明日から書く。

□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

ここから余談です

第4章「事件解決(Is Life Like a Grapefruit?)」




 長サンドラの姿が見えないので探してみると、コンソールの向こうで座布団に正座し、湯のみでお茶を飲んでいた。
 両手で湯のみを支え、すする……音はあまり立てない。もしや茶道に通じているのではないかと思わせるほど、その飲み方はサマになっていた。
 ひとくち飲み終わると、大きく幸せそうなため息。このために長いこと生きてきた、という表情。
 そして少し余韻を楽しみ、再び口をつける。
「本当の歳が出たな」
「ぶっ! お、おかえりなさい」
 俺のつぶやきに気づいて、慌てて立ちあがる。
 同時に座っていた座布団が空気に溶けた。なるほど、ホログラムだったわけだ。
 いや、それにしても。
「なんでお茶なんか飲んでるんだ? ヒマだったからって」
「ヒマですって!?」
 長サンドラが急に激高し、湯のみを投げ捨てた。こちらも途中で消え去る。
「このデカいポットを動かすので大変だったんだから!」
 指差した先にあったのは、例の冷蔵庫とポット、あと制御パネルだ。
 そのどちらからもブスブスと煙が上がっており、かすかに焦げたニオイまでする。
 冷蔵庫はまるでバーナーで表面をあぶったようだ。表面のプラスチックが黒ずんで歪み、ブツブツと泡立っている。もとが冷蔵庫なのに、中身がよっぽど高温になってたらしい。
「結局なんなんだ? コレ」
「なんかね、ドクターが商店街で買ったんですって」
「うそお」
 さすがにこんな家電品は駅前の商店街どころか、太陽系内じゃ売ってないって。
「こらカサンドラ。正確には商店街で買って、しかる後大改造した、だ。僕と有紀の手間を無かったことにするんじゃない」
 ドクターは文句を言いつつサイバー冷蔵庫に近づき、表面を愛おしげになではじめた。
「突貫工事だった割りに、こいつもよく頑張ってくれた。よしよし」
 さて。
 聞かなくちゃならないのだろうか。
 やはり、聞かなくちゃならないのだろうな。面倒だが。
「あー、それで結局、その冷蔵庫はなんなんです?」
「ふむ、聞きたいのなら仕方ない。では教えて差し上げよう、よく聞きたまえ地球人よ!」
 優雅な身振りでターンし、こちらに向き直る。
 おいおい、あんた誰だよ。いつにも増してムカッとくる。
 俺が突っ込む間も無く、ドクターの長口上が始まった。
 
 
 というわけで話をまとめさせてもらう。ホント便利だよなこの方法。紙数の節約だ。
 量子力学の不確定性原理によれば、どんな出来事が起きる可能性もゼロではなく、ただべらぼうに確率が低いだけだ。どんな出来事も有限の確率なら起こり得る。
 スケイサス・パラダイムは、この確率分布を操作することで時空間を意のままに操れる。だが、起こしたい出来事の確率がきちんとわかっていなければならない。また、無限小の確率でしか起こらない出来事は起こすことが出来ない。
 ダーレクの戦艦が一冊の文庫本に変わるなどという現象は――のみならず、ダーレクの強固かつ強大な戦艦を倒してしまうなどという現象は――計算してみると確率が無限小の出来事だったため、スケイサス・パラダイムを用いても引き起こすことは出来なかった。
 確率無限小の出来事を引き起こす装置を発明するのはそれはもうメチャクチャに難しく、例えドクターと長門が全精力を傾けたところで、事実上不可能と言っていい作業だった。
 これでは、ダーレクの戦艦を倒すことは出来ない。
 
 
「というわけで、これの登場だ」
 ドクターが誇らしげに冷蔵庫を叩く。中で何かが落ちて割れた音がした。
「この装置を用いて、スケイサス・パラダイムを操作できる。ダーレクは不完全な特異解しか発見できなかったが、僕たちは完全な一般解を見つけ出した。時空間に穴を開けるなんて大ざっぱな改変ではなく、もっと精密な改変を起こすためにね」
 
