触るように、優しくなでる。
「よほど、楽しかったのでしょうね」
 フェスエはその様子を見て、思わず微笑んでいた。
 そのとき紳士の顔に浮かんでいた表情が、他のどれとも似ていなかったからだ。
 仕える者としてではなく、家族として接しているときの、くつろいだ笑顔。
 紳士が顔を上げ、リテミスに向き直る。
「そういえば、先ほどの通話の件なのですが」
「ああ、そうだったな。今日はもう俺たちの家に泊まった方がいいと思うんだが、それでもいいか? 到着してずいぶん時間経ってるし、この子も疲れてるだろ」
 だが紳士はちょっとの間、びっくりした顔で言葉を失っていた。
 そろそろと、何かに配慮しながら口を開く。
「あの、『俺たち』というのは……リテミスさまと、フェスエさまの事ですか?」
「そうだけど」
「ご家族、だったのですか?」
 今度はリテミスが驚いた顔になり、ポリポリと頭をかく。
「ああ、言ってなかったな。正確に言うと違うが、まあそんなもんだ。同居してる」
 フェスエも若干言いづらそうにではあるが、補足を加える。
「本当は三人同居してたんですけど、一人はいま出張中なんです」
 紳士はこの様子ではあまり追求しない方が賢明だろう、と考え、話題を戻した。
「では、お嬢さまはどちらにお運びすれば」
「ああ、あのエレベーターで『居住区』に向かう。すぐ着くよ」
 自分たちが出てきた筒状のエレベーターを指差す。
「なるほど。では、行きましょう」
 紳士は少女を手早く背負い、二人の司書と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
 
 
 エレベーターに乗り込み扉が閉まると、リテミスが命令する。
「よし、家までやってくれ」
 すぐにエレベーターは動きだし、なめらかに下降しはじめた。
 が、少し動いたところで上昇に転じ、またちょっと行ったところで止まってしまう。
「おや? もう着いたのですか?」
「いや、ちょっとレールに接続してる」
 ガコン、ガチャン。
 天井からは、重い金属同士のぶつかり合う音が響いてくる。
「レールですか?」
 ああそうか、とリテミスは気づいた。
 自分たちが毎日飽きるほど使っている交通手段でも、この客人には珍しいのだ。
 ぐん、と後ろ向きに加速度がかかると、エレベーターは滑るように進み始める。
「そっか、じゃあいい景色を見せてやろう。エレベーター……」
「エレベーターの壁を透明に!」
 割り込んできたフェスエの言葉に従い、エレベーターの天井以外の面が全て、ガラスのように透明になった。
 突然の陽光に、(少女以外の)全員が目を細める。
 辺り一面が青かった。海と青空。エレベーターは海の上を滑空していた。
 紳士は唖然としてしまう。ここはどこだ?
 どうやら海の上らしい。右手と左手では、水平線で青い空と青い海が出会っている。
 正面には陸地が見えた。森らしき緑、そして遠くには山脈。
 足下にも海があったが、ときおり海とエレベーターの間に海鳥が飛んだ。エレベーターは五十メートル以上の高度を保っているように見える。
 きらきらと輝く十本のレールが陸地に向かって一直線に伸びており、その右端のレールが、どうやら自分たちのエレベーターを運んでいるらしい。
 紳士の横で、リテミスがフェスエの頭をつかんで右に左に動かしている。
「おい、なんで取った! この!」
「えへへ、久しぶりに言ってみたかったんですー」
 紳士は若干混乱しつつ、短距離スキャンを実行した。
 どうやらただの映像では無いらしい。本当に、壁の向こうにこの景色はある。
「あの、ここはどこなのでしょう?」
「え? ああ。後ろ見てみな」
 紳士が振り返ると、またも仰天するような光景があった。
 馬鹿でかいシーリングファンが、青い海の上に浮いている。
 そのシーリングファンから太陽光に輝く曲線が十本並んで飛び出ており、曲線を目で追っていくと、それはエレベーターを運ぶレールになった。
 ということは、我々はあのシーリングファンから出てきたのだ。
 それどころか、「行き」のエレベーターと途中ですれ違ったところを見ると、どうやら居住区というのは図書館の外にあって、他にも人が住んでいるらしい。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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