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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

猫探偵一行、実験する

 僕たちは、アパートの僕の部屋に居た。実験器具がそろっているので、色々と調べやすい。
「ちょっと、その指、それ以上こっちに近づけないでよ!?」
 大家さんの悲鳴に近い命令が部屋に響く。静かに調査したいんだけどなあ。
「あの、怖いんなら僕の部屋に居なくてもいいと思うんですけど」
「そうだぞ大家、別に無理して我々に付き合わなくても」
「む、無理なんかしてないわよ! ただ、その調査がどういう結果になるのか、とても興味がありましてよ!?」
 なんだか言葉遣いやアクセントが変になっているが、指摘しないことにした。
「よし、それじゃメスで表面を切ってみますね。よっ、と。結構固いです」
 僕が外科用のメスを指の表面に走らせる。
「ひっ!」
 大家さんが声を上げる。
「おほん、大家、それ以上騒ぐなら出て行ってもらうぞ」
「ご、ごめんなさい」
「ふむ、皮も人工物のようだ。中身は黒いゴムのような繊維がたくさん……中に骨があるな、これは金属らしい」
「この黒いゴムが筋肉の役割なんでしょうか?」
「人間の解剖学的構造に照らし合わせるなら、そういうことになるな」
「ね、ねえ、その指、動いたりしないでしょうね?」
 おっかなびっくり、腰が引けた姿勢で大家さんが聞いてくる。
 動く……そうだ、重要なことがわかってなかった。
「そういえば、これってどうやって動くんでしょうね?」
「確かに、わからんな」
「カエルみたいに跳ねたりしないでしょうね?」
 また大家さんの声。先生が面倒そうに対応する。
「大家、これはとっくに死んでるんだぞ」
「わからないわよ! 死んだカエルだって、電気を流せば動くって聞いたわ!」
「あ、そうか!」
 僕は手をぽん、と打ち合わせた。
「そうだ、電流ですよ、たぶん! ほら、この黒いゴムの端に金属がくっつけてあります」
「なるほど、これは電極というわけだ。よし、さっそく実験だ。器具を探そう」


 僕たちは苦労して部屋の中を探し回り、目的の物を探し当てた。
「そっちにあるんじゃないか? ワット君」
「あ、まだここ探してない……あったー! ありましたよ、って重っ。よいしょ」
 ゴトン!
 ひと抱えもある金属のカタマリを運んで、机の上に置く。
「なにそれ?」
「ええ、発電機です。このハンドルを回すと、電気が起きるんです」
「へええ、そんなものまで持ってるの!」
 大家さんが感心したような声を出した。
「えへへ」
 頭に手をやって、照れる僕。ほめられちゃった。
「変わり者ね」
「ぐすっ」
 ちょっと涙が出たが、気にしない。
「さ、さあ実験しましょう。発電機と指の電極をケーブルでつなげて……と。よし」
「じゃあ、ハンドルを回してくれ。俺は指をよく見てるから」
「わかりました。それじゃ、せーの」
 グル、グル、グルグルグルグル!
 僕がハンドルを回し始めたとたん、先生が叫んだ。
「おおっ! 曲がったぞ、指が曲がったぞワット君!」
「え、ホントですか? やった、ホントだ! じゃあ一回止めて」
 ハンドルを回るのを止めると、指はゆっくりと元に戻る。
「電極を逆に付けて……よし、では回しますよー」
 グル、グル、グルグルグルグル!
「おお、伸びた! 今度は伸びたぞワット君!」
 僕はすぐにハンドルを止め、指に走りよった。
 伸びていた指が、ゆっくりと元の曲がりに戻っていく。
「やりましたね、先生」
「ああ、きみの仮説は正しかった。これで、指を電流で制御できることが証明された!」
 そのやりとりをぼーっと眺めていた大家さんが、手を挙げる。
「あの、それで何がわかったわけ?」
 先生が思わず呆れたような声を出してしまう。
「なんだ、わかってないのか大家?」
 いかん、大家さんがそっぽを向いてすねてしまった。
「どうせ物わかり悪いですよーだ」
「ああ、大家さんすみません。つまりですね、あの化け物は……少なくとも指の部分は生物では無くて、電気で動いていたということがわかったんです」
「じゃあ人造人間ってこと?」
「はい、おそらく。電気さえあれば力が出せるんです。だからすごく長い距離を走っても疲れないし、電圧次第で馬車を投げれるような大きい力も出せるんでしょう」
 僕の言葉を聞いて、大家さんがなぜか誇らしげに胸をそらした。
「ほらー、結局フランケンシュタインの怪物だったじゃない! わたしの勝ちね!」
 いや、最終的に僕が人造人間だって言ったような。
「勝負した覚えはないぞ。それに、未解決の問題がまだある」
 思わぬ言葉に先生の方を見ると、渋い顔であごをなでている。
「え? だって、もう化け物の怪力の秘密は解明されましたよ」
「いや、まだだ」
 先生はゆっくりと首を振った。
 
