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浮かぶ黒服

 すぐには事態を飲み込めない三人だったが、ようやくリテミスが口を開いた。
「え、え? なんでですか?」
 黒服の男は事務的で無表情な顔のまま、重々しい口調で話し出す。
「これは帝国に帰属すべきものだ。お前たちのような低級民族が触っていいものでは断じてない」
 おいおいまさか、と思いながら、答えのわかっている質問をしてみる。
「あンた、帝国とやらの人間か」
「ああそうだ。ジマーマン以外に帝国を知っている人間が居るとはな。お前達もこの」
 本の表面をなでる。
「〈全知の書〉を集めているようだな」
「全知の書?」
 三人ともその名前は初耳だった。黒服の男はその状況も予想していたようだ。
「帝国の神聖言語ではそう呼ばれる。国によって、地域によって、言語によってその名称は異なる。だが本の性質……驚くべき性質は一致する」
 そこで口をつぐんだ。ちょっと喋りすぎたからだ。なぜ一般市民に、しかもこの文明の遅れた地域に住む蛮族に、ここから先を教えねばならないのか。
「とにかく! これは〈チャルグウィッ大学帝国〉所属、特務機関〈カルイデス〉が接収した。協力に感謝する。では」
 言うなり、黒服は走り出した。さっきまでのリテミスの状況にそっくりだ。
 人ごみに突っ込み、人を押しのけながら走り続ける。
「くそっ、追うぞ! なんなんだよもう!」
 何がなにやらわからないが、リテミスもそれを追う。
 ぼけーっとしていた残り二人もそれに従った。
「ひったくりだ! そいつを止めてくれー!」
 リテミスが叫ぶと、ビジネスマンが何人か、黒服の行く手を阻もうと立ちふさがる。
「邪魔をするな!」
 黒服が言った瞬間、ビジネスマンが吹っ飛んだ。向こう側に七メートルほども。
 目を疑う三人組。腕を軽く振っただけなのに。怪力?
 歩道のあちこちで悲鳴が上がる。
「ちっ」
 舌打ちすると、黒服が歩道を出て、路上に飛び出した。
 そこにタクシーが急接近する。あまりに近すぎてブレーキが間に合わない。
 しかしそれでも、タクシーは停止した。黒服が手のひらをそちらに向けている。
 タクシーの後ろを走っていた車も続けざまに衝突して連なり、まるでイモムシのようなカタマリになった。
 まるで、手のひらが離れた車の列を押しとどめているかのようだ。
「おいコラ、もう逃げられないぜ! どうする気だよ!」
 やっとこさ歩道から抜け出たリテミスが黒服に怒鳴る。
 実際、もう左右の歩道はこの事件の目撃者だらけだ。もはや黒服を通してはくれまい。
 だが黒服は笑ってこう言った。
「上が開いてるじゃないか」
 そして、ふわりと宙に浮いた。
 先ほどまで頭があった場所に靴が移動した。しかも、どんどん上昇している。
「え、ちょ、待て……よ……?」
 リテミスは、どう言葉をかければいいのかわからなくなってしまった。
 上が空じゃ糸も吊るせないだろうし、どうなってるんだいったい。
 迷っているうちに、黒服がはるか高みからこちらを見下ろす位置にいる。
「帝国に繁栄あれ!」
 そう言った瞬間、光を放って消滅した。


「なんだオイ、なんなんだオイ」
 ぽかーんと宙を見つめるリテミス。
 しかし、当たり前だが空には糸どころか染みひとつない。
 歩道の人の流れも完全に止まり、ほとんどの人間が……いや本がリテミスと同じことをしている。目を凝らして、空の黒い幕に隠されたトリックを探している。
「リテミスさん、これ」
 フェスエにつつかれて、リテミスは我に返った。フェスエの方を向くと、めったに見れない真剣な表情の彼女、そして目の前に差し出された彼女のメガネがあった。
 メガネを受け取り、片手で持って風景を見てみる。
 特に変化はない。
「なにもねえぞ」
「上です、リテミスさん」
 そちらを向いたリテミスは、危うく腰を抜かすところだった。
 空は無かった。
 そこには半透明で巨大な構造物があり、ビルで切り取られた天を埋めていた。
 もちろん本で構成されてはいるが、その組み方に周囲と相容れない印象を受ける。
 なにより、あんな巨大構造物を浮かせる技術はこの地域には無いはずだ。
「どうやって隠れてるんだ」
「構造物自体が発光しているんです。見ている全員の目に、一人づつふさわしい光を届けます……それと」
 フェスエの手が伸びて、メガネのつるを触った。
 黒服が浮かんだ場面の(フェスエ視点での)録画映像になり、そこに様々な図表と数式、数値などなどが重ね合わされる。
「微弱ですが、規則的な重力波を検知しました。おそらく牽引ビームです」
 リテミスは渋い顔でその映像を吟味した後、メガネをフェスエに返した。
「ここには無い技術だな。侵略条項に該当しそうか?」
「はい。『発展途上文明に対しての、著しく、かつ不当な武力的介入』に当たります」
「盗られたのが本一冊でも?」
「完全武装の機動揚陸艇が保護領域内に侵入した、という事実自体が問題です。現地文明への深刻な影響が懸念されます。さらに、例え本一冊であろうとも略奪と見なされます」
 ふむ、とリテミスが腕を組む。
「じゃあ、俺らには『やむを得ない事由による内政干渉』が許される、ってことだな」
 フェスエがメガネのつるをまた操作した。レンズに映る何かを読み取って確認する。
「ええ。メガネの法解釈ソフトウェアも、その意見を強く支持しています」
「そうか……やれやれ、大変なことになっちまったなあ」
 腕をだらりと下げ、はあー、とため息。フェスエもそれに習う。
「そうですねえ」
 そう言ったきり、二人は無言で空を見つめた。お客さんをちょっと案内するつもりが、いきなり激烈面倒くさい仕事に格上げになってしまった。超過手当とか出るんだろうな?
「おほん! おほんほん!」
 横からのわざとらしい咳に二人そろってそちらを向くと、冒険家はすっかりオカンムリだった。
「あー、んん、お話は終わったかね。なにがなんだかさっぱりなんだが」
 顔を見合わせる二人。そうだ、お客さんには最初から説明しないと。
「えーっと、ですね……」
 リテミスが人差し指を立てて話を始めようとした瞬間、
「たいへんじゃー!」
 長老が遠くから(動きの止まった車道を)走ってきた。
 リテミスの近くまで来ると、ひざに手を突いてぜいぜいと息を切らす。
「た、たいへんなんじゃ」
「どうしたんです?」
 長老が勢い良く顔を上げ、こう言った。
「こっちに怪しいヤツらが来なかったか!」
 その手には、三人分の国王マスクがぶらぶらと揺れていた。
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Date:2014/04/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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