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□ 図書館グーゴルプレックス □

自分の自伝、なんてあるのか?

「はい、じゃあ質問は以上です! お疲れさまでした」
 少女がぺこりとおじぎする。少年もそれにならった。
 少年はいろいろと理解するのを諦めたので、また少女が質問する番になっていた。
「あの、結局このアンケートはなんだったんですか?」
 ちょいちょい、と少女の書いていたメモ用紙を指して聞いてみる。
「これはですね、お客さんにあった本を並べるための手がかりです」
「え? わざわざ並べ直してくれるんですか?」
 少年の脳裏には、たくさんの職員が総出で本棚に本を置いている姿が見えていた。
 自分ひとりのために、そこまでやって頂かなくても。それはあまりにも申し訳ない。
 そんな不安げな表情を読み取ったらしく、少女が解説を加える。
「大丈夫です、機械が自動でやってしまいますから」
「へえー!」
 いつの間にやら、すごい時代になったものだ。携帯電話の操作は難しくて覚えられんと愚痴をこぼす実家のおじいちゃんの心境で、少年は思った。
「え、でも別に、並べなおさなくても、そのままでも」
「いえいえ、やはり意味のない本とか読めない本、噛み付く本とかはやめておかないと、危なかったりしますし。毎回お客さんに合わせて書庫から本を出してきてるんです」
 なんとまあ、手間のかかる事だ。
 でも噛み付く本は確かに危ないし、仕方ないか。……いやまて、それは本?
 少女はメモの束をめくりながら、内容にさっと目を通す。
「うん……うん。オッケー。もうこれでお客さんがいつのどこから来たとか、どんな文化を持ってて何がタブーだとか、大体特定できました」
「ほおー」
 少年にはなんとなく、この少女が頼もしく見えてきていた。
 考えてみれば、一生どころか宇宙が終わるまでかかっても読めそうにない量の本がある。それだったら自分に合わせて本を並べてもらわないと、下手すりゃ一生読める本にめぐり合わない可能性も十分にあるわけだ。
「じゃあ、準備してきますねー」
 少女はメモを持ち、「事務室」のドアに向けて歩いていき、中に入った。
 と思ったら出てきて、駆け足で戻ってきた。
「すみません、最後に質問するのを忘れてました!」
 カウンターに手を突いて、少年側に上体を乗り出す少女。
 か、顔が近い。緊張しますよこの距離って意外と。
「あの、読みたい本ってありますか? ご希望が無いようでしたら、こちらでお客さんの読める本をランダムに選んで並べるんですが、もし何かご希望があれば……」
 ご希望ねえ。
「うーん、特には……」
 いま読みたい本なんて、と言いかけて、少年は止まった。
 この場合の「読みたい本」というのは、普通の場合とは全く意味が違う。
 ここには「どんな本でもある」。
 それこそ聖徳太子の自伝から、カブトムシの日記まで。
 ということは……もしかしたら。
 ひょっとすると、あんな本もあったりするのか?
「あ、あの!」
 思わず少年はカウンターに両手をついて立ち上がり、少女を押し返すような勢いで、身を乗り出していた。少女もちょっとのけぞりながら驚いている。
「は、はい?」
「あの……その、俺の本もあったりします? 俺の人生が、俺がこれからどうなるかが、書いてある本」
 少女はしばらくあっけにとられていたが、やがて微笑み、言った。
「もちろんございます。検索サービスのご利用ですね!」
 
 
 二人は「検索室」に入っていた。
 思っていたよりかなり広い。たぶん体育館ほどもあるのに、誰もいない。
 四方を打ち放しのコンクリート壁に囲まれていて、天井がやたらと高いところにある。
 てっきりどこかにパソコンでも置いてあるのかと思ったら、これではまるで格納庫だ。
 で、問題は、だ。
「あの、なんなんすか、これ」
 少年は正面に見える物体に指をさした。
 馬鹿でかい、小さめのビルくらいある金属のオブジェがそびえ立っている。
 鋳鉄か何かでできたように見えるそれは、蒸気機関車が立ち上がっているように見えなくもない。
 ときおり表面にあいた口から吹き出す蒸気が、そんな印象を強くしていた。
 しかし、これは明らかにイタズラされた機関車ではない。
 あっちこっちから謎の突起が飛び出し、でっかいプロペラまでくっついている。
 となりに立つ少女が自慢げに胸をそらした。
「検索エンジンです」
「ええー!?」
 いやもっと、ソフト的なもんじゃないのそれって? 
