明日から書く。

□ ゾンビ同居中。 □

【#13】セブン・デイズ・ア・ウィーク(前編)

 お昼の西田井家。
 ドン、ドン、ドコ、ドコ。
 シャン、シャン、シャン、シャン……。
 何やら不思議な、祭りめいた音色が響く。
 鳴り止まぬ音楽を聞きながら、厳粛な面持ちで正座するロメ子。
 張り詰めた空気の中で口を開き、こう呪文を唱えた。
「ぱた、ぱた、ぱた、ぽん!」
 どこからか届く、子供のような声が呪文を復唱する。
『パタ パタ パタ ポン!』
 ロメ子は携帯ゲーム機を持っており、音と声はここから出ているらしい。
 呪文の“ぱた”と“ぽん”に合わせ、全身を使ってボタンを押し込む。
「ぱた、ぱた、ぱた、ぽん!」
『パタ パタ パタ ポン!』
「ぽん、ぽん、ぱた、ぽん!」
『ポン ポン パタ ポン!』
 西田井が携帯電話から顔を上げ、何事かと声をかけた。
「あのー、ロメ子さん」
「ぽん、ぽん、ぱた、ぽん!」
『ポン ポン パタ ポン!』
 どうやら聞こえていないようだ。
「ロメ子さーん」
『フィー、バー!』
 突然の雄叫び、一気にお祭りムードが盛り上がる。
 渾身のタイミングでボタンを押し込み続けるロメ子。
「ぱた、ぱた、ぱた、ぽん!」
『パタ パタ パタ ポン! うー、やっほいほい!!』
 ファインプレーだったらしく、小さくガッツポーズする。
 相手の耳元まで近づいて、西田井が叫んだ。
「ロメ子さんってば!」
「ふぎゃあ!?」
 びくりと驚き、ゲーム機を落としてしまうロメ子。
『ガッカリー……』
 が、すぐに拾い上げる。
「あー! 西田井さん何するんですか! コンボが途切れちゃいましたよ!」
 片手でゲーム機を振り回しながら怒るロメ子。
「す、すみません」
 なんとなく謝ってしまう西田井。気が弱いのである。
 ぐしゃー!
 何かがつぶれたような効果音に、ロメ子が再びゲーム画面をのぞき込んだ。
「ぎゃー! しし死んじゃいました! 何するんですかー!!」
 風を切って振り回されるゲーム機。
「……すみません」
 大分釈然としないながらも、西田井は謝った。
 
 
 
第十三話【セブン・デイズ・ア・ウィーク(前編)】
 
 
 
「一週間です」
 西田井が携帯電話でカレンダーを表示し、ロメ子へ突きつけるようにして言った。
 ゲーム機を持ったまま、黙り込んでしまう同居人。
 携帯電話が、もう一段階ロメ子の顔へ近づく。
「一週間です」
 なんとかカレンダーから目を逸らすものの、さらに携帯を近づけられてしまう。
 黙り込む二人。
 仕方ないので、ロメ子がわざとらしく小首をかしげながら言った。
「え? いっ、しゅ……?」
 携帯が、ぎぎぎぎ、とロメ子の右眉辺りを圧迫し始める。
「いたたたたた!?」
「一週間です」
「わかりました! わかりました!」
 ようやく携帯電話が顔から離れた。
 眉毛をさすりながら、ロメ子が恐る恐る口を開く。
「……一週間、経っちゃいましたか」
 携帯をコタツに置きながら、西田井が重々しくうなずいた。
「そうです」
「えーと、ここに来るときに同居は一週間って言ったんでしたっけ? わたしが?」
「そうです。全力で『パタポン』やってる場合じゃないんです」
 再び静まりかえる部屋。
 ロメ子はなるべく話を進めたくなかったので、とりあえずゲーム画面に視線を戻した。
「ぽ、ぽん、ぽん、ぱた、ぽん」
「ロメ子さん!!」
「ヒィ!」
 だが怒られたので、とりあえずゲームは終了させた。
 
