明日から書く。

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ 図書館グーゴルプレックス □

大人の事情

「おいーす」
 リテミスがカウンターに手を振ると、そこに座っていた女性司書は一瞬嫌な顔をした。
 ちなみに茶髪のショートカット、すらっとして器量の良い三十代くらい(?)である。
 が、リテミスの後ろに司書でない人影を認めたので、元の事務的笑顔に戻る。
「いらっしゃいませ。グーゴルプレックス図書館へようこそ」
 言い終えた後、うやうやしくお辞儀をした。
「おおー」
 思わず、四人から感心の声が沸く。
「まるで働いているみたいだわ」と少女。
「まるで働いているみたいですね」と紳士。
「まるで働いてるみたいです!」とフェスエ。
「ああ、こうやるんだっけ」とリテミス。
 女性司書は笑顔をひきつらせながら、
「どうぞこちらへ」
 とカウンター前の椅子を指し示した。
 少女と紳士がそれぞれ椅子に座る。
「図書の閲覧でよろしいでしょうか?」
「は、はい」
 やや緊張気味に少女が答える。
 女性司書が手早く、足下の引き出しから紙を一枚取り出し、そっと少女の前に置いた。
「では、こちらの質問シートに回答をお願いいたします。回答の内容はお客さまに適した本をこちらが並べるための手がかりとして使用し、他の用途には一切使用されません」
 鉛筆をシートの横に置く。
「わかりました」
 やや緊張気味に鉛筆を取り、書き始める。
 女性司書はその様子をしばらく見守っていたが、やがてこう切り出した。
「申し訳ありません、お客さま。少し席を外させていただきます。すぐ戻りますので」
 少女は回答に夢中で気づいていない。
「はい、わかりました」
 紳士の了解を取り付けたので、女性司書は席を立つ。
 跳ね上げ式の天板を開けて、つかつかとリテミスとフェスエの元へ向かった。
「ちょっと来なさい」
 先ほどとは打って変わって、腹の底から響くような小声である。
「なーんだよ面倒くさい、ってああいたたあ!」
 リテミスはお腹の肉を力一杯つままれていた。
「フェスエちゃんも、こっち。ね?」
 こちらに対しては優しい声色だが、
「壊死するから! 皮の部分が! 壊死するからあ! あああ!」
 悶絶するリテミスとセットで余計怖い。
「は、はい……」
 フェスエは顔を青くしながら、連行されるリテミスの後をついて行った。
 
 
 三人は壁のドアから、人気の無い廊下に出た。
 廊下の壁と女性司書に挟まれるリテミス。さっきのフェスエと立場が逆である。
「まったく、いったい何を考えてるの!? なんでそっちのカウンター使わないの!」
 さっそく怒鳴られるリテミス。反省している様子もなく、頭をかく。
「いやー、校正作業中でマシンが止まっててさ。こっちのを使わせてもらおうかと」
「校正中って」
 女性司書の声がますます大きくなった。
「それ締め切り昨日じゃないの! ちゃんとやってないからこういうことになるの!」
「あはは、まあ色々忙しくてなあ」
 はああ、と大きいため息をつく女性司書。
 リテミスと知り合ってからこちら、この男が真面目に反省したことなどあっただろうか。
「あ、あの、ホーラさん、ホーラさん」
 フェスエが女性司書の名前を呼びながら、その悲観にくれる背中をつつく。
「その、わたしが色々実験してたので、マシンがふさがっちゃってて……」
 ホーラは振り向くと、疲れ気味の笑顔を向けた。
 しゃがみ込み、うろたえるフェスエと頭の位置を同じにする。
「いいのよフェスエちゃん。フェスエちゃんは自由にやっていいの。それをフォローするのがあの男の役目なんだから」
「つってもよー。お前もちょっとは協力してくれよ、大体マシンは俺じゃどうにも」
 再び勢いよく立ち上がってリテミスに向き直る。
「だから論文の時期が来るまえに校正進めとけばいいでしょ! 機転効かせなさいよ!」
「ええー?」
 リテミスが露骨に嫌な顔をした。なんで八十年も生きて堂々とこんな態度が取れるのか、ホーラにはどうしても理解できない。ため息をもうひとつ。
「……まあいいわ。とにかく、今回はセントラルエンジンを使わせてあげる」
「せんきゅー、ホーラ」
 リテミスのニヤケ面は無視し、傍らで立ち尽くす少女に優しく声をかける。
「フェスエちゃん、お客さまの様子を見て来てくれない? だいぶ時間経ってるから」
「あ、わかりました!」
 フェスエはドアを開け、紳士と少女の元に走っていく。
 その背中を見ながら、ホーラがつぶやいた。
「いい子に育ってるのね。信じられない」
「おいおい、信じられないってなんだ。俺だけでも……」
 だがリテミスの言葉は最後まで続かなかった。
 ホーラの顔にさきほどまで無かった、何かに張り詰めた色を見たからだ。
「……いや、やっぱお前には戻ってきてほしいと思ってるぞ。あいつも、俺もだ」
 おちゃらけの皮を取り払った真剣な言葉。一拍置いて答えが返ってくる。
「ごめんなさい、本当に。でも、もうしばらく戻れそうにないの」
「忙しいのか」
「ええ。知ってるでしょ、図書館がだんだん……」
 うつむいて少し首を振る。思い出したくない、向き合わねばならない事実。
 リテミスがホーラの肩に手を置いた。
「わかった。こっちは心配するな、フェスエにも俺からうまい事言っておくから。図書館もまあ、なんとかなるだろ。たぶん」
 ホーラが顔を上げリテミスと目が合うと、ふいに微笑んだ。
「なんだよ、なんで笑ってるんだよ」
 怪訝な表情のリテミス。
「別に。あんたって時々変な説得力があるわね……おっと」
 胸ポケットから懐中時計を取り出し、文字盤を一瞬眺めるとすぐにしまう。
「お客さまを待たせすぎてるわね。ちょっと文句言うだけのつもりだったのに」
 ドアの方に歩き出す。
「ほら、あんたも行くのよ。早く早く」
 こちらを手招きする仕草がやたら元気なので、リテミスはちょっとだけ安心した。
 空元気も元気、と誰かが言っていたじゃないか。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/05/04
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/76-059cd685
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。