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重大な問題

 コクピットはひどく揺れた。
 三人はただ振動に耐え続け、もはや口をきく者もない。
「あわわわわわわわわー」
 いや、一人居た。フェスエである。揺れに伴い、声が震えるのを楽しんでいるようだ。
「だまらっしゃいいい」
 リテミスが口を押さえながら抗議した。
 冒険家は何も言わず、ただ天井にくっついている二つの本を眺めていた。それらの本は開かれており、まるでページ上に窓があるかのように、前方の星空と、そして遠ざかる地面を映し出していた。
「……美しい」
 誰にも聞こえない声で、冒険家は自分に語りかけた。
 地面にはりついている都市は暗闇に広がった光の群れだったが、ロケットが空間を疾走するにつれて小さくなり、あっという間に光の染みとなった。都市を中心に、網の目のように広がった大小さまざまな宝石の群れが見える。町や村の明かりだろう。
 別の都市たちも視界に入り始めた。都市と都市の間を結ぶ、ぼんやりと輝く人の営みのネットワーク。やがて、都市の光が点になり、町も村もどこにあるのかわからなくなる。
『ハーイ皆さん! 生きてますカー!?』
 突然コクピットにハートの脳天気な声が響き、冒険家は思索を中断するはめになった。
「どうしたんだねねね」
『すみまセン、このロケットが多段式だということをゆってませんデーシタ! 切り離しのサイは一気に加速度がかかりますので、もしかするとつぶれるかもしれまセン! 気をつけてくだサーイ』
 まったく責任を感じていない声で、ハートはさらっと言ってのけた。三人が何か言う前に、あわただしく続ける。
『オットット、もう時間デス! じゃ、切り離しマース』
「いや」
「ちょ」
「待」
 三人が姿勢を直す間も無く、またしてもシートに叩きつけられた。
 冒険家はロケットが爆発したのだろうと思ったが、そうではなかった。
 ロケットが上下に分裂し、ロケットの下部を残して、上部が更なる速度で星空に跳ね上がる。〈反発する本〉の反発力と下部の質量を利用して、集積した本の生み出す重力から逃れようという算段なのである。
「あがががががが」
「うぎぎぎぎぎぎ」
「おごごごごごご」
 わけのわからないうめき声をもらしながら、三人はなんとか加速に耐えた。
 天井の本には、ロケットの下部が爆発し、それを構成していた本が星空にまき散らされている景色が映っていた。本はすぐに消え、星空だけが残る。
 そこで、冒険家は違和感を覚えた。
 おかしい、あれはロケットの下の光景のはず。二つの本が同時に星空を映しているとはどういうことだ?
 待てよ、そもそも。
 ここは空洞の中なのに、なぜ星がある?
 そうだ、そこに気づくべきだったのだ。結論はひとつ。だが、なかなか信じられない。
「ハートさんんん!」
『ハーイ、なんでショー?』
「あの星ははは、都市なのかねねね?」
『そう、その通りデース! 天の光は全て都市だったのデース!』
 冒険家はそれきり黙りこんだ。ただ一心に星空を見つめていた。天いっぱいに人の営みが広がる光景など、めったに見られるものではない。
 
 
 何度かの切り離しを経た後、ロケットは加速を終え、安定飛行に入った。ようやく振動から開放された三人は、シートの上で大きく伸びをした。
 冒険家とリテミスは(特にリテミスは)ぐったりとしていたが、フェスエはそわそわと安全レバーを外しにかかっていた。
 すぐにシートから離れ、ふわりと宙に浮かぶ。
「うわーい! やっほおう」
 シートを軽く蹴って飛び出し、天井に手をついて止まる。すぐにその場で宙返りし、足で天井を蹴って床に手をつく。あっちに手をつきこっちに手をつき、まるでゴムまりのようにコクピット内を跳ね回る。
「ああもう! じっとしてなさいって!」
 たまりかねたリテミスがシートから身を乗り出し、フェスエをつかまえようとする。
