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□ 図書館グーゴルプレックス □

オリジナル

 冒険家はカウンター向かいの椅子に座っていた。
 カウンターにはフェスエとリテミス。
 全員、お盆の上に乗ったパスタをほおばっている。
 ようやく、まともな食事にありつけたのだ。
「ふむ、ふまいふぉお」
 冒険家が顔を上げて言うと、
「ふぉーでふね」
 フェスエが答えた。
 全員が食べ終わってコップの水を飲むと、自然にため息が漏れた。
 ふうー。
 こんなに美味いパスタを食べたのは初めてだ。
 落ち着いたところで、リテミスがあることに思い至った。
 おずおずと冒険家に尋ねる。
「あのー、ですね」
 頭をひとかき。
「結局……本の閲覧はナシということになるんですが、よろしいんでしょうか」
「ん? 閲覧?」
 冒険家はきょとんとしていたが、やがて笑い出した。
「ああ、ああ! 忘れとった! わしは本を取りに行ったんだった! はははは!」
 またひとしきり笑う。
「気にしないでくだされ。コレクションというのは、探している時が一番楽しいものだよ。すぐ見つかってしまっても拍子抜けというものだ。それに」
 そこで一呼吸置く。
「物語を描くのはいつだって人のやることだ。本に自分の物語を直してもらうなんてのは、本末転倒もいいところじゃよ」
 フェスエの方を向いて、ウィンクしてみせる。
「引退にふさわしい旅じゃった。もう家に帰って、おとなしく暮らそうと思う」
「はい、頑張ってください!」
 フェスエも笑顔でうなずいた。
 だが、リテミスにはちょっと意味がわからなかった。
「え、なに? どういうことですか?」
「ん? まあつまり、まとめるとじゃな」
 そこでちょっと間を置いて、大げさに肩をすくめる。
「本はもうウンザリじゃ!」
 三人は、弾けるように笑い出した。
 
 
 それからしばらく語り合ったあと、三人はカウンター横の真鍮の枠の前にいた。
 枠の中には、とある家の外壁。ドアも自然にはめ込まれている。
 冒険家はドアノブをゆっくりとなでた。まだ温もりが残っている。どうやら、誰かが握ってから間も無いらしい。
 ノブをひねると、当然ながらドアは開いた。
 向こう側には、玄関があった。
 暖かい色の照明に照らされ、子供の笑い声がよく似合うような。
「間違いない。我が家だ」
 振り返ると、リテミスと目が合った。
「ではこれで失礼するよ。また縁があったら会うこともあるかもしれん」
「はい」
 固い握手を交わす。
 フェスエの方を見ると、こちらとは目が合わなかった。
「泣かないでくだされ」
「泣いてないです……」
 冒険家はフェスエを抱き寄せる。
「ありがとう」
「……はい」
 フェスエから離れると、ドアに向かって歩き出す。
 ドアをくぐり、玄関に立った。
 深呼吸をする。懐かしい、何年も忘れていた匂いだ。
 振り返り、ドアの向こう側にある、不思議な図書館を見やる。
 そして、冒険を共にした二人の司書を。
「それでは、またな」
 努めてさりげなく、片手を上げて言う。
 二人の司書もそれにならった。
 ドアが閉まっていく。
 閉まる直前、司書二人は見た。
 冒険家の向こうに、若い娘が驚いて立ちすくんでいるのを。
 その娘はフェスエによく似ていた。
「ただいま」
 その声が聞こえたのを最後に、ドアは閉まった。
 リテミスが枠の横のボタンを押し込む。
 真鍮の枠の中で家の外壁が溶けて泥になり、ドアの周りから逃げていった。
 ドアの横から鉄のレールが飛び出してきて、付属のグリップでドアをしっかりはさむ。
 鉄のレールと共にドアは引っ込んで、枠の向こうの暗い空間に消えた。
 すぐに泥が戻ってきて固まり、枠の中はのっぺりとしたレンガ壁だけになった。
 これで、図書館と冒険家の世界とのリンクは完全に切断されたのだ。
「終わったな。ひと仕事」
 ため息まじりにリテミスが言うと、
「そうですね……」
 涙を拭きながらフェスエも同意した。
「泣くなって嬢ちゃん」
「泣いてませんってば」
 そのまま二人はしばらくドアの消えた枠の前に居たが、やがて振り返って歩み去った。
 今日もまた、新しい来客があるに違いない。
 まだまだ、図書館は休みなく動き続けるのだ。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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