明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

フェスエによる重大な発見

 ポッドは決死の覚悟で突進したのだが、しかし建物には都合よく謎の穴が開いていた。
 ちょうどポッドが入れるほどの大きさがあり、いくら建物が巨大だったからと言ってもおかしな話だが、これは水を欲張って取り込もうと設計した、帝国の設計技師にそもそもの責任があった。
 とにかく、ポッドは穴に入り、曲がりくねった狭い通路を壁にさんざんぶつかりながら下に向かって落ちていった。
 通路は兵士の通るものではなかったので、誰にも見つからなかった(これは兵士にとっても幸運だった)。
 そんなわけで、ポッドがその終着点である巨大プールに着水したとき。
 ここがまさか大学帝国の第十三空洞分校における中枢であろうとは、三人の人間は全く気づいていなかった。
 
 
 ポッドはプールにぷかぷかと浮かんでいたが、しばらくしてハッチが開き、搭乗員が吐き出された。
「ごぼっ!?」突然の水に驚く冒険家。
「ぶはっ!」水から浮かび上がるリテミス。
「ごぼごぼ」水の底に沈んでいくフェスエ。
 すぐにリテミスに抱え上げられる。
「穣ちゃん、しっかりしろ!」
「疲れましたあ~」
「よしよし、とにかく陸に行こうな」
 フェスエはリテミスが抱えることにして、三人で近くの岸まで泳ぎ始める。
 プールがとにかく大きかったので、しばらく泳ぐまで人工物だと気づかなかったほどだ。幸運だったのは、たまたまポッドが岸の近くに着水していたことで、もし真ん中あたりだったなら岸まで泳げたかどうかもわからない。
 十分ほど泳いで、岸に上がる。身体が重い。
 三人で平らな床に倒れこみ、息を整えることに専念する。今日はやたら揺さ振られるわ追い回されるわで散々だ。服もビチョビチョになるし。
 それにしても、と冒険家は思った。なぜこのプールはこれほどまでに巨大なんだ?
 岸は意外に狭く、プールと壁までは十メートルもない。ただの通路なのだろう。
 プールというより、巨大な貯水場といったところか。
 壁にも太くて四角い配管(本だから)が無数に通っており、そんな印象を強くしていた。
 それにしても本当に太い配管だ。影に人が隠れられそうなほどだ。
「り、リテミスさん、本は……?」
 意識を取り戻したフェスエが、リテミスに聞く。
「本?」
「艦長にもらった……〈全知の書〉……です」
「ああ、持ってきてるぞ。って、あーあ、ビチャビチャだわ」
 プールに落ちた際に、濡れてしまった本をフェスエに渡す。
「よかった……無事で」
 安堵の笑みを浮かべたのもつかの間、その両目が突然まん丸に見開かれた。
「えっ!? あ、あああ……!」
 フェスエの瞳孔が開いていく。外界からの刺激が、その意識から取り除かれていく。
「ああっ……な、なにコレ……? あ、あ……!」
 どこか虚空を見つめたまま、フェスエは凍り付いたように動かなくなった。
「お、おい嬢ちゃん! 嬢ちゃん! フェスエ!」
「フェスエさん! どうしたんじゃ!」
 二人は五分ほど、必死でほほをペチペチ叩いたり肩を揺らしたりしていたが、ようやくフェスエの意識が戻った。
「あ、わたし……? ぎゅぅうっ!?」
 リテミスが力一杯抱きしめたので、フェスエは危うくもう一度意識を失うところだった。
「心配させんじゃねえよ、無理させすぎたかと思って……」
「リテミスさんや、フェスエさん、さっきからあんたの背中をタップしとるぞ」
 背中をぱたぱた叩かれていたことに気づき、フェスエを解放する。
 大きく深呼吸するフェスエ。
「もう、大丈夫かね?」
 心配そうな冒険家の顔に、フェスエはいつも通りの笑顔を向けた。
「はい」
 よかった、本当に大丈夫そうだ。
 ふう、と溜めていた息を吐く大人二人。
「で、何があったんだ?」
 リテミスの問いに、フェスエは思いがけず、にいっ、と口角を上げた。
「そうそう、これ大発見ですよ!」
 