 だが身軽なフェスエは、伸ばされた腕をひらりと避けた。
「えへへ、こっちですよー」
 天井にはりつきながら、ひらひらと手を振る。
 リテミスはあきらめたのか、右腕を目の上に乗せてシートに沈み込んだ。といっても微重力下なので、少し体を動かしただけでシートから離れてしまうのだが。
 ちょっと右腕をどけてみると、いつの間にか冒険家までがコクピット内を跳ねていた。
「はっはあ、こりゃ面白いわい」
「あはは、うまいうまーい」
 きゃっきゃとはしゃぐ老人と女の子。リテミスはううと一言うめいてから、再びシートに身を預けた。
 少し眠ろう、と決める。どうせもうしばらくは着かないだろうし。
 しばらくは。
 はて、と気づく。そういえば、この飛行ってどのくらいかかるんだろう? 身を起こし、天井の本に呼びかける。
「ハートさん」
『オー……むにゃむにゃモー食べれなーいヨー……』
「ちょっとハートさん起きて!」
『ワッツ!? (ぱちん、と何かの破裂する音)なんデースかこんな夜中に』
「あの、この飛行はどのくらい時間がかかるんですか?」
『オウ、またしても教えていませんデシタ。えーとデスね……ちょっと資料探しマス』
 リテミスは待った。まあおそらく、長くても一日程度だろう(時間の単位は地球標準に直してお送りしています)。
 コクピットの大きさからして、それ以上の長期滞在が想定されていないことは明らかだ。リテミスが考えている間にも、冒険家とフェスエは空中でじゃれあっていた。
「ほりゃあ、空中無限宙返り!」
「なんの、空中無限反復!」
 天井の近くでぐるぐる回り続ける冒険家と、天井と床をびゅんびゅん往復するフェスエ。そんな様子を眺めていると、旅の不安など忘れてしまいそうだ。
 と、ハートの声が戻ってきた。
『お待たせしマシタ、資料見つかりマシタ!』
「ああはい、で、どうでした」
『計算の上では、約百七十万秒で到着デス』
「なるほど、ていうこと……は……!?」
 リテミスの顔面から血の気が引いていく。彼の頭脳が自動的に、恐るべき数字をはじき出していた。できれば、計算の間違いだと思いたい。
「もしかして……約十九日……?」
『オーそうデス、計算早いデスね。正確には二十日弱デス』
「えええ!?」
 リテミスの大声に気づき、冒険家とリテミスがぐるぐるとびゅんびゅんを止める。どうやら間違いではなかったらしい。
『どうしマシタ大声出しテ』
「あ、あの、食料とかは保つんですか」
『オウ、ハーッハッハ! なんだそれが心配だったデスか! ダイジョーブ、そこはちゃーんと用意してありマス!』
 ハートの自信に満ちた声に、リテミスはほっと息をついた。それはそうだ、いくら彼がうっかりしているとはいえ、そのせいで乗員が死ぬようなことは無いだろう。
『水は壁に開いた穴から出てきマス、見てみてくだサイ』
 リテミスが壁を探すと確かに小さい穴があり、その下に本が突っ込んであった。
 本を引っ張ってみると、穴から水がボールとなって出てきて、宙に浮く。中から押し出す仕組みらしい。
 なるほど、これなら水は大丈夫。あとは食料か。
「で、食料はどうなってます?」
 リテミスの質問の後、なぜか少し間があいた。
 なんだろう、この胸騒ぎは。
『エート? 質問の意味がよくわからないのデスが。さっきも言ったように、水はちゃんと飲めマス』
「いや、食料です。水じゃなくて」
『水じゃナイ、食料?』
 ハートは少しの間黙っていた。何かを考えているらしい、うなり声が聞こえる。
 なんだろう、胃が痛くなってきた。
『……エート、なにを言ってるんデスカ……?』
 リテミスは、ああ死ぬんだ、と思った。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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