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【#11】おかわりいただけるだろうか

「ただいま帰りましたー、ってうわ暗っ」
 コンビニのビニール袋をぶら下げながら、西田井は自室のドアを開けた。
 大学から帰ったら食べるものが一切無いことに気づき、買い出しに出ていたのである。
 なぜか部屋は真っ暗になっていた。だが停電ではないらしく、テレビ画面だけは明かりを灯している。
「おかえりなさい」
 ロメ子がテレビから顔も離さずに答えた。これはいつも通りだ。
 ……が、様子がおかしい。
「あれ? ゲームじゃないんですね」
 いつもなら、バイオハザード系のゲームで同族狩りの真っ最中だろう。
 しかし今は、テレビ画面の前で体育座りになり、固まったようになっている。
 西田井がロメ子の後ろから画面をのぞいてみると……。
『これは、大学生の投稿者が夏休みに、山中のバンガローで行われるセミナーに参加した際の映像である』
 いかにもホームビデオで撮った風の荒い映像に、生気のない低い声が被さる。
 どうやら怪談系の番組らしい。季節外れもいいところである。
 場面はバンガローの中だ。
 並んだ学生たちが、和やかな雰囲気の中、順番にマイクを握って自己紹介をしている。
 と、映像が終わった。
『さて、どこに霊が映っていたか、おわかりいただけただろうか』
 出来ればあんまりおわかりいただきたくないなあ、と視聴者に思わせつつ、映像が最初から再生される。
 と、急に画面の一部分がアップになった。
『窓枠に女性の人影が映り込んでいるのが、おわかりだろうか』
 ロメ子の身体が感電でもしたかのように、びくんと跳ねる。
 確かに映り込んでいた。そこに居るはずのない女性が、窓から中をのぞき込んでいる。
 西田井も思わず、小さく悲鳴を上げた。
『このバンガローで無念の死を遂げた女性の霊が、セミナーに参加したがっているとでも言うのだろうか……?』
 知るかい! と視聴者に思わせつつ、番組はCMに入る。
 西田井が大きく息を吐きながら、部屋の電気を点けた。
「いやー、怖かったですねえ~」
 ロメ子からの答えはない。
「ねえ、怖かったですねってば」
 ちょっと肩を突っついてみた。
 ごろん。
 ロメ子が体育座りの姿勢のまま、床に転がった。
「ろっ、ロメ子さーーーん!?」
 顔は完全に血の気を失って、まるで大理石のようだったという。
 
 
 
第十一話【おかわりいただけるだろうか】
 
 
 
「ご心配おかけしましたー」
 あははと苦笑いしながら、頭に手を置くロメ子。
「何事かと思いましたよ。もう」
 ヤカンを火にかけながら、やれやれとため息をつく西田井。
 意識はすぐ戻ったのだが、あれは心臓に悪い。
 西田井はロメ子の対面に座ると、事の原因を明らかにする作業に取りかかった。
「で、なんでああなったんですか?」
「そのー、ですねえ」
 言いにくそうに、ロメ子が目の前に置かれた生肉をびよんびよん引っ張って遊ぶ。
 少し経って、顔を上げた。
「怖い話が苦手で」
「……じゃあ、さっきは怖すぎて失神したって言うんですか?」
 うなずくロメ子。
 漫画かよ、と西田井は思った。いくら恐がりとはいえ、限度というものがある。
(んん?)
 西田井が何かに気づき、突然こたつの天板を両手で叩いて立ち上がった。
「異議あり!」
 叫びながら、戸惑うロメ子に人差し指を突きつける。
「怖いものが苦手……ならば、なぜ先ほどのテレビ番組を見ていたのですか!」
 背後に雷が走る勢いで、ロメ子がショックを受ける。
「そ、それは、その……たまたまやってたので」
「異議あり! 怖いのなら、すぐチャンネルを変えれば良かったではありませんか!」
「あぐ!」
 言葉が質量を持ってぶつかって来たかのように、ロメ子がのけぞる。
 大きく息を吸い込み、西田井はとどめの一撃を見舞った。
「あなたは好きであの番組を見ていたんだッ! 部屋の電気を消して雰囲気作りまで周到に行って! 違いますか、ロメ子さん!!」
「あ……あ……」
 今度こそ、ロメ子は論破されてしまった。
 打ちのめされ、畳に両手をついてうなだれる。
「そうです、全て検事さんの言うとおりです」
 うなだれたまま、犯行を認める供述を始めた。
「わたしは怖がりなのに、怖い番組をついつい見てしまうんです。やめられないんです。ダメな女なんです、ダメダメダメ子なんです」
 ううう、と涙ぐむロメ子の顔の前に、西田井がそっと手を差し出した。
「ロメ子さん、自分を否定することはありませんよ。怖いもの見たさなんて、誰にでもある感情じゃないですか」
「西田井さん……」
 ロメ子はそのとき、西田井の笑顔に後光が差しているような気がした。
 まあ、ロメ子を追い詰めたのも西田井なのだが。
 差し出された手を取り、身体を起こす。
「あの、あ、ありがとうございます」
 もじもじと礼を言う。
「いえいえ。じゃあ、これは本当にあった話なんですけど」
「ええ。え?」
 スムーズに怪談が始まっていたので、ロメ子はあやうく聞き流す所だった。
 
