明日から書く。

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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

猫探偵、登場

 先生の助手である僕の朝は、まず先生を見つけることから始まる。
「この部屋のどこかには居るはずなんだけどな……」
 毎朝のことで、もはやこのセリフは口癖みたいになってしまった。
 ここは先生と共同で借りているアパートの、先生の書斎兼寝室だ。
「えーと、今までに先生が寝ていたことのある場所のリスト……あった」
 手帳を取り出し、リストを開く。
「テーブルの上・テーブルの下・ソファーの上・ソファーの下・本棚の上・本棚の中、
 食器棚の中・机の引き出しの中・マットの下、落ちている本の影・壷の中……ふー」
 僕はうんざりして、手帳をぱたんと閉じた。
 壮観である。つまり、部屋中のありとあらゆる場所で寝てしまうのだ。
「なんでわざわざ毎晩、寝場所を変えたりするんだろう。寝心地が悪いなら布団を新しくしましょう、って言っても聞いてくれないし。まったく」
 足元に先生が丸まっていないか、よく見ながら探さないといけない。
「床……には居ないな。踏んづけて口から内蔵でちゃったらさすがに笑えないもんな」
 よく考えると怖いことを言っているな、僕。
 毎朝のことで感覚がマヒしてるみたいだ。
 そこらへんに散らばっている本の影を確認しながら、ついでに本を拾っていく。
 五冊目を脇に抱えたところで、僕は決定的な証拠を発見した。
「む、これはっ。床マットに、灰色の短い毛が転々と付着しているではないか」
 そしてそれは床から窓辺に向かって続いており、灰色の道を作っている。
「短い毛の道はカーテンの中で終わっている! ということは、ここだっ!」
 窓に走り寄ってカーテンを開けた、が。
「あれ?」
 いない! おとりだったのか!
「や、やられた。捜査をかく乱するために偽の手がかりを残すとは。なんて巧妙な」
 別に先生はわざとやっているわけではないんだろうけど、そこらへんに毛を散らかすのはやめて欲しい。あとで掃除しないと。
 僕は腕を組んで、やれやれと首を振る。
「まったくもう、いいかげん同じ場所で寝てくれれば、こんな苦労はしなくてもいいのに。せっかく僕が寝床を作って、トイレ用に砂だってつけてあげたのに。いったい何が不満なんだろう」
「砂が余計なんだよ」
「わっ!?」
 突然先生の声が聞こえたので、びっくりして大声が出てしまった。
 声のした方を見ると、なんと驚いたことに頭の上からだった。
「……ああ、正解は天井の吊りランプの上でしたか」
「そういうことだ。まだまだ修行が足りんな、ふわあ」
 吊りランプの上に身体を横たえながらあくびとは、ずいぶん器用なものである。
「先生、そこって絶対、寝心地良くないですよね?」
「そうだな。ゆらゆら揺れて眠れやしないよ。しかもラード臭い」
 じゃあ床で寝ろっての。
「どうやってそこに乗ったんです?」
「本棚の上からジャンプした」
 先生の指差した方を見ると、本棚と照明の傘の間は三フィートも無い。
「なるほど」
 確かに、先生でもジャンプすれば届きそうな距離だ。めでたく謎解明!
 と、いうわけで。
「降りてきてくださーい、朝ごはんにしますから」
「あいよー」
 まだ眠そうな声が聞こえると、先生は照明の上から飛び降りた。
 尻尾でバランスをとって空中で姿勢を整え、床に華麗な着地。
 その姿は……まあ読者諸君はご存じだと思うが、猫そのものである。
 ただし、小さいパジャマ(僕のお手製)を着ていること、着地したあとに二本の足で立ち上がるところが違う。彼は猫探偵、略してねこたんである。
 ねこたん、良い響きだな。今度からそう呼ぼうかな?
「やめてくれ。先生でいい」
「はい先生。あれ、先生ヒゲは?」
「ああ、付け忘れてた」
 先生はトコトコと二本足で歩いて机に移動すると、椅子の脚に爪を立ててよじ登り、引き出しから付けヒゲをとりだす。ペタッと付けると、僕に聞いてくる。
「これでどうだ、ちゃんと付いてるか?」
「ええ、右はちゃんと付いてます。左はもうちょっと上……はい、いいですよ」
 付けヒゲと言っても、猫のヒゲではなくて人間のヒゲを模したものだ。ややこしい。
 なんで付けヒゲなんて付けるのかと言えば、貫禄をつけるという意味もあるが「ヒゲが付いてないと他の猫と全然区別がつかないから」という実に実用的な側面もあったりする。
 まあ服は常に着ているけど、万が一脱げてしまったら最後、もはや見た目上は手がかりが全くのゼロになってしまう。


