明日から書く。

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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

世界の真実

 僕たちは先生の机の前に椅子を置いて、座った。
 先生がゆっくりと、重々しく話し出す。
「明るい昼と暗い夜は常にペアだ。一日にはその両方が必要で、どちらが欠けても成り立たない。しかし太古の昔から人間は夜の暗闇を嫌い、それを駆逐しようとしてきた。たいまつで照らしたり、ランプの明かりを使ったり、果てにはアーク灯のまぶしい光まで用いて……だが、世界中から完全に夜を、闇を絶滅させることなど出来ない。暗い場所、見えない部分、人間の理解の及ばない領域というのは、常に残る。それと同じように」
 ここで既に冷えてしまった紅茶をすすり、口を湿らせる。
「この世界にも昼の面、夜の面というものがある。例え自然科学が発達し、その知恵の光がどれだけ強力になろうとも、夜の面は小さくなりこそすれ、無くなりはしない。だが、昼の面にしか目を向けない連中が実に多い。夜の面など、その存在すら知らないし、忌まわしいものとして避け、よく知ろうともしない。だが」
 また一口紅茶を含む。
「その夜の面、夜の世界、暗闇の世界に住む存在は、古代から人間と深く関わってきたんだ。そして現代においても、それは例外ではない」
 ここで言葉を切り、一息ついた。長いセリフだ、お疲れさまです。
 大家さんがおずおずと口を開いた。
「その『存在』って言うのは、吸血鬼とか、悪霊とか、狼男とか、っていうこと?」
 先生がうなずく。
「その通り。勘違いしないで欲しいのだが、そういうものの目撃談というのは、十中八九、迷信や錯覚の類だ。だが、現代の自然科学ではまだ説明出来ないような出来事というのも、少ないながら間違いなく起きている。我々はそういう『まだ説明の出来ない存在』の起こす事件に対処することが非常に多い」
 ここで僕が肩をすくめて、補足する。
「本当は普通の事件を扱いたいんですけどね」
「なんで扱えないの?」
 大家さんの疑問に対し、先生がしかめ面でうめき声を漏らす。
「事務所が出来たばっかりの頃に、まったくの成り行きと偶然から、超自然的な事件を解決しちまったんだ。そしたら、どうやら裏社会でずいぶんと評判になってしまったらしくてね……実は我が事務所は有名なんだよ、超自然現象専門の探偵事務所として。依頼が来ない月は無い」
 そこで先生も肩をすくめた。
「もちろん裏社会からの依頼限定で、表はさっぱりなんだがね。なるべくならそんな仕事は受けたくないんだ、命が危ないほど危険な割に金にならない事も多いし」
「一ヶ月前みたいに?」
「その通り」
 先生が、ぐてー、と机に伸びた。
「あーあ、早く普通の仕事がしたいよ。まったく、今回こそはマトモだと思ってたのに」
「じゃあ、普段から幽霊とか、吸血鬼と戦ったりしているの?」
「ああ、簡単に言えばそういうことだ」
「ここのところ、そんな依頼ばっかりです」
 
 
 説明が終わり、部屋の中は静かになった。
 少しショックを受けた様子で、大家さんが口を開く。
「そう……全然知らなかった。わたし何にも知らないのに、勝手にあなたたちのこと、本当は無職なんじゃないか、って疑ったりしてたのね……」
(無職だと思われてたのか……)
 その事実に、僕と先生も少々ショックを受けざるを得ない。
「それで、トラヴァーズさん」
 先生と僕が顔を上げた。
「これからどうなさるおつもり?」
「これから? ふむ、そうだな」
 ちょっと考えた後、言葉を継ぐ。
「まず、ハクスリーさんにお詫びの手紙を書かなくてはな。なに、あんな化け物に襲われたとあっては、あちらも仕方なかったと納得され」
「それでいいの!?」
 大家さんが叫びながら立ち上がった。
 僕と先生は面食らって、ちょっと口がきけなくなる。
 先生が弁解するように、腕を横に広げながら言った。
「そりゃあ良くはないさ、だが仕方ないじゃないか。これ以上調査を続けたら、また怪我人だって出るかもしれないんだ」
 大家さんが自分のアザをぺち、と叩いて見せる。
「こんなの、怪我のうちにも入らないわよ。それに」
 こほん、と咳払い。
「あの化け物を放っておいたら、それこそ本当の被害者が出てしまうわ、きっと」
 確かにそうだ、と僕は思った。
 自分たちだけ安全ならそれでいい、というわけにはいかない。
 先生もわかっているはずだ。
 またお腹の底から出るような長い長いため息を吐いているということは、この事件を諦めたくなんてないのだ。
「ねえ、トラヴァーズさん」
 先ほどとは打って変わって優しい声色で、大家さんが先生に声をかける。
「今回のは、予測出来なかった事故よ。誰にもあんなことが起きるなんて、わからなかった。それに、あなたたちはわたしを止めたじゃない。それでも反対を押し切って付いて行ったのは、わたしが自分で決めたことなの」
 そこでちょっと口をつぐみ、目を伏せる。
「だから、あなたたちがそんなに、自分を責めることなんて無いのよ」
 大家さんがそう言ったきり、部屋の中は再び静かになった。
 夜のロンドンは静かだ。
 それでもその夜の闇の中に、うごめく影たちが居る。
 僕たちを襲った化け物が、もう他のだれかの前にも現れているかもしれない。
「先生」
 気がつくと、僕は口を開いていた。
「やっぱり、調査を再開しましょう。これじゃ終われませんよ。あの犬を奪われてしまった責任もあります」
 僕の言葉を聞くと、先生はまた祈るようなポーズになって、しばらく考えていた。
 やがて、重々しく口を開く。
「しかしな、ワット君。今度はこんなもんじゃすまないかもしれんぞ。誰かが死んでしまうかもしれないんだ。そのとき、俺はどう責任を取ればいい?」
 僕は立ち上がるなり、言った。
「ひとりで全部背負い込まないでください!」
 先生が驚いて顔を上げる。僕と目が合った。
「僕も事務所の仲間なんですから、僕にだって責任はあります」
 大家さんも僕を見て、賛同の声を上げる。
「わたしにもあるわ。わたしだって、もう仲間だもの。そうよね?」
「お前ら……」
 ちょっと先生の目がウルウルしているような気がする。
「先生が危なかったら、僕たちが助けます。僕たちが危なかったら、先生が助けてください」
「そうすれば、みんな助かるわ。ね?」
 先生が急に顔を下に向けたと思うと、
「くくっ……ははは、ははははは!」
 大声で笑い始めた。
 一通り笑うと、目の端の涙をぬぐいながら、僕たちに言う。
「そうだ、そうだな。お前らときたら、本当に非論理的だよ。よし」
 着ているチョッキを引っ張って、シワを直した。
「再調査だ! 手始めに地図を持ってきてくれ、ワット君。とにかく状況をまとめよう」
「はい!」
 僕は地図のある部屋に走りながら、いつもの先生の様子が戻ったので、ちょっと涙ぐんでしまった。これはここだけの秘密です。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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