 コレ明らかに蒸気で動くよね? 
「見た目はごついですけど、最新鋭の技術のカタマリなんですよ。わ・た・し・が・造ったんです!」
 少女が後ろ向きに倒れるんじゃないかと思うくらい胸をそらした。
「えっ、これを一人で?」
 少年が驚いてエンジンを指差すと、メガネのブリッジを得意げにくいっと上げる。
 肯定ってことか。
 へええー、これをねえ。
 ぼけーっと少年がエンジンを見つめていると、少女はすでにエンジンの足元にある、何やらゴチャゴチャした機械のカタマリに向けて歩いていた。
 少年も近づいてみると、それはどうも操縦席か何かのように見えた。
 真ん中にはバカでかい、キーが三百個もありそうなタイプライターっぽいもの。
 その上にはクラシックな雰囲気のテレビらしき物体がくっついており、コードがにょきにょきと生えてタイプライターにつながっている。
 さらに周辺の机には、クランクやらレバーやらハンドルやらがやたらと生えている。
 少女はタイプライターの前の座席に座ると座席横のレバーを引き、足元のフットペダルを踏み込んだ。
 その瞬間、金属のカタマリが雄たけびを上げ始めた。何か重いものが動きこすれあう音、そして低周波の振動が、空気から、床から伝わってくる。
 蒸気があちこちの口から吹き出し、プロペラがうなりをあげる。
「起動よーし」
 少女がカタマリを指差し確認すると、テレビ画面に文字が現れた。
『検索条件を入力してください』
 メモの束をタイプライター横のポスト……みたいなモノに放り込む。
 すると、またテレビに文字が出た。
『入力完了』
「あれ、今のでいいんですか?」
「そうです、まずはお客さんの読める本だけを取り出します。で、ですね……」
 テレビの文字が変わった。
『どのような本をお探しですか?』
 今度は、タイプライターのキーを流れるように打ちはじめる。
「自伝にしぼって検索をかけます。さっきのメモを検索ワードとして使って、お客さんの今までの人生と一致するものを探します」
 へええ、と少年は感嘆の声をもらした。こりゃ本当に期待できるかも。
 少し経つと、少女が打鍵を止めた。
「よし、検索ワード入力完了。では、いきますよー」
 おもむろに人差し指を、大きめのキーの上に持っていき……。
「けん、さーく!」
 かちっと押した。
 ズドオオン!!
 なにかが爆発したような音がし、部屋(格納庫)全体がガタガタと揺れ始めた。
 え、なに事故!? 検索するだけで? と少年は思ったが、落ち着いた様子の少女を見て、ああこれはエンジンに火が入ったんだ、と理解できた。
 金属のカタマリから突き出たふいごのようなものが、びかびか光りながら出たり入ったりを繰り返す。蒸気が複雑な規則にしたがって、定期的に色んな穴から激しく吹き出す。プロペラがぶんぶん回る。突起物が回ったりひょこひょこ動いたりする。部屋はあいかわらずかなり揺れる。
 その間、少女は椅子から降りて、机まわりのクランクをぐるぐる回したり、レバーを押したり引いたりしたり、ハンドルの角度を調整したり、忙しく動き回っていた。
 部屋の照明が暗くなったり、明るくなったりを繰り返したのち。
 ふいに、揺れがおさまり、エンジンがおとなしくなった。
「はい、終了でーす」
 ふいー、と少女がおでこの汗をぬぐった。
 テレビ画面を見ると確かに、
『検索終了:閲覧準備中』
 となっている。
「えっと……検索終わったんですか?」
「終わりました」
「もう本読めるんですか?」
「そうですね、十五分ほどお待ちいただければ、準備出来ると思います」
 少年はどきどきと心臓が動くのを感じていた。
 マジかよ。
 本当に、自分のこれからの人生が読めるの?
