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在りし日の思い出

 コクピットはとても静かだった。ハートは「三人を無事帰還させるための」緊急会議を開くと言って無線を切った。
 ハートの助言により、エネルギー消費を少しでも抑えようと、三人はシートに体を固定して眠るようにつとめていた。もはや誰も話すものはいない。
「ねむれねー……ねむれねーよー」
 いや、居た。リテミスである。普段なら聞こえないような小さな声の独り言なのだが、静かなコクピットにはよく響く。
「ねむれねーよー……しにたくねーよー」
 しかも涙声なのでなおさら気になる。なるべく相手にしないようにしていたフェスエも、さすがにもぞもぞとシート上で動き出す。
「しにたくねーよー……ねむれねーよー」
 そこでフェスエが、がばっと起き上がった。鋭くリテミスに向き、語りかける。
「リテミスさん!」
「なんだー……?」
 リテミスは天井を向いて目をつむったまま、沈んだ声で答える。
「リテミスさん、諦めないでください!」
「そんなこといってもよー」
「希望を捨ててはダメです!」
「だってさー……だめだろー」
「ダメじゃないです! 助けが来ますきっと!」
「こねーよー……」
 フェスエはじっとリテミスを見つめていたが、ふう、とため息を吐く。
 このままでは説得は無理そうだ。とりあえず今は眠ることが先決。それが自分たちの生き延びる最善の策だ。たとえ生還する確率が低くとも、ゼロではないのだから。
 安全レバーを外し、リテミスのそばに漂っていく。そっと、肩に手を置いた。
「リテミスさん……眠ってください。それしか、もう出来ることはないんですから」
 リテミスはしばらく黙っていたが、やがて、安らかに寝息を立て始めた。
 フェスエは微笑むと、シートに戻り、レバーをシートにはめる。
「よかったのかね、これで」
「うわっと」
 いつの間にか、冒険家が起きていた。
「なにがです?」
「いや、なんというか……眠れそうかねフェスエさんは」
 フェスエはぽりぽりと頬をかきながら答える。
「いやあ、実はムリそうで。リテミスさんにはあんなこと言ってますけど」
「ふふ、実はわしもでね」
 そう言ったきり、冒険家は困った顔で黙り込んだ。まるで何か言いたいのだが、言葉が思い出せないといった風だ。
 フェスエも無理に先をうながさず、黙って次の言葉を待っている。
 やがて、冒険家が口を開いた。
「眠れるまで、ちょっと話をしたいんだ。つまらん身の上話でも聞いてもらえんかね」
「ええ、聞きたいです」
 フェスエが答えると、冒険家は天井をじっと見つめ、静かに語り始めた。
「わしが今図書館に居るのも、考えてみれば運命なのかもしれん」
 思い出を掘り起こしながら、息をゆっくりと吐き出す。
「昔から、わしは本が好きだったんだ。絵本を卒業したら、すぐに小説にはまったよ……読むだけでは飽き足らず、自分でも少し書いたりしてね。まあ、この風体では信じられんだろうな」
 そこで話を切り、探検服を引っ張って笑った。フェスエもつられて笑う。
「だがすぐに、自分は書くより読む方が好きだと気づいた。なので、今度は珍しい本を集めることにした。本を集めるために、色んな場所をぶらぶらしていたら」
 ふう、とため息。
「いつの間にか肩書きが『冒険家』になっていた。考えてみればずいぶんいいかげんだな」
 肩をすくめて苦笑いして見せる。
「まあ、ぶらぶらしている間にも、何にもなかったわけじゃなかった。恥ずかしい話だが、恋もしたよ。いっちょまえに結婚もした。娘も二人いるんだ……いや、いたんだ」
 何もない壁を見つめる冒険家。そのほうが、娘がよく見える。
 目を片手で覆った。声がやや、湿り気を帯びる。
「上の娘が事故で亡くなってしまってね……三年前だった。それ以来、わしはほとんど家に帰らなくなった。下の娘はそうだな、今ならたぶん、あなたくらいに」
 冒険家は言葉を切り、自嘲気味にかぶりをふった。
「やり直そうと思ったんだ。全知全能の力で、娘を救ってやろうと。なんて馬鹿な話だ! はは、わしは最後の最後までとんだ大馬鹿者だったというわけだ」
「そんな、馬鹿だなんて」
 冒険家が身体を起こした。
「フェスエさん」
 思いつめた顔で、フェスエを見つめる。
「は、はい」
 フェスエがシート上で姿勢を改める。冒険家は一度目を伏せ、また目を合わせた。
「すまない。本当にすまない。こんないいかげんな男の、いいかげんな目的に付きあわせてしまって。本当に、心から申し訳なく思う。許して欲しい」
 深く頭を下げる。フェスエは困った顔で何か言おうとしたが、思いとどまった。
 しばらく冒険家の頭のてっぺんを見つめたすえ、静かに声をかける。
「頭を、上げてください」
「すまない……こんな形でしか……どう償えばいいのか、わしには……」
 冒険家は涙ぐんでいた。
「謝ること、ないですよ」
 続いて、フェスエは静かに、だがはっきりと、こう言った。
「だってとっても、楽しかったですから」
 冒険家は顔を上げた。フェスエを見ても、そこには作り笑いなどはなかった。
 真剣な顔だ。いまの言葉は、嘘でも社交辞令でもなんでもないのだ。
「だ、だが……こんなところに来て……第一、まだ若いのに」
 言葉が混乱し、何も言えなくなる。本当に、心の底から後悔していないとでも?
 フェスエはその表情を見てとって、花が開くように笑顔になり。
「だってとっても、楽しかったですから!」
 と、もう一度言った。
 冒険家は、その顔を黙って見つめていた。その笑顔を目に焼きつけることにした。これが最後かもしれない。こんな風に笑えるのも。
「いかんな、こうやって喋っていては、体力を消耗してしまうではないか」
 シートに体を横たえる。
「フェスエさんも、眠りなさい。希望を捨てちゃいけない」
「……はい!」
 フェスエも、もぞもぞと寝る体勢を作る。
「ありがとう、フェスエさん」と冒険家は言った。
「どういたしまして」とフェスエは答えた。
 それきり、誰も話さなかった。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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