 
 というわけで、この冷蔵庫は「バンブルウィーニイ第五十七番亜中間子頭脳」に接続されており、上のポットは「原子ベクトル記録機」になっており、さらに冷蔵庫本体は見事「有限不可能性生成チャンバー」に生まれ変わっていた。
 いや、覚えなくていい。名前はこの際、別にどうだっていい。
 では手順の説明だ。いちおう説明するが、これもテストには出ないから安心してくれ。
 ポットの下に火傷しそうなアツアツの(ここが重要らしいのだが)緑茶を入れた茶碗を置くと、ポットから「原子ベクトル記録用プローブ」が下りてきて緑茶内に潜行、緑茶内原子の強力なブラウン運動を記録する。
 すると、ブラウン運動の信号がバンブル(略)亜中間子頭脳に送られ、その信号がトリガーとなって冷蔵庫内に「有限の確率で起こる出来事」が創造される、らしい。
 まあ、どうしてそうなるのかはさっぱりわからないが、わからなくてもこの先一生困らないだろうことは間違いない。
 
 
「で、どうして勝てたんです。この装置を使ったところでダーレクの戦艦は倒せないし、勝つために必要な新発明だって、どー頑張って造れないわけでしょ?」
 ドクターはチッチッ、と指を降った。く、腹が立つがガマンだ。
「『事実上不可能』と言ったんだ。全く完全に絶対に造れないわけじゃない」
「って言っても、勝率は一パーセントも無かったはずだ」
「その通り。正確には、二の一兆九千二百一億九千七百万六千五百二乗分の一だった」
「はっ?」
「だから、その確率だよ。新発明を造れる確率、つまり僕たちの勝率さ」
 おいおい、ちょっと待てよ。んなもん呑気に計算してる間に、さっさと逃げる準備でもすればよかったじゃないか……。
 そのとき、俺の頭に妙なアイデアが浮かんだ。
 ドクターをチラ見すると、笑いを押し殺しながら冷蔵庫をペシペシ叩いている。
 まさか。
 そんな馬鹿な話が、と思いながらも、いちおうは聞いてみることにする。
「その確率が計算出来たってことは……確率は無限小じゃなかったってこと、ですよね」
「その通り。それで?」
 もう答えは目の前にあるじゃないか、という優越感にどっぷり首まで浸りきった表情。
「つまり……その確率をそのバンブルなんとか頭脳にぶち込めばよかった、と」
「その通り!」
 ドクターが小躍りで近づいてきた。
「大正解だキョン! いやはや、きみほどの洞察力なら〈シリウス・サイバネティクス社〉の幹部だって夢じゃないぞ! おめでとう!」
 笑顔でパチパチとこちらに拍手する。そんな大げさな。
 と、長門までこちらにやってきて、
「おめでとう」
 パチパチとやり始めた。
 カサンドラまでやって来た。
「おめでとう」
 パチパチ。
 パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。
 おめでとう、おめでとう……。
「やめてくれ、なんか不安になる」
 俺の一言で拍手は鳴り止んだ。
「なんで祝ってもらって不安になるんだ、キョン?」
 困惑するドクターと長門、ついでにカサンドラ。
 なんとなく最終回っぽい感じのトラウマに触れるんだよ。
 てか最後まで聞いてないぞ俺は。
「で、さっきの続きですけど。その冷蔵庫に勝率をぶち込んだら新発明が出来て、それを使って勝ったんですね?」
 ドクターがまた満面の笑みになり、長門の肩に軽く手を置いて話し出した。おいおい、ずいぶん馴れ馴れしくないか。ここはカーネギーメロン大学のキャンパスじゃないんだぞ。
「そう、その通り。有希の能力で戦艦内にテレポートさせたんだ」
 長門の方を見て笑ってみせる。長門もドクターを見る。よく見つめあうね、あんた達。
「それはもう骨の折れる仕事でね、最後はクラッキングの仕掛けあいだった。まるで嵐というか洪水のような規模でのウイルスやら偽装データの流しあいさ。しかも敵のコードを解読しつつシステムへの侵入を進めながら。まったく、あんな仕事はもう二度と……」  ふと自慢話が中断した。珍しいこともあるもんだな。
「これ動いてないか?」
 そういえば、さっきから冷蔵庫がうなりを上げているような気がする。
 
