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□ 図書館グーゴルプレックス □

中央カウンターへようこそ

 リテミスはドアをくぐるなり、芝居がかった仕草で少女に会釈して言った。
「お客さま、グーゴルプレックス図書館中央カウンターへようこそ」
 少女は答えを返さず、目の前の光景にただただ驚いている。
 そこは円形のホールだった。その広さはなんと野球場ひとつ分ほどもある。
 床は黒と灰色の大理石で幾何学模様を形作っており、その上を一万人もの人間が歩いていた。服装もバラバラ、体格もバラバラで、言語までバラバラである(図書館が貸し出す「トランスコミュニケーター」を使ってはいるが)。
 図書館の管理する各宇宙の、各時代、各場所からランダムに拾われた人間(やそれに類する生物)の集団だ。
 ホールの真ん中には、天井まで貫く太いガラスのチューブがある。太さはビルがひとつすっぽり入りそうなほど。天井ははるか高みにある。
 チューブの周囲は全てカウンターになっており、百人以上の司書が本の閲覧を希望する客の対応をしている。
 リテミスたち四人が立っているのはホールの壁沿い、少し高いところにあるバルコニーだった。他にも同じような鋳鉄製ドアが壁をぐるりと囲っており、頻繁に人が出入りしている。
 バルコニーからは螺旋階段でホールに下りることができ、一階壁沿いのドアをくぐってまた別の施設まで行くことが可能なようだ。
「あのチューブはなんなのです? リテミスさま。なにも入っていないようですが」
 紳士が心持ち楽しそうに質問を放つ。
「あっ、それはですね! むぐぐ」
 フェスエが得意げに答えようとしたが、リテミスに口を押さえられる。
「まあ、それは見てのお楽しみってやつだ」
「司書さん、あの天井のレールみたいなものはなんなの?」
 少女が天井を指差して質問した。
 床からかなり上の方では中央のガラスチューブにぐるりと穴が開き、そこから放射状にたくさんのレールが伸びて壁の穴に消えていた。
 まるでガラスの幹と鉄の枝で出来た大木のようだ。
 レールの層が垂直に五十層も重なっているため、深い森の中で空を見上げた時のように、天井ライトからの光がフロアに直接は届かなくなっている。
「それも、見てのお楽しみさ」
 リテミスがウインクして、胸ポケットから懐中時計を取り出した。
「お、ちょうどいいな。もうすぐだぞ、中央のチューブに注目だ」
 四人の視線がチューブに集まる。
 と、館内に謎の音楽が流れた。
 キンコンキンコン、キンコンキンコン♪ キンコンキンコン、キンコンキンコン♪
 キンコンキンコン、コンコンキンキンキン♪
 どうやら木琴で演奏されているようだ。
 音楽が聞こえると間もなく、フロアを歩いていた人の流れが止まりはじめる。
 止まった人間は皆、なぜか上を向いた。
 続いて、女性の声でアナウンスが流れる。
『まもなく、中央カウンター・セントラルチューブ発、第七閲覧室行きの貨物が発車いたします。降下物にご注意ください』
「ねえ、発車ってなにが」
「しっ!」
 少女がまた質問しかけるが、リテミスに視線を中央のガラスチューブに戻される。
 ふいに、少女は自分のつかんでいた手すりがかすかに振動していることに気づいた。
 床も同じく揺れ始めている。建物自体が揺れているのだ。
 どこか遠くから重いものの群れが押し寄せている足音のようだ。バッファローの大群によって地面が踏みならされるような低いうなり。
 そしてチューブ内で下から爆発が起きたかと思うと、チューブは何かに敷き詰められ、透明な柱ではなくなってしまった。
 
 
 それは爆発ではなく、正確に言えば、何か見えないほど小さいものの群れがチューブを下から上へ貫き、あっという間にチューブ内の空間を占領したのだった。
 高層建築物ほどの容量の柱一杯に群れて漂う、不透明な雲。
「ほら、お客さんの見たかったものだ!」
 リテミスが嬉々としてチューブを指差す。
 だが、少女は青い顔で首を振った。
「わわわたしはイナゴの群れを見たいと言ったのではないわ。本を見たいと言ったのよ」
 どうやら虫に関してトラウマか何かあるらしい。
「いいえお嬢さま、あれはイナゴではございません。これを」
 紳士からオペラグラスを受け取ると、怖々のぞき込む。
 あっと息を呑んだ。
「あれが、本なの?」
 確かにチューブ内は、なにか四角い物体で満たされていた。
 表面には文字も書いてある。「資本論」や「新訳聖書」、「イギリス交通法規」と。
 すごい。本当に教えられた通り、エンパシーウェブで読んだ歴史の項目の通りだ。
「本があんなにいっぱい……!」
 知らず知らず、少女は小さいジャンプを繰り返していた。
 おかげで被っていた帽子がずれてきたので、紳士がちょっと位置を直した。
 少女はオペラグラスから顔を離すと、リテミスに紅潮した顔を見せる。
「素晴らしいわ。素晴らしすぎて、ああ、なんて言ったらいいのかしら」
 胸に手を置いて、ちょっと落ち着くことにする。
 落ち着いたので、またリテミスを見た。
「ありがとう、司書さん!」
「どういたしまして、お客さん」
 リテミスが言い終わらないうちに、少女はまたオペラグラスを覗いていた。
 少しの間眺めていたが、やがて重大な事実に思い至り、眉をひそめる。
「あれでは読めないわ?」
 この疑問はすぐに解決された。
 
