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□ ゾンビ同居中。 □

【#10】現金に身体を張れ

 朝の西田井家。
 西田井がコートを着込みながら、
「あのー、大丈夫ですよね?」
 テレビの前でコントローラーを華麗に操り、ゾンビをさくさく殺しまくっているロメ子に声をかける。
「何がですかー?」
 ロメ子はテレビから目を離しもしない。
「僕が留守にしてる間です。ちょっと桑潟市の方へ行ってるので、何かあってもすぐは帰って来られませんからね?」
 桑潟市とは、桑潟県の県庁所在地であり、西田井家のある加尾長市からは電車で一時間ほどかかる距離にある。
 板石が(桑潟市の映画館でしか上映していない)新作の映画を観たいというので、それに付き合って西田井も出かけるのだ。
「もー、大丈夫ですよう」
「いや、こっち見て言ってください」
 渋々ながらロメ子がゲームをポーズ画面にして、西田井の方を向いた。
「大丈夫ですってば。そんなに信用できませんか?」
 ありゃ、ちょっと怒ってるな、と西田井は思った。
 全く心配しないのもどうかと思うが、かといって過剰に心配しすぎても、その人を信頼していない事になってしまう。
(そうだよな。いかにロメ子さんといえども、半日お留守番してる間で事件に巻き込まれたりもしないだろう)
 不安を振り切るように頭を振り、西田井は出かける事にした。
「……わかりました。それじゃ、いってきます」
「はーい。いってらっしゃーい」
 ドアが開き、再び閉じた。
 
 
 少し経って。
 ピリリリ! ピリリリリ!
 誰かの携帯が鳴ったが、ロメ子はゲームに没頭していた。
 きっと西田井の電話だろう。
 早く取ればいいのに。
(って! いま西田井さん居ないじゃん!)
 あわててゲームを一時停止し、自分の携帯電話に手を伸ばす。
「はい、もしもし!」
 そのまま、相手の話に耳を傾ける。
「え、俺? 誰ですか? 西田井さんですか? ……ああ、やっぱり!」
 またもや、相手の話を聞く。
 どんどんと、ロメ子の眉根が寄っていく。
「ええええ!?」
 床から浮くくらいの勢いで、大声を出しながら立ち上がる。
「に、西田井さんが事故を起こして、早くお金を振り込まないと留置場にー!?」
 あわてて部屋を出ようと走り出したが、方向を間違えて壁にぶつかってしまった。



第十話【現金に身体を張れ】



 というわけで、ロメ子は近くの銀行に入った。
 整理券を握りしめて、待合室のソファーに座って待っている……だけなのだが、心なしか銀行内がざわついている気がする。ヒソヒソ話も聞こえてくる。
 無理もない。
 なんといっても今のロメ子は、前日の夜(第九話)と同じ、すなわち「コートのフードを被って、マフラーを巻いて、おっきいマスクをして、サングラスまでかけてる」状態なのだ。
 怪しい人物、略して怪人である。
 しかし、親しい人物の起こした事故でパニックに陥ってしまっているロメ子には、周囲の状況に気を配る余裕など無い。
 なんとか早く、指定の口座に現金を振り込まないといけない。
 持ってきたナップザックに手を入れ、自分の通帳があることを確認する。こちらで暮らすために貯めたお金だ。だが、他ならぬ恩人――西田井を助けるためなら仕方あるまい。
「あのー、大丈夫です?」
 ふいに声をかけられ、ロメ子は我に返った。
 声のした方を見ると、隣に座ったおばあさんがロメ子の顔をのぞき込んでいた。
 クシャクシャに丸めた紙をもう一度伸ばしたような顔には、相手を心から気遣う表情が浮かんでいる。のみならず、背を丸めた小さな身体全体から、人の良い雰囲気が発散されているような気がした。
「ずっと震えてらっしゃいますけど」
 おばあさんの少し薄くなった白髪を眺めながら、ロメ子はどう答えたものか、と思った。
 まだパニックの最中にある頭で考えてから、慎重に答える。
「えーと、ちょっと寒くて」
「あら、マフラーを巻いてらっしゃるのに……?」
「う。えー、その、風邪を引いてまして」
「あらあー、それは大変ねえ」
 おばあさんはそう言ったかと思うと、自分のポーチをゴソゴソやりはじめた。
「今ちょうどね、カイロを持ってるの。いくつかあげましょうね?」
「あ、いえ、せっかくですけど」
 ロメ子は手を振って断ったのだが、
「はい、これ」
「……ありがとうございます」
 使い捨てカイロを、ヒザの上にどっさり乗せられた。
「四十二番のかたー!」
 ロメ子がコートのポケットにそれを全部詰め終わったとき、受付が次の客を呼んだ。
「あ、わたしだ! それじゃ、失礼します」
「はい、それじゃ」
 軽く一礼しておばあさんと笑顔を交わし、カウンターに向かおうと腰を上げる。
 が。
 
 ズドオン!!
 
