明日から書く。

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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

猫探偵、悪漢と対峙する

 しぶる御者を説得し、僕と先生は目的の場所に着いた。
 もちろん馬車に乗るだけでは済まない。
 だいぶ高い所なので登るためにフックガンが必要になったし、しかもさっきから風が吹きまくっていて、下手したら落ちそうだ。
 さて、ようやく目的の人物とご対面というわけだ。
 相手が向こうを向いているので、先生が先陣を切って声をかける。
「どっちが本業なんだ、フロックハート? 郵便屋か、それとも狂った復讐鬼か」
 声をかけられたフロックハートがこちらを向いた。
「三日、いや二日ぶりだな、猫探偵とその助手」
「あ、あなたは郵便屋さん……!?」
 三日前、この事件の発端となった郵便を事務所に届けてくれた郵便屋さんだ。なんで?
「探偵の方は、あまり驚いてもおらんようだな?」
 しゃべり方は老人のようなのに、声と見た目は若い。
 先生が僕の肩の上で、肩をすくめながら答える。
「特に根拠らしいものも無いが、この事件の発端になった手紙、そして警告の爆弾をウチの事務所に届けたのはお前だからな」
 そういえば確かに、その二つは同じ郵便屋さんの手によって運ばれてきていた。
「どうせ、ハクスリーさんが生物学のクリスタルを持ってると知ってて、さらにデカい水晶を着けた犬が逃げ出したという話を聞いたんで、我が事務所に依頼が来るのを見張ってたんだろう。どっちかと言えば『裏』の依頼だからな。まったく、俺たちに探すだけ探させて、最後に横取りするなんて。ずいぶんな扱いじゃないか」
 くくく、とフロックハートが愉快そうに笑う。
 一昨日会った優しそうな郵便屋さんとは別人の、歪んだ笑い方だ。
「ああ、その通りだ。パブで酔ったハクスリー本人から聞いたのだよ、クリスタルの内容を。家に押し入ろうとしたとたんに犬が逃げたので、もうお前を頼るしか無いと思ってな」
「そうか、光栄だよ」
 びゅうう、と強い風が吹いた。落ちないように気をつけないと。
「猫探偵よ。もうひとつ不思議なことがある。どうやってここを突き止めたのだ? この、タワーブリッジのタワーを」
 そう、僕たちは一ヶ月前と同様に、タワーブリッジのタワーに登っているのだった。
 フロックハートも含めてみんな、タワーの間にかけてある展望通路の上に立っている。
 自慢げに、にや、と笑う先生。
「俺には猫のネットワークがあってな。ロンドン中の猫に頼んで、あんたの可愛らしいお嬢さんの行く先を追ってもらったのさ。お礼のベーコンを配るのが一仕事だったよ」
「なるほど。しかし、わざわざ展望通路の上まで来てもらったところ悪いが、もう遅い」
 フロックハートがフロックコートの内側から、クリスタルを取り出した。
「この通り、『賢者の石』は頂いたのだからな。手遅れだったな猫探偵よ!」
 勝ち誇った様子で笑うフロックハート。
 先程までの態度とは一転して、先生が大きく悲しげなため息をつく。
「ああ、そのようだな。まさに手遅れだ。今からそれを取り戻すことも出来まい……最後に、二つほど聞かせてほしいのだが」
 ふん、とフロックハートが先生の提案を鼻で笑う。
「よいだろう、冥土の土産というやつだ」
「感謝する。ひとつめは、そのクリスタルで何をするつもりか? ということだ」
 フロックハートがまた愉快そうに笑い始めた。
「はは、ははははは! 決まっておるだろう、わたしはクリスタルの知恵で『地獄の軍団』を造り上げるのだ、さらに完璧な人造人間を! 革命を起こすのだよ、腐ったこの国にな!」
 ああ、やっぱりだ。またしても予感的中だ。
「どうやって造るんだ、その軍団とやらを」
 先生の質問を、フロックハートは質問で返した。
「このロンドンだけで、どれぐらいの孤児が居ると思う?」
 僕と先生は答えに窮してしまう。たくさん居ることは確かだ。だが、数までは。
 笑っていたフロックハートの顔が、また少し歪み、変わった。
 皮肉を込めた、少し悲しげでさえある笑みに。
「知らないだろうな、大体のヤツらはそうだ。すぐ隣に居るのに、知ろうとすらしない」
 ぎり、と歯ぎしりする音。フロックハートの顔が、声が、怒りに燃え始める。
