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帝国の成り立ち

「そういえば、この帝国とやらのことなんじゃが」
 老人がだいぶ回復すると(ついでに服を片付けると)、冒険家が口を開いた。
「いったい何のために作られたんじゃ? クーデターがどうとか聞いたが」
 老人が飛び上がらんばかりに驚いた。
「あなたがたは学生連合の者じゃないのか?」
 全員が首を横に振る。
「俺たちはちょっと用事があって、この第十三空洞の都市から来たんだ」
「本が盗まれちゃったんです!」
「〈全知の書〉とか言っとったの」
 その言葉に、老人の表情が曇る。
「誰がそれを盗んだのかね? とは言っても、盗みそうなのは見当がつくな。黒服か?」
「そう、その通り。あンたの言ってた〈カルイデス〉さ」
「そうか、それは……わたしの大学が迷惑をかけてしまったようだな……」
 うつむき、深く考える姿勢になる老人。
「ん、あンたの?」
 リテミスが首をかしげる。老人がぱっと顔を上げた。
「ああいや、わたしの所属する大学が、という意味だ」
 そう言うと、今度はあごを触って考え込む。
「ちょっとわたしもその本の在処は知らないな……知ってるとすれば、たぶん皇帝の秘書が一番よく知ってるはずだ。呼んでみよう」
 老人は机に近づき、その上に開いてある本の表面をそっとなでた。
「よし、これで十分もすれば来る。なにせ基地が広くて、なんにでも時間がかかる」
 両手を広げて笑う老人に、フェスエが声をかける。
「あのー、さっきのお客さんの質問なんですけど、わたしも気になるんです。なんで大学が帝国になっちゃったんですか?」
 老人は笑うのをやめ、なにかを悔やむような口調になった。
「そう、だな……わたしが知ってるのはホンの一部だけだが。待っている間のひまつぶしにはなるかな」
 言いながら、机の上の別の本を開き、表面を指でなでる。
 すると部屋の真ん中の「黒い太陽」が消え去り、代わりに何かの建物が現れた。
「これがチャルグウィッ大学だ。千二百年前、第一空洞内クロノスにて開設された。最初は法学部と文学部しかなく、学生もほんの五百人程度。ささやかなもんさ」
 言いながら軽く肩をすくめる。
 また本をなでると、大学が小さくなり、何かのボールの内部に張り付く一点となる。
 最初の点から少し離れたところに、もう一つの点が現れた。
「やがて学生数が多くなると建物に収容しきれなくなり、分校を作ることになった。この新しい点はプラクシス分校。そしてキトマー分校、ボレス分校、ゴルコン分校……」
 新しい点が次々と現れはじめた。まるで細菌が増殖するように点は増えていき、ボールの内部を覆い尽くそうとする。
「他の大学を合併し、併合し、数え切れないほどの分校が作られた。やがて三百年前に」
 ボールの内部は完全に分校を示す点に覆われてしまった。
「第一空洞内の大学は、すべてチャルグウィッ大学になってしまった」
「ちょ、ちょっと待った」
 リテミスが慌てて口をはさむ。
「いくらなんでも、これはうまくいきすぎじゃないか? ひとつの大学がこんなに大きくなるなんて」
 老人は重くため息を吐いて、言った。
「そうだな。いま考えてみればこの状況はおかしいし、当時そうだと気づくべきだった。歴代の理事長には極めて優秀な経営コンサルタントが付いていて、学校の経営も資産管理も他校の吸収合併も、彼らに任せればすべてうまくいったのだ。なにもかも」
 老人がまた本を操作すると、ボールの内部――第一空洞――の中心部分に小さいボールが浮かんだ。
「そして決定的だったのが、大学によってなされた『大発見』だった」
 中心のボールがクローズアップされる。
「空洞の中心に浮かぶこの大きなボール……太陽が本で出来ていないという発見だ。それはご存じかね?」
 三人は一瞬キョトンとしてしまったが、行きの反発駆動船でハートが言っていたことを思い出し、うなづいた。
「そうか、あまり驚いてもいないようだな。だが第一空洞ではそうも言っていられない。なにせ自然観を根本から覆す事実なもので、慌てた政府によって太陽の正体は最高機密に指定された。で、大学側が秘密を守る見返りに何を求めたと思う?」
 老人の心底うんざりした口調から、答えは見えている。
「まあ、聞かなくてもわかるな。要するに、第一空洞内の各国家はチャルグウィッ大学の言いなりになってしまったのさ。はは、馬鹿げた話だろう?」
 泣きと笑いの中間の表情で、老人は両手を大きく広げた。
「ここからは簡単だ。別の空洞への侵略を止める者は誰もいない。大学は自衛の名のもとに軍備を整え、そして五年前、ついに各国家を統合して『大学帝国』に名を変えたというわけさ。だがまあ、実態はいままでと何も変わらないんだがね」
 老人が本を閉じると、ホログラムは消滅した。
 
 
 しばらく、執務室には言葉もなかった。
 あまりに馬鹿げているといえばそうなのだが、実際に起きてしまったとなれば大変だ。
 じっと考え込んでいたリテミスが口を開く。
「なあ、大学の最終的な目的はなんなんだ? 他の空洞を侵略して、どうするつもりだ?」
 老人は大きく肩をすくめた。
「さあ。わたし……いや皇帝は経営コンサルタントに従っているだけだ。現に敷地は不足しているわけだしな」
「経営コンサルタントってのはどこに居るんだ?」
 老人はしかめ面で天をあおぐ。
「わからない」
 フェスエはある事実を思い出していた。どの宇宙のどの種族の伝説でも、偉大な存在はほとんど必ず、天上世界に住んでいることになっている。
「というのも、歴代の理事長はコンサルタントに自分から接触することはできないのだよ。ただ向こうからメッセージが届く……時には見知らぬ他人を介しての指示、書いた覚えのない机の上のメモ、夜に見る夢、突然の天候の変化、立てた本の倒れ方、体調の上がり下がり……エトセトラ、エトセトラ。サインは至るところにあり、理事長のみがそれを正しく読んで、そして成功することが出来た。もう千年ものあいだ続いてきたことだ」
 言い終わると、再び肩をすくめる老人。信じられないだろうが事実なので仕方ない。
 リテミスが頭をくしゃくしゃとかきむしった。
「なんだそりゃ。それじゃまるで……」
 言葉を切る。もしこの老人の言っている事が完全に事実だとすれば、コンサルタントは全知全能の存在だとでもいうことになる。
 普通なら、そんな「コンサルタント」など妄想だと言い切ってしまうところだろう。
 しかし、ここに帝国が出来てしまっていることは事実だ。どう考えればいい?
 コンコン!
 急に執務室のドアをノックする音がしたので、リテミスはびっくりしてちょっと浮いた。
「まさかコンサルタントか?」
「いや、さっき呼んだ秘書だよ」
 言いながら、ドアに歩いて行く老人。自らドアを開けて秘書を出迎える。
「やあ、よく来てくれたね」
 秘書(若い女性らしい)の慌てふためく声が聞こえてきた。
「こ、これは陛下自ら、恐縮です! ご無事でしたか!」
 どうやら来ているのは一人ではないらしく、後ろが大分ザワザワしている。
「あ、ああ。無事だとも……」
 そこまで言ったところで、老人はドアの外に引き込まれた。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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