「さてと、もうご飯作ってありますから、さっさと食べちゃいましょう。お客さん来る前に」
「お客さん……来るのか?」
 じいっ、と疑わしそうな視線を僕に向ける先生。
 僕は先生のつぶらな両目から微妙に外れたところを見ながら、拳を胸の前に出してぐっ、と力を入れた。
「先生、弱気になってはダメです。来ると思えば、お客さんも来ます!」
 とりあえず空元気を出して先生を励ます。そう、僕まで弱気になっては、誰がこの事務所を続けていけるというのだ?
 というか、なんで真っ先に先生があきらめちゃってるんだ。
 だが先生はどんよりとした雰囲気のまま、一語一語をはっきりと区切って言った。
「なあワット君。普通の、お客さん、だぞ?」
「ぐ」
 思わず言葉に詰まってしまう僕。しまった、フォローしないと。
「先生、諦めてはいけません。確かに今月は普通のお客さんはまだ一人も来てないですし、この分だとお客さんが来なかった日数の最長記録更新は間違いないですが、でも……わあ、すいません先生! 顔を上げてください!」
 しまった、先生は机の上に両手(両前足)を突き、ガックリとうなだれている。
 むう、それもこれも、かのホームズ事務所が有名すぎるせいだ。
 実はここ、「猫探偵事務所」はあの有名なシャーロック・ホームズの事務所から、なんとたったの二ブロックしか離れていない場所にある。
 ホームズの名声にあやかって商売をさせてもらおうとこの土地を選んだのだけど……よく考えてみれば、わざわざその道の一流の事務所の裏手に事務所をかまえてしまったわけで。どちらに事件の相談をしたいかと言われれば、答えはおのずから決まっているわけで。
「まあ、そりゃ僕だって徒歩三分の距離だったら間違いなくホームズさんを選びますが……あああ、すいませんでした先生! じ、上半身を上げてください!」
 もはやうなだれるどころか、机の上にうつぶせになってしまった先生を励ます僕。
「あ、でもホームズさんはいま、大変な事件を抱えてて忙しいそうですし、それに昨日辺りから出張してるみたいですよ。ここらへんでお客さんをゲットするチャンスじゃないですか」
 再びぐっ、と拳に力を入れる。頑張れ先生。頑張れ僕。
 うなだれたまま、ゆらり、と立ち上がる先生。地獄の釜の底から響くような声がその猫口から届いてくる。
「なるほど……本当はホームズ事務所に行きたかったのに、閉まってたから仕方なくこっちに来るような客を狙うと……つまりはそういうわけだな?」
 そんなにはっきり言わなくても。確かに痛すぎる営業方針だ。なんだかさっきから先生を追い詰めてばかりいるような気がする。
「え、ええまあその通りなんですが……えーと……」
 そこで、僕の頭の上にアーク灯がシュボッ! と着火した感じがした。
「そう、そこで先生の名推理ですよ! 先生の推理で事件を鮮やかに解決して、新聞の一面を飾りましょう! そうすればこの事務所の評判を頼りに、お客さんがどんどんどんどんと来ること間違いなしですよ!」
「名、推理?」
 ぴく、と先生のヒゲ(猫のほう)が反応する。よし、少し気分が前向きになったようだ。ここでもう一押し。
「そうです名推理です! 先生の大活躍でホームズ事務所の鼻を明かしてやりましょう!」
「大、活躍?」
「そうです! 大活躍です!」
 ダメ押しが功を奏し、先生の猫背が見る見る伸びて、目に活力が宿り、垂れていたヒゲもピンと立つ。
「大活躍……大活躍か」
 猫背が直ったら死ぬんじゃないかと一瞬不安になったが、そんなことは無かった。
「そう、そうだ、その通りだ!」
 突然大声を上げながら、机の上に立ちあがる先生。
「よおし、ホームズとワトソン君め油断しおって、その油断が命取りだぞ! すぐそっちの事務所目がけて、閑古鳥が大挙してお引っ越しするからな! 貴様らも今のうちに移住先を見つけておいたほうが賢明だろうな、なははは、なははは、ぬわはははは!!」
 あさっての方向を指差してわははと馬鹿笑い、じゃない高笑いする先生。
 いやいや、一時はどうなるかと思ったけど、ほーんと単純な人でよかった。
「じゃ、ご飯にしましょうか」
「うむ、来るべき大事件に備え、今のうちに英気を養っておかねばな!」
 机から飛び降りてさっさとキッチンに向かう先生。猫だけあって二本足でも素早い。
 なんだかさっきは適当なことを言って先生を持ち上げていたみたいだが、僕は本心から、先生は結構有能な方だと思っている。
 性格は単純だけど頭は切れるし、観察眼も並の探偵よりはるかに優れている(と思う)。 尾行や潜入調査も(特に猫になってからは)お手の物だし、実際に警察があきらめていた盗難事件を解決したことは何度もある。
 でもまあ、事件に恵まれないことには、名声は確立されないわけで。
「おおいワトソン君! 早く来ないと全部食べてしまうぞ!」
「あ、いま行きまーす! あと僕の名前はワトソン君じゃなくてワットです!」
 シャーロック・ホームズ並みとは言わないまでも、普通の依頼が普通に来るような、そこそこの知名度が欲しいだけなのだけど。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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