 
 冷蔵庫にソニックドライバーの光を当てると、ドクターの顔が真っ青になった。
「いかん、止めないと!」
 コンソールに直行する。
「止めないとどうなるんです?」
 聞かないほうがいいような気がビンビンするがな。聞いちまったのは反射だ。
「わからない。これがすごいのはあり得ない出来事を起こしてしまうところだ、何が起きるかなんてさっぱりわからない、計算不能だ!」
 そこまでしつこくわからないと念を押されても困る。
 ドクターが額に汗をかきながら、さながらモグラ叩きのハイスコアを狙ってるかのような素早さでコンソールのパネルを叩きまくり、ボールやレバーを回しまくる。
 長門も慣れた手つきでキーを連打する。
「くそっ止まらないぞ! どこからエネルギーが来てるっていうんだ!」
 焦るドクターの横で、冷蔵庫が淡く光を放ち始めた。
 不思議と怖くはない。まるで月明かりのように人を包み込み癒す、優しい光。
「キョン離れろ! もしかしたらブラックホールが……」
 言い終える前に、冷蔵庫は爆発していた。ただし、光の爆発だ。
 百万個のフラッシュがたかれたように視界が真っ白になる。
 
 
 
 
 奇妙なことに、             波打つのがわかった。
        俺の身体がその光になびき、


 さらにおかしなことに、           理解できる。
            これがどういうことかも

 
 どうやら           波動関数が目に見えちまってるらしい!
     量子的効果が拡大され、

 
 見ている間にも、        大きくなる。
         ますます拡大率は
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 プランク長から、陽子の半径へ。
 
 陽子の半径から、1オングストロームへ。
 
 1オングストロームから、紫外線の波長へ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 これの行き着く先は知っている。

 
 意味を持つ最小の長さが、       俺の背丈を追い越すまでになるだろう。
             プランク長が、

 
 そのとき何が起こるだろう?

 
 たぶん、俺の観測が         現実を決める事になるはずだ。
          最大の効果を持って
 
 
 ってことは、俺は……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 1ミクロンから、1メートルへ。
 
 そして、人間の身長へ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ふいに、俺は空間を漂っていた。時間が止まっていて、他の全てが静止している。
 意識が身体から自由になっているのがわかり、呼吸の必要を感じない。
 おいおい、死んじまったのか俺は?
 ぐえ、前も後ろも横もあらゆる方向が、近くも遠くも全部見えやがる。
 それに人や物の中身も一切合切あけっぴろげに見える見える。気持ちわりい。
 直角の方向を見ると、過去と未来に渡って伸びる、俺たち全員の姿が見えた。
 こりゃまるでねじくれたスパゲッティの束だ。うげえ。
 なんでこんな超感覚を身につけにゃならんのだ、と思った瞬間に答えがわかった。
 確かにこんな現象は「あり得ない」よな。確率無限大分の一だ。
 ふむ、こりゃ面白いな。なんでも見えるし、なんでもわかる。
 試しに人生とか宇宙とかの意味、究極の答えを考えてみるか。永遠の疑問ってヤツ。
 考えるまでもなかった。ふーん、なるほどって感じだな。
 さて、どうするべきか。これってなんでも出来るんじゃないか?
 さしあたって、もう一度過去方向を見てみようかな。
 そうだ、この事件の発端からして、なんか違和感があったんだ。
 つまり、そもそもハルヒが……ああ、やっぱりだ。
 どの時点のハルヒを観ても、テレビで放送されていた「ドクター・フー」に興味を持つような素振りなんざどこにもない。
 失礼ながら、やはりマイナー作品の悲しいところだ。
 だがこのままいくと、ハルヒは「ドクター・フー」を観ないので、この事件全体が起こらないことになる。
 しかたない、か。
 リビングでくつろいでいるハルヒの脳にちょこっとアクセスして、新聞を手に取るように仕向ける。さらにテレビ欄のNHK枠に興味を持たせ、「たまたま」その時間にやっていた変な名前の海外ドラマを観るように仕向ける。
 よし、これできっかけ作りは完璧だ。
 
