明日から書く。

□ ゾンビ同居中Z。 □

【#3】フレンド

 桑潟県(くわがたけん)、加尾長市(かおながし)。
 西田井家。
 優しくおだやかなゾンビであるロメ子だが、今日は珍しいことに激怒していた。
「二年ですよ!? 二年!!」
 ピースサインを出しながら、普通の青年、西田井へ覆いかぶさるようにして叫ぶ。西田井の視点からすると喰われそうで怖い。
「あのタイミングで二年半ほっぽらかしってどういうことですか! あれじゃ『主人公が捕まって終わり』みたいな、あんまりなオチかと思われるじゃないですか!」
 両手を上げた西田井が、おっかなびっくり言った。
「あの、二日だと思うんですけども。あとオチって……?」
 何か言いかえそうとしたロメ子だが、ふいに口を閉じる。
 怪訝な顔になって言った。
「二日?」
「二日です」
 ロメ子は死んだ魚の目をぱちぱちさせて何かを考えた。ちょっとカレンダーを盗み見る。
 しかしすぐに気を取り直して、再び西田井に詰め寄った。
「と、とにかく! 通報するなんてひどいじゃないですか! しかも二日も迎えに来てくれないなんて」
「ですから、あれがロメ子さんだとわからなかったんですって。いろいろ探してて」
「言い訳無用ですっ!」
 ぷい、とロメ子はあさっての方向を向いてしまった。
 部屋は静まりかえり、ずっしりと気まずい空気が西田井にのしかかる。
「あの……」
「ふんっ」
 話しかけようとしたが、ロメ子は取り付くしまも無い。
 なすすべもなく、ただ立ち尽くす西田井。
 ぐぐう~。
 沈黙を破ったのは誰かの腹の虫であった。
 一瞬だけ腹をおさえたロメ子だが、はっと気付いて元のポーズに戻った。
 西田井は冷蔵庫に向かう。中から生肉のパックを取ってロメ子に差し出した。
「ロメ子さん、これを」
 しかしロメ子は目もくれない。やはり駄目か。
 いや、そわそわしている。
 意志の力をふりしぼって見ないようにしているのだ。
「特上サーロイン。買ってきました」
 瞬間、ロメ子の顔はステーキ肉に向いていた。


「あ。みぇーるひへる!」
「ロメ子さんほおばりすぎです」
 生のステーキ肉をリスのように口へつめこみながら、ロメ子は携帯をいじっている。いつもなら食事のマナーを注意する西田井だが、今回は大目に見ることにしていた。
 どうやらメールが来ているらしい。
「明日お友達呼んでもいいですか?」
 肉を食べ終えたロメ子が言った。もうすっかり笑顔だ。
 胸をなでおろす西田井。肉は高かったけど、ご機嫌が直って本当に良かった。
「って、お友達!?」
 ロメ子がうれしそうにうなずく。
「そうなんですよ。出稼ぎのわたしが心配でよくメールくれてたんですけど、こっちがどんな風なのか気になっちゃって、思い切って村を出て来たいんですって」
 しかし西田井は及び腰である。
「え、じゃあ、ゾンビ……?」
 小首をかしげて考えるロメ子。
「そうですねえ。そう言えるかも。同じ村の出身なので」
(ふーむ)
 西田井は目の前の少女を観察してみた。
 真っ白な顔、青い血管、灰色の瞳に真っ黒なクマ。
 最初はその風体におどろいたものの、今ではすっかりなじんでいる。ここにもうひとりゾンビが増えたところで迷惑になることもないだろう。ロメ子さんだって人畜無害だし。
「あ、泊まる場所は自分で探すそうなので」
 手をひらひら振りながらロメ子が言った。
 心配なのはそこでは無いとはいえ、西田井はうなずく。
「わかりました」
「やった! リカちゃんにメールしときます!」
(リカちゃんか)
 西田井は考えた。
 もしかしたら可愛い娘かもしれないぞ。
 ロメ子さんも特殊メイクを施したら美人なんだし、類は友を呼ぶかも。
 そう考えて、西田井はちょっとニヤケてしまった。



