明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

領空侵犯

 黒い惑星の上空を音も無く駆け抜ける。
 穴のふちをよく見ると、やはり建造物がびっしり立ち並んでいた。
 高度がやや低くなっているので、いまでは建造物自体もよく見える。
「……ずいぶんと威圧的だの」
 林立する建造物はその全てが角ばっていて、威嚇するようにとんがった部分も多い。
 さらに下よりも上が広がったデザインで、見上げたときに圧倒する効果を狙っているのだろう。
「大学の講堂なんですがね、名目上は」
 呆れたようにため息をつくリテミス。
 確かにそう言われてみれば、歴史ある大学校舎に見えなくもない。
 と、何かが校舎の隣に置いてあるのが見えた。四角い筒のようなもの。
 あれ、砲台じゃないのか。
「なぜ我々は見つからんのかね」
「さっき誘導ビームを切ったときに向こうのシステムに侵入してたんで、ついでにレーダーがこちらを無視するように説得したんです」
「ほー」
 冒険家は心から感心していた。フェスエが胸を張るのもうなづける。
 そんなにあっさりと見つからないように出来るとは。
 建造物群の向こうに、何かとんがった塔のようなものが林立しているのが見えた。
 戦艦だ。先ほど脱出した戦艦よりも大きな戦艦が、並んで着陸しているのだ。
 しかしまあ、見つからないのなら、あの戦艦とドンパチやらかすこともあるまい。
「というわけで、あとは適当なところに降りて、中に入るだけですよ。楽勝楽勝」
 シートにゆったりと座り直すリテミス。
「いやはや、実にたいした司書さんたちじゃ」
 包み隠さない賞賛の言葉に、リテミスとフェスエが同時に頭をかく。
「いやあ、そんなことは」
『こちらはチャルグウィッ大学理工学部航空空洞工学科である。貴船は我が大学の領空を侵犯している。ただちに退去せよ』
 しかし、二人の言葉は突然の無線通信にさえぎられた。
 ポッドの中はしーんと静かになった。
 
 
『繰り返す。貴船は我が大学の領空を侵犯している。ただちに退去せよ』
 何度目かの警告が行われた。
 こちらからは何も答えていない。
 向こうの声も、だんだんイライラしてきているように聞こえる。
 いつまでも黙っているわけにもいかないと、フェスエが口を開いた。
「あ、あの、ですね。えー」
 考えていなかったので、詰まってしまう。だが、すぐに先を続ける。
「わたしたち、その、ちょっと道に迷ってしまって」
『どこへ行きたいのか教えていただければ、我々が誘導する』
 フェスエが固まった。
 リテミスがその顔を見ると、頭が真っ白になっていることがわかった。
 仕方なく、自分が引き取ることにする。
「おほん、すみませんお電話代わりました。えー、ちょっとその……」
 うつむいて考え込んでしまった。空気がぴりぴりしてくる。
 やがて、顔をぱっと上げて続けた。
「そう、病院に行きたいんです! 急患です!」
『わかった。どのような容態なのか』
 よし、向こうもちょっと心を許しているぞ。
「あの、お腹がすごく痛いんです、じゃなかった、痛いそうなんです」
『本人と話がしたい。代わってくれ』
 リテミスが固まった。
 冒険家がその顔を見ると、頭が真っ白になっていることがわかった。
 え、わしが代わるの?
『病気の方はそこに居られるか?』
 いかん、いま疑われたら元の木阿弥だ。
 しかたない。
 冒険家が口を開いた。
「わ、わたしです」
『どのような容態か』
「ええ、お腹が、いたた、痛い痛アい! ひっひっふー、ひっひっふー。産まれるウ!」
 無線が切れた。
 ポッドがまた激しく揺れた。
「砲撃されました! 直撃は回避!」
 ポッドが急旋回する。スクリーンにときおり光の筋が輝く。
 つまり、砲撃がすぐそばを通り過ぎたということだ。
 冒険家が両手で顔を隠している間にも、見える範囲の地面全体から、こちらに向かってバラバラと光線が飛んでくるようになった。
 乱れ飛ぶ光線の群れをかいくぐり、ポッドは惑星表面を疾走し続ける。
「くそっ、なんでヤツらに見えてるんだ!?」
 リテミスが遠心力に耐えながら歯噛みした。
 必死でポッドを操りながら、コンソールの表示を確かめるフェスエ。
「ちょっと待ってください、えーと……あっ」
 そこでなぜか黙り込む。
「ん、嬢ちゃん? なんで見えてるんだ?」
 フェスエがのどから絞り出すように、答えた。
「あの、可視光に対しては対策してなかったので……普通に目視で見つかりました」
 リテミスは頭を押さえた。レーダーに見つからないだけで、なぜか安心していたのだ。
 ズシン!
 またポッドが大きく揺れた。
 計器本の表示を見るまでもなく、シールドはもう限界だろう。
「穣ちゃん、これ以上シールドが保ちそうにねえ! どっか突っ込め、シールド全開!」
「あいあいさー!」
 シールド発生構造に高圧水が供給されるうなりと共に、ポッドは手近の建物に向かって突進した。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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