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【#9】僕らのカコへ順回転

「お散歩行きたい行きたい行きたーいー! ぎゃー!」
 おなじみの知苑荘、西田井の部屋で、おなじみでない光景が展開されていた。
 ロメ子が畳の上で腕と脚を振り回しながら、駄々をこねているのである。
 その様子を腰に手を当てながら眺めていた西田井が、重々しく口を開く。
「そりゃ同じ部屋に缶詰だと飽きる、というのは納得しましたけど……」
 ロメ子によく聞こえるように、ゆっくりと言葉を継いだ。
「まだ三日ですよ?」
 がば、とロメ子が上体を起こしたかと思うと、叫ぶ。
「いえ、なんだか三ヶ月くらい閉じ込められてる気がします!」
 二人はしばらく見つめ合ったが、
「……出かけましょうか」
 西田井が根負けして、目を逸らした。



第九話【僕らのカコへ順回転】



「と! いうわけでございまして。やってまいりましたー!」
「いえーい」
 目的地の前で小さくパチパチパチ、と拍手する二人。
「これからこちらのビデオ屋さん、『ビデオアイン』でビデオを借りまして、帰りに近くのゲーセンに寄りたいと思いまーす。それじゃあ早速、店内の方へ」
 ビデオ屋に入ろうと歩き出す西田井の肩を、なぜかロメ子がガッチリ掴んだ。
「あのー、西田井さん西田井さん」
「なんでしょう」
「なんでわたし、コートのフードを被って、マフラーを巻いて、おっきいマスクをして、サングラスまでかけてるんですか? もう夜ですよ?」
 なるほどロメ子はその通りの格好をしていた。そして、外はもう日の落ちる時間である。
 なぜその格好をさせられている途中で言わないんだ、と西田井は思ったが、軽く咳払いをして答える。
「なぜなら、ロメ子さんが変装キットを村に忘れてきたからです」
「おぐッ」
 まるで腹をパンチされたかのような、くぐもった悲鳴を上げるロメ子。
「もしここでウワサでも立って〈傘社〉の耳に届いたりしたら、ロメ子さんは強制送還ですよ? おそらく」
「ぐ、ぐうう」
「じゃあ、行きましょうか」
 問答無用とばかりに、すたすたと歩いて行ってしまう西田井。
「……はい」
 若干涙声になりながらも、ロメ子は後を付いていった。
 
 
「わあああ! 広いですねえええ!」
「わー! しー! うるさい! うるさい!」
 店内に入るなり、感極まった様子で叫んでしまうロメ子。
「だってホラ、あっちのアニメのコーナーだけでTS○TAYA一軒建ちそうなくらいありますよ!? 一体どうなってるんですかここら辺の客層は!?」
 店内の客が何人か、びくりと身体を震わせるのが見えた。
「さ、さあ、大学生が多いんじゃないですかね。それに看板の所にビデオが十万本あるって書いてありますし、相対的にアニメも多くなりますよ」
 それにしても、三十年以上前に放映していたマイナーテレビアニメのビデオテープが平気で全巻そろっていたりするので、品揃えは偏っているかもしれないが。
「んじゃ、あっちの洋画の方に行きましょう」
 ぐいぐいと押すようにして、ロメ子を店内の隅の方へ連れて行く。
「あれ?」
 ロメ子が何かに気づいた。
「どーしました」
「このお店、二階部分がありますよね?」
 その瞬間、ドクン、と西田井の心臓が強く打った。
「え、ありましたっけ?」
「ええ、外から見たらありそうだったんですけど……階段とか見当たらないし……」
「あーじゃあ、倉庫じゃないですか!? きっと倉庫ですよ、だからスタッフだけ行けるんです、そうそう」
「はあ……」
「んじゃ洋画コーナーへレッツゴー!」
 半分くらいしか納得していない様子のロメ子をぐぎぎぎぎ、と押し進めていく。
 その途中で、西田井は密かに冷や汗をぬぐった。
 
 
 しばらく進み、目的地付近に到着。
「さて、どういうの借ります?」
「んーと……」
 サングラスを外したロメ子が目を閉じて(珍しい)熟考し、しかるのち答えた。
「有名スターがいっぱい出てて、笑って泣けてスカッと出来て、ド派手なVFXを使っててストーリーも面白くて結末が意外で……それで、観終わった後に人生がより良くなるような教訓に満ち満ちている作品を」
「ありません」
 西田井は言い切った。いや、あるのかもしれないが、自分は知らないし探すのにも手間取るだろう。
 手近の戸棚に身体を預けてしまったロメ子を引っ張って戻しつつ、とりあえずの方針を考える。
「それじゃあ、思い出の作品探しなんてどうですか? 子供の頃に観て大好きだった映画とか」
 その言葉に、ロメ子の目が輝き出す。
 が、すぐに(元通り)死んだ。
「でも、結構古い映画ですよ? なんせ五十年前ですし」
「楽勝楽勝。『クラシック』の棚はこっちです」
 戸棚の森を突っ切って歩いて行く西田井の背中を追いながら、ロメ子がふと思いついたことを口にした。
「場所がどこか、すぐにわかるんですね?」
「ええ、まあ。月に一回は必ず来てますからねえ」
 西田井が苦笑いしながら答える。
 なんせ、ここらは娯楽が少ないのである。