第三話【フレンド】



 翌日。
「たっだいまーっと♪」
 ご機嫌で帰宅した西田井は、部屋に誰か来ていないかさっそく見回した。
 だが誰もいない。押し入れを見てみたが、ロメ子もいないらしい。
「迎えに行ったのかな」
 ひとりごとを言い、頭をかく。
 部屋の換気をするため窓を開けた。外から夕方の匂いが漂ってくる。遠くの山でカラスが鳴いている。
「じゃあ顔でも洗って……」
 振り返り、ふと動きを止めた。
 部屋の真ん中に、なぜか水たまりがある。
 透明な液体がねばつく動きで畳の上を広がっていく。
 こんなもの、部屋に入るときは絶対に無かったはずだが……。
 ぽちょん。
 水たまりに何かが落ちてきて、そのまま馴染んだ。
 ごり。こりっ。
 頭上からかすかに、木を固い物でひっかくような音がした。
 西田井の背筋が凍りつく。
 先ほどまで気付かなかった、何者かのあえぐような息づかいが聞こえてくる。
 見たくない。
 だが仕方なく、ゆっくりゆっくりと頭上を見た。
 天井に化け物がくっついていた。
 大まかに人間の形だが、頭部は脳ミソが剥きだしであり、目は無い。身体中で筋肉が露出してしまっている。両手は骨からデタラメにツメを生やしまくったようで、原型を留めていない。
「キシャアアアア!」
 開いたキバだらけの口から、長い長い舌を出して吠える。舌からよだれが垂れた。
「ひぎゃああああああ!?」
 西田井は久しぶりに腰を抜かし、畳におもいきり頭をぶちあてた。
「どうしました!?」
 ロメ子が悲鳴を聞きつけ、大急ぎで部屋に入ってきた。
「ば、ばっ、ばばば化け物ののの」
 ロメ子の足下にすがりつく西田井。
 驚くあまり、言葉がまとまらない。
「あー、リカちゃんこっちに居たのー!」
 嬉しそうに化け物に向けて両手を振るロメ子。
「たすたす助け……え?」
 西田井の脳内がうまく整理されるまで、若干の時間を要した。


「こちら、リカちゃんです」
「シャアアア」
 ロメ子の隣に(犬のようなポーズで)座るリカちゃんが、長い舌を振り回してあいさつした。先端からよだれが畳に飛ぶ。
(それリカちゃう! リッカーや!!)
 思わず口から出かかった言葉をなんとかして飲み込む西田井。
「は、初めまして」
 納得はしていないものの、いちおう礼儀として頭を下げる。
「キュイークワッ」
 リカちゃんも深々と頭を下げた。
 西田井が頭を上げかけた所で、ツメだらけの馬鹿でかい両手が目の前に飛んできた。
「うわあっ!」
 思わず後ろにふっとんで、ファイティングポーズを取る西田井。
 が。
「クルルルル……」
 がっくり肩を落とすリカちゃんの両手の間には、なにやら菓子箱が不器用にはさまっている。
(あ、お土産渡そうとしただけ?)
「ちょっと西田井さん! なんで下がるんですか!」
 ロメ子もご立腹である。
 西田井は元の位置に座り直し、深々と頭を下げた。
「どうもすみません。ツメにびっくりしてしまって」
「キシュー」
 ロメ子がリカちゃんの通訳に入る。
「『気にしないでください、よくあることですから』だそうです」
 やっぱそうなんだ、と失礼を自覚しながら西田井は思った。
 仕切り直し、改めてお土産を受け取る。
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「クワウッ」
(なんだ、意外と礼儀正しくていい娘(?)じゃないか)
「えーと、ここまでどうやって来られたんですか? リカさんは」
「シュー」
 舌を恥ずかしげに(?)ぶんぶん振るリカちゃん。よだれが飛ぶ。
「『リカちゃんで結構です』って」
「あ、はい」
 すると突然、リカちゃんがどこからか使い古された折りたたみ式の携帯電話を取りだし、畳の上に置いた。
 ぱかっと開くと、ボタンを早打ちし始める。
 ピポポポポポピ、ピポポポ、ピポポポポポポピ!
 舌で。
(やっぱり舌の方が器用なのか……)
 目元がひきつる西田井。
 打ち終わると、携帯の画面をこちらに向けられた。
〈貨物船の船倉に乗ってきました!(恥ずかしい顔の絵文字)
 ちょっと普通の船には乗れないので(汗の絵文字)
 でも、慣れれば意外と快適なんですよ(ハートの絵文字)(笑っている顔の絵文字)〉
(なんでもない感じで言ってるけど可哀想だー!)
 西田井は思わず目頭を押さえていた。
「……ゆっくりしていってくださいね」
「キュワアアッ!」
「『ありがとうございます!』だそうです」
「いえいえ」
 しかし、そこで西田井の脳裏にある疑問がかすめた。
 どうやってリカちゃんは物を見ているのだろう?
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Date:2015/06/19
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