「テムズ川の汚い泥をあさり、出てきた釘や石炭を売って生活している子供たち、犬の糞を集めて日銭を稼ぐ子供たち、『救貧院』で監獄のような労働をさせられ、満足に食べることも出来ない子供たち、ススまみれの煙突に突っ込まれて掃除をさせられ、あげくに熱と煙の中で死んで路上に捨てられる子供たち、まだ小さな、小さな子供たち!」
 ひと息吸うと、言葉を継ぐ。
「その一方で、ただ遊び暮らすことを美徳とし、貧困などには目もくれない貴族の奴ら! 貧困は個人の問題だと? 貧しいほうが勉強になるだと!?」
 怒りのあまり、一瞬口がきけなくなる。
「ふざけるな!」
 展望通路に叩きつけるような風が吹いた。
 荒い息をしていたフロックハートは、しばらく経つと落ち着きを取り戻し、元のように笑い始める。
「だから、子供たちを生まれ変わらせるのだ、わたしの手で!」
「何にだ? 化け物にか」
 フロックハートは、くくく、と笑いながら首を振った。
「わかっていないな。あれは未来の人類の姿だ。もはや飢えも乾きも、寒さも暑さも、銃弾や社会の無理解でさえ、彼らを殺すことは出来ない。疲れることを知らず、老いることを知らず、死ぬことさえも知らない無敵の軍団。それが反旗を翻すのだ、虐待を繰り返してきたこの英国に対して! そしてやがては世界を支配し、全人類に恩恵を与えよう!」
 わははは、あはははは、とフロックハートの哄笑が聞こえる。
 僕は言うべきことが見つからなかった。少し混乱していた。
 彼が子供たちを救いたいと考えたのは、正しいと思う。
 でも子供たちを改造したり、革命を起こしたりすれば、やはり悲しんだり、傷つく人が出てくるだろう。それは間違っていると思う。
 僕が迷っている横で、先生が静かに口を開いた。
「もっと別の方法は無いのか? フロックハート。考えてみたことはあるか?」
「無いな! 社会の目を闇に向けさせてやる! 今度こそ絶対に無視などできないように、しっかりと見つめさせてやる!」
 やれやれ、と先生が首を振る。
「そっちが本音なんだろう? 王立協会のヤツらを見返したいだけじゃないか」
「ふん、なんとでも言うがよい。なんにせよ、革命は実行される」
「わかった。じゃあふたつめの質問だ。そのクリスタル、中身は改めたか?」
 ニヤニヤ笑っていたフロックハートの顔が、見る見るうちに青くなっていく。
「まさか、貴様ら」
「いや、もしかしたらと思ってな、用心のためさ。もしクリスタルを別のと間違えたりしてたら、お前もその軍団とやらが造れなくて大変だろうしな」
「く、くそ、読み出し機、読み出し機はどこだ」
 フロックハートが慌てたようすで、コートから何か筒のような物を取り出す。
 突然、筒の一方が光った。
 光った方を、もう一方の手に持ったクリスタルに近づけていく。
 すると。
 ブオン!
 クリスタルから何かが飛び出したと思うと、ちょっと離れた空中を旋回し始めた。
 なんだか、文字のように見える。おそらく火星の文字なんだろう。
 だがフロックハートには読めたようで、小さい声でつぶやいた。
「なにも……なにも入っていない。これは空だ。くそおっ!」
 クリスタルを思い切り展望通路に叩きつける。クリスタルは思い切り跳ね返って、どこかに落ちていった。
「貴様ら、すり替えたのだな!? どうやってだ!」
 先生が意地悪く笑いながら答える。
「たまたま火星人の知り合いが居たんでな、ちょっと空のクリスタルを貸してもらったんだ。まあ普通に考えてみろ、まさか本物を持ってそこらをウロウロしてるわけもあるまい?」
「あ……が……!」
 フロックハートが頭を押さえ、目をぎょろつかせてうめき始めた。
 具合が悪いのかと思ったが、どうやら激しく怒っている状態らしい。
 ちょっと同情しかけていた僕の横で、先生が得意げに続ける。
「それに、良かったじゃないかフロックハート。恥をかかずに済んだ。自分の主張を力任せに押し通すなんていうのは、少年少女ならまだ許せるが」
 そこで劇的効果を狙って、ちょっと言葉を切った。
「お前がやると滑稽だ」
「ぐうあああ……!」
 あーあ、なんで火に油を注ぐんだろう。
 
 
 フロックハートはしばらくそうしていたが、やがて少し落ち着きを取り戻し、こう言った。
「わたしはな、他人に馬鹿にされるのが一番我慢ならんのだ……」
「それ、イーストエンドのゴロツキも言ってましたよ」
 僕が危うくボコボコにされそうになった酔っ払いの事だ。
「黙れ! 許せん、絶対に許せんぞ! 出てこい、我が部下よ!!」
 ドオオン!
