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□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

急展開

 渡り廊下をしばらく歩いていると、携帯が振動していることに気づいた。
 落としても構わないくらいの勢いでポケットから引っこ抜いて、表示を確かめる。
 やっぱりドクターか。
 携帯をまた突っ込む。
 もう知らん。もうお前らだけでなんとかしてくれ。俺は断固帰るからな。
 渡り廊下の端まで来て、また鳴った。
 ずいぶんと長いこと、未練がましく鳴り続ける。
 まったくしつこいな、お茶がなくたって別に死ぬわけじゃなかろうに。
 それにその待望のお茶だって、もうすぐ長サンドラが持っていくだろう。
 ……いや待て、お茶煎れられるか? あの部室の状況で?
 まあ自分で淹れられなくても、最悪自販機で買ってごまかすって手もあるだろう。
 問題は、自販機の使い方を長サンドラが知ってるかってことだが……。
 いやいやいや、もういいんだ。もう考えなくていいんだ俺。
 もう何時間も事件の渦中に居て頑張ってたんだ。もうそろそろゴールしてもいいよな?
 適当になんとかしてくれ。適当に。
 階段を降りきったところで、また鳴り出した。いい加減しつこいぞ。
 と、思ったら今度はすぐ止んだ。つまりメールだ。誰からだ?
 まあこのタイミングなら、ドクターだろうな。メルアドを教えた覚えは無いが。
 それにしても、なんか用件が気になってきた。急用か?
 しばらく逡巡したあげく、俺は決めた。
 メールは見てやろう。これで眠れなくなっても困る。で、見た上で無視すればいい。
 携帯を開く。どれどれ?
 

          件名:すくかえれ
          本文:とくた
                              」
 
 ……いきなりナゾナゾを送られても困る。
 
 
 廊下で立ち止まって頭をひねっていると、またメールを受信した。
 ドクターから……二通目か。


          件名:たれくいたあふない
          本文:とくた
                              」
 
 わっかんねーよ。
 とはいえ、少しわかったこともある。
 この本文はおそらく両方のメールに共通の部分……差出人の名前だろう。
 つまり、「ドクター」と書きたかったに違いない。携帯でメールを打つことに慣れていないドクターは、濁点がうまく打てなかったというわけだ。
 て、ことはだ。
 他の部分も濁点を補って読めば……。
 
  すくかえれ → すぐ帰れ
 
 楽勝だな。そして断る。
 よし二通目。
 
  たれくいたあふない → ダーレク行った、危ない
 
 なるほどな。ダーレクがこっちに。
 少し遠くで何かが割れた音がした。
 気がつけば、俺の両脚は階段を一段飛ばしで駆け上り、渡り廊下を貫いて、部室に俺を運んでいる。
 あいつ、携帯なんて絶対持ってないぞ!
 渡り廊下の先で火花が散って、炸裂音が響いている。
「来るな、来るな来るなあッ!」
 聞きなれた声が叫んでいる。
 すぐに長サンドラの姿が見えた。後ろに下がりながら、コンピ研の方向にマシンガンを乱射している。
 あいつ、一人で闘ってるのか? そんなの無謀を通り越して、もはや非合理的だ。
「うわあああああ!!」
 長サンドラはもう半狂乱で撃ちまくっている。
 ああ、非合理的なのは俺じゃないか。俺がここにあいつを残したんだ。
 俺があいつをここまで追い込んだんだ。
 くそっ、全力で走ってるのに、あと二十メートルはある。
 俺が一度帰らなければ、この距離はゼロに出来たのに。
「抹殺セヨ! 抹殺セヨ!」
 俺には壁で見えない方向から、長サンドラに向けて幾つもの輝く光の筋が走った。
 言うまでもなく、一撃必殺の殺人光線だ。
 間に合ってくれ、あと十メートル!
「うわあああああ、いやああああ!!」
 パパパパパ、パパパパパパ!
 あと五メートル!
 遅かった。
 光線が長サンドラを貫き、壁に穴を開けた。
 長サンドラは一度のけぞると、もんどりうって倒れた。
 マシンガンが床に叩きつけられて、派手な音を立てる。
 俺はようやく、廊下の先にたどり着いた。
 