 突然、背後で何かが爆発したような音がした。
 
 
 
「金を出せえええ!!」
「静かにしろ、てめえら!」
「動くんじゃねえええ!」
 目出し帽を被った三人の男が、入り口付近で拳銃を振り回している。
 言うまでもないが、銀行強盗である。
 ロメ子はソファーに座りながら、頭を抱えてしまった。
 なんでこんなときに。しかもあんなベタな。
 強盗の内の一人が、カウンターにボストンバッグを置いて、そこに金を入れろと銀行員に要求している。
 拳銃を向けられ、怯えながらも命令に従い、札束を詰めていく銀行員。
 詰めている間も、強盗は早くしろと大声で急かし続ける。
 そのとき。
 
 ズガアン!
 
 またも銃声が鳴り、店内に悲鳴が響き渡った。
 見ると、一番端のカウンターそばの壁に、銃弾の痕が出来ている。
「てめえ! 防犯スイッチ押そうとしやがったな!?」
 言われた銀行員はガタガタと震えながら、
「いえ、いえ、そ、そんなことは」
 と涙声で反論する。
 だが、再度強盗が拳銃を天井に向けて発砲したので、すっかり静かになった。
(どどどどどうしよう……)
 ロメ子は頭を抱えながら、パニックの極地である。
(このままじゃ、西田井さんが留置場で夜を明かすハメに!)
 もともと混乱していたため、優先順位を完全に見失っていた。
 ハッ、と顔を上げる。
 そしてコートのポケットに、ゆっくりと手を突っ込んだ。
 
 
 コートの胸元から、熱くなった使い捨てカイロを突っ込んでいく。
 ひとつ入るたびに体温が上昇し、段階的に時間の感覚が変質していくのを感じる。
 強盗がカウンターで拳銃を振っているが、まるで王侯貴族をうちわで扇いでいるかのような、優雅な仕草に見える。
 低い声で何かを言っているようだが、熊がうなっているようにしか聞こえない。
 隣で、おばあさんがうっかりペンを落とした。
 空中を床に向かって進んで行く。プールの中で鉄の棒が落ちる様子は、たぶんこんな風だろう。
 ロメ子は手を伸ばし、それを受け止めた。
 少し動くたびに、身体中で抵抗を感じる。まさにプールの中で歩こうとしている状態だ。
 これぐらい〈加速〉すれば大丈夫だろう。
 全身に粘っこくまとわりつく空気を感じながら、ロメ子は立ち上がった。
 強盗が気づく前にソファーの背を蹴って、カウンターに向かって飛んだ。
 
 
 競泳のスタートのような体勢で身体を伸ばして飛んだおかげで、カウンターへ到達する事が出来た。
 ソファーを蹴った音に強盗がようやく反応し、ノロノロとこちらを向こうとする。
 ロメ子はすかさず、拳銃を掴んで引っ張った。この速度では床の摩擦力が信用ならないので、カウンターの端を持って自分が滑らないようにする。
 拳銃はあっけないほど簡単に強盗の手から外れ、ロメ子の手に収まる。
 カウンターを持ったまま、強盗のヒジとヒザを拳銃で叩く。
 硬いものを砕いた感触。
「ガ、グ、ア、ア、ア、ア、ア」
(ロメ子にとって)数秒経って強盗の口から叫びが漏れ始めたが、もうロメ子はカウンターの壁を蹴って、次のターゲットに向かって飛んでいた。
 
 
 ソファーの背を順番に蹴っていき、銀行の入り口付近に向かって進む。
 急がなければ、そろそろ普通の人間にも反応出来るだけの時間を与えてしまっているかもしれない。
 最後のソファーの背を(誰も座っていなかったので)ひときわ強く蹴り、なんとか強盗の目の前に到達する……が、そこで止まることが出来ない。
 今度は掴まるものが無かったため、強盗の身体自体を利用することにした。
 競泳のクイックターンの要領で身体を丸めて反転し、相手の腰を蹴る。
 カーリングのストーン同士がぶつかって跳ね返る様子に似て、ロメ子と強盗は正反対の方向へ飛んだ。ロメ子は元のソファの辺りへ、強盗は銀行の壁へ。
 
