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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

猫探偵一行、怪物に遭遇する

 僕たちはハンサムキャブが走り出して、やっと一息ついていた。
「とうとう巻きましたね」
 あの総勢四十名以上の酔っ払いの皆さんは、ようやく見えなくなっていた。
「ああ、ずいぶん頑張ってたな、やつら。人間の物欲とは恐ろしいものだ」
 くーん。大家さんのひざの上の犬が、大家さんにすり寄って甘えた声を出す。
「怖かったわねー。こんなに震えちゃって。この子、思ったよりおとなしくて可愛いわね」
 大家さんが犬をなでながら笑う。
 僕と先生の顔にも自然と笑みが漏れる。
「あー、お客さん! 川は渡るんですか? このまま行くとタワーブリッジですが」
 後ろから御者さんが聞いてきた。そうだ、目的地言ってないじゃないか。
 先生が指示を出す。
「いや、渡らなくていい。そこの大通りを右折してくれ。グロスター・プレイスに行きたい」
「ちょっと遠回りですけど、大丈夫ですかね?」
「大丈夫だ」
「わかりました」
 御者さんとの会話が終わると、先生が(じゃれついてくるブルドッグに警戒しながらではあるが)安堵のため息をついた。
「やれやれだ。ようやく見つかったな。首輪の馬鹿でかい水晶も無事だ」
「ええ、走ってるうちに取れちゃいそうでヒヤヒヤしましたけど。とにかくこれで一件落着ですか、案外楽チンでしたね」
 先生が無意識に顔を洗い始める。安心したときのクセだ。
「そうだな、このところハードな事件続きだったからな。たまにはこんな楽でマトモなのも無けりゃ、身がもたんというものだ」
「ハードな事件ん?」
 僕の横で水晶をもて遊びながら、大家さんが心底疑わしそうな声を出す。
「あなたたちが今回以上にハードな、どんな事件に関わったって言うの? 『猫探偵、見事に事件を解決』って見出しが、一度でも新聞に載ったことあるの?」
「う」
「ぐ」
 僕たち二人は言葉に詰まってしまった。
 先生がしぼり出すような小さい声で反論を試みる。
「大家、新聞に載らない大事件だって、この世の中にはたくさんあるのだよ」
「じゃあ例えば? 言ってみてよ。どんな事件?」
「あー、それはそのー、だな」
 しまった、先生はすっかり追い込まれてしまっている。
「守秘義務というやつでな、詳しくは言えん」
「なによー、ちょっとくらい良いじゃない! じゃあ例えば、報酬が魚だった事件があったでしょ、一ヶ月前の。あれはどんな事件だったの?」
 ぷい、と顔をそらして、押し黙ってしまう先生。マズい。
「ちょっと、こっちを向きなさい! 本当は事件なんて無かったんじゃないの、ねえ!」
 良くない展開だ。
 このままだと僕たちは大家さんに働いてない疑惑をかけられて、借りているアパートでの立場が非常にマズいものなってしまう。
 意を決して、僕が説明を試みる。
「あのですね、大家さん。一ヶ月前の事件も動物に関わるものでした。港から狼男が」
「いや、狼だ、狼!」
 あわてた先生のフォローが入った。おっと、危うく荒唐無稽な事実を話してしまうところでした。
「そう、狼です。ロンドン動物園に運ばれる途中の狼が脱走してしまったので、それを追いかけて、無事依頼人に引き渡しました」
「へえー、そうなんだ。ちゃんと働いてるのね」
 大家さんから感嘆の声が上がる。よかった、信じてくれた。
「それで、なんで報酬が魚なの? それも大量の」
「はう」
 思わず変な声が漏れてしまった。
「そ、それはですね、遠くの海で竜巻が起きて、巻き上げられた大量の魚が降ってきて」
「え、ちょっと待って」
 じとーっとした視線が大家さんから飛んでくる。
「それ、報酬じゃないじゃない。拾っただけじゃない」
「あっ」
 しまった、そう言われてみればそうだ。
「いや、違うんだ大家。ワット君は記憶違いをしている」
 見かねた先生が、しぶしぶながら説明を引き受けてくれる。
「依頼人が現金の持ち合わせが無いと言うので、代わりに魚をくれたんだ」
「その人、現金持ってないのに仕事を依頼したの?」
 またもや疑わしそうな声。確かに、おかしな話ではある。
「……そうだ」
「どういう人なの?」
「いや、すまん。これ以上は話せない。さっきも言ったように守秘義務だ」
 早口で言い終えると、先生はむっつりと黙り込んだ。
 大家さんは追求をあきらめて、馬車の横を通り過ぎる景色を眺め始める。
「そう」
 なんだかちょっとだけ、悲しげなため息をひとつ。
「本当のことは言ってくれないのね」
 その言葉に、僕の胸がちくりと痛んだ。
 なんて言おう。なんて言えば、信じてもらえるんだろう?