 
「カサンドラ! カサンドラ!」
 肩をつかんで揺さぶってみるも、反応がない。
 当たり前だ。
 死んでいるのだから。
 さっきまで、派手に笑ったり怒ったり、泣いたりしていたじゃないか。
 でもこの目はもう、何も見てはいない。
 揺さぶるのを止める。カサンドラは人形みたいに、くたっと床に伸びた。
 俺はどうやって、この償いをすればいい?
 大馬鹿極まる俺には、なにも思いつきはしない。
 予想通り、長サンドラが撃っていたほうを見ればダーレク。
 コンピ研部室のドアから出て来て間もないようだ。
 特に俺のことなど気にも止めず、じりじりと距離を詰める。
 粉々になったドアを踏み潰す音が絶えず聞こえてくる。
 これが圧倒的強者の余裕ってやつか。
 ダーレクは俺も殺すだろうか? そうすれば償いになるだろうか?
 今と同じように、長門が光線に当たって倒れた瞬間がフラッシュバックする。
 あのときも結局俺は、なにも思いつかなくて……。
 
 
 ちょっとまった。
 
 
「おいカサンドラ起きろ! お前生きてんだろ!」
 耳元で思い切り叫んでやると、長サンドラは飛び起きた。
「へうああっ!? ……あれ……?」
 まだ事態を飲み込めていない、寝ぼけまなこの長サンドラの脇に腕を回し、持ち上げて立たせる。
 頭の上で髪飾りが揺れた。
 こいつの身体は、この髪飾りが生み出したホログラムに過ぎない。忘れてたぜ。
 通りで光線が貫通するはずだ。
「来い!」
 立ったところで腕を引っ張って、一緒に廊下を走って引き返すことにする。
「あ、え? なんで来たのよ!? バカなんじゃないの!?」
 ようやく俺が居ることに気づいたようだ。
 感謝はされても、非難される言われはないと思うが。
 あと泣きながら言っても説得力無いぞ。
 突然、俺の横のガラス窓が粉々になった。
 ヤツの電撃が直撃したようだ。アブねえ。
 長サンドラもお返しとばかり、そちらにマシンガンをぶっ放す。
「来い、いいから!」
 そんなもん撃っても効きゃしねえんだよ!
 
 
 なんとかかんとか、火災報知機の横の階段まで引き返す。
 壁越しに渡り廊下を見ると、ダーレクは相変わらずゆっくり進んできている。
 パパパパ! パパパパパ!
「うっせえ! 耳元で撃つな!」
「なによ! 撃たなきゃ倒せないでしょ!?」
 それはそうだが、ほとんどダメージは無い。あまり効率が良くないな。
 ダーレクの後ろには開いた部室のドアが見える。
 ……待てよ、何か見落としてるぞ。
「おい、光線銃はどうした。なんでマシンガンなんだ」
「あるけど、さっきお湯被って回路がショートしちゃったのよ。撃っても感電するだけ」
 なんだよくそっ、せっかく対抗できそうな武器があるってのに。
「出力はどのくらいなんだ。ちなみに」
「1.21ジゴワット」
「それだけありゃ十分だろうがよー……」
 まったく部室は水浸しにされるわ、味方の宇宙人は使えないわ……。
「どうするのよ、逃げるの? 早くしないと」
「わかってるわかってる。じゃあ逃げるぞ」
 そう言って身をひるがえした瞬間、俺は見た。火災報知機の赤い光。
 あ、そうか。
「ちょっとタンマ!」
「ぐえっ!?」
 逃げ始めていた長サンドラのえり首をつかんで止める。
「息が止まったらどうするのよ……」
「お前はしてないだろ。俺にいい考えがある」
「なんかその言葉、不安だわ」
 うっさい。
 
 
 ダーレクは相変わらずゆったりと近づいてくる。もうすぐ渡り廊下を抜けそうだ。
「で、どうするの?」
「ああ、こうするのさ!」
 俺は言い放ち、火災報知機のボタンを勢い良く押し込んだ。
 校内に鳴り響く非常ベルの音。
 一回これ押してみたかったんだよな。
 続いて、ボタンの下にあるカバーを開ける。
 中には消火用のホースが畳んで収めてあった。
 急いでホースを出して伸ばし、使えるようにする。放水口はこれだな。
「よし、バルブを回せ長サンドラ!」
「りょ、了解! ん? 長サンドラ?」
「いいから早く!」
「はいはい、それっ!」
 床に伸びていたホースが急に生命を得たようにのたくり、そして俺の持っていた放水口から水が勢い良く噴出した。
 口をダーレクのほうに向け、そのあたり一面をまんべんなく水浸しにする。
 ダーレクはびしょ濡れになりながら、カメラを振って突然の事件にあわてふためく。
 よし、こっちの方まで水が伸びてるな。
 放水口を廊下に投げ捨てて、俺は引っ込む。いつ撃たれるかわかったもんじゃない。
「カサンドラ、光線中をこのあたりに置いて撃て」
「え、水溜りに?」
「そうだよ早く!」
 水に触れないよう、急いで階段の奥に避難、手すりの上になんとか両足で乗る。
「わかったわよ! あなたドクターに似てきたわね」
 そりゃどうも。
「えーと、発射!」
 その瞬間、俺の目の前でカミナリが炸裂したようだった。
 あちこちで何かが小さく爆ぜる音、そしてプラスチックやゴムが焦げる臭い。
「ギャアアァアアアァアアァアアァ!!」
 壁越しにダーレクの断末魔の悲鳴が聞こえる。
 よっしゃ、一か八かの賭けは大成功みたいだな。
 
