明日から書く。

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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

猫探偵一行、事件を再検討する

 応接間のテーブルにロンドンの市街図を広げ、僕たちはそれぞれにペンを持った。
「よし、準備はいいな。それでは、今日どこで何が起きたか、順番に記入していこう。まず事務所がここ、グロスター・プレイス」
 先生がまず、最初の印をつける。
「ピカデリー・サーカス近くのコメディー劇場で、初めて化け物に会いました。ここです」
 僕が二番目の印をつける。
「わたしがナンパされたパブが、ブリック・レーンの真ん中あたり……ここらへんね」
「犬を発見したのも、ワット君が二度目に化け物に遭遇したのもここだな」
「で、酔っ払いたちから逃げだしたわね」
「そうだな、それらが全部ここで起きた」
 大家さんが三番目の印をつける。
「パブの近くで、ブリック・レーンとコマーシャル・ストリートがつながってるのは、ここ。ですから、この辺で馬車に乗ったわけですね。ブラッシュフィールド・ストリートの近く」
 四番目の印をつける。
「馬車が右折したのは、タワーブリッジの手前だったな。マンセル・ストリートとロイヤル・ミント・ストリートが交差してる場所だから……ここだな」
 先生が五番目の印をつける。
「その後、化け物に襲われた。どこら辺だろう?」
「ロンドン橋は通り過ぎてなかったと思うわ」
「それに、道が左にカーブしてました」
「なるほど、じゃあ……襲撃開始地点はここら辺だな」
 先生が六番目の印をつける。
「それで、犬を奪われた地点、つまり襲撃が終わった地点はどこだ?」
「えーと、ロンドン大火記念塔が途中でちらっと見えたような……」
「あ、思い出した! ちょうどサウスワーク・ブリッジの辺りよ」
 大家さんが七番目の印をつける。
「よし。犬を奪った化け物は、こっちの方へ行ったな」
 先生が七番目の印の横に、東に向いた矢印を書き足した。
 僕は記入の終わった地図を眺めて、言った。
「とりあえず、これで記入は終わりですかね?」
「そうだな」
 次は検討の段階だ。
 とは言っても、うーん。
「……化け物がどこに行ったか、これでわかりますかね?」
 先生が頭をかきむしりながら言った。
「さあなあ。たぶんイーストエンドの辺りじゃないか、と思うんだが……ロンドンは広い。これだけじゃ全然わからん」
 ふううう、とその場の全員が大きくため息をついた。
 
 
 僕たちはちょっとひと息つくことにして、応接間のソファーに座ってお茶をすすっている。
「うーむむ、何か化け物の行き先がわかるようなヒントは……うーむむ」
 先生は全然ひと息つけていない。
 僕はそのときちょっと思ったことがあったので、先生に聞いてみることにした。
「先生、ちょっと話がずれるんですが」
「なんだね?」
「そもそもの話、なんであの化け物は犬を狙ったんでしょう?」
「ん? それはもちろん……」
 先生は僕に何かを言おうとしたが、
「本当だ、わからないな。なんでだろう」
 考えがまとまっていなかったことに気づいて黙り込んだ。
「やっぱり今回の場合、犬は巨大な水晶を付けていましたから……その水晶を狙った物盗りということなんでしょうか」
「まあ、そうかもしれんな。あれの価値は相当なものになるだろうからな」
 大家さんがその意見に異議を唱える。
「でもお金が欲しいんだったら、わざわざワンちゃんが見つかるのを待ったり、わたしたちを尾行するのも変じゃない? お金が要るんだったら、もっと別の方法で手っ取り早く稼げると思うわ。あの子、銃で撃たれても平気だし、しかも馬車を投げられるのよ? 銀行強盗だって何だって、簡単に出来たはずだわ」
「ふむ。それもそうか。うーむ」
 先生がまた頭をかきむしる。ああ、後で落ちた毛を掃除しなきゃ。
「じゃあ、犬そのものが欲しかったんでしょうか?」
 先生が物思いに沈みながら、僕の疑問に答えた。
「いや、それはもっとありそうにない。馬車に乗ってからあの犬をとっくりと観察してみたが、まあなんの変哲もないただのブルドッグだ。あんな化け物が欲しがる理由など、これっぽっちも無いように思える」
「ハクスリーさんに脅迫状を送って、お金を要求するつもりだったのでは」
 先生が首を振る。またも否定。
「それだったら、水晶を狙うより余計に回りくどい。大家の言ったように、強盗でも何でもすればいい。たぶんそっちのほうが遥かに効率がいいし、確実だろう。大体、大事なペットとはいえ、犬だぞ? 本当の家族ってわけじゃない。ブルドッグにハクスリーさんがいくら出すか考えれば、あまり期待できないだろうな」
 ふーむ、と全員でまたため息。
「となると、やっぱり狙いは水晶ですか」
「そうだな。金銭目的でなく、あの水晶そのものが目的だったとしか考えられん。何か特別な意味があるのだろうが……わからんな、今のところは」
「とりあえず、化け物の目的は保留ですね」
「ああ、仕方ないな」
 とりあえず、全員でお茶をすすった。
 