「あの、大家さ」
「うわっ!?」
 そのとき突然、後ろから悲鳴が聞こえた。御者さんの声だ。
「どうしたんですか、御者さん!」
 振り向いて、屋根の後ろに開いた戸口から御者さんに話しかける。
「い、いや、きっと見間違いだろうと思うんですが……どうもそいつが、ずっと付いてきてたみたいで」
 御者さんがそろそろと、馬車の右側を指した。……って、僕に近い方じゃないか。
「なんです? 馬車の横に何か」
「お花を買ってください」
「うわあっ!?」
 いま驚いたのは僕だ。壁越しとはいえ、急に耳元で女の子の声がするもんだから。
 と思ったら、その声に聞き覚えがあることに気がついた。
「何事だ? ワット君」
「いえ、花売りの女の子が走って追いかけてきちゃったみたいです。パブのところで、僕を乱暴な酔っ払いから助けてくれたんです」
「助けた? 声からすると、まだ小さい子供みたいだが」
「ええ、でもとっても頑張り屋さんで、芯が強い子なんです。ほら、見えます? 一生懸命走ってるでしょ」
 僕は先生を持ち上げて、窓から女の子を見せてあげた。
「……そのようだな」
 あっけにとられた様子でそれだけ感想を言うと、先生は何かを考え始めた。
 先生をひざの上に戻す。
「あら、さっき助けてくれた子ね! こんばんは!」
 大家さんが呼びかけると、壁の向こうから返事が聞こえてきた。
「はい、こんばんは、奥さま」
「やだー、もう奥さまだなんて」
「お花を買ってください」
「そうね、お礼がまだだったものね! じゃあひとつ……」
「あー、ちょっと待て、大家」
 急に先生が話に割り込んできた。
「なによ、お花買ったら悪いの?」
「いや、それは構わないんだが、ひとつだけ気になる点があってな」
 そこでちょっと間を置いて、言葉を継ぐ。
「この馬車を、この子はずっと追いかけてるのか? 乗ったところからずーっと」


 ぞくっ、と、辺りの空気が冷え込んだ気がした。
 そうだ。馬車はずっと走っている。
 それなのに、女の子は僕の真横をキープしている。
「け、結構な速度で走ってますよね、この馬車」
「お花を買ってください」
 壁越しにくぐもった女の子の声が聞こえる。
「ああ。大人ならこの馬車にだって追いつけるだろうが、それでも全力疾走に近い。さらに言えば、馬車に俺らが乗り込んでもう五分ほど。その間この速度を維持出来るなら、相当な健脚の持ち主だろうな。しかもこの子ときたら、パブからずっと走り通しなんだろう?」
「お花を買ってください」
 その声がひどく無機質なことに、今さら気づいた。
「ち、近道してきたんじゃない? ずっと走ってたわけじゃなくて、休憩しながら」
 大家さんが若干の期待を込めて言う。
 が、先生は首を振った。
「路地を使って近道したとしても、たかがしれてる。結局馬車並みの速度が出なければ追いつけないだろう。それに、休憩しながらはなお悪い。その場合、馬車より速くなけりゃ追いつけん。それにだ、俺たちがこの子と話し始めてからちょっと時間が経ってるが」
「お花を買ってください」
 またくぐもった声。
「この通り、息ひとつ切れてない。走りながら余裕で会話している。小さい子供なのに」
「お花を買ってください」
 もう一度窓に近づけば姿も見えると思うが、出来れば見たくない気分だ。
「じゃ、じゃあ、あの子、なんなの? どういうことなの? 何が起きてるのよ?」
 大家さんが声を震わせながら、僕の横に居る存在を指差す。
「お花を買ってください」
 先生が必死に恐怖を押し殺した声で、僕に告げた。
「よし、じゃあもうひとつ推理しよう。こいつはたぶん、人間じゃない」
「その犬をください」
 言うが早いか女の子が突然目の前の空中に現れ、僕たちの真ん前に着地した。
 ドスンッ!
