明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

爆弾の解体

「た、大変じゃ、早く逃げなければ」
 慌ててどこかに行こうとする冒険家の腕を、リテミスがつかんで止めた。
「行くって、どこに行くんです? あと五分じゃどうしようもないですよ」
 黒服の男は「あと五分」と言っていた。つまり、爆発まで五分の猶予しかない。
 それを裏付けるように、〈太陽破壊爆弾〉の表面に今までは無かったものが現れていた。
 円グラフである。
 円の中心から伸びた二本の線。そのうち一本は天を指して留まり、もう一本はそこから離れて中心周りの回転を始めている。
 つまり時計なのだ。あの線がもう一度重なると、ドカン。
 見ているうちにも、どんどん二本の線の間隔が離れていく。
 リテミスはふうー、と腹の底からため息を吐いた。こうすると少しリラックスできて、マシな気分になれるような気がする。
 さて、生き残りたいなら、いま出来ることはひとつ……なわけだが。
「解体、します。わたしが」
 かすかに声を震わせながら、フェスエが二人に告げた。
 リテミスは内心で頭を下げた。頼む前に、フェスエから言ってくれるとは。
 同時に悔しい、とも思った。俺の頭がこいつ並みに天才だったら良かったのに。
 そうすれば、フェスエに行かせなくて済んだのだ。娘のように思っている少女に対して、よりにもよって爆弾の解体を依頼するなんて。
 でも今の状況では、解体できる可能性があるのはフェスエだけなのだ。
 彼女が感じているであろうプレッシャーを思って、リテミスは神に祈った。
「頼んだ。悪いな、嬢ちゃん」
「いえ、大丈夫です」
 無理に笑って見せるフェスエ。リテミスの胸がちくちくと痛む。
「出来るのかね、フェスエさん」
「任せてください! わたしは天才ですから」
 フェスエが胸を張る様子に、強ばっていた冒険家の顔が優しい微笑みに変わる。
「すまないな。お願いする」
「はい! では」
 フェスエはさっ、と自分のメガネのつるをなで、手のひらを顔の横に持ってきた。
「す、きゃーん!」


 フェスエが〈太陽破壊爆弾〉を凝視(指をヒラヒラさせながら)し始めてから、四十秒ほどが経過した。
 四十秒。五分しか無いうちの四十秒は大きい。
 その間、フェスエは一心不乱に爆弾を眺めている。
 リテミスがそろそろフェスエを止めようと思ったとき、スキャンが終わった。
 フェスエは汗をかき、疲れ切った表情をしている。
「確かに、あと四分二十秒後、これは爆発します。すごい構造ですよ」
 リテミスに緊張した笑顔を向ける。
「『ゼロ爆弾』とでも名付ければいいんでしょうか……一瞬だけですが、この太陽周辺の波動関数に干渉して、物質の存在確率を強制的にゼロにしてしまうんです。太陽もわたしたちも完全に消滅して、後には真空が残るだけ。書庫の中にも外にも、これに耐えられる物質は存在しません。なかなか興味深いですね」
 まあフェスエにとっては収穫になったろうが、とリテミスは咳払いした。
「で、解体できそうか」
 悪いと思いつつ、核心を聞く。時計を見ると、もう四分くらいしか残っていない。
 フェスエは目をつぶり、あごに手をやった。
 そのまま、もう十秒。
「出来ます」
 二人に向けられたフェスエの目には、確信の色が宿っている。
 フェスエは爆弾の表面に向かうと、その一部の表面をメリメリとはがした。
「ここに、赤い本と青い本がありますよね」
 遠くで見守る二人にもわかるように、指し示して見せる。
 確かに、雑多に積まれた本から飛び出すように、赤い本と青い本が組み込まれている。
「このどっちかを抜けば止まります」
 一瞬、部屋が静かになった。
「ええええー!?」
 そして、リテミスは絶叫した。
 
 
「ど、どうしたんですかリテミスさん!? 突然叫んで」
 びっくりしたフェスエが、バクバクと動く胸を押さえながら聞いた。
 リテミスは何かを言いたいのだが、まとまらないといった様子で、ただ両手をバタバタ動かしている。
 少し経つと落ち着いたので、なるべくゆっくりと、自分の意見を口に出した。
「いや、早すぎるだろ! もっと色々考えたり部品を外したり焦って汗を流したりして、そんでもって最後の最後に赤か青のコードを切るんだろ、常識的に考えて」
 時計を見る。まだ余裕で三分は残っている。
 なんだか、残り時間を半分以上も余らせた状態で解体が終了しちゃうのはマズいような気がするんだが、なんでだろう。
「いや、いいじゃないかね。早く終わりそうなんじゃろ?」
 なんでリテミスが慌てているのか、てんでわからないといった風の冒険家。
「そうですよ! 何が問題なんですか?」
 腕を組んで、ちょっとご立腹のフェスエ。
 いや、確かに問題は無い。問題が無いが故に問題があるような、そんなような。
 リテミスは何かをあきらめて、フェスエに謝ることにした。
「いや、すまん。何でもない。ちょっと動揺してただけなんだ」
「そう、ですか」
 完全には納得出来ていない表情で、ぽりぽりと頭をかくフェスエ。
「じゃあ、どっちを抜けばいいかスキャンしますけど……いいんですよね?」
 赤と青の本に向き直ってスキャンの体勢に入ろうとするも、一応リテミスを振り返って確認を取る。
「ああ、ああ。やってくれ」
 なんだか元気が無いなあ、と思いながら、フェスエはスキャンを開始した。
「す、きゃーん!」
 ヒラヒラヒラヒラ(指を動かす音)。
 これで良かったのだ、とリテミスはうなだれたまま、自分を納得させようとした。
 そうとも、だって爆弾の解体でいつも制限時間ギリギリなんて、普通に考えておかしいじゃないか。そっちの方が間違っているのだ。
 優秀な解体技術を持つスタッフの手にかかれば、制限時間をかなり残した余裕たっぷりの状態で解体が終了するのだ、というかそうでないと困るのだ。
 そうとも。
 フェスエを見ると、まだ赤と青の本を見つめたまま、指をヒラヒラ動かしている。
 あのスタッフが優秀すぎたのだ。天才すぎた。構造を見極めるのが早すぎた。
 待てよ?
 リテミスは顔を上げた。
 そうだ、あまりにも簡単すぎる。これでは爆弾を仕掛けた意味もない。
 簡単すぎる……ということは、だ。
「わかりましたー! 正解は青!」
 フェスエがうれしそうに叫ぶ声が聞こえた。
 そのまま、青い本に手を伸ばす。
 リテミスは止めようと手を伸ばしたが、遅かった。
 青い本が抜かれ、爆弾が完全に沈黙したのである。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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