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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

ロンドン大火記念塔、思わぬ不幸に見舞われる

 さて、さらに翌日。
 先生と僕はローワー・テムズ・ストリート――一三日前の地図で言えば、化け物に襲われた地点と犬をさらわれた地点のちょうど真ん中辺り――をテムズ川沿いに、東へ進んでいた。
 大急ぎで。
「わ、わ、ワット君!」
「はひ、はひ、なんでしょう先生!?」
「なんでもう見つかってるんだ!」
「わ、わ、わかりませーん!」
 後ろで大きな悲鳴が上がる。見たくないなあ。
 ぶちぶちぶちっ!
 ベルトか何かを力任せに、無理やり引きちぎる音。
 ぎぎ、ぎぎぎぎぎぎ。
 頑丈な木造の物体が、本来あり得ない力のかかり方でしなる音。
 ドンッ!
 一瞬地面が揺れた。何か小さな爆発が起きたとでも言うように。
「ワット君! ワット君!」
「なんですか!」
「二階建てのオムニバスが飛んでくるぞ!」
「はあっ!?」
 本当だった。風を切る音で振り返ると、本当に巨大な馬車が降ってきていた。
「う、うわあああ!」
 なんとか避ける。すぐ後ろでオムニバスが地面に衝突し、バラバラになった。
 ドンッ!
 また地面を伝わってくる鋭い衝撃。
「続いて第二波、荷馬車だ! 車道に出て避けろ!」
「は、はい!」
 僕が大きく左にターンしたとたん、歩道に荷馬車が墜落してグシャグシャになる。
 遅れてやってきた積荷の木材が地面に降り注ぎ、そこら中でうるさい音を立てる。
「まだ来るぞ、第三波、第四波! ハンサムキャブ二台! 歩道に戻れ!」
「はいー!」
 歩道に戻ると、今度は車道で二度の爆発。
 ハンサムキャブの残骸を尻目に、走り続ける。
「な、なんであいつは馬車ばかり投げてくるんです!? ひい、ひい」
「さあ知らん、投げやすいからじゃないか? あ!」
「え、また!?」
「ここを左折だ! 路地に入るぞ!」
「り、了解です!」
 転ぶギリギリの速度で左にターンし、モニュメント・ストリートに入る。
 ここならまあ、多少は馬車を投げにくいに違いない。
 後ろをちらっと見てみる……あれ。
「先生、付いてきてませんよ?」
「あきらめたか?」
「そうは思えないんですが……」
「おっ、もうすぐロンドン大火記念塔だ! 先に発電機を壊しちまえば、こっちのものだ!」
 僕にもとっくに見えていた。
 一六六六年にロンドンを焼失させた「ロンドン大火」を記念して建てられた、石の塔。
「高さ二百二フィート(約六十二メートル)の塔! 確かに送電にはうってつけですね!」
 中にはらせん階段があって、霧が無ければロンドンの街並みを数マイルかなたまで見渡すことも出来るとあって、観光名所として……。
 ズドオオン!
 前方で大きな爆発音がしたので、僕は思わず立ち止まった。
 そして見た。
 目標地点であるロンドン大火記念塔が、なんと向こうからやって来てくれる様子を。
「と、塔が倒れてきたあ!」
「見りゃわかるわ、早く避けろ!」
「ひいいい!」
 迫り来る塔によって空がどんどん隠されて、見えなくなっていく。
 ズシイイイン!!
 塔が着地する音と、そこかしこで上がるロンドン子の悲鳴。
 僕はとっさに横っ飛びし、どうにか直撃は避けた。
 背中に乗っかった石の破片をどけて、どうにか身体を起こす。
「死ぬかと思いましたあ……」
「俺もだよ、というか今も思ってる」
「『賢者の石』をください」
 塔の残骸とホコリの向こうに、顔色の悪い女の子が立っていた。
 例の化け物だ。
 
 
 化け物が僕たちの目の前までやって来た。
「やあ、久しぶりだな化け物。犬は元気か?」
「元気です。フロックハートさまと一緒です。それよりも、『賢者の石』をください」
 先生が化け物をしっかりと見すえて、ゆっくり口を開く。
「断ると言ったら?」
 ドゴン!
 近くに落ちていた、ひと抱えもある記念塔の破片が勢いよく砕け散る。
「ひっ!」
 ああ、情けない声が漏れてしまった。
「残念な結果になると思われます。今回は容赦しません」
「はっ、前回は手かげんしてたって言うのか?」
 皮肉な笑いを浮かべる先生。
「ええ、あなた方を殺すことも可能でしたが、フロックハートさまに止められていました」
「そうか、優しいご主人さまに感謝しなくては」
 落ち着いた会話を交わす二人。
「ぜ、全然化け物は衰えて無いじゃないですか。どうするんですか?」
 小声で先生に耳打ちする僕。
 もう体面を保つ余裕など無く、声が震えても、身体が震えていてもそのままだ。
「ふん、決まってるだろう」
 自信ありげな声色。何か策が?
「降参だ!」
 突然先生が両手(両前足)を高く挙げた。僕はちょっとコケそうになる。
「ほら、ワット君も!」
「は、はい!」
 僕も先生にならって両手を挙げた。化け物が意外そうな声を上げる。
「もう降参ですか? 張り合いがありません、残念です」
 無表情で真意は分かりづらいが、どうやらもっと暴れたかったらしい。
「なんとでも言え、ロンドンから馬車を無くされちゃ困るんだよ。ワット君、ほら早く」
「あ、はい」
 僕はポケットをまさぐって、大きな水晶……いやホロメモリー・クリスタルを取り出した。
「お前が欲しいのはこのクリスタルだったよな? 持っていけ。その代わり、俺たちのことは見逃して欲しい」
「……もう少し勇敢な方々だと思っていたのですが」
 ちょっと幻滅したような口調になる化け物。
「命は何よりも大事なんだよ。ほら、ワット君渡して!」
「わかりました、それっ」
 僕はクリスタルを投げた。
 化け物がそれを受け取ろうとする。
 そして、僕は拳銃を取り出し、化け物の脳天を撃った。
 ズガアン!
 
 
 化け物はもんどりうって、その場に崩れ落ちる。
「いよーし、命中ッ! 見事に脳天だ!」
「やりましたね、さすがにこの大口径なら」
 僕たちは絶句した。
 何事も無かったように、化け物が立ち上がったからだ。
「装甲が少しへこんでしまいました」
 ちょっと銃弾の当たったところをなでるが、別段傷もついていない。
「それでは、『賢者の石』は頂いていきます。よろしいですね?」
「あ、ああ」
「ど、どうぞどうぞ」
 思わず低姿勢になってしまう僕。ああ情けない。
「では、さようなら」
 バアアン!
 一昨日と同じようにとんでもない距離を飛び、近くの建物の屋根を越えて、消えた。
 それを見送りながら、先生が呆れたような感心したような声を出す。
「なんてこった、ありゃ正真正銘の化け物だ。吸血鬼や悪霊と同系列に並べても、どこからも文句は出ないだろう」
「そもそもどこから文句が出るんですか? 早いところ、馬車を見つけましょう」
「おっと、そうだったな。あの騒ぎを見て、乗せてくれるのが居ればいいが」
 ほどなくして僕たちはハンサムキャブに乗り込み、御者を急かしていた。
 実のところ、ここまではほとんど計画通りの展開なのである。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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