 地面を蹴って跳躍したのだろう。すごい運動神経だ。
「うわ、乗ってきたあ!」
「きゃああ!」
 女の子が立っているのは、馬車に乗るときに使う床の部分だ。つまり、僕たちと女の子との距離は半ヤードも無い。
 僕と大家さんはあわてて後ろに逃げようとしたのだが、すぐに不可能だとわかった。
「顔色が悪いクセにずいぶんと健脚だな、化け物め! そこをどけ、前が見えないだろう!」
 先生が女の子……いや、化け物を挑発する。
「うわ、ば、化け物だあ!」
 御者さんの取り乱した叫び声が、夜の街路にこだました。
 ときおりすれ違う通行人たちが、みんな悲鳴を上げているのがわかる。
「なんで刺激するんですか先生、危ないですよ!」
 こんな近くに正体不明の化け物が居るっていうのに、さらに挑発するだなんて。
 僕ときたらそんな余裕は無く、身体が硬直して言うことを聞かない始末だ。
「落ち着けワット君、こいつは人間じゃない……なら、すべきことは決まっていたな」
 先生の言葉に、僕は少し落ち着きを取り戻した。
「あ、そうでした。いつものやつですね」
「そうだ、順番にいこう」
 素早くポケットをまさぐり、手のひらに収まる物体を取り出す。
「くらえ、ニンニク・アターック!」
 僕は思いきりニンニクを化け物に投げて、ぶつけた。
 すこーん。
 間抜けな音を立ててニンニクは跳ね返り、どこかへ飛んでいく。
 肝心の化け物は、ニンニクの当たったオデコをちょっとさすっただけだ。
「効果ありません!」
「なるほど、こいつは吸血鬼じゃないことがわかった。よし次!」
「はい! くらえロザリオ!」
 ロザリオ(十字架がくっついた数珠のようなもの)をポケットからたぐり出して、化け物からよく見えるように掲げ、神への祈りをささげる。
「父と子と聖霊の御名において。
 恵みあふれる聖マリア、主はあなたと共におられます。
 主はあなたを選び祝し、あなたの子イエスも祝福されました。
 神の母、聖マリア。
 罪深い私達のために……って、あ、ちょっと! そっち行かないで!」
 祈りの途中で軽く呆れるようなため息が聞こえたかと思うと、化け物はこちらに興味を失い、大家さんのほうに向かおうとし始めた。
「きゃあっ! こっち来ないで!」
 大家さんは犬を力一杯抱きしめて、なるべく遠ざかろうと、椅子の上で縮こまる。
「くそっ、悪魔が取り憑いてるわけでもない! おいそっち行くな! こっちだ! おい!」
「こっちですよこっち! このオタンコナス! トーヘンボク!」
 背後で大騒ぎされたのでさすがに気になったのか、化け物がこちらを向いた。
「よーしこっち向いた! ええい、これをくらえ!」
 僕はポケットから小瓶を取り出すと、コルクの栓を抜いて、中身を化け物にぶちまける。
 ぱしゃーっ。
 化け物は無言のまま手で顔を拭くと、また大家さんの方を向いた。
「聖水効きませーん!」
「ああもう、悪霊とか亡霊の類でもないのか! じゃああいつは、いったい何だ!」
「ちょ、ちょっと、来ないで! ワンちゃんは渡さないわ! わたしがしっかり抱いてるんだから、あきらめなさい!」
 気づくと、大家さんと化け物で犬の引っ張り合いになっている。
 大家さんは犬の身体を抱き、化け物は大家さんの腕を持って引きはがそうとしていた。
「ちょっと、そんな無理やりはがそうとしないでよ! いたたた! 痛い!」
「その犬をください」
「お断りよ!」
 これじゃ犬どころか、大家さんまで危ない。
「大家! 犬を放せ! そいつの狙いは犬だ! お前まで危ないぞ!」
「いやよ! 放さないから!」
 大家さんは犬をしっかり抱きしめて、放そうとしない。
「放してください! 報酬はあきらめましょう!」
「報酬の問題じゃないわ!」
 思いがけない言葉に、僕は一瞬だけ、キョトンとしてしまった。
「わたしはね、あなたたちがちゃんと事件を解決するところが見たいの! 今度こそ、今度こそ絶対に、解決させてみせるんだから! 本当は腕の立つ人たちなんだってことを、世間に証明して見せるんだから!」
「大家さん……」
 そんなに、僕たちを心配してくれていたのか。
「ワット君! 拳銃だ!」
「えっ」
 先生の鋭い言葉に、我に帰る。
「銀の弾丸ですか? あれは狼男なんかじゃ」
「普通の弾丸でいい! ダメージはあるはずだ!」
「あ、はい!」
 そうか、そういう普通の手段を失念していた。
 さっそく拳銃を取り出し、化け物に向ける。
 もみ合っている大家さんに間違っても当たらないように、慎重に狙いを定め、撃った。
 パアン!
