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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

遠方よりの客人、再び現る

 また翌日。
 応接室で客人を待っていると、ドアの向こうからくぐもった声が聞こえた。
「あの、ディクソンです。デューク・ディクソン。一ヶ月前はお世話になりました」
「お、来た来た。ワット君、ドアを開けてくれ」
「あ、はい」
 僕が駆けつけてドアを開けると、確かにディクソンさんが立っていた。
 狼男を追い回した、一ヶ月前の事件の依頼人だ。
 先生が先導して、ディクソンさんを中に通す。
「よくいらっしゃいました、ディクソンさん」
「いやー、驚きましたよ。家のドアがノックされたと思ったら、猫がトラヴァーズさんからのお手紙をくわえて立っているんですから」
 あはは、と笑うディクソンさん。確かに驚くだろう、あまりに童話的な光景だ。
「ええ、わたしの使いの者です。猫のネットワーク、略して『猫ットワーク』があるので、色々と便利なのです」
 あれ、その言葉は初耳だぞ。商標登録でもするつもりかな?
「なるほど、素晴らしいですね。それで、今日はどのようなご用件でしょう?」
「実は、あなたに色々お聞きしたいことがありましてね」
「え。僕にですか?」
 驚くディクソンさんに、先生は素早く大家さんを紹介した。
「ミスター・ディクソン、こちらはミス・リーヴィス。このアパートの大家さんです。大家、こちらは一ヶ月前の事件の依頼人で、ミスター・ディクソン」
 大家さんがディクソンさんに歩み寄り、軽くお辞儀をした。
「リーヴィスと申します、よろしく」
「あ、ディクソンです、はじめまして……あの、僕に聞きたいことって、もしかして」
 ディクソンさんの不安げな声をさえぎるようにして、先生が口を開く。
「その通り、一ヶ月前の魚が降った夜についてです。さて大家、信じられないかもしれんが、こちらのディクソンさんは火星人だ」
 部屋の中が見事なくらい、シーン、と静かになった。
 
 
「火星人ー!?」
 思い切り苦い顔になり、思わず叫んでしまう大家さん。
「なんだよ、なんでも信じるって言ったじゃないか大家!」
 腕(前足)と足(後足)を振り回して、ぷんぷん怒る先生。決して駄々をこねているわけではない。
「で、でもさすがに、ねえ?」
 大家さんが同意を求めてこっちを見る。
「いや、気持ちはわかりますけど……目の前で叫んじゃうのはどうかと」
 ディクソンさんの方を見やる。
「はは……」
 多少打ちひしがれた様子で、乾いた笑いを漏らしている。
 そりゃ目の前であんな風に叫ばれれば、誰でもこうなりますよ。
「だってー、急に『この人は火星人です』って言われても」
 ディクソンさんに、じとーっとした視線をそそぐ大家さん。失礼ですよ。
「やっぱり、どう見たって人間よ。証拠か何かありませんの? ディクソンさん」
「証拠、ですか」
 困った様子で笑うディクソンさん。すみません、大家さんが頑固で。
「じゃあ、この服を脱ぎましょうか?」
 自分の着ている服を引っ張って見せる。
「ああ、いいかもしれませんね」
 うなずく僕。それなら大家さんも信じるだろう。
 が、大家さんはなぜか取り乱し始める。
「あ、いえ! そこまでしなくてもいいですわ、その、もうちょっと穏便な方法で」
 なんで顔が赤いんだろう。
「いえ、すぐ済みますので。疑われたままというのもね」
 ディクソンさんが準備を始めた。あれ、大家さんが手で顔を覆ってしまっている。
「大家さん、ちゃんと目を開けないとダメですよ」
「だ、だって! こんなところで裸になるなんて……あれ?」
 目を開けた大家さんが見たのは、準備完了のディクソンさん。
「なんで口を開けて上を見てるの?」
「もちろん、口から脱ぐからですよ」
「はあ?」
 ズボオッ! ズルルルルル!