「こ、これは」
 ロメ子は目的地にたどり着くやいなや、さながら夢遊病者のような足取りで、ふらふらと手近のDVDケースを手に取った。
「これ、『雨に唄えば』じゃないですか! え、こっちは『チャップリンの独裁者』、『モダン・タイムス』!? えええ、『オズの魔法使い』に『キートンの大学生』まであるなんて……!」
 目に入ったDVDを手に取っては驚いているうちに、ロメ子は両手に二十本以上のケースを抱えてしまっていた。
「TSUT○YA知ってたのに、『クラシック』のコーナーは知らなかったんですか?」
 ちょっとにやつきながら、西田井は声をかけた。
 やはり人が喜んでいる様子を見れば、自分も嬉しくなるものなのである。
 と、突然ロメ子が西田井の方を振り向き、こう言った。
「これ全部借りたいです~……」
「ええええ!?」
 自分を破産させたいのか、と西田井は二、三歩後退する。
「全部好きな映画で決められません~」
 そんな震えるチワワのような眼差しで見つめられても、ダメなものはダメである。
 西田井は決然とした態度を貫くことにして、ハッキリと告げた。
「ダメです。一本に決めてください」
 その瞬間、ロメ子はがっくりと肩を落とし、うなだれてしまった。
 はしゃぎまくっていた先程とは正反対で、まるでお通夜だ。
 西田井はその様子を眺めながら、だんだんと自分が悪い事をしてしまったような気分になるのを感じていた。
 小さくため息をひとつ、もう一度口を開く。
「わかりました、五本までOKにします。それ以上は譲歩できません」
「に、西田井さん……」
 顔を上げるロメ子と、恥ずかしげに目を逸らす西田井。
 まったく、なんでこうお人好しなんだ自分は。
「そこをなんとか十本になりませんか!?」
「なりません!」
 再び言い切った。


「ぬぬー、『雨に唄えば』は残すとして……あ、でも『オズの魔法使い』と被るか……でも両方いいところがあるしー……それにチャップリンとバスター・キートンに順位をつけろってのがそもそも無茶な話だしー。うーむむ」
 そうだ他人の客観的な意見を聞こう、とロメ子は顔を上げた。
「これどちらがいいと思、ってあれ?」
 西田井は居なかった。
 そういえばどの映画を残すか考えていてマトモに聞いていなかったが、「じゃあ僕は○○○の方を見てきます」とかなんとか言われたような。
 まるまるまる。よーく考えてみたが、そこがどうしても思い出せない。
(……まだ店内にいる、よね?)
 だんだん、ロメ子は不安になってきた。
 棚が林立しているせいで、店内は見通しが効かない。
 しかも戸棚の間にはケースを眺める客が挟まり、さらに視界を狭めている。
 うっそうと茂る戸棚の樹海が、地平線の向こうまで続いているような感覚。
 それに考えてみれば、ここからどうやって家に帰るのか、その道もロメ子は知らない。
 今回は携帯電話も持ってきていない。
 もし西田井に先に帰られたりしたら、自分はどうすればいいのだろう。
 警察に行こうにも、(見た目のせいで)自分が通報されかねない。
 さらに万が一、〈傘社〉の人間に見つかったりすれば。
(きょ、強制送還……)
 ロメ子の顔が(可能な範囲で)青ざめていく。
 気がつけば、ロメ子はDVDを急いで棚へ戻し、走り出していた。
 
 
「あれ?」
 西田井が「クラシック」のコーナーへ戻ってくると、ロメ子の姿は無かった。
 乱雑に戻されたDVDのケースが目に停まる。
 ついさっきまでここに居たみたいなのに、どこへ行ったのだろう。
 天井を一度見つめると、店内を探しに走り出した。
 