 ビスッ。
 鈍い音がしたと思うと、化け物はふらりと倒れ、馬車から落下した。
「よし、馬車から落ちたぞ! 見事脳天に命中だ、よくやったぞワット君!」
「ありがとうございます……あ、大家さん、大丈夫ですか?」
 席に座ったまま肩で息をする大家さんに近づき、肩に手を置いて、顔をのぞきこむ。
 顔色が悪い。半分は疲労のため、半分は恐怖と混乱のためだろう。
「ええ、なんとか、ね。楽勝よ」
 その弱々しい声を聞くまでもなく、強がりだろう。
 抱いている犬も、くーん、と不安げな声を出す。
 先生が後ろを向き、御者に命令した。
「御者! ちょっと飛ばしてくれ、早いところこのご婦人をお送りしたい!」
「もう目一杯飛ばしてますよ! あれは一体なんだったんです!」
「さあ、俺らにもわからん!」
 ガシャアアン!!
 突然、近くに何か重い物が落ちて壊れた音がした。
 ヒヒーン!
 同時に、馬の混乱した鳴き声。
 馬車がガクッと急停止したので、僕たちは前のめりに落ちそうになってしまう。
「おい御者! なんで止めた!」
 先生が後ろを向いて怒鳴る。先生に至っては、本当に落ちるところだったのだ。
「道がふさがっちまったんです! 進んでたらつぶされてましたよ!」
「なに? 一体どういうこと……」
 僕たちは御者の指差す方を向き、そして言葉を失ってしまった。
「なんで、道の真ん中でハンサムキャブがつぶれてるんだ? それも目の前で」
 先生があっけにとられながらも、当然の疑問を口に出す。
「なんだか、高いところから落ちてきたように見えますよ」
「御者は? 馬はどこだ?」
「先生、前を見て居ないってことは、もしや後ろから飛んできたんじゃ」
「いや、まさか。そんなバカな」
 僕たちはそのまま考えを止めようかと思ったが、やっぱり出来なかった。
「ちょっと僕、後ろ見てみますね」
「ああ頼む。俺はもう見たくない」
 後ろをそーっと振り返り、一通り状況を確認すると、戻る。
「どうだった?」
「やっぱり、馬と御者は後ろに居ました。馬のベルトを無理やり引きちぎって、馬車と切り離したみたいです」
「生きてるか?」
「はい」
「で、誰がやったんだ?」
「決まってるじゃないですか」
 僕は声の震えを押さえることが出来ない。
 奴はゆっくりと歩いて、馬車に近づいてきた。足音がどんどん大きくなる。
「なるほど、当然だな」
 先生も恐怖している。隠しているが、やはり声で分かる。
 
 
 ギ、ギギッ。
 誰かが馬車に乗り込んでくる音。
 僕の目の前に、例の化け物が居た。ゆっくりと、大家さんに腕を伸ばす。
「その犬をください」
 僕は頭が真っ白になってしまい、ただ浅い息を繰り返すばかり。
「あ、あ……」
 大家さんに至っては、化け物に向かって目を見開き、放心状態だ。
 わん! わんわん!
 犬の吠えかかる声が聞こえ、僕は意識を取り戻した。
「や、やめろ! 大家さんに手を出すな!」
 上着から拳銃を取り出し、発砲する。
 パアン!
 バシッ!
 だが慌てていたせいか、今度は化け物の手に当たってしまった。
「手に当ててどうするんだ、ワット君!」
「しまった外れた……ああ、犬が!」
 化け物は改めて大家さんに手を伸ばし、犬をさらってしまう。
 きゃん! きゃん!
「犬を頂きました。ありがとうございます、奥さま」
 化け物がしっかりと犬を抱き、お辞儀する。
「フロックハートさまもお喜びになります。では、さようなら」
 化け物はそう言うなり、
 バアアン!
 床に鋭い衝撃が走ったかと思うと、逃げてしまった。信じがたい距離をジャンプして。
「あんな高いところへ、一瞬で……?」
「くそっ、逃げられた!」
 先生が歯がみする。
 化け物の跳んだ先を見ると、満月をバックに何かが跳ねているのがわかった。
 共同住宅の屋根から屋根へ、軽々と飛び移る人影。
「まったく、どうなってるんだ。信じられん」
「あれ、大家さん? 大家さん!」
 いつの間にか意識を失ってしまった大家さんのほほをペチペチ叩いてみるも、反応が無い。
「死んだのか?」
「死んでません! 眠ってるだけです! 縁起でもない」
「悪かった、冗談だ。それにしても」
 満月を仰ぎ見る先生。
「あの化け物は、いったい何者なんだ?」
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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