明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

小さなスパイ

 廊下をしばらくうろうろしていると、壁の一部が外されているのが見えた。
 壁だった板(になった本)が立てかけられ、その向こうに子供が一人立っている。
 上半身を壁の跡につっこんで何か作業をしているようだが、ときおり通り過ぎる兵士もちらっと見るだけで、声をかける者は居なかった。
 なので、
「なにしてるんですかあ?」
「うひあ!?」
 フェスエがなにげなく声をかけただけで、その子供は飛び上がって頭を打った。
 作業着に身を包み、帽子を深く被った子供が、おずおずと壁の跡から出てくる。
 怪しい。工兵にしては若すぎる。おかしい。
 怪しいその少女は、震える指でフェスエを差しながら何とか声を絞り出した。
「だ、だ、だ、だ」
「誰だチミは!? ってか!」
 フェスエが何かのモノマネで返すと、少女はこくりとうなずき、
「そ、そう」
 としごく真面目に答えた。それを受けて、フェスエが大きく息を吸い込むと、
「そうですわたしが!」
 と言いかけたのだが、
「ていっ」
「あたっ」
 リテミスに頭をはたかれたので言い切ることができなかった。
「ナニするんですかあ~」
 涙目でフェスエが抗議する。
「いや、それ以上はホラ、アレだから」
 遠い目をするリテミス。
「あ、あの、えっと」
 状況を理解できていない少女がおろおろと口を開く。
「そうだ、あなたはどなたなんですか? ご職業は?」
 フェスエが少女に優しくたずねた。少女はその様子に警戒心を解き、
「スパイです。あっ」
 口を滑らせてしまった。
「つ、つかまえないでください~!」
 泣きそうになりながら、両手をあわせて懇願する少女。
「えっ、捕まえませんよ?」
「えっ、捕まえないの!?」
 フェスエが驚きながら答えると、少女もびっくりして聞き返した。
「別にここに居るやつらの味方でもないしのう」
 事態を静観していた冒険家があごをなでながらつぶやく。
「え、じゃあ、あたしたちの味方? あなたたちもスパイ?」
「いや、旅行者だ。この船に飛び乗っちゃってな」
 リテミスが少女に説明する。
 少女はぽかんと口を開けてしまった。
 
 
 廊下を歩きながら、リテミスが少女に状況をかいつまんで説明していた。
「つまりだ、本を探しにタクシーとロケットを乗り継いで近くまで来たんだけど、誰かにロケットが撃たれて爆発したんで、仕方なく泳いでたら戦艦に突っ込んじゃって穴開けて、それでここに出たんだ」
 少女は頭を抱えてしまった。
 なんでわからないんだろう、なるべくかいつまんで説明したんだけどなあ、とリテミスはかぶりを振った。やがて、少女は諦めてため息をつく。
「うーん、やっぱわかんないや」
「わからなかったら、ムリにわかろうとしなくてもいいですよ?」
 フェスエがフォローしながら、少女の頭をなでた。
「ちょ、ちょっと、子供扱いしないでよ!」
 頭に乗せられた手を払う少女。しかしフェスエがまた、ひょいっと乗せてしまう。
「まま、いいじゃないですかぁ、子供なんだからー」
「むうー」
 フェスエが頭をなでるのを、少女はふくれっ面で黙認した。まあ子供なのは確かだし。
「で、なにしてたんだ、お嬢さん」
 リテミスが少女に尋ねると、
「この戦艦を、内部から破壊する任務なんだー」
 頭の後ろで手を組んで、少女が答えた。
「ええ!? すっごい重要な任務じゃないですか!」
 フェスエが頭をなでていた手を離して驚くと、
「……そうだね」
 少女は面倒そうにため息をついた。
「娘さん、元気が無いのう?」
 今度は冒険家が不思議そうに首を傾げた。
「うん、ちょっとね」
 少女の答えにくそうな様子に、数秒、沈黙が降りた。といっても、廊下は騒がしかったし、四人のそばをひっきりなしに兵隊が走り過ぎて行ったが。
「と、とにかくね」
 雰囲気を察した少女があわてて付け足した。
「さっきもとりあえず配線を見てみたんだけど……なんだかよくわからなくって」
 あはは、と苦笑いする。それを見ていたフェスエが、少女に聞いた。
「なんで、スパイに?」
 少女が答えるまでに、また数秒を要した。
「あたし……帝国が嫌いなの。お金儲けのために、侵略なんて」
 少女がうつむいた。うつむいてから、フェスエの瞳をまっすぐに見つめた。
「だから、あたしがやっつけることにしたの。学生連合に入って、潜入工作班に志願して、志願兵のフリして戦艦に入り込んだの」
 しばらく、二人は見詰め合った。少女の瞳には、思いつめた光が宿っていた。
 ぐう~。
 ここでタイミングの悪いことに、フェスエのおなかが鳴ってしまう。
「す、すみません」
 照れ笑いを浮かべるフェスエ。少女も、表情が少し緩んだ。
 そのとき、ずっと考え事をしていたリテミスが、ふいに顔を上げた。
 フェスエと冒険家をちょいちょいと呼び寄せ、顔を集めて小声で相談する。
 最初こそ、
「そんな無謀な」
「そもそも不可能では」
「一度本社に持ち帰って」
「え、本社ってどこ?」
 などという意見が聞こえたものの、最終的には合意に達した。
 一度(歩きながら)円陣を組んで士気を高めたあと、全員で少女を取り囲む。
「俺らも手伝うぜ!」
 リテミスが、少女の肩に手を置いた。
「え? でも、これはあたしの任務だし」
「固いことは言いっこナシじゃ」
 冒険家が言うと、フェスエも楽しそうに笑った。
「どうせヒマですしね」
「それに」
 リテミスが咳払いし、
「実は、俺たちも大助かりのプランなんだ」
 とまとめた。
 あっけにとられる少女。
 だが肩の上の手に両手を添えると、
「そっか。恩に着るよ」
 と、リテミスの目を見て言った。
 まあ言われた本人は、照れて目をそらしてしまったのだが。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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