明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

書庫からの脱出

 どんどんどん! どんどんどん!
 着陸船のハッチが外から叩かれる。
「入ってまーす」
 思わず答えてしまい、口を押さえるリテミス。
 ずっとひどい振動に悩まされていたので、だいぶ頭がぼんやりしている。
 三人はシートの固定を外し、ふらふらとハッチまで歩いて、開けた。
 そして、思わず目を細めた。
 海面で反射された太陽光がまぶしい。
 着陸船のそばに、本で出来ている戦艦が停泊しているのが見える。
 なんと久しぶりに、明るいところに出たことだろう。
 三人はハッチに横付けされたボートに乗り込み、数人の軍人とともに戦艦に向かった。
 
 
「いやー、長かったのお」
「長かったですねえ」
「ホント、長かったですー」
 三人組は後ろから誰も尾行していないのを確かめると、安堵のため息をついた。
 まず国立航空空洞局に捕まり、健康診断に事情聴取(適当に誤魔化した)。
 それが一段落すると、長老との再会、そしてまた事情聴取(帝国の壊滅について)。
 回収から半日、彼らはずっと拘束されていたのだ。
 本当はもう半日はインタビューやらレセプションやらと予定が詰まっていたのだが、彼らは脱走してしまった。
 なぜなら猛烈に腹が減っていたからである。
 どんな豪華な晩餐会に出ようが、この書庫内で出る食材はただひとつ、水しかない。
 もうそろそろ、体内の栄養を使い切った感じがある。
 三人の目の前には荒野。後ろには地平線に輝く都市。
 そう、初めて書庫の地面に出た場所である。
 本が重なった地面に、リテミスが手をかざした。
「んじゃ、開けますよ。ひらけー、ゴマ!」
 その途端、ゴゴゴゴ……と重々しい音を立てて、三人から十メートルかそこら先の地面の一部が板となって上に開き、書庫の出口が見え始めた。
 完全に開ききったところで、リテミスが二人に声をかける。
「んじゃ、帰りましょう! フェスエ、お客さん!」
「ええ!」
「早くメシにしたいもんじゃ!」
 三人は開いた出口に向かって走り出し、そして地面を突き破って落ちていった。
 チューブ状の空洞を自由落下する三人。
「うわああああ!?」
「いやー! 助けてー!」
「なんじゃ、なんじゃー!?」
 三者三様に悲鳴を上げるものの、あまりに降下する時間が長いため、一度息継ぎが必要になった。
 息継ぎをして、もう一度。
「うわあああああ!」
「たーすーけーてー!」
「なんなんじゃ、こりゃー!」
 その後もしばらくは賑やかに叫んでみたり暴れてみたりしていたが、次第に疲れてきた。
 よって、三人は静かに落下することに決めた。
 どうせ暴れていようが静かにしていようが、落ちれば一緒だ。
「よしじゃあ、フェスエの番」
「はい、じゃあ、うーん…………見えた! これだっ!」
 リテミスが扇状に広げたカードの中から、フェスエが一枚を抜く。
「はいババでしたー。へっへっへ」
「あーもう!」
 フェスエが引いてしまったジョーカーを捨てると、フェスエの近くに浮かんで留まった。
「ほっほっほ、フェスエさんは弱いのう」
「むうー」
「まあまあムクれなさんなって、なんならゲーム変えるか?」
 フェスエが(上下は逆になってしまっていたが)リテミスにびしっ! と指を立てる。
「じゃあ次は大富豪で勝負です!」
「よっしゃ、泣き見るなよ……」
 リテミスがカードを混ぜ始めたとたん。
 三人は何かの床を突き破った。
 
 
 落下に続く衝撃。
 気がつくと、三人は水の中に居た。
 息が出来ない。全身を使って、水面まで上がる。
「ぷわっ!」
「ぶはっ!」
「ぶはあ!」
 なんとか水面から顔を出すことが出来た。
 呼吸が整うと、三人は辺りを見渡した。
 巨大な筒状の空間の内部のようだ。直径は大きめのプールくらいある。
 壁には頭ほどもありそうなレンズがぎっしりと規則正しく並んでおり、天井の明かりを反射してキラキラと光っている。
 下を見ると、底にも同じレンズが見えた。かなり深いようだ。
「こ、ここは一体どこだね」
 立ち泳ぎをしながら、冒険家がリテミスに聞いた。
「なんでしょう、プールですかね……でも見たことあるような」
「このみずまずいですう~」
 そこまで言ったとき、
『くおりゃあああああ!!』
 拡声器越しにプール全体に響き渡るような大声がしたので、三人はあやうくまた溺れるところだった。
『そこで何をしとるんじゃ、賊どもめがあ!』
 フェスエが声の主に気づき、天井に向けて大声を上げた。
「ジタンファさん!」
『貴様らまとめて……むむ!?』
 声の主はフェスエに気づくなり、打って変わって優しい声になる。
『フェスエちゃんじゃないか、そこで何をしとるんだね。ケガはしてないかい?』
「はい、大丈夫です。ちょっと、こちらのお客さんを」
 冒険家を指し示す。
「書庫まで案内してまして」
『そうかそうか、大変じゃったのお……おい、リテミス!』
 口調が厳しいものに戻る。
『お前は何を考えとるんじゃ! こんな可愛い子に旅をさせるなんて!』
「いやいや、それじゃ格言通りで」
『うるさいわい!』
 どうやら反論する隙を与えないつもりのようだ。
『五万トンの超純水が使えなくなったぞ! どうしてくれるんじゃ!』
「そんなこと言われてもねえ」
 リテミスが泳ぎながら肩をすくめた。
「ジタンファさん、ここってなんなんですか?」
 フェスエが声の主に尋ねる。
『ん? ああ、よく聞いてくれたの。そこはニュートリノ観測施設じゃ。書庫から飛んでくるニュートリノの数を調べる施設じゃよ』
「へええ、なんだかすごいです!」
『そうじゃろ、そうじゃろ!』
 声の主がふんぞり返っている姿が目に見えるようだ。
 リテミスが天井に向かって叫んだ。
「ポータブルニュートリノセンサーがあるじゃないスか! 消しゴム大のやつが!」
『壊れたんじゃ!』
「観測って、今やらないといけないんスか?」
『ああ、まあ急ぎでな! ちょっとな』
 リテミスとフェスエが顔を見合わせた。
「あのー、お忙しいところ申し訳ないんだが」
 冒険家がすまなさそうに発言する。
「ひっぱりあげてもらえんかね? 泳いでるのも限界でな」
 三人はすぐさま、テレポートで収容された。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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