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【#8】ウォッチメン

 お昼である。
 朝のドタバタから、はや数時間。ロメ子と西田井は平和に昼食を食べていた。
 テレビでは某局の長寿番組、お昼休みのもはや定番となったあの番組が流れている。
「あ、『いいとも』だー」
 生肉を食べながら、テレビ画面にも貪欲に食いつくロメ子。
「言っちゃった」
 白飯を噛みながら、西田井はおでこに手を当てた。せっかく名前出さなかったのに。
 タモリの〈チャッ、チャッチャッチャ〉の動きで会場が静まった辺りで、ロメ子がふう、とため息をついた。
「『ウキウキWATCHING』歌わなくなっちゃったんですよね。まだちょっと慣れないなあ」
「そうですねえ」
「しかも『曜日対抗いいとも選手権』まで終わっちゃうなんて。なんだかどんどん変わっていっちゃいますねー」
 西田井が焼き鮭を取ろうとして、ふと動きを止めた。
「……詳しいですね? それずいぶん最近の話でしょう」
 ふふん、とロメ子がなぜか胸を張る。
「ええ、田舎では毎日見てましたから! 『笑ってる場合ですよ!』の頃からね!」
「へ、へえー」
 それは平日働いてないってことでは? と思ったが、西田井は黙っていることにした。
 ふとロメ子が遠い目になって、しみじみと在りし日の光景を語り始める。
「懐かしいですねえ……いつも『いいとも』の終わりになると、村人全員の元気な『いいともー!』がハーモニーになって、青い空に響いて消えていったものです」
 西田井は鮭を噛んでいる間、呆れ顔にならないように精一杯努力していた。
「ずいぶんと、なんというか……ノリノリですね。客席に居る気分なんですね」
「はい。もちろん、〈チャッ、チャッチャッチャ〉で拍手も止めますよ!」
 無意味に握り拳を作って力説するロメ子。
「拍手もしてるんかい! ……ん?」
 ちょっと考えて、西田井は違和感の原因に思い当たった。
「え、なんで村人全員で観てるんです? 仕事してないんですか? ていうか、個々の家で観てるでしょ? なんで青空に『いいともー!』が響くんですか?」
 ロメ子はそのバラバラの質問を聞くと目をぱちくりさせ、あごに手をやって考え始めた。
 むむー、とうなりながら、首を動かして天井を見たり、床の辺りを見つめたり。
 一体何をやってるんだ、と西田井が聞く直前、ロメ子が何かをひらめいた顔になった。
 顔を西田井の方に戻すと、ぽむ! とパーの左手の上にグーの右手を乗せて言う。
「そっか、こっちには街頭テレビ無いんですよね!」