 
「ぎゃー! ぎゃあー! あーあー聞こえなーい! くれー、なずむー、まちのー!♪ ひかーりと、かげのー、なーか!♪」
 目をつむったまま、両耳に手のひらを当てて騒ぐロメ子と、
「ロメ子さん落ち着いて! やめてます! もう話やめてます!」
 その肩をゆすぶって正気に戻そうとする西田井。
「ほ、ほんとですか……?」
 ロメ子がおっかなびっくり、そろそろと目(涙目)を開ける。
「ええ、ほんとですとも、ほんとですとも」
 西田井が激しく上下に何度も首を振ると、信頼と疑惑の間を揺れ動く表情で、そーっと耳に当てた手を離していく。
「でね、そのときトンネルの壁からにゅうっと赤い手が伸びて」
「ぎゃわー!」
 再び大騒ぎを始めるロメ子。
 しまった、またやっちまった。
 西田井は後悔した。
 ロメ子のリアクションが大きくて面白いので、ついついイジりたくなってしまうのだ。 これではしばらくの間、西田井が何か言うたびに警戒されてしまうだろう。
 あごに手をやって、打開策を考える。
 ぴん! (頭上に豆電球が灯る音)
 思いついた。
 またもや大声で歌を口ずさみ始めたロメ子の眼前に、西田井の手のひらが伸びる。
「落ち着いてください!」
 そのままたっぷり五秒、二人の動きが止まった。
 ロメ子が十分に落ち着きを取り戻したところで、はっきりと次の言葉を口にする。
「これは……怖い話ではありません!」
「え」
 きょとんとした顔になってしまうロメ子。無理もない。
 西田井が厳粛な面持ちで言葉を継ぐ。
「僕は『本当にあった話』をしようとしているだけです。それが怪談だとは一言も言っていませんよ」
「え、で、でも、さっき『赤い手が伸びて』って……」
 涙目のまま、弱々しく抗議の声が上がる。
「そうです。が、怖い話ではありません。信じてください」
 真剣なまなざしでロメ子を見つめると、そろーっと耳に当てた手が外れていった。
「……わかりました」
「ありがとうございます」
 咳払いして、話を続ける。
「それでですね、赤い手が」
「ぎゃー!」
「早い!」
 つい反射で大声を出してしまったロメ子を、またも揺すぶって正気に戻す西田井。
「ロメ子さん、早いです。ちょっとは聞いてください」
「す、すみません」
 正座のまま頭を下げるロメ子。
「よろしい。手はおひざ。ひざの上に乗っけて。よし。では続きを話します。何があっても耳をふさいだりしないでくださいね? いいですね?」
「ぐ……はい」
 若干納得はいっていないものの、ロメ子はうなずいた。
 