 
「あの化け物は馬車を投げた。そこが不思議でならん」
 僕と大家さんは顔を見合わせる。
「そんなに不思議ですか?」
「人造人間なら仕方ないんじゃないの?」
 先生が目をまん丸にして、両手を広げた。
「不思議だとも! あの化け物は超自然の存在なんかじゃない、自然科学の延長線上に居るんだ。今回の実験でそれが証明された、だろ?」
 僕と大家さんに手を振って、同意を促す。
「はい」
「そうね」
 おほん、と咳払いして、先生が続ける。
「だとすれば、最低でも『エネルギー保存の法則』くらいは守ってくれないと困る」
 大家さんが慌てて口をはさむ。
「あの、『エネルギー保存の法則』って?」
 先生がちょっと考えて、解説を加えた。
「つまり、『何も無いところからはエネルギーは発生しない』ということだ。これは科学の大前提で、誰もこれに違反することは出来ない。たとえば長距離を息も切らせず走ったり、馬車を投げたり、とんでもない距離を跳んだりするには、エネルギーがごまんと必要だろう。具体的には、そのための膨大な電力をどこから得ているか、それが不思議なんだ」
 なるほど、元科学者の先生らしい意見だ。
 例え化け物であっても、物理の法則は守らなくちゃならないのか。
「体内に蓄電池か何かがあるんじゃないですか?」
 先生は僕の案をしばらく頭の中で検討していたが、やがて口を開いた。
「いや、おそらくあの化け物に入るサイズの電池ではまかないきれないだろう。要求されるエネルギーが極めて膨大だからな。大型発電機くらいでないと」
 そこでふう、とため息を吐く。
「……とは言っても、確信は無いな。こんな『人工筋肉』を造れてしまうくらいの技術力があるのだから」
 指の切り口から見える黒いゴムを指差して、言った。
「しかもだ。この『筋肉』を使った機械の部分は、人間の脳や神経からの信号で動いていると考えて間違いない」
 この発言には、僕は少なからずビックリした。
「え、どうしてですか!?」
「どうしてって。そうでもしなけりゃ、どうやってあの化け物を操縦できるんだ?」
 確かに、と僕は思った。あの化け物は走ったり跳んだり、果てには話したりしていた。
「なるほど。あの複雑な動きは、歯車を使った装置なんかでは無理ですよね」
 ここで、大家さんが当然の疑問を口に出す。
「どうやったら、神経と機械をくっつけられるのよ?」
 先生は大げさに肩をすくめて見せて、言った。
「さあ、どうやってかはわからんが、電極に神経をはんだ付けするような簡単な話じゃないのは確実だろう。普通なら登場にあと、軽く百年はかかりそうな技術だ。フロックハートが天才なのは間違いないな、やれやれ」
 一気にまくしたてた後、疲れた様子で二度目のため息を吐く先生。
 あれ? 脳からの信号で操縦してるって?
 待てよ、待てよ。ということは。僕は恐ろしい仮説に行き当たった。
「先生、じゃあ、あの化け物は……あの女の子は、イチから造られたわけじゃなくて」
「ああ。おそらく改造されたんだろう。死にかけの孤児を拾ってきて、その脳を取り出し、『細胞再生溶液』に浸して治療する。その後、機械の身体に何かしらの方法で脳を取り付け、あの化け物の完成というわけさ。力は格段に強くなるし、溶液の効果でもはや死ぬことも老いることも無いし、それに飢えることだって二度と無い。一石三鳥というところかな?」
 先生が皮肉な笑みを浮かべながら、さらりと言ってのける。
 僕の背筋を、何か冷たいものが駆け抜けた。
「そんな……ひどい話じゃないですか」
「そうかな? 命を救ったとも言える」
 またもしれっと言い放つ先生。
「でも、化け物にされたんじゃ意味ないわ!」
 大家さんが激高し、叫ぶ。だが、先生はあくまでも冷静な姿勢を崩さない。
「それを我々に判断することは出来ないと思うが。本人に聞いてみないとな、今どんな気分か、見殺しにされるよりマシだったかどうか。だろう?」
 誰も答えなかった。答えられなかった。部屋がとても静かになってしまった。
 うーん、これは気分転換が必要かな。
「……とりあえず、お茶にしませんか?」
「そうね、賛成よ」
 大家さんが手を挙げた。
「ふむ、ではちょっと頭を休めるとしようか」
 先生もしぶしぶながら同意し、僕たちは僕の部屋を後にした。
 
 
 二十分後。僕たちは応接間のソファーに座ってお茶を飲んでいた。
「やっぱり助手さんのお茶はおいしいわねー」
「はは、ありがとうございます」
 素直にほめられると、うれしいものだ。
 でもすぐに、さっきの話を思い出してしまう。
「それにしてもすごいですよね、あの化け物。いったいフロックハートは、あんな科学技術をどこで手に入れたんでしょう」
 過剰なまでに息を吹きかけて、紅茶を冷ましていた先生が頭を上げる。
「そうだな。王立協会を去るときに言っていた『賢者の石』が関係しているのかもしれんが、現時点ではどうとも言えないな」
「『賢者の石』ってことは、錬金術の応用でしょうか?」
「さあなあ。昨日も言ったと思うが、どんな分野にせよ、あんな化け物を造れるような技術は今の地球上にはどこにも……待てよ」
 突然、先生がぴたりと止まった。
 そのまま少しの間、黙って頭の中を整理する。
 曇っていた表情が、急にぱっと明るくなった。
「あるぞ! あるじゃないか!」
 先生が不意に叫んだので、僕と大家さんは紅茶を噴いてしまった。
「ごほっ、ごほ。先生、やっぱり狙ってますよね、気管支に入るタイミング?」
「ああもう、そんな事はいいだろう! 見えてきたぞ、よさそうな仮説が見つかった!」
「でも、人造人間を造れる科学技術は地球上には無いんですよね?」
「いや、あるにはある。というか、一時的に観光に来ているというべきだな」
 意味ありげな微笑を浮かべる先生。
 僕はちょっと意味がわからなかったが、やがてぱっと頭の中が明るくなった。
「ああ、そうだ! そうでしたね、来てますよ!」
「え、なになに? 何の話?」
 なんだか心配そうな大家さんに、僕たちは笑いかけた。
 大丈夫、頭がどうこうとかではありませんよ。
 先生が大家さんに芝居がかった仕草で振り返る。
「聞きたがっていただろう、一ヶ月前の話を。いい機会だから、詳しく話して聞かせよう」
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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