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□ ゾンビ同居中。 □

【#14】セブン・デイズ・ア・ウィーク(後編)

 夕方。
 ロメ子の家、居間。
 親戚一同(とその上あまり関係ない人まで)集まっての大宴会となっていた。
 畳敷きの床に穴が空きそうなくらい、人でぎっしり詰まっている。
 長机には並ぶ海の幸と、そして地元の酒。
「いやー、また会えてうれしかばい!」
 ロメ子の肩をばんばん叩くおじさん。
「まあまあ、飲んでくれんね、さあさあ」
 ロメ子の持つおちょこに日本酒を注ぐおばさん。
「ちょっと背が伸びたんじゃなかの?」
「そがんわけなかやろう、もう!」
 ちょっとボケた事を言うおじいさんと、強めのツッコミを入れるおばあさん。
 突然、居間の外の庭先が騒がしくなった。
 がさがさ、と草むらを踏みつぶす音がする。
「わあ、タラちゃんが入ってきてしもうた!」
 騒ぎを聞きつけて、巨大タランチュラが居間に入ろうと縁側をよじのぼっている。
「ああもう、みんなで外に出すーで!」
 立ち上がる男衆。
 四人ほどで抱えて、外に放り投げる。
「いち、にの、さん、そいっ!」
 ずしーん!
 タランチュラはひっくり返ったが、すぐに立ち上がってどこかへ去って行った。
「あはは、みんな相変わらずたいね」
 ほろ酔い加減で笑うロメ子。
 酒がうまい。魚もうまい。タランチュラは人懐っこい。
 ああ、帰って来たんだなあ、と思う。
 夢だけど。
 
 
 
第十四話【セブン・デイズ・ア・ウィーク(後編)】
 
 
 
 五時間後(夢時間)。
 再びロメ子の家、居間。
 今では倒れた死体の群れでぎっしり詰まってしまい、まるで何かの事故現場である。
「う、ううーん」
 死体が一体、頭を抱えながら起き上がった。
 ロメ子だ。
 目をばっちり開いたまま、安らかに眠る村人たちを見やる。
 全員がすっかり酔いつぶれてしまったようだ。
 ナップザックを見つけ、ひっつかむ。
 親戚たちの身体を踏まないようにして、慎重に居間から出た。
「ふー、だいぶ飲んだと」
 酔い覚ましに、縁側へ腰かける。
 脚をぷらぷらさせながら、まん丸いお月様を見上げた。
 そよぐ夜風が涼しくて、気持ちいい。
「そいにしても、まぁだ夢の中みたい」
 つぶやくロメ子。
 はて、いつ目覚めるのだろう?
「もうちょっとばい」
 思いがけず、近くで返答があった。


 いつの間にか、横におじいさんが座っていた。
 先ほどの宴会には居なかった顔だ。
 やけに時代がかった着物を着て、キセルをぷかぷかさせている。
 ほとんど毛の無い頭、顔に刻まれた深いシワと、そして優しい微笑み。
 ゾンビ化しておらず、人間の特徴を保っている。
 ロメ子はこの人物に覚えがあった。
「ひ、ひいじいちゃん!?」
「そうたい」
 深くうなずく、ひいじいさん。
「で、でん(でも)、じいちゃんは死んだととに」
「夢なら、なんでんアリばい!」
 あははは、と大声で笑うひいじいさん。
 なるほど確かに、とロメ子は納得した。
 納得したので、ひいじいさんに抱きつく。
「会いたかったよ……」
 ひいじいさんはロメ子の頭を、ぽんぽん、と叩いてくれた。


「そうだ、家族にはおーたか(会ったか)?」
 落ち着いて涙を拭くロメ子に、ひいじいさんが聞いた。
「あっ、おーておらん!」
 驚いてハンカチを落とすロメ子。
 そういえば、先ほどの宴会に家族は出ていなかった。
 ロメ子がポリポリとほほを掻きながら言う。
「たぶん、オイ(わたし)が会いづらいから夢に出てこないんて思う」
「やっぱい、まぁだ仕事は終わっとらんか」
 こっくりとうなずくロメ子。
 ひいじいさんは責める口調では無かったが、やはりうつむいてしまう。
 ロメ子の様子を見て、ひいじいさんが何かを着物から取り出した。
「まあ、こいば忘れとっようじゃ当たり前やろうな」
 取り出した物を見て、ロメ子は目を丸くする。
「そうばい、そいば忘れとった!」
 ロメ子は両手をお椀のようにして、それを受け取った。
 四角く、細長い箱。
 箱の表面には、大きく開いた傘のマークが描かれている。
 開けて中身を確かめると、ロメ子はそれを慎重にナップザックへしまった。
「こいもたい。ほれ〈変装キット〉」
「おお、ありがとぉ!」
 今度は大きめの箱を手渡される。
 笑顔で中身を確かめ……ているうちに、ロメ子はある事に気づいた。
「あれ、こい夢ばいね? 今もろうても意味ないんじゃ?」
「ありゃ、そいもそうたいね」
 ロメ子はがっくりと肩を落とした。


