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□ ルパン三世 □

【ルパン七世 #0】ルパン七世 颯爽登場!

 時計を未来に進めてみよう。
 
 そう、ほんの百年ほど。
 
 
 
 
 宇宙、それは最後のフロンティア。
 漆黒のカーテンにダイヤモンドをまいたような、たくさんの星々。
 そんな背景の手前を、投げられたダーツのように滑る銀色の船があった。


 サンチアゴ航宙六一三便。
 全長七十メートルの小型機、ゼネラル・エレクトリック製LP7Sイオンエンジン搭載。
 最新鋭機らしく、かさばるワープエンジンは省かれている。
 乗客は百八十人。
 月のアポロポートを一八二三時(現地時間)に出発し、地球のトーキョーポリスポートに○九四二時(現地時間)到着予定。
 船の向く先には青い地球が見え、その手前には金属のドーナツが浮かんでいる。


 コクピットは薄暗く、窓からは星がとてもよく見えた。
 緩やかに湾曲した窓――実は船外映像を投影したスクリーン――は足下まで届いているので、まるで宇宙に浮かんでいるようだ。
 窓の手前には、優雅に浮かび輝くホログラム(立体映像)たち。
 その多くがモニター代わりのホロシート(ホログラムのシート)なのだが、ゆったりとまたたいて厳かな雰囲気を演出しているようだ。
 視界一杯の星空。
 そして、中心にはマッチ箱の大きさの地球。
 値段のつけようもない、小さな宝石。
 何度見ても、あんな小さな場所に八十億の人間がひしめきあっているなど、信じがたい話だ。
「渡辺」
 地球型惑星は銀河系に数十個ほど見つかっているらしい。
 だが、その中でもおそらく地球は格別だ。
 格別に美しく、貴重な財産だ。
「ワタナベ!」
「は、はいっ!!」
 そこまで考えたところで、副操縦士の渡辺は現実に引き戻された。
 左隣に座った主操縦士のリードが、こちらをにらみつけている。
「ぼけっと何を考えていた? ん?」
「あの……す、すみません」
 射貫くようなベテランパイロットの瞳から顔を逸らし、コクピット内で小さくなる渡辺。
 どうも昔から、星空を見ると夢想にふけってしまうクセがあるのだ。
 リードが舌打ちをして、前に向き直った。
「……もうすぐゲートだ。進入シークエンス開始」
「はい、了解しました」
 渡辺も前を向き、ふう、と息を吐き出す。
 ここからはリラックスして、仕事に集中しなければならない。
 渡辺とリードは、手振りで身体の前に操縦桿を呼び出した。
 しっかりとグリップを握る渡辺。ちりっ、と指先に電流を感じる。
 神経信号を活用するので、これひとつでほとんど全ての操作が可能だ。
 リードがきびきびと指示を伝えてくる。
「進路、〈アルテミス〉。相対速度、ゲート基準で毎秒百二十メートルを維持」
 渡辺が復唱する。
「了解、進路〈アルテミス〉。相対速度、ゲート基準で毎秒百五十メートル」
 復唱を終えると操縦桿を通して、船のソフトウェアに指示を与える。
 新たなホロシートが開き、〈アルテミス〉の拡大映像がそこに映った。
 
 
〈アルテミス〉そのものは金属や炭素結晶のレースで編まれたドーナツのような構造で、直径は約五キロメートル。複雑な機器がありったけ縫い込まれている。
 特に見て面白いものでも無い。
 ゲートの手前には、豪華絢爛なホログラム広告のトンネル。その中で行列を作る、大小様々な宇宙機たち。
 これも見慣れたものだ。
 だがドーナツの穴では、何かカメラのフラッシュのような光がバチバチと光っている。よく見ると、しょっちゅう細長い雷が起きているらしい。
 これは少し珍しい。
 宇宙機がゲートの穴を越えると消滅し――光の矢となって地球へ向け放たれる。
 この光の矢は、「空間の穴」から亜空間に突入した宇宙機が、通常空間に残す「痕跡」である。
 逆に地球側のゲートでは、光の矢が宇宙機へ変身したように見えるはずだ。
 ゲートに出口を申告すれば、後は全自動の一本道である。亜空間の青く光るチューブを通り抜け、目的地の通常空間に実体化し、そして料金が差し引かれる。
 
