明日から書く。

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少女の演説

 リテミス、フェスエ、冒険家の三人は大型スクリーンの前に立ち、それぞれ何度もせき払いしたり、声をちょっと出してみたり、服のシワを引っ張って直していた。「赤いあめんぼ」に関する、呪文めいた文章を唱えている者もいる。
 わけもわからず部屋の隅に立ち尽くす少女の前で、突然三人はスカーフを口に巻き始めた。あれはどこで拾ったんだろう、と少女が思っていると、フェスエが近くのコンソールまで小走りで行き、ちょっといじる。
 スクリーンいっぱいに、たくさんの顔が現われた。
 よく見ると、それは全て艦長の服を着ていた。つまり、これは艦隊中の艦長といっぺんに通信しているのだ。
 フェスエが急いで定位置に戻ると、リテミスが低めに作った声で話し始めた。
「おほん、えー、われわれは、学生連合である! 諸君も知っての通り、あなたがたの船はわれわれの支配下に置かれた! 抵抗は無意味である!」
「無意味です!」
「無意味だ!」
 フェスエと冒険家も、それぞれ(あまりうまくいってない)低い声で文末を繰り返した。
 スクリーン中の顔に、動揺の波が広がった。それを確かめてから、リテミスが続ける。
「ただちに、本艦隊はチャルグウィッ大学付設基地に引き返すものとする! 反対の投書は受け付けるが、われわれは一切読まないし、中止もしない! 投書は無意味である!」
「無意味です!」
「無意味だ!」
 またしても、驚愕の波がひろがった。少し待ち、演説を続ける。
「本作戦を立案し、指揮し、成功に導いた偉大なる指導者様からのお言葉がある! 注意して聞くように!」
「聞くように!」
「聞くように! ……カブっちまった」
 そこで、リテミスが少女を手招きした。少女は後ろを見て、誰も居なかったので確認のため自分を指差したが、どうやら正しいようだった。
 おずおずと近づき、リテミスの前まで少女が誘導される。またしても、スクリーン中に驚愕が走った。画面の向こう側がざわつくのがわかる。
「こちらが、我々の偉大なる指導者、現人神、地上に降りたった太陽、女神……」
 そこまで言ってリテミスは、はた、と気づいた。名前知らないじゃん。
(お嬢さん、お名前は?)
 と小声で尋ねる。
(え? あたし?)
(そうあたし)
(「サマー・オブ・バタフライ」……)
「サマー・オブ・バタフライ『閣下』である!」
 スクリーンの向こう側は一層ざわつき、軽いパニックと言っていい状態になった。
「それでは、閣下どうぞ!」
 言うが早いか、リテミス達は少女の後ろから素早く離れた。向こうのスクリーンには、この少女しか映っていないだろう。
 立ちつくし、おろおろするばかりの少女に、リテミスが小声で指示を出す。
(なんかしゃべって!)
(だ、だって、何を!?)
(なんでも! 思ったことを! とりあえず大学に言いたいことを言えばいいから!)
 少女は困った顔で、またスクリーンに向き直った。
 自分を見つめる、顔、顔、顔。
 いぶかしげな表情の顔。
 何か、言わなければ。
 思ったこと、言いたいこと?
 そうだ。
 この人たちに言いたかったこと、それもずっと言いたかったことがある。
 深呼吸をして、しっかりと前を見据え、少女は話し始めた。
 
 
「みなさん、聞いてください。
 わたしの父は、チャルグウィッ大学の先生でした。
 でも、一年前に辞めています。
 なんでって、それは、大学の経営方針についていけなくなったからです。
 嫌気が差したんです」
 少女は握った手に力をこめ、続けた。
「侵略なんて、どう考えたって最高に馬鹿げています。
 だって、そうでしょう?
 みなさんもそう思いませんか?
 いつから、大学がそんな場所になったんですか?
 いつから軍隊になったんですか?
 みなさんはそれでいいんですか?
 お父さんはよくないって言ってました。
 正しいことを言ったら、どこかに追放されるって言ってました。悔しいって」
 目元をぬぐう。
「戦争は馬鹿げています。
 本当に馬鹿なことです。
 誰も幸せになんかなりません。
 絶対です。
 わたしは……わたしは、すごく投げやりな気持ちで、学生連合に入りました。
 戦争は止められないけど、お父さんにかっこいい姿を見せられるかもって」
 作業着のそでで両目をぬぐった。
「でも本当は反対でした。
 全然かっこよくなんてなれませんでした。
 結局、使い捨ての駒として、どうでもいい場所に回されました。
 わたしは……役に、立たないからです。でも」
 もう一度、深く息を吸い込み、吐き出す。
「いま、この侵略なんてものを止められるなら、止めてみせます。
 反対なんてさせません。
 かっこよくなくても、絶対に止めます。
 反対なんてしないでください。
 これ以上、わたしの大切な人を泣かせたら」
 スクリーンの向こうは、静まりかえっていた。
「絶対に、許しません。以上です」
 言い終わり、少女がうつむいて涙を拭くのを見て、フェスエがコンソールを叩き、画面を消した。
 少女の頭に、リテミスが手を置く。
「上出来だったぜ」
 頭の手に、少女が自分の手を重ねる。
「ウソつき」
 重ねた手に、フェスエの、冒険家の手が重なった。
 温かい。
「でも、ありがとう……」
 少女は久しぶりに、声を上げて泣いた。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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