明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

黒幕との対峙

「くっくっく……待っていたぞ勇者たち!」
 黒い太陽の中心に、もはやテンプレート過ぎて美しい台詞が響く。
 三人は星の核に設けられた広大な研究施設に居た。
 基地から離れ、星の表面の穴にそって造られたエレベーターシャフトを通り、恐るべき距離を降下したのだ。
 人影も無く、うち捨てられた研究施設の、最も奧にある秘密の部屋。
 まるで古代の神殿のように何本もの柱がそそり立ち、その柱の真ん中に、巨大なタマゴのような物体がそびえ立っている。タマゴからは常に何かうなり声めいた駆動音が響いており、本で出来ているはずなのにまるで生きているようだ。
 そして、そのタマゴの上にある作業台に、テンプレートな台詞を吐いた男が立っていた。
 靴やスーツから帽子まで、全身が黒尽くめの男。
 顔にはだいぶシワが寄って、かなりの老齢であろうと思わせる。
「第十三空洞」の都市から〈全知の書〉を持ち去った男の所属する機関、〈カルイデス〉のリーダーらしい。
 侵略艦隊を乗っ取ったリテミスにメッセージを送ってきたときは、この研究施設が背景にあった。だが、今は施設に誰も居ない。
 タマゴの足下に立っているリテミスが、そちらに人差し指を突き出して叫ぶ。
「まさか本当にそう言われるとはな! てめえ、あの清掃員はどうした!」
「清掃員? ああ、ああ、ああ。なるほど清掃員か。彼ならもうここには居ないよ」
 くくく、と愉快そうな笑い。
 フェスエも人差し指を突き立てる。
「あなた一体、おじいさんをどうしたんですか!」
「彼ならここには居ないよ。邪魔だったんで、消えてもらった」
 くくくく、と再び笑う。
 冒険家も負けじと人差し指を出した。
「あの清掃員はどうしたんじゃ!」
「他に聞くことはないのかあっ!!」
 黒服の男がたまりかねて叫んだ。
「こうやって〈全知の書〉を六冊集めて帝国にクーデターを起こして、邪魔な兵士どもをあらかたその本の力で気絶させて皇帝を倒したあげくこの星を壊そうとしてるんだぞ!? もっと他に聞くこともあるだろうよ! なんだよ清掃員清掃員ってさあ! もおおお!」
 一気にしゃべって地団駄を踏んでから、しばらく息を整える。
「もう若くないんだから、あんまり無茶させるんじゃない、まったく。ごほっ」
「すまん」
「ごめんなさい」
「すまなかった」
 三人は素直に謝った。
 
 
 こほん、と咳払いして、リテミスが話しかける。
「で、だ。黒尽くめさんよ。あンた一体誰だ? この星を壊して何が楽しい」
 その言葉に、黒服の男がにやりと笑った。
「きみたちはここの外……本の世界の外から来たのだろう、そうだな?」
 三人がバラバラにうなずくのを見て、黒服の男が歩きながら、歌うように語り始める。
「ではわかるまいよ、我々が外の世界を知ったときの気持ちを……自分の世界が他の誰かのただのガラクタ溜めだと知ってしまって、しかもその誰かがこうして」
 投げやりな様子で、三人の方を片手で指し示す。
「目の前に居るときの気持ちをね。そして何よりも腹が立つのは」
 歩くのをやめて、じっと三人を見つめた。声に怒りがこもる。
「いざどんなやつかと会ってみれば、その造物主はどう見てもそこらへんの老人や中年や子供となんら変わりなかったということだ。意外性もクソもないじゃないか」
 吐き捨てるような台詞に、リテミスが肩をすくめる。
「そんなこと言われてもな、あンたの期待に応えられなかったのは残念だけど。というか、俺の質問に一つも答えてないぜ」
 再び、黒服の男がニヤニヤ笑いを取り戻した。
「そうだな、一つ目はなんだっけ……ああ、『あんた一体誰だ』だったな?」
 リテミスがうなずくのを見て、黒服の男は胸に手を当て、大げさな身振りでお辞儀した。
「わたしは〈オーバーロード〉。歴代の理事長をバックアップし、チャルグウィッ大学を繁栄させ、帝国を造らせた張本人、とでも言おうか。長い仕事だったよ、実に長かった」
 身体に満ちる誇りに、背筋を反らす黒服の男。
 三人はちょっとの間、二の句が継げなかった。
 つまり、自分が例の「経営コンサルタント」だと言っているのだ。
 となると、この黒服は全能の存在?
 リテミスはいぶかしんだ。とてもそうは見えない。
 黒い服を着ていて、自尊心がめっぽう強い、ただの男にしか見えない。
 それに待てよ、あいつの顔、まさか……。
 しばらく待ったが反応が無かったので、黒服の男は満足して、再び口を開いた。
「そして次の質問。『この星を壊してどうする』だが、これは簡単だ」
 劇的効果を狙って、少し間を置く。
「ただのイヤガラセだよ」
 三人はまたもポカーンとしてしまったが、フェスエが立ち直り、黒服に指を差した。
「い、イヤガラセってなんですか! この星を壊したら、たくさんの本が死ぬんですよ!?」
「ああ、それくらい知ってるとも」
 事もなげに答えられ、フェスエはもはや言うべき言葉を見つけられなくなってしまう。
 黒服の男の表情が変わった。いままでの単なる笑いから、狂気を含んだ、心底愉しそうな笑いへと。
「イヤガラセといっても、それは可哀想な空洞の生き物たちへのイヤガラセではない」
 黒服がすう、と腕を上げ、三人を指差す。
「これは君たちへのイヤガラセなんだよ……復讐なんだ。この世界を創り、わたしを創り、生きることの苦しみを味あわせた事への! この太陽を壊したら、となりの空洞の太陽も壊す。他のも順番に全部壊してやる! そうとも! これは神への復讐なんだよ!」
 あはははは、ははははは、と両腕を虚空に挙げ、笑いはじめる黒服の男。
「それだけのために、千年も準備したっていうのかよ」
 リテミスが困惑しながらも問いかけると、黒服は笑うことを止めた。
「ああそうだ。わたしにとっては、千年などどうということはない」
 冒険家は考えた。この男は最初から狂っていたのだろうか、それとも千年にも及ぶ長い永い準備の段階のどこかで時の重みに耐え切れず、狂ってしまったのだろうか、と。
 だが、そんなことは今はどうでもいい。
 恒星よりも大きな空洞の内壁に住む生き物……信じられない数の命が危険にさらされているのだ。
「とにかく、お前の計画はこれまでじゃ!」
 黒服の男は大げさに驚き、耳をほじる仕草をしてみせる。
「んん? 耳がおかしくなったのかな。君たちがわたしの計画を止めるとか、そんな事を言われたような気がしたんだが」
「そう言ったのさ」
「そう言ったんですよ」
 いつの間にか、リテミスとフェスエの手にはマグナム銃(フェスエ作)があった。
 その射線上に、しっかりと黒服の男をとらえている。
 少し遅れたが、冒険家も同じくマグナム銃を構えた。
「おやおや、いつの間にそれを準備したんだね?」
 目を丸くする黒服の男。
「へっ、この部下は手クセがだいぶ悪くてね」
 あごでフェスエを指し示すリテミス。
「えへへ」
 思わず照れ笑いを浮かべるフェスエ。
「ほめられてないぞい」
 小さな声で、冒険家はツッコミを入れた。
 