 
「あ、そうそう」
 大家さんが突然声を上げたので、僕たちはそっちを向いた。
「ねえ、まだ聞いてなかったと思うんだけど、あの化け物の正体って何だったの?」
 しまった、痛いところを突かれた。
 先生と僕が、そろって「うーむ」とうなり声を上げ、ソファーの背もたれに沈んだ。
「そうなんだよな。そこなんだ、一番引っかかってるのは」
「吸血鬼でも亡霊でも悪魔憑きでもないとなると……あれはなんなんでしょう?」
 先生が指(ちゃんと五本あるのだ)を曲げながら、候補を数え上げていく。
「見た目からして半魚人なんかではないよな。同様に、狼男じゃないし、妖精でもなさそうだし、夢魔でもないだろうしなあ」
「あはは、夢魔としての魅力には欠けますもんね」
 しかし、大家さんが身を乗り出して、なにやら小さい声で意見した。
「わからないわよー? 近頃はそういう小さい子が」
「わー! わー!」
 先生がすぐに腕を大きく振って止める。
「危ない発言をするんじゃない、まったく」
「ごめんなさい」
 大家さんは謝ると、僕たちと一緒になって考え始めた。
「うーん、狼男でしょ、吸血鬼でしょ……まだ出てない怪物は……あっ!」
 先生と僕が期待を込めた眼差しで、大家さんを見る。
「フランケンシュタインの怪物よ! まだ出てないわ!」
 はあー、とため息を吐きながら、僕たちは元の姿勢に戻った。
「ちょ、なによ! だって出てきてないじゃない!」
 先生が馬鹿馬鹿しそうに手を振りながら、大家さんに注意する。
「あのな大家。あれはフィクションだ。メアリー・シェリーの創作なんだよ」
「ええー? 吸血鬼はいいのに、フランケンシュタインの怪物はダメなのー?」
「いえ、ダメとかいう以前の問題です。居ないんですから」
 僕も思わず先生と同じような態度になってしまう。いくらなんでも、フィクションの存在を持ってこられては困る。作者まではっきりわかってるならなおさらだ。
「ぶー」
 ほほを膨らませて、ふてくされる大家さん。考えてくれるのは嬉しいんだけどなあ。
 だが突然、先生がソファーからガバッと身を起こした。
「どうしました先生?」
「トイレなら砂を用意してあるわよ?」
「トイレじゃない! ごほん、去り際に『フロックハート』と言っていたな、あの化け物は」
 そうだった。確かに、「フロックハートさまもお喜びになります」と言っていた。
「ええ、言ってましたね」
「わたしも覚えてるわ」
「フランケンシュタインは科学者の名前だな? 大家」
「ええ」
「フルネームは?」
「えーと、ヴィクター・フランケンシュタインよ」
「『ヴィクター・フランケンシュタイン』……イニシャルは『V・F』……待てよ、待てよ待てよ、似たような名前を聞いたことがあるぞ。『フロックハート』が入って、イニシャルが一緒なんだ。王立協会時代に聞いたことがある。絶対あるんだ、ああなんだったかな」
 先生はソファーから降り、そのまま、うろうろと歩き始める。
「くそっ、ここまで出かかってるんだが」
 右に左に、しばらく歩き通したとき。
「そうだ! ヴァージル・フロックハートだ!」
 急に大声を上げたので、僕と大家さんはちょっと紅茶を噴いてしまった。
「ごほ、ごほ。え? 誰です?」
「生物学の権威だ。王立協会に所属してた。俺が居たときよりかなり前の人物だが、今でも天才として語り継がれている。傷ついた細胞を蘇らせる『細胞再生溶液』というものを発明して、これで病気や老化を永久に克服できると期待されてた……だがあるときから暴走し始めてな、無許可で人体実験を行ったあげく、王立協会を追放されて失踪しちまったらしい」