 
 フェスエの説明はこうだった。
 リテミスに渡された本を持ったとき、突然、知識の奔流が本からあふれ出て、直接自分の脳に向かっていったのだという。
 その知識の量たるや膨大で、それを受け止めるのに必死になるあまり、外の世界のことを気にする余裕が全く無くなってしまうほどだった。
 
 
「で、その知識ってのは何なんだ?」
 再びフェスエは微笑むと、手近の四角い配管に近づき、なんと本を数冊むしり取った。
 リテミスは目をむいた。
 本同士はもちろん、お互い強固に結合しているはず。手でむしり取るなんて論外なのに、一体どうなってるんだ?
 その間にも、フェスエは配管を壊し、近くにてきぱきと本の山を築いていく。
 ある程度山が大きくなったところで、フェスエは次の作業に移った。
 山から取り出した本を仕分けて、小さなまとまりを作っている。
 二、三分で、作業は終わった。
 フェスエは本のまとまりを持ってくると、それを長い筒のような形に組み、プールから手で水をすくってきて、それにかけた。
 そして手を合わせ、そのカタマリに何か短い呪文めいたものを投げかける。
 数秒で手を離し、
「よし」
 と一言。
 結果として、リテミスたちの目の前には、長い筒型に組まれ、水に濡れた本のカタマリが置かれることになった。
「……で? これはなんだい、嬢ちゃんよ」
「武器です!」
 自慢げに胸をそらすフェスエ。
「い、いやいやいやいや」
 リテミスが本のカタマリを指差す。
「お前、いきなり本を固めて置いて水をかけて、それで『武器です!』って言われても」
 冒険家も同意見だったので、うなずく。
 しかしフェスエはその反応も見越していたようで、特に反論するでもなく、カタマリを持ち上げた。
 なんと、それはキチンと固まっていた。筒型の形状を維持していた。
 フェスエはそれをショットガンのように構えると、手近の配管に筒の先の狙いを定める。
 ドガンッ!!
 一瞬後、配管は粉々になり、ただの本として床に散らばっていた。
 そして、リテミスは開いた口がふさがらなくなっていた。
 本は水に濡らせば、大抵は何かの能力を発揮する。例えば光るとか、反発するとか。
 だが、どの本にどんな能力があるかは、濡らすまではわからない。
 しかも、その本同士を組み合わせて役に立つ構造物を造るのは、この「書庫」内に住む〈出来上がっていく本〉にとってさえ、熟練のカンと経験が必要なのだ。
 それをこいつは、一度もテストすることさえなく。
 最高性能の兵器を、いとも簡単に造り上げたのだ。
「これが、わたしがもらった知識です。この『書庫』内における、本の振る舞いについて」
「つまり……『書庫』の物理法則を覚えちまった、と?」
 リテミスが震える指で、フェスエを差しながら聞く。
 対してフェスエは、極めてあっけらかんとしていた。
「いやー、本に関してだけです」
「おお、なんだかわからんが、すごいもんだのう! 配管から武器を造ってしもうた!」
 冒険家の賛辞に、えへへ、と照れ笑いするフェスエ。
 しかしリテミスは、これは思ったより危険だ、と思っていた。
〈全知の書〉はホンモノだということだ。それに、たった一冊の知識で、こんな常識を覆すような神業がこなせるのだ。
 ということは、七冊全部そろったらきっと、想像も出来ないような大変なことになるぞ。
「そうそう、それに〈全知の書〉に関してもわかったことが……」
 と、フェスエの言葉をそこまで聞いたとき。
 リテミスは配管の影に、人が隠れていることに気づいた。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/04/29
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/56-38d6ecb3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)