 
 ソファから最後の強盗へ向けて飛ぼうとした矢先、目の前が真っ暗になった。
 すぐに意識は戻ったものの、また急速に遠のいていく。
(しまっ……た、もう息が……)
 ロメ子とて、無限に〈加速〉状態でいられるわけではない。
 筋肉や骨、脳や内臓の疲労および破壊も起こるが、最大の問題は「呼吸」である。
〈加速〉中は血液中のグリコーゲンを消費し、いわば無酸素運動を行っている状態だ。
 なぜなら、肺が空気を取り込む速度だけは変えられないからである。
 だが〈加速〉開始から(ロメ子にとって)三十秒あまりが経過し、グリコーゲンが枯渇した今、すぐにでも酸素を取りこまなければならない。
 さもなければ死だ。
 ロメ子の意思に反して、時間の感覚が元に戻っていく。
 低すぎて聞き取れなかった音――強盗の泣き叫ぶ声や、客の悲鳴など――が序々に耳に入ってくる。
 足先が地面に触れ、身体全体が順番に、ゆっくりと着地していく。
 三人目の強盗がロメ子に気付き、拳銃を向けようと動いている。
(もうちょっとだけ……待って!)
 ロメ子は一人目の強盗からもぎ取っていた拳銃を、最後の力を振り絞り、三人目の強盗目がけて投げつけた。
 
 
 ガキン!
「がっ……!?」
 バンッ!!
 ドサッ。
 
 
 三つの出来事がほぼ同時に起きた。
 強盗の頭に拳銃が命中し、ロメ子に向けられていた拳銃が動いて何も無い床を撃ち抜き、そしてロメ子が床に落ち、強盗が倒れた。
 普通の速さに戻った時間の流れの中で、ロメ子はぐったりと床に横たわり、動けなくなっている。
 口を覆うマフラーすら外せず、混濁する意識で一心に浅い呼吸を続ける。
 銀行中が喧騒に包まれて、混乱しているのがわかる。
 しばらくして、誰かがロメ子に走り寄ってきた。
 使い捨てカイロをくれたおばあさんだ。
「あなた、大丈夫?」
 ロメ子は答えようとしたが、激しく咳き込んでしまう。
「げほ、げほげほ!」
 おばあさんの助けを借りて、なんとか身体を起こすことが出来た。
「いつっ!?」
 腹筋に痛みが走り、思わず声に出てしまう。身体を動かすたびに、どこかの筋肉が痛む。
「大丈夫? どこが痛いの?」
「……全身です。お怪我はありませんか」
「それはわたしのセリフよ、あんな無茶して」
 ロメ子の荒い呼吸を少しでも楽にしようと、おばあさんがマフラーを外してくれた。
 血色の悪い肌が露出する。
 おばあさんの目が見開かれるのを見て、ロメ子はしまった、と思った。
「大変だわ。だいぶ顔色が悪いわ。すぐに救急車を」
「あ、だ、大丈夫です」
 自分の手で、素早くマフラーを戻す。
 全身に力を込めて、無理やり立ち上がった。
 銀行内を見渡す。倒れている強盗が三人、そして自分を好奇の目で見つめてくる人たちがたくさん。
「じゃあその、わたし、帰ります」
 ふらふらとおぼつかない足取りでソファに戻り、ナップザックを背負った。
 早足で銀行を後にしようと歩き出したロメ子に、おばあさんの声が届く。
「あなた、お名前は?」
「うじわ……ああ、えーと」
 反射的に本名を名乗ろうとして、あわてて止めた。
 そこで、ぱっと脳裏にひらめく名前があった。子供のころ、大好きだったヒーロー。
 ちょっとその名前を拝借しても、たぶん怒られないだろう。
「わたしの名は、月光仮面です! とおっ!」
 精一杯の速度で走り出し、銀行から出る。
 背後からバラバラに、「月光仮面ありがとー!」と声援が飛んだ。
 
 
 
 
 その日の夜。
「えー、『銀行強盗三人を素手で撃退、謎の少女。[月光仮面]名乗る』……ですって、ロメ子さん」
 西田井が野菜炒めをつつきながら、携帯の画面に映ったニュースを読み上げる。
 コタツの反対側で生肉をつついていたロメ子が、なぜか肉を落とした。
「へ、へえー。いたたた」
「? どうしたんです?」
「いえ別に、あはは」
「はあ」
 相手が何か隠しているような気がしたが、西田井は聞かないことにした。
 ちなみに、ロメ子は銀行へ行った目的を完全に忘れていた。
 それほど、〈加速〉は脳への負担も大きいのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
「ええ、見つけました。今度こそ間違いなさそうですよ」
 どこかの暗い部屋。ひとつのパソコンモニター、そして一人の男だけが浮かび上がる。
 電話で誰かと話しているようだ。
「そうです、〈加速〉です。ええ、直ちに現地へ向かいます」
 二言三言交わしてから電話を切ると、モニターをもう一度眺めた。
 そこには西田井が見ていたのと同じニュース……そして、桑潟県、加尾長市の市街図が映し出されていた。
「迎えに行くぞ」
 誰にともなく、つぶやいた。
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Date:2014/05/20
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