 
 リードが渡辺の復唱を聞いて、違和感を覚えた。
 渡辺のホロシートを見て、思わず手が出そうになる。
「違う、百二十だ! ぼけっとするな、まったく!!」
「は、はい!」
 すくみ上がりながら、渡辺が慌てて操作し直した。
「……セット完了しました」
 油断なく自分のシートを見て、設定が正しい事を確かめるリード。
「セット了解。ゲートの運転状況を確認」
「了解、ゲート運転状況を確認」
 ゲートの拡大画像に、矢印や数字や動く図表が追加された。
 それらをざっと確認し、リードに告げる。
「ゲート運転状況、グリーン」
「状況了解。ゲート出口を〈ゼウス〉にセット」
 再び、操縦桿をいじる渡辺。
「了解、ゲート出口を〈ラムウ〉にセット」
 その言葉が聞こえた瞬間、リードが今にも噛みつきそうな顔で渡辺を見る。
「違う! 〈ゼウス〉だ、ゼウス! それじゃ火星のアステロイドに出ちまうだろうが。気を抜くなと言ったはずだぞ」
「あ、す、すみません」
 渡辺はまたしても、身を縮めて謝った。
 だが、なぜか操縦桿から手を放してしまう。
 そして、そのままの姿勢で押し黙る。
「おい、何をしてるんだ?」
 身振りで早く直せ、と指示をするリード。
 しかし渡辺は動かない。
 感情を失ったような顔で、自分の両手を見つめている。
 リードは頭を抱えたくなった。
 こいつは一体、どうなってるんだ。何を考えていやがるんだ。
 さっきから、どうも様子がおかしいとは思ったが。
 短く強い息を吐き、リードは言った。
「もういい、後は全部俺がやる。お前は帰ってから医者にかかれ」
 代わりに操縦桿を持とうと手を伸ばす。
 しかし、触れる寸前で動きが止まった。
 リードは目を皿のように開いていた。頭に何かを押し付けられたからだ。
「どう……いう……ことだ」
 かさかさに乾いた声で、かろうじて、それだけを口に出来た。
 頭に突きつけられているのは、拳銃だった。
 渡辺の持つ、いや持っているはずのない拳銃だった。
「進路はこれで合ってるんです。勝手に変えて頂いては困りますね」
 渡辺の口から、渡辺のものでない声が飛び出してきた。
 先ほどまでの弱々しさが消え去っただけではない。
 完全に、別の人間の声だ。
 そして口元には、自信にあふれた微笑がある。
「誰だ、お前は? 渡辺はどうした」
「質問はひとつずつでお願いします。お気持ちはわかりますが」
 そこで渡辺でない渡辺は少し笑い、言葉を継いだ。
「渡辺さんは、いま旅行中です。確かバーナード星系へ行くとか。宝くじが当たったそうで……ただ、不思議がっていましたよ。くじはなぜか郵便受けに入っていたのでね」
 くく、とまた愉快そうに笑う。
「安心してください、我々は人間には手を出しません、出来るだけね。そしてわたしは」
 そこまで言って、渡辺がアゴの部分の皮膚をつかんだ。
 上に向けて引っ張ると、べりべりと音を立てて皮膚ごと顔全体がはがれた……そして、下に全く別の顔が現れた。
「ただの泥棒ですよ」
 
 
 
第0話 【ルパン七世 颯爽登場!】
 
 
 
 普通席の客室は狭い。
 通路は真ん中に一本だけで、左右にそれぞれ座席が三つずつ、前後三十列並んでいる。
 狭い上に、雑多な年齢・性別・職種・人種の人間で埋め尽くされていた。
 大半がビジネススーツを着ており、出張帰りか、もしくは出張に出かけるビジネスマンなのだろう。
 それに混じって、旅行に出かける家族連れの姿も見られる。
 乗り方も人それぞれだ。
 座席に置かれた薄い雑誌(動画再生機能付き)を眺める。
 窓(スクリーン)の外の星空を眺めてため息をつく。
 ヘッドフォンで音楽を聴く。
 携帯端末でホロシートを展開して映画を観る。
 酒を飲んで寝る。毛布を被って寝る。
 廊下を走り回る。
 前の席の客のシャツに温かいミルクを流し込もうとする、
 などなど。
 携帯端末でニュースを見る、というのもポピュラーな選択である。
 ちょうど、このビジネスマン二人組がそうしているように。


『……次のニュースです。

 月のオルドリン州立美術館で先日未明に起きた絵画窃盗事件に関して、
 太陽系刑事警察機構は地球標準時で本日午前十時、
 美術館に残されていた犯人グループのものと思われる声明文を公表しました。
 声明文には「ルパン七世参上」、「この絵画を頂戴する」などの文句が含まれており、
 太陽系刑事警察機構は、ここ数年ほど頻発している「ルパン七世による窃盗事件」に関連しているものと見て捜査を進めています。

 しかし太陽系刑事警察機構所属のルパン七世選任捜査官、銭形警部は記者の質問に対し、
「盗み方がおおざっぱで荒く、ルパンらしさを感じない。独自の捜査を進める」と答えています。
 では、明日の地球圏のお天気……』