 二人は満月を見つめながら、じっと黙っていた。
 ふいに、ひいじいさんが話を切り出す。
「二人暮らしの方はどがんか? うもういっとっとか(うまくいってるのか)?」
「実は……ちょっとケンカばしてしもうた」
 ロメ子の視線が、空から地面へと落ちた。
「オイが悪かと。西田井さんは、オイば心配して言ってくれとるの」
 脚をぷらぷらさせながら、続ける。
「そいやとに、オイ、ひどか事ば言ってしもうた。もう帰れん」
 ぷらぷらを止めた。
「やっぱい、迷惑やったと思う。ボチボチ出て行こうて思おとったし……ちょうどよかと」
 風が吹き抜けた。
「ひどか男ばい、そん西田井とかいう奴は」
 吐き捨てるように、ひいじいさんが言った。
 ロメ子が顔を上げる。
「なあんも言わんで一週間泊まらせて、そいで『やっぱい迷惑だけん出て行ってくれ』、なんて。そんげん迷惑て言うなら、始めに断るべきやろう」
 キセルを一口吸って、続ける。
「出て行け出て行け、そがん家。そいで帰って来たらよか」
「で、でん」
「でんじゃなか。普通の男なら、迷惑と思っとっ奴ば平気な顔で一週間も泊めたりせん。そん西田井はよっぽどの変人たい。早く別れた方がお前んためばい」
 ロメ子は驚いて、ひいじいさんを良く見た。
 怒っているように見えるが、実は違うように思える。
「……やっぱい、迷惑なヤツば一週間も泊めたりせんかな?」
「そりゃそうばい、一日、二日ならともかく。別に泊める義理もないやろう?」
 言われてみれば確かに、とロメ子は思った。
 しかし、別の可能性もある。
「でん、西田井さんがよか人だけん(良い人だから)かもしれんし」
「家ば突然追い出すようなヤツが、よか人なわけなかやろう。だけんさっさと帰って……」
「追い出されとらん!」
 思わず、ひいじいさんの言葉を遮っていた。
「オイが勝手に出て行ったと。西田井さんは止めたとに、オイ、飛び出してしもうて」
 驚いた顔のひいじいさんだったが、すぐにキセルの先でロメ子の頭を軽く叩いた。
「あたっ!」
「そいなら早うそう言わんか! すっかり勘違いしとった」
 また一口、キセルを吸う。
「可愛いひ孫が、悪か男に騙されとるんじゃなかかとな。ワイはこまか(小さい)頃からなあんも変わっとらんな」
 頭を押さえるロメ子を見て、笑みが漏れた。
「そん人は正真正銘のよか人ばい。心配しとっから、早く帰りなさい」
「うん、わかった」
 苦笑いするロメ子。
 悩んでいたのが馬鹿みたいだ。
 ふと、ひいじいさんの姿が揺らめいた。
 まるで、二人の間に見えない水面があったかのように。
「じ、じいちゃん!?」
「ああ、心配しなくてもよかばい。夢が終わるだけやけん」
 落ち着いてキセルを吸うひいじいさんだけでなく、座っている縁側や、周りの庭や、空の月や、その他全ての物が陽炎のようにグニャグニャと歪んでいく。
「じいちゃん!」
「今度は西田井くんば連れて、墓参りにでん来んね……」
 ひいじいさんは世界を巻き込んで消える間際、こう言った。
「……使命ば果たしなさい、我がひ孫よ」
 世界が消えた。




