明日から書く。

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ 図書館グーゴルプレックス □

神の本

 三人はお互い肌の見えている部分におしろいを塗りたくり、文字を書きあいっこした。「書庫」に入るためにフェイスペイント用品を持ってきていたのだが、なぜか使うことを失念していたのである。
 耐水仕様なので、汗をかいても安心だ。
「リテミスさんや、わしだけ文字が多くないかね?」
 冒険家の顔はびっしり書き込まれた文字のせいで、ほとんど黒に近くなっていた。
 リテミスも書き込んであるが、まだ白地が見える程度だ。
 さらにフェスエに至っては、文字よりも白地が目立つ。
「これにも深い理由があるんですよ。歳を取るほど、〈出来上がっていく本〉は身体の外にも中にも文字が増えていくんです」
「なぜだね」
「色々な経験を積むことで、本の内容が濃くなっていくんですよ……まあ、そんなもんだと思ってください」
 冒険家は肩をすくめると、とりあえずそれ以上は考えないことにした。
 歩道に出てみると、今度はやたらと人にぶつかるようになった。さっきのほうがよかったかな、とリテミスは思ったが、世界中に大混乱をもたらすよりはマシだろう。
 冒険家がリテミスの肩を叩いた。
「このカンテラはどこかに置いていかんかね、邪魔だし目立つし」
「あー、確かに。でもそれは離さないほうがいいですよ、特に人と話すときは。翻訳装置になってますから」
「……なるほど」
 冒険家はカンテラをまじまじと見つめた。
「ま、離そうと思っても勝手に付いてきますけどね」
 歩いているとまもなく、目的の番地に到着した。こじんまりしたアパート(本で出来ている)の非常階段(もちろん本で出来ている)を登り、最上階にある一室のドア(本)を叩いた。するとまもなく、中から怒声が飛んできた。
「新聞はとらんぞ!」
 大声で呼びかけるリテミス。
「図書館のものです!」
「野立方体(ベース・キューブ)のチケットならいらんぞ!」
「だから図書館のものですって!」
 するとやっと言葉が通じたのか、ドアがゆっくりと開く。中から腰の曲がった老人が頭を突き出した。顔は文字通り、しわくちゃの紙のようだった。
「なんじゃあんたか」
「どうも長老」
「その名で呼ぶなというに。本名でいいわい、『シェフ・ジマーマンのレシピ百選』で」
 ジマーマンに通され、三人はドアを抜けて中に入った。中は簡潔に言えばとっ散らかっていて、メモを書き付けた本や資料本が場所を選ばずにまき散らされていた。
「そこら辺にかけてくだされ」
 三人は口々に礼を言い、ソファやら椅子の上の本をどかして床に置き、座った。
 ジマーマンも座り、ピンクのカーディガンをちょっと直す。
「で、どうしたんじゃね今日は」
 フェスエは冒険家を指し、「この方が、本を探しているんです」と言った。
「ほうほう、そうかそうか!」
 本と聞いたとたん、ジマーマンは声が多少うわずった。自分の得意分野の話をするとき、人はそうなるものなのだ。
 冒険家はしばらく押し黙っていたが、決心して口を開く。
「あの、笑わずに聞いてほしいのだが」
「ほう、なんじゃなんじゃ」
「〈神の本〉を、あなたはご存知か」
「むう、聞いたことないの。どんな本じゃ」
 冒険家は目を伏せて、言った。
「この世の摂理が書かれた本。物理法則のルールブック。読めば神になれる本のことだ」
 沈黙が訪れた。その静寂が、冒険家には痛かった。
 わかっていた、これが荒唐無稽なホラ話だということくらい。だが、この図書館なら、どんな本でもあるこの図書館なら、あるいはホラ話であろうと現実になるかという期待があったのだ。
 もう、この話は終わりにしよう。口を開きかけたとき、ジマーマンが言った。
「そ、そんな本、あるわけがないわい」
 冒険家は顔を上げた。自分以上に、この老人が動揺しているだって?
「知らん! 知らんぞそんな本なんぞ! 帰ってくれ!」
 冒険家の胸にこみ上げたのは期待、あふれんばかりの熱意が、ついにはるかかなたの獲物のしっぽを捕らえたという確たる感触だった。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/04/29
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/38-3902e913
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。