明日から書く。

□ 図書館グーゴルプレックス □

第二章 プロローグ

 お昼休みである。待望のお昼休みである。
「おひるやーすみはうきうきうぉっちん♪ あっちこっちそっちこっち……」
 人の列に並び、食堂のお盆を持ったフェスエが嬉しそうに口ずさんだ。
「おい待て、なんだその歌」
 フェスエのすぐ後ろで、同じくお盆を持ったリテミスが反応する。
「お昼休みの歌です」
「そうか、ならまあいいや」
 それなら問題にならないだろう、主に版権的な問題に。
 図書館の食堂は広い。なぜなら、グーゴルプレックス図書館には司書が大勢居るからだ。フェスエやリテミスも正確には知らないが、おそらく千人はくだらないだろう。
 司書が客を迎えるカウンターも大小含めて百以上設置されており、そこでは毎日毎日、宇宙の色んな場所、様々な時代から来る客に応対している。
 ただ客と言っても好んで図書館に来るのではなく、大体は図書館が勝手に拾ってしまう(さらってしまう)のだが。
「あーどうしよう」
 フェスエが突然、うつむいて悩みはじめた。
「ん、どーした」
「いえ、その……リテミスさんはミートソースとカルボナーラ、どっちが好きですか?」
「うーん、ミートソースかな」
「じゃあわたし、カルボナーラにします」
「……そうか」
 なぜ、と聞きたい気持ちをリテミスはぐっとこらえた。この娘と話していると、たまに猛烈に疲れることがある。まず本人に悪意はないのだろうが。
 順番が来たので、厨房前のカウンターにお盆を置く二人。厨房のスタッフに声をかけ、注文を伝える。
「おばちゃーん、カルボナーラください!」
「俺もカルボナーラ!」
「あ、やっぱりわたしミートソースで!」
「なんでだー!」
 周りの視線が自分に集中したので、顔を伏せるリテミス。
 ああ、ついつっこんでしまった。悲しいツッコミ体質よ。
 二人がパスタを受け取ったそのとき、館内放送が入った。館長の声だ。
『お客さんだにゃ! 四十二番カウンター担当の司書はカウンターに来るにゃ!』
 フェスエとリテミスは、湯気をあげるお盆を持ったまま、顔を見合わせた。
 
 
「ここはもしや、『永遠の図書館』かね?」
 カウンター向かいの椅子に座った男は聞いた。
 歳はとったが未だにがっちりとした体を年季の入った探検服に包み、椅子に座る様子は落ちつかない。おそらく普段は歩いているか、地面に座ることのほうが多いのだろう。
「ほーでふ」
 カウンターに座ったフェスエは答えた。
 大きめの丸メガネをかけ、水色の制服に身を包んでいる。声がこもっているのは、カウンターに置いたミートソースパスタをリスのようにほお張っているからだろう。
 フェスエの隣に座ったリテミスが、彼女の頭を「ていっ」と軽くはたいた。
「あたっ」
「なに適当に答えてんの。あとモノ食いながら話すんじゃありません」
「ふみまへん」
 もぐもぐごくん。
「すみませんウチの部下が」
 客人に謝るリテミス。
「あ、これ食べますか?」
 客人にパスタを勧めるフェスエ。
「てえいっ」
「あたあっ」
 またもやフェスエの頭をリテミスがはたいた。
 
 
 リテミスが客人(どうやら冒険家らしい)に図書館の概要を説明している。
「……というわけです」
 腕を組んで思案顔の冒険家。
「なるほど……」
 その様子を、パスタをほお張りながらフェスエが熱心に観察している。
 やがて、冒険家が腕をほどいて両手をひざに置き、口を開いた。
「どうやら、この図書館で間違いなさそうだ。それほど巨大な図書館というのも、他に例がないだろう。なるほど、正しくは『グーゴルプレックス図書館』というのか」
 そこで、ちょっと目元をぬぐう。
「これで……やっと、あの本を探すことが出来る……」
「あの本?」
 その様子に興味を引かれたリテミスが聞いた。
「ん? ああ、それは」
 しかし、何かに気づいたように冒険家は言葉を切った。えへんと咳払いする。
「まあその、趣味で探している本でな。だがここにしかないのは間違いない」
「はあ」
 リテミスはわかったようなわからないような、という顔をした。そんな二人の様子を、もぐもぐしながらフェスエが観察している。
「して、本をしまっている場所はどこにあるのかな」
「え? あーその、本はお客さまに合わせて出してくることになってまして、少しお待ち頂ければご覧になれますが」
「しかし、どこかに本は保管してあるのだろう? そこを見せてほしいんだがね」
「ええーと」
 リテミスは渋い顔になった。
 さすがに「書庫」へ一般人を入れてしまうのはどうか。何といっても危ないし。
 だがお客さんの強い要望とあれば、うーん。
「じゃあ、わたしが案内しますよ!」
 いつの間にかパスタを食べ終えていたフェスエが手を挙げた。戸惑うリテミス。
「なんだなんだ、なんで穣ちゃんが行きたいんだ」
「もうすぐ論文書かないといけないんです! 取材のためです!」
 ネタ作りかよ。
「いや、でも危ないだろ?」
「だーいじょうぶですって!」
 任せてください、と拳で胸を叩くフェスエ。こいつのこの自信はいつもどこからやって来るんだろう、とリテミスはいぶかしんだ。
「おお、これは頼もしい!」
 喜ぶ冒険家。いやいや、あンたも簡単に人を信じすぎるんじゃないかな。
 うーん。うーーーん。
 しばらく腕を組んで考え込んでいたリテミスだったが、ついに決心し、両手で膝を勢いよく叩いた。
「よし! 俺も行く!」
「ええっ、リテミスさんも?」
「ほう、あなたも来てくださるか!」
「ええまあ」
 ため息まじりに、横のフェスエを指し示す。
「この部下だけではいろいろと不安ですから」
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/04/29
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/36-30c59173
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)