 口から無数の触手が伸び出てきた。
「ひいっ!?」
 思わず後じさる大家さん。
 口の部分はまるでゴムのような柔軟さで伸び、大きな頭の部分も難なく通り抜ける。
 ディクソンさん(人間)の中から出てきたのは、ディクソンさん(火星人)だった。
 大ざっぱに言うと、巨大なタコのような形だ。大きな頭の下から直接生えた無数の触手が床まで伸び、突っ張って頭を支えている。
「た、た、タコ……?」
「違います。火星人ですよ、大家さん。これで信じたでしょ?」
 大家さんはディクソンさんを震える指で差したまま、固まってしまった。
「ゴボゴボゴボ、グボゴボゴボ」
 これはディクソンさんの肉声だ。すぐに翻訳された言葉がそこに被さる。
『すみません、お見苦しいところを』
「いえいえ、お見苦しいだなどと。あれ、呼吸器ですか?」
 先生がディクソンさん(火星人)の口についた機械に気づいた。
「ゴポゴポグボッ、ボコボコ」
『ええ、地球の細菌に感染したら大変ですから』
「なるほど、火星には居ない細菌だらけでしょうね。特にロンドンなんて細菌の王国だ!」 大げさに両腕を広げて笑う先生。
「ゴッポ、ゴポ、ゴポ」
『あはははは』
 ディクソンさんも笑った。
 そして、大家さんは失神した。


 大家さんは起きるなり、ディクソンさんから飛び退くようにして、僕の後ろにかくれた。「いたたた、腕をつかまないでください。そんなに隠れなくても大丈夫ですよ、ディクソンさんは優しい方ですから。それにもう服を着てるじゃないですか」
 そう、もうディクソンさんは人間の姿に戻っているのである。
「だって、食べられないか心配で」
「あはは……」
 また打ちひしがれてしまうディクソンさん。
 大家さんが勇気を出して、おずおずと目の前の火星人に質問をぶつけた。
「あの、なんで地球に来ているの? ディクソンさん」
「ええ、バカンスです」
「バカンスー!?」
 また大家さんが苦い顔で叫んでしまう。すみません、重ね重ね失礼で。
「火星人が地球で、どんなバカンスをするって言うのよ?」
「そうですね、主に自然の中でハイキングをしたり、バードウォッチングをしたり」
「……意外と普通ね」
「後は文明ウォッチングも。地球の皆さんの文明や社会生活を観察するんです」
 大家さんは一瞬考えた後、言った。
「なんだかバカにされたような気がするわ」
 すぐにディクソンさんが手を振って否定する。
「いえ! めっそうもない」
 まあとにかく、と僕が話をまとめることにする。
「とにかくこの通り、火星人は居るんですよ、大家さん。僕も最初は信じられなかったけど。軍事的に偵察に来てるのから民間で観光に来てるのまで、結構な数が地球に居るそうです」
「し、信じるしかないみたいね……」
 大家さんはしぶしぶながらも、目の前の現実を受け入れることにしたようだ。
「わかってもらえたみたいですね。あははは……ん?」
 笑っていたディクソンさんが突然何かに気づき、先生を引っ張って部屋の隅に行った。
「ちょ、ちょっとトラヴァーズさん!」
 隅っこのほうで二人して小さくなりながら、ディクソンさんが小声で文句を垂れる。
 ばっちり聞こえてますけどね。
「どういうことですか、困りますよ! 火星人の存在は秘密の約束だったでしょう!?」
「いや、あなただって、進んでその服を脱いだじゃありませんか」
「ぐっ。そうですが、あれは場の雰囲気というか、なんというか」
 流されやすい人、いや流されやすい火星人だなあ、と僕は思った。
「実はあの大家さんなんですが、不本意ながらも偶然オカルトチックな事件に巻き込まれてしまいましてね。一昨日のことなんですが」
 そこで二人して大家さんを見やり、すぐに顔を戻す。
「この際せっかくだから、そっち方面の知識を勉強しておいたほうが、自分の身を守れるんじゃないかと思いまして。で、我々が解決した事件の具体例が必要なんです」