「おー出ました、噂の『ルパン七世』。警察の皆さんも大変ですな」
 眼鏡のブリッジを中指で上げながら、ビジネスマンの男性の方がコメントした。
 隣に座った小柄な女性のビジネスマンは、手にもった雑誌から目を離さずに答える。
「そうですねえ」
「特にあの銭形さん……でしたよね」
「ええ」
 ビジネスマンが、鳥の巣のような髪をポリポリと掻く。
「よく諦めませんよねえ。毎回毎回ルパンが現れるたびに出動して、それで取り逃がして、また出動して……大変でしょうに」
「確かにねえ」
 言いながら、女性が長い黒髪をかき上げる。
「んー。あいたた」
 ビジネスマンが一度軽く伸びをして、背中の凝りをほぐしてから続ける。
「出世とか昇給とか、そういうのに関心が無いんですかね」
「ふわあ」
 女性は口を手で隠しながらアクビをして、
「きっと無いんでしょうね。『ルパン逮捕が生きがい』らしいですから」
 と言った。
 くく、と笑いを漏らすビジネスマン。
「なるほどね。うらやましいような、そうでないような」
 それきり、会話が少し途絶えた。
 ひとつ後ろの席から、誰かが大きな鞄のジッパーを開ける音がする。
 ビジネスマンがとなりで眠り込んでいる別の男性をちらりと見やってから、あまり興味の無い様子で口を開いた。
「ところで……盗まれた絵って、どこに行ったんでしょうね?」
「気になりますか?」
「ヒマなんですよ。確かあの絵は、えー」
 頭を掻くビジネスマン。
 女性が雑誌を閉じて元の場所に戻しながら、答える。
「『夏への扉』」
 ビジネスマンが明るい顔になり、小柄な女性に向けて指を立てた。
「そうそう、それです。時価十万ドルの傑作。いま、絵はどこにあると思います?」
 女性は腕を組み、息を吐きながらシートに沈み込む。
「たぶん、もう月から持ち出してるんじゃないでしょうか。犯人の……ルパン七世は」
「なんでです?」
 ちょっと肩をすくめてみせる小柄な女性。
「だって、月にいつまでも置いといたら見つかっちゃいますよ。真空にさらせないって事は隠せる場所も多くないし、警察が一斉に捜索してますから」
「なるほどね。でも、どうやって持ち出したんでしょうね?」
「さあ……なるべく目立ちたくないでしょうから、出来るならこういう、普通の旅客機に乗せたいところですが……」
 そこでビジネスマンが笑顔になり、からかう口調で言った。
「実はここに積んであったりして」
 女性もつられて苦笑する。
「それはないですよー。大体、宙港で荷物チェックがあるんですから。もしあの絵を積めちゃえるなら、この宇宙機はハイジャックされたっておかしくないですよ!」
「はは、ですよねー」
「ありえませんよー」
「ははは」
「あははは」
 ほがらかに笑うビジネスマン二人組。
 バンッ!!
 そのとき、何かが爆発したような音がした。
 ひとつ後ろの席からだ。
 客室に響いたその音は、まぎれもない銃声であった。
 
 
「我々はァッ! 革命組織『人類の尊厳』であるッ!」
 天井からの光に、勢いよく突き上げられた黒い拳銃がきらりと光る。
 廊下の端っこにビジネススーツの男が立ち、手にした拳銃を天井に向けていた。髪型は丸坊主、バンダナを口に巻いている。スーツの背中にはミルクの染みが出来ていた。
 廊下に立っているのはこの男だけではない。
 同じ服装、同じ髪型、同じバンダナの四人の男たちが廊下に一定の間隔を置いて立ち、同じように拳銃を天井に向けている。
 全員が客席を鋭い目つきで見回し、乗客の一挙手一投足に目を光らせていた。
「我々はァッ! エイリアンどもを地球から一掃しッ! 地球をヤツらから取り戻し! 堕落しきった人類の復活を図るものであるッ!」
 客室の端に立っている男がもう一度吼えた。
 続けて、後ろのドアを手の平で叩く。
「この向こうの席、そしてコクピットは我々が占拠した! 本船はこれより、火星アステロイドに向かって出発する!」
 ざわざわと客席から話し声や抗議の声が上がりはじめる。
「アステロイドに到着し次第、諸君らは我々の本拠地へ連行される! 警察の到着は期待しても無駄であるッ!」
 ざわざわ声が、さらに大きくなる。
「静かにしろッ!!」
 男たちが、客席に拳銃を向ける。
 客席は水を打ったように静かになった。
 座席を埋める乗客達の顔はこわばり、身動きひとつする者も居ない。
「安心してほしい、諸君らは人質であるッ! 地球圏連合が我々の要求を呑み、地球からエイリアンどもを全員退去させれば、諸君らは無事解放される!」
 男の言葉のあと、再び静まり返る客室。
 と、そこに。
「できるわきゃねーだろー……」
 緊張感の無い声が、響いた。
 