 
 突然、フロア中に風が巻き起こり、同時に天井あたりがとてつもなく騒がしくなった。
 なぜなら、レールの下に吊された大量の何かが壁の穴という穴から飛び出てきて、本の群れ渦巻くチューブに向けて突撃を繰り返していたからである。
 天井中がやかましく飛び交う何かで埋め尽くされた。
「あれは本棚です、お客さん」
 少女は言葉を失った。本棚とはおとなしく床に立っているもので、決して集団で特攻をかけるものではない。
 だがオペラグラスで覗いてみると、それは確かに本棚だった。
 それも壁の穴から出てくるものと、チューブの穴から出てくるものがあり、チューブの穴から出てくるものには本が詰まっているようだ。
 いったい何が行われているのだろう。
 ここで、少女は自身の誇る灰色の脳細胞を呼び覚まし、困難な推論を始めた。
 幾たびかの大胆かつ巧妙な論理的飛躍を果たし、結論にじりじりと近づいていく。
 その間、他の三人は黙って待っていた。
 少女の脳にひらめきが、いや天啓とでも言うべきものがスパークした。
 これが答えだ、これこそ答えだ。これ以外に答えはない。
 あごに親指と人差し指を当て、あくまで何気ない感じを装って、リテミスに告げる。
「他の場所に本を持って行っているのね?」
「ご名答だ、お客さん」
 リテミスが少女の帽子を取って、その頭をなでてやる。
 少女が親指と人差し指の位置はそのままに、ちょっと照れた。
 もうリテミスに口を押さえられていないので、フェスエが説明を始める。
「このガラスチューブの下には『一時チャンバー』があって、そこに『書庫』から必要な本が集められるんです。そこから今の方法で、図書館の各地へ送られます。一回の輸送で約一億冊ほどです」
「へえー」と感心する少女。
「ほう、それはそれは」と目を細める紳士。
 胸を張るフェスエ。だが特に彼女が造ったというわけではない。
 そうこうしているうちに本棚の群れは去り、チューブは透明に戻った。
 静かになったホールでは、人々が上を見るのをやめて、再び歩き出す。
 少女はしばらく頭をなでられていたが、またもや重大な事実に気がついた。
「やっぱり読めないわ!」
 というわけで、リテミスに率いられた三人は螺旋階段を降りて、一階にあるカウンターへと向かった。
 
 
 なぜかリテミスは近い場所に居る司書のところへは向かわず、わざわざ半周近くして奥のカウンターに歩いて行く。
 百メートル弱の距離だが、人でごった返しているため決して歩きやすくはない。
 紳士が思いきって聞いてみた。
「リテミスさま、なぜ手前のカウンターを使わないのです? 別段他より混んでいるようにも見えませんでしたが」
 リテミスは黙っている。
 が、急に壁際に舵を切った。ついて行く三人。
 壁に着くと、言いづらそうに重々しく口を開く。
「実はな、あの手前のヤツらがどーも苦手でな……エリート中のエリート司書だもんで、どーもこっちが萎縮するっていうかな。俺なんてしがないペーペーだから」
 苦笑いしつつ頭をかく。なるほど、とうなずく少女。
 しかし、紳士の観察眼は誤魔化せなかった。
「ふむ、しかしおかしいですね。前回はそんなことありませんでしたよ?」
「え? あ、いや、前はほら、若かったし?」
 リテミスの声が変に高くなった。
 それ以上喋ろうとしないので、フェスエが後を継ぐ。
「そのー、実はいろいろあってですね、主に女性関係もごっ!」
 驚くほど素早く、リテミスに口をふさがれた。
 それを見て、紳士が意地悪な笑みを浮かべる。
「ああ、なるほど。確かに、いまカウンターに美しい方がいらっしゃいましたね」
 なにごとか、と近くにいた人間の目が集まり始めた。
 リテミスは心から居心地の悪そうな表情で、フェスエを抱えてくるりと回り、壁の方を向いた。フェスエはリテミスの背中で見えない。
 リテミスが小声でフェスエを叱りつける声だけが聞こえてくる。
 くつくつと笑いを漏らす紳士の袖を、少女が引っ張った。
「ねえ、どういうことなの? わたしには、なんだかよくわからないわ」
「いえ、お嬢さまも大きくなればわかりますよ」
「もう。いつもそればっかりね」
 少女が腰に両手を当ててむくれる。
 しばらくしてフェスエも反省したので、また一行はカウンターに向かった。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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