 
「では最初から話しますね。えー、その友達の友達をA君とします。
 ある蒸し暑い日にね、A君がコンビニの帰り、暗いトンネルを通ったんですよ。
 そう、そこにあるトンネルです。この家の近くの」
 怪談じゃないと言うわりに、西田井は声を落とし、地獄の底を見つめるかのような暗い表情で淡々と話をすすめる。
 もうこの時点でロメ子は大声を出したくなっていたが、そうもいかないので唇を噛んで耐える。
「そしたらね、突然、目の前にニュッと何かが垂れた。
 おや? なんだろうなー、なんてA君がそれをじいーっと見つめていると、ぶらぶら揺れているそれは」
 劇的効果を狙ったとしか思えない一拍の間を置いて、言葉を継ぐ。
「血まみれの、真っ赤な手だったんですよ」
「ぎゃ……」
 ロメ子は声を上げられなかった。西田井がジトっと見つめていたからだ。
 なんとか悲鳴を飲み込む。約束なのだから仕方ない。
「A君は怖くなって、悲鳴を上げながらトンネルを出ようとした。
 すると……赤い手がこう、言ったそうなー」
 突然語り口が民話調になったので、ロメ子はおや様子がおかしいぞ、という顔になる。
「『もしもし、そこの若いの。ちょっと頼まれごとを聞いてくれんかのう』
 A君は怖かったが、仕方なく話を聞くことにした。
『わしはの、このあたりで昔、戦争があったときにの。
 崩れた崖につぶされて、死んでしもうた、ものなんだがのう』」
 なんでおじいさんの口調なのかはわからないが、西田井の語りは続く。
「『ひとつだけ、心残りがあっての。許嫁が居ったんじゃ、若くて気立ての良い娘だった。
 しかし、わしが死んでしもうた今、その娘がどうしておるのか知りたくてな』
 そこで赤い手が、何かを持っていることに気がついた。
 若い娘が写っている、古い写真だった。
『この女の子ですか?』
 とA君が聞くと、
『そうじゃ。わしなどには不釣り合いな良い娘での。わしの事などさっさと忘れて、誰かと幸せになってくれとるといいんじゃが……まあ、あんたが知っとるはずもないな』
 赤い手はそう、少し悲しげに答えた。
 A君は、その写真に見覚えがあった」
 身を乗り出すロメ子。すっかりツッコミも忘れている。
「『あの、知ってます。これ』
 A君は財布から写真を取り出した。赤い手は心底驚いた様子でそれを受け取った。
『僕の、祖母です』
 A君は自分のおばあさんの話を始めた。おばあさんは戦争が終わった十年後に結婚し、自分の母を産んだこと。
 死ぬ間際まで腰も曲がらず元気で長生きし、自分を可愛がってくれたこと。
 でも許嫁が居たという話は、一度も聞いたことがなかったこと……。
『なるほどのう、なるほどのう』
 赤い手はとても、とてもうれしそうに笑った。顔があったら、涙を流していただろう。
『良かった、良かった! ははは、ははははは!』
 笑いながらすーっと消えて、見えなくなってしまった。
 最後にひとつだけ、A君は嘘をついた。でもそれで良かったと思った。
 赤い手はその後、もう二度と現れなかったそうな……おしまい」
 話を終えると、西田井は改めてロメ子の方を見た。
 ぽかーんとしている。
 いかん、やっぱり無理があったか、と思った直後。
「いい話じゃないですかー!!」
 突然大泣きされたので、西田井の方が驚いてしまった。
 
 
「ね? 怖い話じゃなかったでしょ?」
 ロメ子が落ち着いてから、西田井は声をかけた。
 ちなみに、ヤカンのお湯は温めなおしている。
「ええ、良かった……おじいさんが成仏できて本当に良かった……」
 すっかり騙されて涙を拭くロメ子に、西田井の心がちょっと痛む。
 しかし、一分も考えずにアドリブで語った話にここまで感動されるとは。
 ロメ子の将来(余生?)が少し心配である。
 ヤカンの湯が沸いたので、西田井はキッチンに立った。
 コンビニで買ってきたカップ麺のふたを開ける。
「あれ!?」
 そこで、何かに気づいた。
 
 
(最悪だ……)
 西田井は下宿を出て、コンビニにとって返していた。
 あろうことか、箸をもらい忘れていたのである。
 コンビニに行くには、先ほどロメ子に語った「あの」トンネルを通らなければならない。
 そんなに長いわけでもないが、中が暗いトンネル。夜は不気味である。
 さっきは無理矢理良い話にしていたが、よく考えたら「赤い手」なんてものがトンネルの壁から伸びてきたらメチャクチャ怖い。
 覚悟を決めて、トンネルに入る。
(出ない出ない、霊なんて出ない。お化けなんて居ないさ、お化けなんてウソさ)
 心の中で念仏のように唱えながら進む、と。
 壁からにゅっと手が突き出た。
「あー、すまない。ちょっとこの娘について……」
 手が喋ることもろくに聞かず、西田井は下宿へ向けて走っていた。
 
 
 
 
 その姿を見送りながら、中年男性が頭を掻く。
 トンネルの出口へ急に現れただけで、ここまで驚かれるものだろうか?
 手に持った写真を眺め、
「あいつに、こんなゾンビと同居する度胸はなさそうだな」
 そうつぶやくと、コートの中に写真をしまい、帽子の位置を直す。
 聞き込みを再開するため、どこかへ歩き去った。
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Date:2014/05/20
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