「そ、それはわかりましたが、何も僕の事件じゃなくてもいいじゃないですか!」
「いやいや、あなたも今回の事件に深く関わっている可能性があるのですよ」
「え?」
 
 
 先生は、ソファーに座った大家さんと僕、そしてディクソンさんを前にして、一ヶ月前の事件の全貌を詳しく語って聞かせていた。
「……と、いうのが一ヶ月前の事件の顛末だ。ご静聴ありがとう」
 語り終えると、先生もソファーに戻る。
 大家さんはしばらくぽけーっとしていたが、感心するようにこう言った。
「確かにハードなのねえ……」
 僕は思わずため息を漏らす。
「毎回、大体こんな感じです。よく命が保ってますよ」
 僕の横で、ディクソンさんがおずおずと手を挙げた。
「で、僕と今回のその、犬がさらわれた事件ですか? それとどういう関係があるんです」
 先生はディクソンさんの目を見ながら、静かに口を開いた。
「ディクソンさん。落とし物をしませんでしたか? 一ヶ月前に」
 ガタッ! と音がして、ディクソンさんがちょっと浮いた。
 見ると、皮膚の色がどんどん青くなっている。血色が悪いというより、絵の具を塗り重ねて色を変えているような感じだ。
 だが、あくまでも落ち着き払った風な表情を装う。
「さ、さあ? なんの事やら」
「そうですか。別に何も落としてないんですね?」
「もちろんです。橋の上では特に気をつけていましたから」
 あれ、なぜか情報が増えたぞ。
「もしかして、あの日橋の上で、何か綺麗なものを落としませんでしたか?」
 ガタガタッ! と音がして、ディクソンさんがまた浮いた。
 もはや皮膚の色は青を通り越して、紫色に近くなっている。
「ぬ、濡れ衣です、トラヴァーズさん。僕は雨の日の橋の上では、『クリスタル』には十分に気を配るタチなんです」
 いやいや、状況が限定されすぎでしょう。
「なるほど、『クリスタル』を落としたのですか」
「えっ!? なぜ『クリスタル』の事を!」
 またもガタン! と驚くディクソンさん。
 あなたがさっき自分でおっしゃったんですよ。こんなに誘導尋問に引っかかりやすい人もそうは見ないだろう。
 もはや観念したのか両手で頭を抱えて、がっくりとうなだれるディクソンさん。
「はあ……その通りです。僕はあの日、お魚を降ろしたときに、あろうことかクリスタルを一緒に落としてしまったんです……」
 体表の色も、どんどんと普通に戻っていく。
「まあ、誰にでもミスはありますよ」
 先生に慰められて、ディクソンさんは顔を上げた。
「さて、ここからが本題です。そのクリスタルというのは、どのようなものなのですか?」
 ちょっと迷いが見えたものの、ディクソンさんは素直に答える。
「その……記録装置です」
「記録装置? 火星製の?」
「ええ。個人用ですし、たぶん、そこまで危ない情報は入ってないヤツだと思いますが」
 え、ちょっと待てよ。僕が思わず抗議の声を上げた。
「とは言っても、火星の科学は地球の水準をはるかに超えてるんですから、絶対安全な情報なんてないんですよ?」
「すみません、すみません」
 平謝りのディクソンさん。
「まあまあ、ワット君。ディクソンさんに、例の犬の写真をお見せしてくれ」
「あ、はい」
 上着のポケットから聞き込みに使っていた写真を出して、ディクソンさんに手渡す。
「もしかして、そういうヤツでは? その首輪に付いてる」
 写真をのぞき込むディクソンさん。が、その表情が曇る。
「すみません、本物が無いと、ちょっとわからないですねえ……申し訳ない」
「なるほど」
「確かにそうですよね」
 そりゃ写真だけじゃわからないか、と先生と僕はため息を吐く。
「困りましたねえ、どうすれば」
 僕が言いかけたとたん、
「あの! わたし、ちょっと忘れ物を取りに行ってくるわ」
 突然大家さんが立ち上がり、自分の部屋に向かった。
 忘れ物? なんだろう。