 
 バンダナの男が、全員勢いよくそちらを向く。
 声を発したのは、先ほど話していたビジネスマンの男性だった。あわてて口を両手で塞いでいる。
 ため息まじりの独り言だったようだが、これはなんともタイミングが悪い。
 隣の席では小柄な女性が頭に手をあて、笑顔でなんとか誤魔化そうとしている。
 二人の位置は、吼えていた男からそう遠くない。場所も悪かった。
 端に居るバンダナの男が、自分を律するように、静かに口を開く。
「なんだと……? もう一回言ってみろ」
 ビジネスマンはひきつる口許から、ゆっくりと手を離した。
「僕ですか?」とジェスチャーだけでバンダナに確認する。
 ゆっくりとうなずくバンダナの男。
 そこで小柄な女性が、あわてて二人の間に割り込んできた。
「あのーその、なんでもないんですー。お気になさらないでください~」
「貴様ではないッ! そこの男に聞いているのだッ!」
 バンダナの男が激高し、ビジネスマンに拳銃を向ける。
 素早く両手を挙げるビジネスマン。
 焦った表情で、仕方なさそうに口火を切る。
「あのー、えー」
 両手を挙げたまま咳払いして、続ける。
「そ、そもそもですね。一口にエイリアンといっても、地球には現在、百万人以上の宇宙人が居るわけです……よね? それはご存知ですよね?」
「ああ、知っている」
 バンダナの男の拳銃が震えている。
 イライラがてっぺんに来ているらしい。
 張り詰め切った雰囲気の中、しかしビジネスマンは言わなければならない事を言った。
「ですから、それを全員いっぺんに退去させるっていうのは、やっぱり……ちょっとだけ難しいんじゃないかなー、って、思って」
「うるさいっ!!」
 バンダナの男が天井に向けて発砲した。客席のあちこちから悲鳴があがる。
 ビジネスマンの額に、汗が光る。
「それでも不可能ではないッ! 貴様らの命を盾にすれば、さしもの銀河連邦とて重い腰を上げようッ!」
「い、いや、それも結構難しいかなーと」
 言ってから、ビジネスマンはしまった、という表情をした。
 バンダナの男のコメカミがぴくぴくと動いている。
「……なぜだ?」
 客室はとても静かだった。
 
 
 何度か口をぱくぱくさせてから、ビジネスマンは説明を続ける。
「えー、正直ニ言ウトデスネ?」
 声が裏返ってしまった。
 続けないと撃たれそうだし、続けて結論にたどり着いても撃たれそうだ。
 辛い状況である。
「ち、地球なんて所詮その、『発展途上』の『要監視文明』ですから」
 そこまで言ったところで、ビジネスマンが口をつぐんだ。
 何かに気づいた顔だ。
「もしかして……交渉材料がある、ということですか? 乗客の命以上に、もっと効果的な、何か……」
 バンダナの男が、拳銃の先をビジネスマンの額に付けた。
 ビジネスマンの呼吸が止まる。
 見つめあう二人。
「貴様、心当たりがあるのか?」
「い、いえ、別に? 全然わからないです、はい」
「そうか……」
 バンダナの男が、拳銃のトリガーに指をかける。
「嘘をついているな。貴様はやはり殺す。我々が本気であることを地球圏連合と銀河連邦に知らしめるための、人柱になってもらう」
 どうやら冗談や脅しではなさそうだ、とビジネスマンは思った。
「知りすぎたな……死ね!」
 乗客の全員がビジネスマンの死を覚悟し、そこから目を背けた。
 
 
 そのとき。
「ええいこうなったら、計画変更!」
 小柄な女性が突然叫ぶなり、スーツの内ポケットから何かを取り出した。
 銀色に光る物体。
 ホイッスルだった。よく体育の授業で見られるタイプだ。
 乗客たちとバンダナの男たち、客室の全員があっけにとられて見守るなか、女性は笛をおもむろに口へと持っていく。
 が、ぱっと放した。
「おっといけない、忘れるところだった」
 こほんと咳払いする。
「キャー! いやー! 助けてえー!」
 わざとらしく口の横に手を当てて叫ぶと、あらためて笛を口にくわえ。
 思いきり吹いた。

 ピリリリリーーーーー!!

 耳をつんざく大音響が、客室にこだまする。
 客室の全員が、思わず両耳を手で覆った。
 反響が消えると、客室におとずれる静寂。バンダナの男たちも耳から手を離し、一斉に小柄な女性へ拳銃を向ける。
「貴様ァッ!! 一体なんのつもりだグエッ」
 ずしーん!
 つぶされた。
 