「じゃあ、一度カウンターに戻りましょう」
「あっ、はい」
 入ってきたドアに向かう少女について、少年は歩いていった。
 
 
 ひとりで待たされているときに疑問に思った「到着案内板」だが、あれは「書庫」から取り出した本が「閲覧室」に到着する時間を表示するためのものらしい。
 たったそれくらいで大げさな、と少年は思ったが、後に納得することになる。
 少女と少年は並んでベンチに座り、またお茶をすすっていた。
 到着案内板がパタパタ! と動き始める。
 しばらくして、一行だけ文字の書かれた行が残った。こういう意味だった。
『七七四便 第九チューブ発 第十六閲覧室着 十二時四十六分到着予定』
 案内板の時計を見ると、到着予定は……あれ、あと五分後じゃないか。
「これって、案内板置く必要あるんですか? あんまり待たないみたいですけど」
 しかも案内板を一行分しか使えてないし。
 ぽりぽりと頭をかきながら、少女が弁解がましい口調で説明を加えた。
「いやー、何十人もお客さんが待ってらっしゃるときには、あれは便利なんですけど……ここは図書館の中でも端っこでしてー」
 なるほど、滅多にそんな事態にはならないと。
「ホント、なかなかお客さんこっちまで回ってこなくて……やっぱり中央カウンターの方が活気があって楽しいですし、みなさんそちらの方が好きですし……」
 ん?
「どうしても、あっちに優先的にお客さんが行くようになってて……仕方ないですよね、あはは……」
 んん?
 気づけば、少女がうつむき、ものすごく猫背になり始めている。
 いかん、なんか自分から勝手に落ち込んでしまった。まずいぞこれは。
「いや! お、俺はこういう静かなところの方が断然好きですね! ええ!」
 少女の顔がこちらに向いた。泣く寸前だったようだ。
「そうですかね……? ここ、寂しいじゃないですか、やっぱり人がいっぱい居たほうが」
「いや! 俺、人が嫌いなので! これくらいの方が落ち着きます! ええ!」
 少女は泣く事は回避できたようだが、まだ完全に立ち直ってはいないようだ。
 なんだなんだ、まだ何かあるのか?
 おずおずと胸の高さに手を挙げる少女。
「その、人が嫌いってことはわたしも」
「いやいやいやいや!」
 食い気味に否定する。面倒な勘違いをしてしまったようだ。
「あなたは嫌いじゃありません! むしろ好きです! 可愛いですし、いい人だし!」
 まだ出会って一時間経ってないと思うが、まあウソは言ってない。
 今度はどうだろう。
 なぜか、少女がぷいっとそっぽを向いた。
「だっ」
 だ?
「だ、誰にでもそういうこと言ってると、軽い人だと思われますよっ!」
 なぜ怒られる。
 と思ったら、うわ、耳たぶが赤い。照れているらしい。
 ……これはこれで面倒だなあ。
 パタッ!
 到着案内板が動いた音がしたので見てみると、どうやら七七四便は第十六閲覧室に無事到着したらしい。
「あ、到着したみたいですよ?」
 少女に教えてあげると、
「わ、わかってますっ!」
 突然立ち上がり、深呼吸を三回。
 なんとか平静を保ちながら、俺にも立つように促す。
「では、あちらのエレベーターで閲覧室まで行きましょう」
 ベンチの群れを抜けて、エレベーターまですたすたと先に行ってしまう。
 うーん、めんどい。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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