 
 西田井が軽く咳払いして、話を続ける。
「この際なので、言っておきたいことがあるんです」
 ロメ子は思った。絶対に楽しい話題では無い。
 というか、西田井がこんなに真剣な顔をしている所、久しぶりに見た気がする。
「ロメ子さん、あなたはここに来てから」
 すうう、と西田井の人差し指がロメ子に向けられる。
「ゲームしかしてないじゃないですかー!!」
「げっふう!」
 言葉にアゴをがつんとやられ、ロメ子が畳に倒れ伏す。
 普通ならKOものの衝撃である。
 だがロメ子は力を振り絞って起き上がり、なんとか反論を試みた。
「だ、だって、外にも出られませんし」
「そうですか……だったら、あなたは」
 またもや、すうう、と西田井の人差し指がロメ子を捉える。
 両腕をクロスさせ、衝撃にそなえるロメ子。
「何のためにここに居るんですかー!!」
「いだぶっ!」
 対ショック姿勢の甲斐もなく、後ろ向きに吹っ飛ばされて頭を打つロメ子。
 少し経って、よろよろと起き上がった。
「う、うう、ひどいです」
「ひどいじゃありませんよ!」
 満身創痍のロメ子に、容赦ない西田井のお説教が続く。
「大体、こっちには出稼ぎに来たんでしょう!? それがなんですか、この部屋で毎日毎日ゲームばっかり!」
「うう」
 正論過ぎて全く言い返せないロメ子は、ただただお説教の乱打に耐えるしかない。
「そもそも、先の見通しが全然立ってませんよ! 村の人たちも心配してますよ?」
「ううう」
 やはり言い返せないロメ子。両手で耳をふさいで耐える。
「変装キットを取り寄せるなり、方法はあるはずですよ! それもしないで(以下略)」
 西田井のお説教がクドクドと続く間、ロメ子は耐えていた。
 必死に耐えていた。
 だが、人には誰しも限度というものがある。
 ぶちん!
 何かが切れた音がした。
「も、もういいですっ!」
 突然ロメ子が大声を出しながら立ち上がったので、西田井がビックリして口をつぐんだ。
「に、西田井さんの……西田井さんの……」
 げんこつで両目をぬぐう。
 目に入った自分のナップザックをひっつかんだ。
「おたんこなすびーっ!」
 叫びながら部屋を飛び出す。
 後ろから西田井の声が聞こえたが、ロメ子は止まらなかった。
 
 
「はあ……」
 ロメ子は近くの山の中腹、道路沿いのベンチの上で白い息を吐いた。
 すっかりぬるくなったペットボトルの緑茶を飲み干す。
 なんだか情けないし、みじめな気分だ。
(わたし、やっぱり迷惑だったのかな……)
 西田井は何も言わなかったが、本当はそう思っていたのかもしれない。
 くす、と苦く笑う。
(当たり前か)
 突然押しかけて同居を決めて、何も思わないはずもない。
 両手で緑茶のペットボトルを握りしめた。
(これからどうしよう?)
 ベンチからは、夕焼けに燃えるような加尾長市が一望できた。
 気温はすっかり下がってきて、氷点下に達しようとしている。
 ずっとここに居れば、おそらく凍死するか、じきに動けなくなるだろう。
(でも……)
 目をつむる。
 今はとにかく、ここに座っていたかった。
 刺すような空気を味わっていたかった。
(もう、いいや)
 いつの間にかロメ子はベンチに身体を横たえ、眠りに落ちていた。
 
 
 
 
「うーんん」
 少しして、身体を起こす。
 と同時に、両目をパチクリさせた。
 なんと、加尾長市の市街が消え失せていた。
 代わりに山の斜面に沿って、美しい棚田が広がっている。
 階段のような田んぼのすぐ向こうには、広い海と小さな島々。
 見上げれば、青空と白い雲。
 塩気の混じる空気が髪をなぶった。
(ここ、わたしの村だ)
 ロメ子は帰ってきていた。
 棚田を見下ろす位置にある、農道の脇に座っているらしい。
 田んぼの中には、稲を収穫するゾンビたちがたくさん見えた。
 ロメ子の目の前の道を、たわわに実った稲束を積んだ荷車が横切る。
 体長三メートルもあろうかというタランチュラが引っ張って、運んでいるのだ。
 のどかな景色である。
(なんだ、夢か)
 ロメ子はぼんやりと理解した。
 懐かしい。
 タランチュラが通り過ぎると、突然何かに視界がふさがれる。
 右から左に流れる縞模様。
 今度は胴回りが三メートルありそうな巨大蛇が、ずるずると道路を進んでいるのだ。
 おとなしいが、この蛇が居る間は誰も通れなくなる。
 手を伸ばして、ちょっと触ってみた。
 しっとりとして冷たい。
 風景、匂い、感触。
 ここまで故郷の記憶が鮮明なことに、ロメ子は驚いた。
「あれ、ロメ子ちゃんじゃなかね!?」
 誰かに声をかけられたので再度びっくりし、横を向く。
 農家のおじさんがこっちに走ってきていた。
 大きな麦わら帽子を被り、首に巻いたタオルで汗を拭いている。
 もちろんロメ子と同じように肌は真っ白で、目も死んだ魚のようだ。
 近くまで来ると、ロメ子の両手を持ってぶんぶん振る。
「いつの間に帰って来とったとか! 本当に久しぶりたいねえ!」
「あ、あはは」
 笑っていたおじさんが、ふと小首をかしげた。
「でん(でも)、もう仕事の終わったとかい?」
 しまった、さすがに帰ってくるには早すぎたらしい。
(ど、どう説明しよう?)
 苦笑いしながら、ロメ子は知恵を振り絞った。
「ち、ちょっと、忘れ物があったけん、そいで帰って来たとよ」
「そうねそうね! まあ、ゆっくりしていってくれんね」
 ぽんぽん、と肩を叩かれる。おじさんの弾けるような笑顔。
 故郷の相変わらずの様子に、ロメ子は安らぎを覚えた。
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Date:2014/05/20
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