 
(どこ!? 西田井さん、どこ!?)
 半ばパニックになりながら、戸棚と戸棚の間、人と戸棚の間を縫うようにして、店の中を駆け回る。
 だが、どこにも西田井の姿は無い。
「クラシック」のコーナーに戻ってみても、ここにも居ない。
 店内を三周ほど回り終えたところで、ロメ子は今まで見えていたのに気に留めていなかった、いわゆる盲点に気がついた。
 謎めいたのれんが垂れ下がる、さりげなく設置されたどこかへの入り口。
(間違いなくセクシー系のビデオだ……)
 ゲンナリしながらロメ子は悟った。
 TSUTUY○に一度だけ行ったことがあり、のれんに「十八歳未満入場禁止」と書かれていたのを覚えていたのだ。
 入ったことは無い。無いが、もしかすると、西田井はこの中かも。
 他は全て見回ったわけだし……もう見るところは無いし。
 その場でぐるぐると歩き回って考えた末、ちょっとだけ見て戻ろう、とロメ子は決意した。
 不安と脅迫観念に背中を押されるようにして、のれんをくぐる。
 幸い、中に人は居なかった。
(いやいや、西田井さんも居なかったじゃない。無駄足じゃない)
 セクシーなビデオに囲まれつつ、何をホッとしているのか、と自分を戒めるロメ子。
 そこでふと、目の前にらせん階段がそびえ立っていることに気がついた。
(ええい、苺を食らわば皿まで!)
 こうなればとことんまで行ってやろうじゃないか、と階段を上り始める。
 でもどうせ通行止めなんだろうな、とロメ子は思っていたのだが……。
 広々としたスペースが、目の前に開けた。
 
 
 
 
 
 
「あ、ロメ子さん! こっちこっち!」
 意気消沈した様子で一階フロアをうろうろしていたロメ子を発見し、西田井は安堵の笑みを浮かべた。
 まったく、〈傘社〉に連行されたのかと思った。あまり心配をかけないで欲しい。
 ロメ子が西田井に気付き顔を上げた、が。
「ひ、ヒイ!」
 なぜか怯えている様子である。
 まるで自分が肉食獣か何かみたいじゃないか、と西田井は眉をひそめた。
 構わず走り寄ると、ロメ子が後じさり、壁に背中をぶつけた。
「どこ行ってたんですか? ずっと探してたんですよ」
「あ、あの、あの……」
 ロメ子は何かから自分自身を守るように、両腕で身体をきつく抱きながら、パクパクと口を開けたり閉じたりする。
 まるで自分が怪獣か何かみたいじゃないか、と西田井が再び眉をひそめたところで、ようやく言葉になった。
「に、二階に」
 世界が静止したかと思われた。主に西田井にとって。
 
 お互いに固まったまま、二秒か三秒の時間が過ぎていく。しかし時の流れが感じられるほど、水飴で出来た川のように遅い。
 
「え、え、あの」
 西田井が必死の努力の甲斐あって、ようやく口を開くことが出来た。
「み……見ました?」
 ロメ子が顔を逸らしながら、重苦しい雰囲気のまま答える。
「……エロスの、森を」
「ひぎゃああああああ!!」
 西田井は絶叫した。他のお客さんに遠慮することも忘れて絶叫した。
 二階を見られたのだ。
 あの場所、セクシャルなビデオが五万本(推定)所蔵された、店のワンフロア全てというまれに見る規模での十八歳未満閲覧禁止のオンパレードを。
 つまり、このビデオ屋の誇る十万本のビデオのうち、半分はそちらなのである。
「このビデオ屋さん、よく来るんですよね……西田井さん、見た目じゃわからないけど相当の欲求をため込んでるんですね……」
「やめてー! その犯罪者予備軍みたいな言い方やめてえー!」
 涙混じりの悲しい叫びが、広い店内にこだました。
 お客さんの何人かが、密かに涙をぬぐったと言う。
 
 
 二人は連れだって、店を後にした。
 大きな袋(DVD十本入り)を抱えて、ロメ子はホクホク顔。
 そして西田井は、財布が軽くなった上に心までえぐられたので、しょげたままである。
「西田井さん、元気出して下さい。お若いんですから、正常な欲求ですよ」
「DVDを自分の要求通りせしめておいて、良く言えますね」
「ま、まあまあ。そうだ、ゲームセンター行きましょう! ぱーっと遊びましょうよ!」
 ね、と笑顔を向けられて、西田井は少し笑う事が出来た。
「ええ、そうですね。よし!」
 気合いを入れて、一気に背筋を伸ばす。
「僕の太鼓の腕前を見せてあげますよ!」
「わー、楽しみです」
 ロメ子がぱちぱちぱち、と小さく拍手する。
 遠くから。
「……あの、なんで離れた場所に?」
「え!? あ、急に西田井さんが動いたので、ビックリして」
 西田井は再び肩を落とした。沈痛な面持ちで、まるでお通夜である。
「じょ、冗談ですよ! 冗談! ほら、ゲーセン行きましょう!」
「ええ、行きましょう。ぐす」
 この後太鼓のゲームを二人でプレイしたものの、スコアはなぜか上がらなかった。
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Date:2014/05/20
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