 しかめ面で思い出しながら、言葉を継ぐ。
「なんか『賢者の石を見つけた』とかなんとか、うさんくさい事を言い残してな」
「かなり前って、いつの人?」
「ああ、そうだな確か、サー・ジョゼフ・バンクスが協会の会長をなさっていた時期だから……一八二○年よりちょっと前とか、そこら辺だったと思うが」
 あれ、もう七十年以上前じゃないか。
「その時に現役の方なら、もう亡くなってますよ」
「う、そうだな。関係ないか、そうだよな」
 しまった。さっきまで活気づいていたのに、僕の言葉でしょぼくれてしまった。
 なんとかフォローする言葉を探していたとき、今度は大家さんが何かに気づく。
「あれ? 確か『フランケンシュタイン』が出版されたのもそれくらいよ? 一八一八年」
 それを聞いたとたん、先生の背がぴんと伸びた。忙しい人だ。
「なに? 本当か大家」
「ええ、ファンだからよく覚えてるわ」
 うーむ、と僕は良く考えてみた。色々と、偶然にしては一致しすぎているような。
「先生、もしかして、本当にフランケンシュタインの怪物なのかもしれませんよ。というか、ヴァージル・フロックハートの怪物と言うべきですが」
「どういうことだ? 聞かせてくれ」
「はい。ヴィクター・フランケンシュタインのモデルは、ヴァージル・フロックハートじゃないかと思うんです。生物学の権威で、イニシャルが一緒で、しかも王立協会で仕事をしていた時期と、『フランケンシュタイン』の出版時期まで被っている。これは偶然と言うには、あまりに一致しすぎているんじゃないかと」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 先生が混乱気味に両手(両前足)を上げ、僕の話を止める。
「あの化け物は人造人間だって言うのか? フロックハートの造った!?」
「そういうことになります」
「ちょっとなあ、いくらなんでもそれは……常識に反しているというか」
 ソファーに座り、頭をかき始めた。
「僕たちの仕事は、いつも常識に反してるじゃないですか。それに、そう考えれば、色々とつじつまが合うんですよ」
「うーむ、それはそうなんだが……」
 さらに頭を激しくかきむしる。ああ、明日の掃除は大変そうだ。
 やがて観念したように息をつき、身体の力を抜いた。
「ああもう、保留だな保留。大体、そんな人造人間が造れてしまうような科学技術は、現在の地球上には無いだろう」
「それは……そうですね」
 そこのところは、僕も認めざるを得ない。
「やっぱり、ありえないわよね」
 みんなでお茶をすする。
「よし! 明日現場に戻ろう!」
 また先生が突然叫んだので、また僕と大家さんは紅茶を噴いてしまった。
「ごほっ、ごほ。先生、わざとお茶飲むタイミングで叫んでませんか?」
「あー、服に付いちゃったー」
 先生は僕たちの文句をさらっと受け流し、続ける。
「現場百回だよワット君。どんな推理も証拠が無ければ、机上の空論で終わってしまうからな。何かしらの物証が残っていることを期待して、犯行現場へ行ってみようじゃないか」
「そうですね、わかりました。それじゃ、今日はもう寝ましょうか」
「わたしも寝るわ、もう遅いし」
「よし、それじゃ明日の朝イチで起こしに行くからな! お休み!」
「お休みなさーい。ふわあ」
 とっとと出て行く先生を見送りながら、僕は大きくあくびをした。
 今日は疲れたなあ。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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