第八話【ウォッチメン】



「街頭テレビい!?」
 思わず声がうわずってしまう。
 西田井がその単語を聞いた事があるのは、戦後すぐの生活を記録した白黒のフィルムの中だけである。あのナレーションが独特なイントネーションのやつ。
「そうです。力道山時代の骨董品ですけど、〈傘社〉の人が修理して、今でも現役で動いてるんですよ」
「へえー!」
 すごい。それはちょっと見てみたい、と西田井は思った。
「え、家にはテレビ無いんですか?」
「ありますよー。でも農作業の合間の昼休憩とかあるじゃないですか。その時に街頭テレビに集まって、みんなで『いいとも』を観るんです」
「ああ、なるほど」
 会社で言えば、社員食堂のテレビで観ているようなものか。
 村人同士のコミュニケーションにも役立っているのだろう。
「お家でも結構テレビは観てたんですか?」
「ええ。唯一の娯楽というか、外界とのつながりって感じで。観まくってましたよ」
 楽しげに笑うロメ子。よっぽど好きだったのだろう。
「へー、どんな番組がお好きなんですか? やっぱり大河ドラマとか?」
「ええ、それも好きですけど、漫才とか……テレビ漫画も結構観ました」
「テレビまん……!?」
 西田井は思い出した。つまりテレビアニメの事である。三十年以上前の言い方だ。
「ああ、えーと……『マジンガーZ』とか?」
「そうですねー。あ、でも最近のも観てたんですよ。『セーラームーン』とか『パプワくん』とか」
「へええー!」
 その頃にはもう四十代だろうに。精神はいつまでも若いまま、ということなのだろうか。
「んん?」
 納得していた西田井だったが、またもや違和感を覚えた。
「じゃあ、番組の合間のCMも観てるはずですよね?」
「そりゃもう、モチのカンです」
「ロンね。……CM観てるなら、CDを知らないのは変じゃないですか」
「う」
 痛いところを突かれた、と引き気味の姿勢になるロメ子。
 伏し目がちに、ちょんちょんと人差し指同士を胸の前で当てたり離したりし始める。
「いやー、実物を見たことないと、意外と頭に入らないものなんですよ~。CMでウォークマンが発売したって聞いても、ファミコンが出たって知っても、手に入らない物を覚えてたって仕方ないですから」
「手に入らないんですか?」
「そうですねー、村の外に出られないので。なんでしたっけ、プレステ? 当たりがもう限界で……ワイポッドとかはもう全然わからなくて。アレはさすがに嘘なんじゃないかって思ってましたもん。だって、どー見てもただの板じゃないですか」
「アイね。iPodね」
 西田井は律儀にツッコミを入れつつ、考えていた。
 今までのロメ子のセリフで引っかかった箇所があるのだが、確認したものかどうか。
 ちょっとお茶を飲んでノドを湿らせ、心を落ち着ける。
「あの、ロメ子さん。村人の皆さんは、その……」
 しっかりとロメ子の目を見て、先を続ける。
「体質のせいで、ずっと村から出られないんでしょうか? 〈傘社〉の人に閉じ込められてるとか」
 なるべくさりげなく聞いたつもりだったが、やはりロメ子がちょっと驚いた顔をする。
 ロメ子たちの体質の問題に切り込むのは、これで二回目だ。
「見た目のせいでバイトの面接に落ち続けた」と話しているときの、ロメ子の表情を忘れたわけではない。
 だが、やはり事情は知っておきたい。どんな些細な事でも、何か助けられることがあるかもしれない。
 ややあって、ロメ子が苦笑いしながら口を開いた。
「いえ、〈傘社〉の人には『なるべく島の外に出るな』って言われてはいますけど、申請すれば出られるんです」
「申請が必要なんですか?」
「ええ。わたし達は戸籍上死亡扱いなので、まず身元をでっち上げないとダメで……その他にもいろいろ準備が必要なんです。普通の人に変装するキットとかも持たされますし」
「え」
 西田井が一瞬言葉を失い、取り戻した後に叫ぶ。
「変装キットなんてモノがあるんですか!?」
 ロメ子があっけに取られた顔で、うなずいた。
「は、はい。あります、けど」
「じゃ、じゃあ、なんでロメ子さんはそれを使わないんですか!?」
 変装さえ出来ればバイトだって受かっただろうし、寒空の下で凍死しかけることも無かっただろうし、とにかく何にも問題が起きなかっただろうに。
 ロメ子がまたもやうつむいて、胸の前で人差し指同士をちょんちょんとくっつけたり離したりしはじめた。
「実は、えーとー、ですねえ」
 西田井を見ないように顔をそらしてから、ぼそりと言葉を継ぐ。
「忘れちゃっ、て」
「……キットを? 村に?」
 こくりと頭を上下させるロメ子。
 バカだー! と西田井は思ったが、口に出すのはやめておいた。
「というかそのー、キットだけじゃなくてー」
「まだ何か忘れてるんですか」
 ぴた、とロメ子が止まる。
 心の中で覚悟を決めているのが丸わかりの間を取った後、こう言った。
「申請自体を」
 言葉の反響が消え、部屋を沈黙が支配した。テレビの中ではみんなが大笑いしている。
 窓の外で屋根に積もった雪が、どさ、と落ちた。
「ダメじゃないですかー!!」
「ヒイイィ!」
 西田井は今度こそ口に出してしまった。
 
 
 数分後。
「叫んでしまって、すみませんでした」
「いえいえ」
 こたつ越しに頭を下げあう二人。
「でもそれなら、一度村に帰ったほうがいいんじゃないですか? 村の皆さんが探してるでしょう」
「あーいえ、村の人は知ってるんですけど……問題は〈傘社〉の人で」
 ぞく、と西田井の背が冷たくなった。
 思い出した。〈傘社〉は生物兵器の開発に手を染めているような極悪企業だ。
 全ての元凶である人工病原体〈丁(てい)ウイルス〉を造り、あげくバイオハザードを起こし、失態を隠すために村を隔離してしまう組織なのだ。
 もし、ゾンビのようになっているロメ子の存在が世間にバレてしまえば……いや、自分がロメ子の存在を知っているとバレてしまえば、それこそ大変な事になるのでは?
「……あの、ロメ子さん。〈傘社〉の人が迎えに来ちゃったりしませんかね……?」
 西田井は恐る恐る聞いたのだが、ロメ子は思いがけず明るい表情になった。
「あ、それ助かりますねー! フェリーの切符買わなくてすみます!」
 そういう問題じゃねえー!! と西田井は再び叫びかけたが、やはりやめておいた。
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Date:2014/05/20
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