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□ 我輩は猫探偵(ねこたん)である。 □

助手と大家、少女と再会する

 それは女の子だった。二時間前にコメディー劇場の前で出会った、花売りの子だ。
「おいそこをどけ、ガキ。そいつ殴れねえだろ」
「お花を買ってください」
「わかんねえガキだな。お前も殴られてえのか?」
「お花を買ってください」
 あくまでも譲らず、ひるむこともなく、酔っ払いをまっすぐに見つめる女の子。
 そのまま、数瞬の時がゆっくりと流れる。
 すると意外なことに、音を上げたのは酔っ払いの方だった。
「ああ、くそ。興が冷めちまった」
 帽子を取り、頭をくしゃくしゃとかきながら、酔っ払いは僕に背を向ける。
「俺はもう帰って寝る。そいつを放してやれ」
 僕の両腕にかかった圧力が消えた。
 腕を押さえつけていた男たちも、どこかに行ってしまう。
「ったく、あんな栄養失調のガキなんざ殴れるかっつうの、卑怯だぜ……」
 ブツブツ文句を言いながら、酔っ払いは家に帰っていった。
 僕は腕をもんで血流を回復させながら、立ち上がる。
「あたた……ありがとう、本当に助かったよ」
「どういたしまして」
 しゃがみこんで、女の子の頭をなでてあげた。それにしても、本当に顔色が悪い子だ。
「助手さん!」
 大家さんがあわてて駆け寄ってきた。
「あ、大家さん。お怪我はありませんか?」
「それはこっちのセリフよ! もう、なんで挑発なんてしたの? 危ないでしょう!」
「挑発?」
 はて、なんのことやら。あと、なんで大家さんは顔が赤いんだろう。
「わ、わたしのこと……結婚してるみたいに言ったじゃない。名前で呼んだりして」
「あー、それはそうした方があきらめるかと思ったんですが……逆効果でしたねえ」
 なぜかちょっとため息をついて、大家さんがそっぽを向く。
「あんまり、あの手は使わない方がいいと思うわ。今後」
「はあ、わかりました」
 なんでこっちを見てくれないんだろう? なれなれしくしすぎて嫌われたかな?
「あの、お花を買ってください」
「あら、そうだった。この子へのお礼がまだだったわね」
「お花を買ってください」
 あまりに一生懸命なその様子に、くす、と大家さんが笑う。
「わかったわ。じゃあもうひとつ」
「おーい! ワット君! 大家! そっちに犬が行った! 捕まえてくれ!」
 突然パブの方から先生の声が聞こえた。
 そちらを見ると、猛烈な勢いでブルドッグが走ってくる。
 探していた犬だ。ド派手な首輪をしているから間違いない。
 その首輪にかかった巨大な水晶の輝きに、酔っ払いたちがどよめくのがわかる。
「わ、そっちに行きましたよ大家さん!」
「任せて! こっちに行くと見せかけて、こっちと見せかけてこっち!」
 きゃん! きゃん! くーん。
 大家さんが見事なフェイントで犬を追い詰め、抱き上げた。
「よっしゃゲーットお!」
「さすが大家さん! やってくれる!」
「やった! よくやったぞ大家!」
 先生も走り寄ってきた。
「どこに居たんです?」
「ああ、このパブの裏に隠れてた。夜な夜な変な物音がすると店主が言うから調べてみたら、見事大当たりというわけさ」
「なるほど、確かにこんな大きな水晶を付けてたら」
「動物より人間に狙われちゃうもの……ね……」
 なんだか周りが静かになっていることに、僕たちは気づいた。
 さっきまではやかましいくらいだったのに、今は静寂が耳に痛いほどだ。
 酔っ払いが全員、こっちを見ている。ひとり残らず。
 先生が僕の肩の上に乗り、小声で提案する。
「ワット君、大家、ここから逃げようと思うんだが」
「そうしましょう、先生」
「わ、わかったわ」
 先生がカウントダウンを始める。足並みをそろえるためだ。
「では、三、二、一で行くぞ。三……二……一! 今だ!」
 その瞬間僕たちは駆け出し、さらに周囲が、うおーっ! という怒号に包まれた。
「ごめんね、お花後で買うからー!」
 大家さんが女の子に謝ったが、果たして聞こえているものかどうか。
 女の子を遠く背後に残し、僕たちは全速力で走り続けた。
 
 
「はあ、はあ、はあ!」
 これは僕。
「ひい、ひい、ひい!」
 これは大家さん。
「ほら、早く早く!」
 これは先生。
「その犬をわたせええええ!!」
 これは僕たちを後ろから追いかけてくる、総勢四十名以上の酔っ払いの皆さん。
 走る前にビールを飲んでいるだけあって、道の途中で転んだりお互いにぶつかったりして失格者をかなり出したものの、途中で通りかかるパブで人員がなぜか補給されるため、結果としてあまり人数は減っていなかった。
「ワット君、こっちだ! こっちの路地に!」
 先生が今走っている道と直角に伸びている路地を指差した。そっちは道幅が少し狭いから、今よりは追いかけにくいだろう。
「了解です!」
 素早くターンする僕。
「わわ、待って待って!」
 なんとか追いつく大家さん。
「まあああてえええええ!!」
 なんとか追いつく総勢四十名以上の酔っ払いの皆さん。
「うわわわ、まだ付いてきますよ!」
 正直、あの物欲にとりつかれた顔の大群衆を見たら、恐怖しかわいてこない。
 端っこの人なんて、民家の壁で肩が削れそうになっているのに。
「なんちゅう執念だ。大家、犬を放すなよ!」
「わかってるわよ、うわーん!」
 もう半泣きの大家さん。
「よし、大通りに出たぞ!」
 どうやら僕らはコマーシャル・ストリートに出たらしい。
「おい、おーい馬車止まれ! おーい!」
 先生が腕を大きく振って、道行く馬車を止めようとする。
「止まってくださーい! うわ、もう追いついてきた! 大家さん逃げますよ!」
 僕は再び、コマーシャル・ストリートに沿って走り始めた。
「えーん、馬車止まってー!」
 大家さんもそれに従う。
「とおおまああれえええええ!!」
 総勢四十名以上の酔っ払いの皆さんもそれに従う。
 大通りをばく進する、人のカタマリ。もはや歩道も車道も関係ない。
 車道を走る馬車ですら、事故を避けるために道を譲る始末だ。
 そんな中、一台のハンサムキャブが歩道脇で客待ちをしているのが見えた。
 素早く、半ば飛び込むようにして乗り込む。先生は僕のおひざの上。
「わわ、なんですか急に?」
 御者が乱暴な乗車に文句を言う前に、
「全員乗ったな! 早く出してくれ、御者!」
 先生が鋭く命令した。
「どこに行くんです?」
「テムズ川の方へ走れ、早く! 追っ手が居るんだ、今すぐ出せ!」
「追っ手?」
 御者さんが後ろを振り返り、叫び声を上げる。
 血走った目の(加えて言えば血走った赤ら顔の)群衆が、道も狭しと押し寄せていたからである。
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Date:2014/04/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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