 
 バンダナの男(ビジネスマンに拳銃を向けていた男)が、落ちてきた天井につぶされた。
 正確に描写すると、天井の一部が丸く切り取られ、上に男性を一人乗せた状態で落ちてきて、それによってバンダナの男がつぶされた。
 天井に乗った男は黒いスーツを着ているが、手には日本刀らしきものを持っている。
 さらになぜか狐のお面をつけていて、顔が見えない。
「だ、誰だ貴様!?」
 つぶされた男のすぐ隣に立っていたバンダナの男が、拳銃を日本刀男に向けながら叫ぶ。
 残りのテロリストたちも、あわてて一斉に拳銃を構えた。
 日本刀男は動じる様子を見せず、静かに口を開く。
「拙者は経費節約のため、上の貨物スペースに乗っていたしがない武士……そして」
 武士がビシッ! とビジネスマンの方向を指差した。
「そこの男女とはまるっきりの無関係でござる!」
「いやいや、あからさまにあの女の笛きっかけだったろうが!」
 バンダナの男もビシッ! とビジネスマンの方向を指差す。
 当のビジネスマン二人組はといえば、雑誌などで恥ずかしそうに顔を隠している。
「ま、まあいい。わざわざ殺されに来るとはな……撃てッ!」
 バンダナの男たちが、武士に向けて一斉に発砲した。
 武士は落ち着いて刀を振るう。
 再び乗客から悲鳴が上がった。
 だが不思議な事に、武士はまるきり被弾した様子がない。
 気がつくと銃弾は床にばらまかれていて、ぱくりと二つに割れていた。
 あっけにとられるバンダナの男たち。
「では、こちらから参る」
 一瞬だった。
 目を疑うほどの速度で、武士がバンダナの男に接近した。刀を抜く。
 そのまま速度を落とさず、廊下を走り通した。ときおり剣先が閃くのがわかる。
 廊下の端にたどり着き、刀を納める武士。
 すると。
 バンダナの男たちの服、そして銃が全てバラバラになり、床に落ちた。
 身体には傷ひとつない。
 意識を失い、床に倒れふす男たち。
「また、くだらないものを斬ってしまった」
 武士は言うなり、ビジネスマンの方を向く。すると。
「き、貴様ァッ! こいつがどうなってもいいのかぁ!」
 さっき笛を吹いた女性の頭に、後ろからバンダナの男が銃を突きつけていた。
 当の女性はといえば、両手を挙げて苦笑いである。
「あはは、油断しちゃいましたあ」
「ぬ、ぬう」
 その場から動けなくなる武士。
 ビジネスマンが前を向いたまま、横の小柄な女性に小声で話しかける。
「油断しちゃったじゃねえだろ、この。これマジで無事に帰れないかもしんねーぞ?」
「だってさあ、まさか向こうの客室に人が残ってるなんて思わないじゃーん……」
「気づきそうなもんだろ。ひとつの客室に全員居るわけねーだろ」
「あんまり責めないでってばぁ。泣いちゃうよ? 女を泣かして楽しいの?」
 拳銃を突きつけられているというのに、実に緊張感の無い会話である。
 バンダナの男が拳銃を頭に押しつけ、その硬質な存在をアピールする。
「貴様、死にたいならすぐに叶えてやるぞ」
 はあー、と大きくため息をつくビジネスマン。
「じゃ、仕方ないか。やっちゃおーぜ」
「りょーかいっと」
 言うなり、小柄な女性が消えた。驚くバンダナの男。
 見えないほど素早く、その身体を下にずらしたのである。
 女性が体を回転させ、左の手刀を拳銃に叩き込む。拳銃が飛んだ。
 バンダナの男に、拳銃の行方を見届ける事は出来なかった。
 手刀と間を置かずに放たれた、強烈な右の回転キックが男のアゴを正確にとらえて、男を失神させたからである。
 男が倒れると、客席は静まり返った。
 そして誰からともなく拍手を始め、客室は拍手喝采となった。
 照れ笑いとも苦笑いとも取れる、複雑な表情を浮かべる三人。
 仕方ないので、手など振ってみる。
 ますます大きくなる拍手。
 ズドオン!
 銃声が一発響いた。
 いつの間にか、ビジネスマンの手に拳銃が握られていた。
 拳銃の先からは煙が立ち昇っている。
 驚き、再び静まりかえる客室。
 拳銃の先を見ると、半開きになった「プレミアムクラス」へのドアがあった。
 ドアが開き、腕を押さえたバンダナの男が廊下に倒れこむ。手には拳銃が握られていた。
 ビジネスマンが拳銃の先に息をかけ、くるくるっと回してからスーツの内側に納める。
 客席のどこからともなく、感嘆の声がもれる。
「あっ!」
 突然ビジネスマンが大声を上げたので、乗客の何人かが席から身体を浮かせた。
「い、いまどこだ!?」
 ビジネスマンが慌てた様子で、小柄な女性に問いただす。
 女性が客室の窓から外を眺める。巨大なホログラム広告が通り過ぎていく。
「やばい、もうすぐゲートに着くよ!」
「すぐ止めるぞ!」
「りょーかいっと!」
 コクピットに駆けていく二人。
 そして、ぽつんと客室に残される武士。
「あ、あのー、拙者は……?」
 哀しげに、つぶやいた。
 