 
「さて、それでどうするんだね? 撃ってみるかね? よろしい、撃ってみたまえ!」
 両腕を広げる黒服の男。
 三人はトリガー(の役目をする部分)をいじりつつ、決心がつかないでいた。
 数秒の時間が、糖蜜のようにのろのろと流れる。
 ふう、とため息をつき、黒服は上げていた腕を戻した。
「それでは、いいことを教えてやろう。わたしの立っているこのタマゴだが」
 突然、タマゴの表面のあちこちに光が灯り、床を伝わってくる駆動音が一オクターブ高いものになった。
「実は爆弾なんだよ」
「なんだってー!?」
 三人が一斉に驚く。
 わかりそうなものだが、大きすぎて気がつかなかったのだ。
「我々の苦心作、〈太陽破壊爆弾〉だ。長年の研究が実を結んだのだよ。さて」
 黒服の男が、手に持った何かをヒラヒラと振って見せる。
「このスイッチを押せば、爆弾は最終カウントダウンに突入する。押してしまえば、例えわたしでも爆発は止められない」
 冒険家がしっかりとマグナム銃を構えたまま、ゆっくりと話しかける。
「考えを変える気は無いのかね。いちおう聞いておくが」
 スイッチを放り投げたりして遊びながら、黒服の男は答えた。
「無いね。頑張って造った爆弾なんだ、爆発して完成するところが見たい」
 ニヤニヤ笑いをやめない黒服の様子に、三人はため息をついた。
 説得に応じる様子、まるで無し。そして、時間ももう無い。
 三人の持っているマグナム銃が、そろって火を噴いた。
 
 
 だが、黒服の男には何も変化がなかった。
 相変わらずニヤニヤ笑ったまま、同じ姿勢で、同じ場所に立っている。
 反発場が当たらなかったのか、と三人は角度を変えながら撃ちまくったが、黒服は全く被弾した様子がない。
 しまいには諦めて、リテミスが黒服に理由を聞いてみた。
「おい、なんで当たらないんだ!」
「ぷっ」
 黒服の男が吹き出した。
「ぷははははは! 当たって死ぬなら、『撃ってみろ』なんて言うわけないだろ?」
 笑い続ける黒服の男の姿が、一瞬だけ陽炎のようにブレた。
 それを見て、地団駄を踏むリテミス。
「くそッ! ホログラムか!」
「その通りだ、愚かな造物主どもよ」
 黒服の男はくるくると回ってみせると、言葉を継いだ。
「それじゃサヨナラだ。あと五分の命を楽しみたまえ、バイバーイ!」
 スイッチをしっかりと押しこむと、黒服の男はその姿を消した。
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Date:2014/05/04
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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