 
 さて、あとはどうしよう。この部屋の過去でも観てみるか。
 俺は大体の時間ここには居られなかったからな。
 ドクターが紳士だと信じてはいるが、長門とずっと二人きりだったわけだし。
 ……あ、俺がピンク色の人魂に乗っ取られた。
 げげ、すんげー甲高い笑い声! おいドクター、お前のせいだろ! 引くなよ!
 思わずちょっかいを出したくなるが、止めておく。
 俺と長サンドラがお茶を取りに出て行った。
 ふーむ、ふむ。問題ないか……。
 ずーっと観ているが、二人は装置の組み立てに没頭している。疑っておいてなんだが、ちょっとは休んだり遊んだりすればいいのに。
 結局、ダーレクに襲われた俺と長サンドラを助けにターディスを出るまで、チェスの一勝負すらも無かった。なんだ、ドクターって意外と草食系?
 
 
 さて、場面は進んでいよいよ最終決戦。そうだ、俺はこのときもここに居ない。
 ドクターは八面六臂の大活躍というか、むしろ七転八倒だったと言ったほうが近い。
 ターディスを操縦しながら、ダーレク艦にハッキングをかけながら、さらに有限不可能性生成機の準備まで進めている。そこに俺がいたら拍手喝采だったろう。
 そろそろラストだ。では、いよいよ長サンドラが冷蔵庫を動かして……よし!
 記念すべき、「無限不可能性爆弾」誕生の瞬間だ! ブラボー!
 どれどれ、どんな構造なんだ? いまの俺なら、ぱっと眺めるだけで理解できるぞ。
 あれ?
 ちょっと待て、これがこうなってこうだろ……で、ここで反応が起きてこっちに……。
 ありゃ、なんてこった。
 この爆弾、このままじゃ作動しないんだが。どうも確率の計算ミスみたいだな。
 まあ、あの時の彼らには難しい計算だし、しかたないか。
 よし、俺がちょっと手直ししてやろう!
 自慢じゃないが、時空を自在に操れるいまの俺には計算などお遊戯同然なのだ。
 ちょいちょいちょい、と……こんなもんでどうだ? よし、完成。
 あれ、待てよ。
 じゃあドクターと長門は、ついに完全な爆弾を造れなかったってことになるのか。
 よっしゃ、いま造った完全版の完成品を二人にも見せてやるとするか。分解して調べるなりして、正しい構造を把握してください。
 あっちこっちから原子を集めて、結合させて、エネルギーを入れて、っと。オッケー、これも完成だ。
 あとは……ああ、忘れるところだった。いまの状況を作るために、有限不可能性生成機をいじって誤作動して爆発するように仕向けて……エネルギーを仕送りして……よし。
 最後に俺自身に違和感を植え付けて、何が起きてるのか理解させて、と。
 さて、じゃあもう戻るとするか。と思ったとき、横に居る長サンドラの姿が目に入る。
 こいつも頑張ったし、贈り物をひとつ。
 今後の人生に悪影響かもだから、この体験の記憶も消すことにして。
 じゃあ、戻るか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 人間の身長から、1メートルへ、1ミクロンへ、紫外線の波長へ、1オングストロームへ、陽子の半径へ……そして、プランク長へ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
「ぶはっ!」
 俺は息を吹き返した。いや、止めていた記憶は無いんだが。
 目が慣れてくると、そこにもはや冷蔵庫が無いことがわかった。
 代わりに転がっているのは、なにか黒い球体。ぴょこんと導火線らしきものが飛び出ている。
「キョン、大丈夫か!」
 ドクターと長門が大慌てで駆け寄ってきた。
「エネルギーがまともに当たってたぞ。破片は直撃してないにしても……」
 すぐさまソニックドライバーの光を、全身くまなく当てられる。