 
 薄暗いコクピットに入ったビジネスマンと小柄な女性は、そこに二人の男を見た。
 ひとりは意識を失って床に倒れており、ひとりは操縦席に座っている。
 操縦席の男は振り向いて立ち上がり、二人に向けて優雅な礼をした。
 その細身のシルエットを浮き上がらせるように、後ろのスクリーンに大きく、光輝を放つ別の宇宙機のエンジンが映っている。
 気がつけば、上下や左右にも、宇宙機が集合してひしめきあっていた。
 そして、前方にはぞくぞくとゲートに向かう宇宙機の列、ゲート中心で炸裂する亜空間突入の断続的な輝き。
 もうゲート突入まで、あまり時間が無い。
 そうなれば、テロリストの本拠地へすぐに着いてしまう。引き返す事は出来ない。
「はじめまして。それにしても、ずいぶんと派手にやってくれましたね」
 男は冷たい笑みを浮かべながら、倒れている男に油断なく拳銃を向ける。
「ふん、はじめましてじゃねーよ」
 ビジネスマンも拳銃を細身の男に向ける。
「絵を盗んだのはてめーらだな。偽ルパンさんよ」
 はじめは驚いた顔をした男は、すぐに口角を上げて笑った。
「ほほう、なぜわかったんです?」
 質問を鼻で笑うビジネスマン。
「簡単な推理さ。さすがに乗客の命だけじゃあ、銀河連邦までは動かねえ。ハイジャックなんて危ない橋を渡るからには、何か勝算があるに違いないからな」
 くくく、と愉快そうな笑い声を上げる男。
「なるほどなるほど、あの絵の『秘密』に気づいていたのですね」
 笑うのをやめ、小首をかしげた。
「でも、本物のルパンじゃないというのは、どうしてわかったんですか?」
「それはもっと簡単だな」
 ビジネスマンは拳銃を持ってないほうの手の親指で、自分たちを指した。
「ここに、本物の『ルパン七世』が居るからさ」
 偽ルパンは目を見開いた。
 まさかこの便に、あの伝説の大泥棒の子孫が乗り込むなんて。
「……なるほど。これは失礼を。まさか本物に会えるとは思っておりませんでした」
「まあいいさ。んなこたいいんだ」
 ビジネスマンが素早く拳銃を構えなおす。
 スクリーンでは、ゲートが見る見る大きくなっている。
「その男から銃を離しな」
「そうそう、そうしないと必殺空手チョップが飛ぶよ! アチョー」
 その場で跳びながら前後にステップを踏む小柄な女性。
 話に入れなかったので、ここで少しでも目立ちたいのである。
「残念ながら、その要求は呑めませんね。そちらが先に……」
 偽ルパンはちらっと横目で倒れている男を見て、こう続けた。
「拳銃を捨て」
 言い終わらないうちに、偽ルパンの肩に穴が空いた。
 さらに、その後ろにあるスクリーンに蜘蛛の巣状のヒビが入る。
 ビジネスマンの拳銃が火を噴いたのだ。
 ヒビが自動的に修復されていく中、偽ルパンは拳銃を落とし、ひざをついた。
「交渉の最中だぜ? 一瞬でも目ぇ離すのは感心しねえな」
 勝ち誇ったビジネスマンの笑み。
 ぜえ、ぜえと肩を押さえながら息を荒げる偽ルパン。
「いきなり撃ちますか、普通……!」
「いや、当たると思ったんでな。つい反射で」
 肩をすくめるビジネスマン。
「あー、ずるーい! 私の必殺パンチはー?」
 ビジネスマンのスーツをぐいぐいと引っ張る小柄な女性。
「チョップだったろ、さっきは。てか横でピョンピョンすんじゃねーよ。気が散る」
「えー」
 じだんだを踏む女性。
 またしても緊張感の無いやりとりをする二人を見て、偽ルパンがにやっと笑った。
「仲がいいですね……では、みんな仲良くこっぱみじんになってください!」
 言いながら、懐からスイッチを取り出した瞬間。
 離れていたはずの女性が、いつの間にか彼の目の前に居た。
 膝蹴りが頭にクリーンヒットし、後ろ向きに吹っ飛んだ偽ルパンはホロシートを突き抜けてスクリーンに激突する。
 ずるずると、輝くスクリーン上をずり落ちる。失神しているようだ。
「あめーよ」
 ビジネスマンは拳銃をスーツの内側にしまい込んだ。
「コーラよりあめえ」
 
 
 ビジネスマンと女性は、左右の操縦席へ別れて座った。
 ホロパネル(ホログラムのタッチパネル)を呼び出し、宇宙機のシステムにハッキングをかける。
 火星に設定されたゲートの出口を、なんとか地球に戻すためだ。
 ゲートはもう目の前に迫っている。
 残り十秒もあれば、その致命的な中心を越えてしまうだろう。
 そうなれば、テロリストの待ち構えるアステロイドへ直行だ。
「だーくそッ!」
 ビジネスマンが必死の形相でパネルを操作していたが、平手で叩きつけた。
「止まらねえぞ、ロックされてやがる!」
「まあまあ、慌てなさんなってえ」
 軽妙な台詞を吐いた女性も、額に汗をかきながらパネルに指を打ち付けている。
 薄暗かったコクピットが、ひときわまぶしい雷のような光で満たされた。
 すぐ前方を航行していた宇宙機が、亜空間に突入したのである。
 次はこの船の番だ。
 残り五秒。
 ビジネスマンがパネルに向き直り、悪あがきを再開した。
 女性もぶつぶつと独り言をつぶやきながら、パネルをいじり続ける。
「ここをこう……ありゃダメか……じゃあこっちを……いやこっちか……」
 残り一秒。
 もうダメだ、とビジネスマンが目をつむった瞬間。
 小柄な女性が両手を挙げた。
「やっ……」

 ゲートが背後に飛び去り、

「……たあ!」
 女性が全文を言い終える。
 宇宙機は星々を追い越して、青く光るチューブに突入した。
 通常空間から跳躍を果たし、いま亜空間を疾走し始めたのである。


