明日から書く。

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戦艦への侵入、失敗

 宇宙船が飛び立ってから、一時間が経過した。
 全長十キロメートルの超弩級戦艦「ユグドラシルが燃える夜」は約二千キロメートルの距離を持って「黒い太陽」を見下ろし、発進前の最後の調整を進めている。
 その後ろには二百隻もの戦艦の群れ。急きょ編成された「チャルグウィッ大学理工学部航空空洞工学科所属第十五空洞侵略艦隊」の集合形態であり、旗艦の調整が終わり次第、ただちにワープで第十五空洞に飛び込むことになっている。
 旗艦のエネルギー反応と短距離センサーの映像に注意を払いながら、リテミスは思った。ギリギリもいいとこだ。
 もう数分で調整は終わるだろう、そしていま乗っている宇宙船が到着するのにも偶然、ちょうど同じくらいかかる。なんでいつもいつもギリギリなんだろう?
「あの一番デカいヤツに突っ込むぞ、嬢ちゃん!」
「あいあいさー!」
「もう突っ込むとかの無茶は出来ないんじゃなかったのかね?」
 冒険家がおそるおそる質問した。
「だいじょーぶです!」
 フェスエが胸を張る。宇宙船を操縦しながら器用だなあ、と冒険家は思った。
「わたし特製の緩衝装置があるんです! 具体的には宇宙膜をいじって、擬似的な重力場を発生させ」
「とにかく大丈夫です、お客さん」
 リテミスがフェスエの講釈を途中で切って、冒険家に笑顔を向けた。
 その口の端がちょっと引きつっているのは気にしないことにしよう、と冒険家は思った。
「わかった。どのみち信用するしかないしの」
「ちょっとリテミスさん! まだ説明が途中です!」
 リテミスの制服のそでをグイグイ引っ張るフェスエ。
 が、その頭をリテミスが持って、モニターの方にムリヤリ向けた。
「前! 前見ろ!」
 フェスエがそちらを向くと、もう戦艦の装甲が眼前いっぱいに広がっていた。
「うわわ、緩衝装置、オーン!」
 あわてて操縦装置をいじるフェスエ。
(スイッチ入ってなかったのかよ!)
 リテミスと冒険家は同じことを思ったが、衝突に備えて歯を食いしばっていたため、何も言うことは出来なかった。
 
 
 超弩級戦艦「ユグドラシルが燃える夜」、ブリッジ。
 ブリッジはボールを四等分した形の天井と、半円形の床および壁から出来ている。
 ドーム状の天井は巨大な一体型モニター(開いた本の集まり)になっており、モニター一杯に星空が映されていた。
 ちょっとした野球の試合が出来そうなほど広い床には百個弱ものデスクが並んでおり、通信や射撃管制・索敵要員が忙しくデスクを叩いている。
 その様子を見下ろす、床より一段高い位置に艦長席と副長席があり、そしてそのさらに奧にもう一つ、別の席があった。
 最も奧の席から立ち上がった人物が、艦長に声をかける。
「どうかね? 首尾は」
 声をかけられた艦長は、やや緊張した様子でそれに答えた。
「はっ、残り十分もあれば、メインエンジンを始動できると思われます……閣下」
「『閣下』は要らん。わたしは単に特務機関のリーダーというだけに過ぎん」
「しかし、実質的に皇帝に権限を譲り渡されているわけですから」
「そうだが、まあ、まだその呼び方はするな。正式に皇帝を継ぐまでは」
「了解しました」
 黒服の男は艦長から離れ、席に戻った。そう、〈太陽破壊爆弾〉の上に(ホログラムが)立っていた男、特務機関〈カルイデス〉のリーダーである。
 よく見ると、ブリッジの壁のあたりに数十人の黒服、〈カルイデス〉のエージェントが影のように立っている。
 やれやれ、と黒服の男は思った。入札で破格な安値を提示した新米業者にシステム構築を任せたりするから、こんなことになるのだ。
 多少高くても今まで取引していたところに任せれば……。
 ドガンッ!!
 突然、地震のごとくブリッジが揺れた。床の全員がデスクにつかまり、揺れに耐える。
 黒服の男は立ち上がった。ブリッジが揺れた? この全長十キロメートルの船が揺れたというのか? とんでもなく大きな弾丸をぶち込まれたとでも? まさか。
 他の船に衝突したのか?
 棒立ちのまま考え続ける黒服の男の前では、艦長が通信本に向かって怒鳴っている。
「何があった! 報告せよ!」
 数秒、ざらざらというノイズが聞こえたあと、下の床の誰かから報告が上がった。
『砲撃を受けました! 機関部、ポンプ室付近に着弾! 装甲を撃ち抜かれています!』
 黒服の男は目を剥いた。まさか本当に弾丸が撃ち込まれていたとは。
 艦長が一瞬言葉を失った後、職務を思い出し、質問を続ける。
「誰だ! 誰からの砲撃だ!」
『被弾の状況より、[黒い太陽]方向からの砲撃と思われます!』
「いったい誰が撃ったんだ!」
『不明です!』
 艦長は黒服の男を振り返った。黒服の男が席に着きながら、忌々しげに歯がみする。
「ヤツらだ。司書どもめ、どこまでも悪あがきしないと気がすまないようだな」
 副長が我慢できなくなり、口をはさんだ。
「しかし、この船の装甲はかなり頑丈に出来ているはずなのでは?」
 黒服の男はそれには答えず、通信本に直接話しかけた。
「砲弾の大きさは?」
『直径四メートルの球状で……待ってください……』
 また数秒間、ノイズだけが流れた。
 声が戻った。今度はだいぶ慌てている。
『て、帝国製戦艦に標準搭載の脱出ポッドに酷似した物体が、信じられません、秒速三十キロメートルで着弾しています! しかもポッドは全くの無傷です!』
 信じられないのは艦長と副長も同じだった。
 いかに本同士の結合を強めようとも、ポッドを砲弾代わりに出来るなんて聞いたこともない。普通なら、装甲に弾かれてバラバラになるくらいが関の山だろう。
 しかも、どうやって秒速三十キロメートルなどという狂った速度を達成したのだろう?
 そんな技術を持った相手は想定外だ。撃ち抜かれて当然だ。
 突然、別の誰かからの報告が上がった。
『侵入者! 本艦に侵入者です! 男女合わせて三名!』
「なに!?」
 艦長が跳ね上がらんばかりに驚く。太陽からは二千キロメートル離れているのだ。
「どうやって入った!」
 黒服の男はまぶたを閉じた。聞くまでもあるまいよ。
『えー、司書だと名乗っています! たった今、艦内保安チームに降伏しました! 武器の携帯はありません!』
 黒服の男が目を開けると眉をひそめ、会話に割り込む。
「なんで武器を持っていないのか、聞いてくれ」
 またしばらくの間、ノイズのみが聞こえてくる。
『[着地の衝撃で落として見つからなくなった]、のだそうです!』
 ため息をつく黒服の男。すごいんだかバカなんだか。
「ここに連行してきてくれ。色々と聞きたいことがある」
『了解しました』
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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