 もう直ってたのか、とドライバーの方の心配が出来るくらい、俺は健康だった。
「怪我はない?」
 長門にも心配された。本当に真剣だな、お前はいつも。
「大丈夫だ。ありがとうな」
 無表情に、こくっとうなづく。やれやれ、にしても驚いたぜ。
「よかった、怪我も無いようだ。ん? あれは!」
 俺の心配もそこそこに、ドクターが黒い球体に駆け寄る。
「無限不可能性爆弾? なんでここに!」
 あれがそうなのか。なんつーレトロで少年期を思い出させる見た目だ。
 ドクターは、しばらくしゃがんで爆弾を触ったり叩いたり、ソニックドライバーの光を当てたりしていたが、立ち上がるなり言った。
「まいったな。爆弾があったところで使い道無いぞ」
 おいおい、どうすんだそんな物騒なもん。
 と、ドクターがテキ屋めいた笑顔でこっちを振り返る。
「うーん、キョンいる? これ」
 いやいや、爆弾でしょこれ。
「そうは言っても、これはどんな宝石よりも価値があるさ。銀河中を探したってこれほど強力な兵器はそうあるもんじゃない。つまり適切な種族にこいつを売りつければ、それはもう高値で売れること間違いなし! さらに今回はドクターの保障書付きだ」
 流れるようなセールストークの後、ドクターがいたずらっぽく笑う。
「いらないですよ」
「そうか、残念だ。一財産築けるのにな」
 かぶりを振るドクター。わかってたクセに。
 だいたい俺に宇宙人の知り合いは……ああ、長門がいたな。
「うーん……?」
 突然声がした方を見ると、長サンドラが床から身体を起こしていた。
 しまった、倒れてたのか。正直すまん、すっかり忘れていた。
「大丈夫か? カサンドラ」
 ドクターも若干負い目を感じている様子で声をかける。
「大丈夫じゃないわよおー……いてて、頭にタンコブできちゃった」
 そこで突然なにかに気づき、長サンドラの目が困惑に見開かれる。
 頭をさわったり、顔のあたりをぺちぺち叩き始める。おーい、大丈夫ですか?
「え、え!? ドクター、わたしの設定変えた? ホログラムの!」
 状況がうまくつかめないと、両手を横に広げてみせるドクター。
「いや別に? どうして」
「わたし……わたし、まるで人間になってるみたい」
 お前は何を言っているんだ、と俺が言いかけたところで、ドクターが長サンドラに歩み寄った。すぐにソニックドライバーの光を当てる。大活躍だな、ドライバー。
 じわじわとドクターの目と口が、はにわの形を目指してまん丸に開いていく。
 一度ドライバーを離すと、本体をいじって設定その他もろもろが合っているかどうかを確かめ、また光を当てる。
 数十秒後。普段より大分長い検査の後、ドクターは重々しく宣告した。
「カサンドラ、信じがたいことなんだが。きみの今の身体には酸素・炭素・窒素・水素・リン・硫黄が全部そろっている。しかも体内に臓器があり、それらは細胞から成り立っていて、きちんとエネルギー代謝まで行っている」
「えっと、つまり?」
「つまり……ああ信じられない、きみは人間だ! ホログラムじゃない人間だ!」
 長サンドラはしばらくポカンとしていたが、やがて困惑と感涙の中間で、
「本当? なんで?」
 と言った。
「わからない。たぶん、あの有限不可能性生成機の事故だろう。詳細は不明さ」
 長サンドラはドクターにとびついた。その胸でしゃくりあげる。
 ドクターはしばらく、その肩を優しく叩いてやっていた。
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Date:2014/05/15
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