 ぐてー、と椅子の背もたれに寄りかかって休む二人だったが、コクピットの扉がノックされたので飛び起きた。
 ビジネスマンが扉を開けてみると、狐のお面を被ったままの武士だった。
「縛られて閉じ込められていたフライトアテンダントを全員解放して、代わりに武器を取り上げたテロリストを全員閉じ込めておいたでござる。これで良かったのか?」
 口調からすると、お面の下はふくれっ面だろう。
 ビジネスマンが苦笑いになる。
「じょーでき上出来。良くやってくれました」
 武士の肩を軽く叩く。忘れてたとは言えまい。
 そのやり取りを見ていた女性が、にやりと笑ってパネルをぽんぽん、と押した。
 口の前に、マイク型のホログラムが現れる。
『アテンションプリーズ! 機長代理よりご報告申し上げます。当機はこれより予定通り、地球のトーキョーポリスポートに現地時間で、○九四二時に到着予定です。テロリストは無事に全員無力化致しましたので、どうぞご安心ください。それでは引き続き、快適な宙(そら)の旅をお楽しみくださーい』
 マイクを切り、大きく伸びをした。
「さあて、まだお仕事残ってるよ。お二人さん」
 女性が振り返って言うと、二人はそろって「うげえ」とか、大体そんな事を言った。
 
 
 無事に亜空間と通常空間を渡りきり、トーキョーポリスポートに宇宙機が到着した。
 船内から通報は済ませているので、警察によって厳戒態勢が敷かれている。
 三人組はなんとか警察の事情聴取をやり過ごし、そのままそーっと誰にも見つからないように宇宙港を後にしようとしていた。
 だが、その努力も空しく、気がつけば報道陣に取り囲まれている。
 どうやら記者の質問から察するに、「乗客を救った英雄」ということになったらしい。
 なんとか早々に質問を切り上げて帰ろうとするも、カメラとマイクの大群はそれを簡単には許さない。
 回答と回答の間に、小柄な女性がぽつりとつぶやいた。
「ねえ、そろそろ……かな?」
 ビジネスマンがそっけなく答える。
「そうだな、そろそろだろうなぁ」
 ついでに武士も答えた。
「そろそろでござろうな」
 もちろん、予感は的中した。
「あーっ! 見つけたぞルパーン!!」
 宇宙港の建物に響く、独特のだみ声。
 茶色のトレンチコートとハットに身を包んだ中年男が、頭上で手錠をぶんぶん回しながら走ってくるのが見える。
 太陽系刑事警察機構所属のルパン七世選任捜査官、銭形警部である。
「来た!」
「来たな」
「来たでござる」
 三人は口々につぶやくと、カメラやリポーターを踏み台にして、報道陣を飛び越えた。
 
 
 宇宙港内を走り出す。背後には、茶色の中年男が二十人ほどの警官を引き連れて走ってくるのが見える。
「どーすんだよ、追いつかれるぞ、ルパン!」
 ビジネスマンが叫ぶ。
「だいじょぶだって次元。一応こういう場合も考えてあるから」
 ルパンと呼ばれた小柄な女性――いや少女は、慌てながらも楽しんでいるように見える。
「五右ェ門ちゃん、あそこの床を斬って!」
「承知!」
 黒いスーツの武士――五右ェ門は床の上で立ち止まると、刀を一閃させた。
 ぼこっ。
 三人を乗せたまま、丸く切断された床が下にスライドし始める。
 構造材のカタマリと共に落下し、下の階に着いた。
 そこは地下駐車場であった。
「こっち、こっち!」
 ルパンの指示で、三人は近くの車へ素早く乗り込む。
 後ろを振り向くと、穴から降りてきた銭形。
 次元がペダルを踏み込み、車を急発進させる。
 銭形は自分の脚でしつこく追いかけてきたが、さすがにバックミラーの中でどんどん小さくなっていく。
 ルパンが助手席から顔を出して振り向き、銭形に手を振った。
「じゃーにー、とっつぁーん! お元気でー」
「くっそおお! 覚えてろルパーン……」
 声も姿も小さくなり、とうとう見えなくなった。
 助手席に戻るルパン。
「ふいー。まいたね、次元」
 ロングヘアのカツラを取って、手で顔をパタパタとあおぐ。
 そこにはボーイッシュなショートヘアの少女が居た。
「おお、銭形のとっつぁんにも参ったぜ」
 ハンドルを握る次元はいつの間に着替えたのか、いつもの白いスーツを着て、ハットを被っている。
 眼鏡もビジネススーツもパーマのかかったカツラも、とっくに外していた。
 五右衛門も、後ろの席でお面を脱ぐ。
「ありゃ、重ね着してたの? ずるーい」
 次元の肩に軽くパンチをくれるルパン。
「いてっ。じゃあ、制服でも下に着とけばよかったじゃねえかよ」
「そんなの着ないよ! もういいです、ここで着替えますから」
 言うなり、迷い無くスーツのボタンに手をかける。
「わわ!? ちょっと、ちょっと待った!」
「そ、そのような破廉恥な真似は!」
 慌てふためく大人たち。