 フロックハートの召還に応じて、近くで爆音が響いた。
「うわ、タワーの屋根が!」
「まったく派手好きだな、あの化け物は」
 ズシーン!
 タワーの屋根に開いた穴から例の化け物が飛び出てきて、展望通路の上に着地する。
 そのまま、ゆっくりとこちらに歩いてくる化け物。余裕たっぷりだ。
「展望通路の上じゃ、逃げる事も出来ませんし……困りましたね、先生」
「ああ、今度こそ、俺たちを殺すつもりに違いないからな」
 化け物との距離がどんどん近くなっていく。絶体絶命というやつか。
 ドオオン!
「え?」
「なに?」
 予想外のもう一つの爆発に、僕たちは間抜けな声を上げてしまった。
「う、後ろのタワーから、もうひとり出てきます!」
「なんだって!?」
 ズシーン!
 展望通路に着地したその姿に、僕たちは見覚えがあった。
「あ! 指を発見したときに居た男の子ですよ!」
「そうか、だからあんなに顔色が悪かったのか、予想出来たな」
 悔しそうに歯がみする先生。
 女の子の方の化け物が、男の子の方の化け物に呼びかける。
「ボブ、この二人は殺していいそうです。確実に仕留めろと」
 男の子の方……ボブがニヤニヤ笑いながら答えた。
 心底無邪気で、そして邪悪な笑みだ。
「そっかあ、じゃあやっぱり前会った時に殺しちゃえばよかったじゃん、アリス」
「無用な事件は起こさないというご命令です」
「はーいはい。カタブツだねえ」
 お互いに喋りながらも、僕たちとの間合いを詰めていく。
「ど、どど、どうするんです先生? 二人とも、あと三ヤード(約三メートル)くらいしか離れてませんよ」
「ど、どど、どうすると言われてもな。どうすることも出来まい」
 やばい、先生の声まで震えてる。
「ねーアリス? どっちがどっち殺るー?」
「お任せします」
 またアリスとボブがお喋りを始めた。
「じゃあ僕でっかい方がいいなあ。アリスは猫のほうでいい?」
「ええ、構いません」
「どうやって殺す? 僕はさ、八つ裂きがいいと思うんだ」
「わたしは突き落とした方が、事故に見せかけられるので良いと思います」
「ふーん。じゃあさ、八つ裂きにして、それから落とそうよ。どう?」
 アリスはちょっと考えて、言った。
「そうですね。テムズ川に落とせば身元もわからなくなるので、一度バラバラに解体して、その後で川に向かって投げましょう」
「よーし決定! 頑張るぞー」
 うん、そのやる気だけもらっておきたいと思います。
 ちなみに、この時、二人はもう一ヤードの近さに居た。
「それじゃ、僕が先ね!」
「あっズルい!」
 アリスとボブの身体が躍動し、一斉に飛びかかってくる気配がする。
 僕は、あきらめて目をつぶった。
 
 
 が、そのとき。
 どさっ。どさっ。
 僕の前と後ろで、同時に何かが落ちたような音がした。
 目を開けると、なんとアリスとボブが通路の上で倒れている。
「どう、なってん、の……動け、ない……」
「ふ、不明、です……」
 操り人形の糸が切られたかのように、二人は身動き一つ取れないらしい。
 ぶはあ、と詰めていた息を吐き出す、僕と先生。
「助かりましたねー」
「ああ、でもギリギリすぎる。寿命が十年縮んだ」
 僕は思った。たしか猫って、十歳でもうシニアですよね?