 すぐに戻ってきたが、何か大きな物を右手に持っている。
「これのことかしら」
 右手を開くと、そこには巨大な水晶があった。
「ああ! これです!」
 ディクソンさんが嬉しそうな声を上げる。
 僕と先生は腰を抜かすほど驚いた。
 
 
「なんで大家さんが持ってるんですか!?」
 ぷい、と大家さんはそっぽを向いた。
 ワナワナと身体を震わせながら、先生が大家さんを指差す。
「まさか大家、お前まさかとは思うが」
「ち、違うわよ! 聞いて? 水晶をいじってたらポロって取れちゃったんで、後で直そうとポケットに入れて……ねえ、本当だってば!」
「手クセが悪いな、このアパートの大家は」
「ええ、残念です」
 肩を落とし、首を振る僕と先生。
 先生が頭を上げ、微妙な表情で大家さんに声をかけた。
「まあ、お手柄だがな。よくやったぞ、だが次からは気をつけろ。犯罪だ」
「違うのよー、本当なのよー」
 大家さんは半泣きだが、どこまで本当の事を言っているかは別問題だ。
 ディクソンさんは水晶を受け取ると、愛おしそうにその表面をなでる。
「いやはや、見つかってよかった。一時はどうなることかと」
 この様子なら間違いないだろうが、確認のためにディクソンさんに問いただす。
「では、この水晶はディクソンさんのもので間違いないですね?」
「ええそうです、間違いなく。水晶じゃなくて、ホロメモリー・クリスタルですけどね……でもなんで犬の首輪に付いてたりしたんです?」
 先生があごをなでながら言う。
「おそらくタワーブリッジ付近で拾われて、警察を経由してロンドン王立協会に届けられたんでしょう。その後、ハクスリーさんが分析のため個人的に持っていた。しかし体調が悪化したため療養でロンドンを離れなくてはならなくなり、留守の間無くさないように、目立つ犬の首輪に付けといたんでしょう」
 そういえば、と僕は気になる点をディクソンさんに聞いてみることにした。
「そのクリスタルって、どんな情報が入ってるんです?」
「それはその……」
 なぜか、またもためらうディクソンさん。
「大丈夫ですよ、口外しませんから」
 ディクソンさんは観念した様子で、中身を打ち明ける。
「その、生命の誕生に関わる情報です」
 先生のヒゲが、ぴく、と反応した。
「もしかして、生物学ですか?」
「え、ええ」
「それを他に知っている人は?」
 うーん、と渋い顔で考えるディクソンさん。
「たぶん、ハクスリーさんは内容を知っているかもしれません。王立協会の方なんですよね? 王立協会にはクリスタルの読み出し装置があるはずですから」
 先生がうなずいた。僕がうなずいた。大家さんがうなずいた。
「つながりましたね、先生」
「ああ。あの化け物の裏にはヴァージル・フロックハートが居て……」
「狙いはこのクリスタルに入ってる、生物学の情報なのね」
 いっとき室内が、しん、と静かになる。
「先生、もしこのクリスタルがフロックハートの手に渡ったら、どうなるんでしょう?」
 先生がしかめ面になって、答えた。
「まあ、人造人間の改良に使うんだろう、間違いなく。その後はわからんな。もしかしたら、あの化け物なんぞ比じゃないような、とんでもない怪物が量産される可能性もある」
「なんのためによ?」
 大家さんの疑問に、ふいー、と先生が呆れたようにため息をつく。
「もちろん、自分を理解してくれなかった奴らに復讐するためさ。王立協会、ひいては大英帝国、さらには全世界に対して」
「そういう反抗は十代で済ませてほしいですね」
「まったくだな。百歳近いだろうに、ヤンチャなことだ」
 またしても部屋が静かになる。ディクソンさんは居心地悪そうに小さくなっていた。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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