「――さん! ロメ子さん!」
 ロメ子は目覚めた。
 気がつくと元のベンチの上に寝ていて、西田井にほっぺたをペチペチされていた。
「ん……西田井さん?」
 むくりと起き上がる。
 身体から何かが、ぽろぽろとはがれ落ちた。
 雪だ。
 空模様を見ようとしたが、急に西田井がぶつかってきたので、出来なかった。
 力一杯、抱きしめられる。
「え、え、西田井さん? ちょっと、ちょっと!」
 あわてて背中をタップするが、離してくれない。
「良かった……生きてた……ぐす、良かったよおー……」
 西田井のすすり泣く声が聞こえてくる。
 ロメ子はタップするのをやめ、代わりに自分も西田井の背中に腕を回した。
 しばらくそのまま、お互いが存在する事を確かめる。
 辺りはもうかなり暗い。
 夕方から夜に変わる時間帯で、しかも雪を降らす黒雲が空を覆っているのだ。
「本当にごめんなさい、ロメ子さん。言い過ぎました」
 西田井が身体を離すと、深く頭を下げた。
 頭を振るロメ子。
「いんにゃ、オイが悪かと。西田井さんの言ったことは、何ちゃかんちゃ(全て)正しいとから」
 顔を上げた西田井が目を丸くしているのを見て、ロメ子は口を覆った。


「じゃあ、ロメ子さんは夢の中で里帰りしてたんですね」
「そうば……そうです」
 なかなか直らないなあ、とロメ子は恥ずかしげに口を押さえる。
「それ、直さなくてもいいんじゃないですか? 方言可愛いじゃないですか」
「か、かわ!?」
 見る見る顔が(相対的に)赤くなっていくロメ子。
「あ、えーと」
 西田井も気づいて赤面し、顔を逸らした。
 逸らしたままで、話を戻す。
「それにしても本当に、無事で良かったです。ロメ子さんが出て行ったとき、すごく後悔して……すごくひどい事をしたんだってわかって」
「いえ、そんなことは」
「ロメ子さん」
 西田井が突然、ロメ子と視線を合わせる。
 否定の言葉を口にしようとしていたロメ子が、驚いて口をつぐんだ。
「出来ればその、もう少し、僕の部屋に居てくださいませんか」
 今度はロメ子が目を丸くする番だった。
 頭を掻きながら、情けない顔をする西田井。
「ロメ子さんが居ないと、意外と寂しいんですよ。出来れば、でいいんですけど……」
「い、居ます!」
 食い気味に答えてしまうロメ子。
 二人とも驚いて、ちょっと黙った。
「よ、よかった。あはは」
「あははは」
 嬉しさと照れで、思わず笑ってしまう二人。
 こつん。
 ロメ子の手が、自分のナップザックに当たった。
「あり?」
 なんだか硬い感触があったような気がしたので、ナップザックを開けてみる。
 そこには、なんと〈変装キット〉が入っていた。
「う、うわあああ!」
 思わずナップザックから身を引いてしまう。
「え!? ど、どうしたんです!?」
「いえその、夢でもらったはずのモノが……えええ!?」
〈変装キット〉を恐る恐る取り出し、天に掲げる。

 ロメ子は 〈変装キット〉を てにいれた!

「夢だけど、夢じゃなかった……ユメダケド、ユメジャナカッタ……」
 ぶつぶつと、支離滅裂なつぶやきを漏らすロメ子。
「あれ、ロメ子さん。そっちの細い箱は?」
「え? うわ、こっちも!?」
 細い箱を取り出し、西田井から見えないように中身を確かめる。
 さっきと同じように、天に掲げた。
 
 ロメ子は なぞのはこを てにいれた!

「それ、なんなんです?」
「い、いやー、アハハ」
 ロメ子は笑顔で誤魔化したが、西田井は深く追求しない事にした。


 西田井が乗ってきた自転車を押して、二人で歩いて帰る。
 はて、とロメ子が気づいた事を聞いてみた。
「あの、よくわかりましたね、ここに居たって」
「いやもう、どこをどう探したのか覚えてませんよ。偶然です」
 苦笑いの西田井。
「ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました」
 深く頭を下げるロメ子。
「本当ですよ」
 やっぱり許してもらえてないのか、とロメ子は肩を落とす。
 が、すぐに西田井が言葉を継いだ。
「だから、もう失踪したりしないでくださいね。部屋でゲームしてていいですから」
「……はい」
 ロメ子は顔を上げて、微笑んだ。
「そうだ、帰ったら『パタポン』のやり方教えてくださいよ。今日やってたやつ」
「いいですよ! あれすんごい難しいから、覚悟してください」
「本当ですかー? ロメ子さんがリズム音痴なだけじゃないんですか?」
「うぐ。そんなことない、ですよ。ええ」
 二人はゲームの話をしながら、たっぷり時間をかけて、家に帰った。
 その途中で、西田井がふとつぶやく。

「にしても、誰の仕業なんでしょうね?」
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Date:2014/05/20
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