 遠くの方、展望通路の端っこでフロックハートが叫んだ。
「アリス! ボブ! 貴様ら、いったい何をしたのだ!」
 先生がまたも意地悪くニヤニヤ笑いながら、フロックハートに説明を始める。
「わかってるクセに。俺たちの仲間が、あんたの仕掛けた発電機と送電機をダメにしたのさ。このタワーにしかけてあった、な」
「なぜここに、それがあるとわかった!」
 なんでもないことさ、とヒゲをいじりながら答える先生。
「簡単な話だよ。俺たちが襲われた場所に電力を送れるのは、高い塔のような場所だけだ。近い場所で高い塔といえば、ロンドン大火記念塔かタワーブリッジのタワーだろう」
「でも、ボブさんがロンドン大火記念塔を壊してくれたおかげで、こちらだとわかりました」
「それに良く見ると、十字架のハズの部分がひとつだけ丸くなってるしな。まあ、猫たちの証言で裏が取れたわけなんだが」
「くっ……」
 先生と僕の解説を聞き終わると、フロックハートはうなだれて、歯がみし始めた。
「なんてことだ、なんたる失態だ。ここまで七十年もかかったというのに、こんなことで」
 頭を抱えて、嘆き悲しむ。
「さて、これからどうしましょう先生?」
「そうだな、おとなしく警察まで行ってくれるといいんだが」
「げほ、げほげほ。ねー、もう終わったー?」
 聞き慣れた声がするのでそっちを見ると、なんとフロックハートの後ろに、大家さんが出てきてしまっていた。
「ちょ、大家さん! 出てきちゃダメですよ!」
 必死で下がれ! とジェスチャーで伝える僕。
「だってえ、発電機壊したらすごい煙で、きゃあっ!?」
「はっははは、形勢逆転だな、猫探偵よ!」
 勝ち誇ったフロックハートの笑い声が聞こえる。
 あーあ言わんこっちゃない、人質に取られてしまいました。
「お前はどういう神経してるんだ大家ッ!! ここでわざわざ人質にされに出てくるとは! せっかくうまくいってたのに台無しだ!」
「なによー! わたしに重労働任せておいて、その言いぐさは、ぎゅうっ!?」
 大家さんが苦しみだした。フロックハートが後ろから腕を回して、首を絞めているらしい。
「か……は……」
 やばい、息が出来ないらしい。
 先生があわてて叫ぶ。
「や、やめろフロックハート! そいつは悪くない! 俺の指示に従ったまでだ!」
「ふん、どちらにしろ荷担したことに違いはあるまい。こちらからの要求はシンプルだ。女の命と引き替えに、本物の『賢者の石』を渡せ」
 ダメだ、と大家さんが首を振っている。しかし、その顔からどんどん生気が失われていく。
「ほら、早く決めた方が身のためだぞ。この身体はもはや老人のものではないのだ。アリスやボブと同じく、改造した身体に脳を移植して若返っているのだよ。だから」
「ぐ、うう!」
 より強い力で締め上げられて、大家さんがくぐもった悲鳴を上げる。
「力は普通の人間よりは強いのだぞ?」
「わかった、わかったよ! 渡す!」
 悔しさをにじませながら、先生が屈服した。
「今度偽物だったら、わかってるだろうな?」
「ああ、わかってるとも! ワット君!」
「はい、それっ!」
 仕方ない、僕は持っていた本物のクリスタルを、フロックハートに投げ渡した。
 
 
 クリスタルを受け取ったフロックハートは、さっそく例の光る筒を取り出す。
「早く大家を放せ!」
「落ち着きたまえ。念のため、中身を改めてからだ」
 大家さんを絞めたまま、筒をクリスタルに近づけた。
 ブオオン!