 しかし。
 おっかなびっくり助手席をチラ見した次元が見たのは、いつものオレンジのジャケットとネクタイ、それにハーフパンツとハイソックスのルパンであった。
「おっどかすなよー……」
「からかわれたでござるな」
 安堵の息を漏らす大人たち。
「あ、結局あの絵、どうしたんだっけ?」
 次元が思い出したようにルパンに聞く。
「ふふふ、その点抜かりなし! じゃじゃーん」
 ルパンがふところから、丸めた紙を取り出した。
「お、よしよし、忘れたかと思ったぜ」
 ふー、とため息をつく次元。
「あの短時間で探すのは大変だったでござるな」
「まったくだ。いきなり貨物スペースに潜り込むから、もう怪しまれる怪しまれる」
「ま、結果的にはラッキーだったよね、地球で探す手間省けちゃったしー」
 紙を愛おしげに撫で回すルパン。
「いきなり獲物横取りされたときはどうしようかと思ったけどな。しかも偽者って」
「偽者登場なんて、知名度上がってきたってことじゃん? いいことじゃーん」
「そうかね?」
 そんな二人の会話に入りそびれていた五右ェ門が、言いづらそうに口を開いた。
「……で、その絵にはどのような秘密が?」
「え!?」
 次元が座席から飛び上がらんばかりに驚く。
「マジで!? 知らないの!?」
 ルパンも同様。
「知るも何も、最初から何も聞かされてないでござるっ」
 五右ェ門はむくれて、そっぽを向いてしまった。
「ああ、悪かった悪かった」
 次元が苦笑いで謝る。
 確かに、五右衛門には何も説明していなかったのだ。
「実はこの絵、裏に秘密があってな。ルパン、それ広げて」
「あいよっと」
 ルパンが紙を広げると、それは何の変哲もない猫の絵だった。
 しかし裏返すと、そこに薄く、もつれた黒い糸のようなものが見える。
「これは文字、でござるか?」
 次元が説明を始めた。
「そう、その通り。実は薄ーい紙が六十三層も重なっててな、特殊な波長の光で照らすと接着剤が分解して、ばらけた上で文字もくっきり浮かび上がる」
「ふむ。何が書いてあるのでござるか?」
「設計図だよ」
 ルパンが引き取った。
 絵を見つめ、真剣な表情をしている。
「爆弾のね。通称は『オメガ爆弾』。銀河連邦のテクノロジーで作られた、核爆弾を遥かに超える威力を持つ爆弾だよ。昔の惑星間戦争で使われて、今は禁止されてるんだって」
 怪訝な顔になる五右衛門。
「……なぜ、そんなものが絵の裏に?」
 次元が遠い目をする。
「まだ宇宙関連の通関がちゃんと出来てなかったころ、地球にどっかの宇宙人が商売目的で持ち込んだんだ。設計図はある国に渡って、政府に設計図の解析を任されたのが、ある科学者だった。でもその科学者は解析が進むにつれて怖くなって、ついに全ての元データと解析データを消去し、どこかへ失踪しちまった」
 ルパンが続ける。
「んで、その科学者の家に残ってたのが、この絵ってわけ。普通にうまい絵だったから、オークションに出されたときに高い値がついてね。その後流れ流れて美術館へ、と」
 今度こそ合点がいったので、腕組みをしてうなずく五右衛門。
「ふむ、なるほど。つまり科学者は自分の描いた絵の裏に、こっそりと設計図の解析データを残していた、というわけでござるな」
 とんとん、と絵を叩くルパン。
「そゆこと。せっかく解析したデータは、やっぱり残したくなるものなんだろうねえ」
「こーんな危ねえデータが地球に入っちまったのは、完全に銀河連邦の手落ちだからな。有利な交渉材料にはなったろうぜ。最悪、爆弾を実際に作るって手もあったろうし」
「しかし、でござる」
 五右ェ門が神妙な顔つきになる。
「なぜルパンは、この絵を盗もうとしたのでござるか? まさか爆弾で武装するつもりではあるまいな?」
「えー、そりゃあ、決まってるっしょ。ねえ次元?」
 ルパンが次元に向けて、意味ありげなウインクをした。
「そうだな。言ってやれ言ってやれ、その深遠な理由を」
 ため息まじりに答える次元。
 ルパンは紙を持って、くるっとひっくり返した。
「だってこの猫、最っ高にカワイイじゃん!」
 誰も答えなかった。
 五右ェ門はシートに深く座り直し、背もたれに身体を預けた。
「なんだか力が抜けてきたでござる」
 そんなぼやきを無視して、ルパンが次元に元気よく声をかける。
「そんじゃあアジトに戻ろっか、次元!」
「ウチはアジトじゃねーって言ってんだろ!」
 宇宙港を出ると、そこは人口島『トーキョーポリス』がよく見える海沿いの道。
 林立する巨大ビル群が、陽光をうけてきらきらと輝いている。
 青空には、雲と一緒に、たくさんの飛行船がのんびりと浮かんでいた。
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Date:2014/05/20
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