 前回と同じように、クリスタルから文字が飛び出た。
 しかしそれでは終わらず、無数の丸い窓のようなものが空中を飛び交う。
 窓には文字らしきものや、写真、さらにリュミエール兄弟が発明した「活動写真」を究極まで改良したような動く絵、などなど、雑多なものが映りこんでいた。
「くくく、はっはっはあ! 素晴らしい、確かに本物のようだ! ほら、女は返そう!」
 上機嫌になったフロックハートが大家さんを放し、
「ぷはあっ!」
 こちらに突き飛ばした。
「あっ!」
 大家さんは突然押されたので、展望通路の上を数歩歩いて、落ちそうになってしまう。
「危ない!」
 僕は気づけばアリスを飛び越えて、大家さんのもとへ駆けつけていた。
 落ちる前に、なんとか抱きとめることが出来た。
「よかった、落ちなくて……大丈夫ですか、大家さん」
 大家さんは答えることなく、なぜか僕の胸に顔をうずめて、きつく抱きしめてきた。
「ううー……」
「あ、あの、大家さん? あまり密着されると、ちょっと」
 さすがにこれは恥ずかしい。顔が熱くなってきた。
「おーおー、お熱いねえ」
 耳元で先生の馬鹿馬鹿しそうな声が聞こえる。茶化さないでください。
 僕たちがそんなことをしている間も、笑いながらクリスタルから飛び出たものをずーっと眺めていたフロックハートだったが、
「ははは、は……ん?」
 ふいに何かに気づいたようだった。
「なあ、猫探偵よ」
「なんだ? クリスタルは本物だぞ」
「いや、それはわかっておるんだが……何のクリスタルだと聞いている?」
「なに?」
 質問の意味を計りかねた先生だったが、僕の肩の上で身を乗り出し、クリスタルから飛び出たものを熱心に眺め始める。
「んん? なんだか、内容がおかしい気がするな。火星人自身に関する記述ばかりだ」
 フロックハートもその意見に賛同した。
「確かにそうだ。さらに言えば、片方の性別しか扱われておらん」
 というよりも、やはり特徴的なのは。
「あの、裸の火星人ばかり映ってますよね? ……まさか、これって」
「ははは! はーっはははは!」
 突然フロックハートが馬鹿笑いし始める。
「確かに生物に関することだが、内容が偏りすぎておるわ! くははは! ほら返すぞ!」
 光る筒を放すと、僕にクリスタルを投げてよこした。
「ポルノに用は無いわ。しかも火星人のポルノにはな。おい、そこをどけ」
 身軽にジャンプし、フロックハートがこちらにやって来た。
「わわっ」
 びっくりした僕は(大家さんも含めて)ボブの向こう側まで退避する。
「大丈夫だ、もう何もせん。アリス、ボブ、立てるか?」
「はい、かろうじてですが」
 ふらふらとアリスが立ち上がる。
「あー、なんかすごくダルいー」
 ボブもなんとか立ち上がった。
「よし、肩を貸してやる。ボブも来い。よし」
 フロックハートは手早く二人の部下をかつぐと、展望通路を歩き出した。
 端まで行くとジャンプして、既にアリスが開けた大穴に入り込む。
「なんか屋根の中に戻っちゃいましたよ」
「エレベーターで帰るんじゃないか?」
「ぐす、もう二度と展望通路になんて来ないわ」
 気づくと、もう大家さんは僕から離れていた。
「もう大丈夫そうだな、大家」
「ええ、死ぬかと思ったけど。ぐす」
 なぜかそこで僕を見る。え、怒られるのかな?
「ありがとう、ジョシュア」
「え!? い、いいえ……」
 何で名前を呼んだんだろう? また恥ずかしくなってきた。
「おーおー、熱い熱い」
 心底馬鹿らしそうに、先生が茶々を入れる。やめてくださいってば、もう。
 わん! わん!
 犬の鳴き声? そちらを見ると、ブルドッグが一匹、展望通路をこちらに駆けてきていた。
「あー、ワンちゃん! よいしょ」
 くーん。
 大家さんが抱き上げる。
「よかったよかった、これで事件解決ですね」
「そうだな、元はと言えば、この犬を探すのが目的だったのだからな」
 ズズウウン!
 突然、タワーブリッジのタワーのてっぺん、屋根の部分が、下から突き上げられた何かによって崩された。
「な、なんだなんだ!?」
「タワーのてっぺんが崩れて、何か出てくるわ!」
「え、あれは……なんか筒? みたいな物が」
 なんだかよくわからない物だった。先端のとんがった、金属製の短い筒。
 ドカアアアン!!
「うわあっ!?」
 突然屋根が爆発して、吹っ飛んだ。そして。
 ドドドドドド……。
 その筒も、上空に向かって飛んでいった。煙の筒を残して。
 筒の根本から常に炎が上がっているように見えるけど、あれは火事なんだろうか?
「今のは何だ、ワット君」
「わかりません、なんか火を噴く筒が吹っ飛んでいきました」
「ついでに、屋根も全部吹っ飛んだわ」
 僕たちはしばらく、屋根の無くなったタワーを眺めていた。
 が、先生が何かに気づく。
「やばい、この状態で職質されたら、何も説明できないぞ」
「あ、そうですね」
「ど、どうするの!?」
 先生は一拍置いて、言った。
「逃げるぞ、駆け足!」
「は、はい!」
「もー、なんでこうなるのよー!」
 こうして世界を救った三人組(猫一匹含む)と犬一匹は走り出し、警察の職務質問に怯えながらアパートに戻ったのであった。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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