 
 しばらく電流を流し続けた後、静かになったのを見計らって光線銃を回収する。
 そーっと廊下の方を見ると……ダーレクはカメラや便器カップを力なく下げ、ぐったりと動かない。
 勝った。
 が、嬉しさとかよりも疲れのほうがデカい。
 あーくそ、大変な目にあった。
「まさかあなたがダーレクを倒しちゃうなんて……」
 まるでピンク色の象でも見たような様子の長サンドラ。
「単なるまぐれ当たりさ」
 これは謙遜じゃなくて、純然たる事実だ。
 なんだよ、なんで見るんだよ。
「あー、えーと、ね」
 ほほをポリポリと書く。
「その、謝るわ。いろいろと。ごめんね」
 なんか謝られると逆に居心地が悪いな。
「まあ、あれだ。水に流そう」
 敵を水で倒したわけだし。うん。
 なんか変な感じだったので、水を止めてさっさと帰ることにする。
 廊下に出て、二人で歩き出す。
 ばしゃばしゃと足下で跳ね返る水の音だけが聞こえてくる。
 そういや、こいつとこんなに静かに歩いたのは初めてだな。
 黙ってないでなんか言ってくれよ、まったく。
 することが無いので、ダーレクがそのまま動かないでいるか、振り返って確かめる。
 ダーレクは宙に浮いていた。
 見間違い、じゃないよな。
 その証拠に、ダーレクの光線管がこっちを狙っている……いや、長サンドラを。
 とっさに身体をその間に入れる。なんでこんな馬鹿な真似したのかはわからん。
 が、俺の顔の横で何かがまぶしく閃いた瞬間、もはや手遅れだったことを悟った。
 
 
 長サンドラは、まるで糸を切られた操り人形のように倒れた。
 その顔が苦痛にゆがむ。
 おい、なんでだよ。お前はいまホログラムなんだろ?
 身体を抱きかかえると、やけに軽い。
『今度は、大当たりね……エミッターを……撃たれた……みたい』
 確かに、髪飾りが煙を上げている。
『まいった……な……まだいろいろ……やりた……と……あっ……に……』
 言葉にノイズが混じり始め、その姿も幻のように揺らめき始める。
 まるでヘリウムを注入されてるみたいに、身体がどんどん軽くなっていく。
「しっかり、しっかりしろ!」
 もう、俺の手はほとんど身体を支えていない。
 俺の無責任な励ましに、長サンドラは力なく首を振った。
『いろい……ろ……』
 もはやその姿は、ほとんど透明になりつつある。
『ごめんね』
 そう言うと、長サンドラは消え去った。
 髪飾りは支えを失い、床に落ちて転がった。黒く焦げ、割れてしまっている。
 気づけば、すぐ近くにダーレクが居た。
 俺は感覚がマヒしちまったらしく、恐怖もなにも感じなくなっていた。
 振り返って、質問をぶつける。
「殺したのか、カサンドラを」
 聞くまでもない、わかりきったことだけどな。
「人工生命体ヲ駆動スルはーどヲ損壊シタトイウ意味デハ、ソウダ」
「回りくどい答えはいい。イエスかノーで答えろ」
「いえすダ」
 自分でも驚いたことに、今すぐ目の前のこいつをぶち壊してやりたくなった。
 だが激情はすぐに冷めて、諦めやら虚無感に変わってしまう。出来るわけがないな。
 俺はたぶんすぐ死ぬんだろう。だったら、その前に聞いておきたいことがある。
「お前はこれから、どうするんだ。ダーレク」
「どくたーヲ倒ス。アノ異星人ノ女モ殺ス。ソシテ、地球ヲ抹殺スル」
 大きくため息を吐き出す。
 予想通り。あまりに完璧な答えで補足の必要すらない。百点満点文句なしの回答だ。
「考えを変えるつもりはないのか。出来ればこのまま立ち去ってくれるとありがたい」
「コレハ自分ノ使命ダ。使命ハ、絶対ダ」
 まったく、この石頭め。大きく首を振る。
 さて困ったな。こういう場合、この悪徳宇宙人に何を言うべきなんだ。
 地球とか人類愛の美しさを説いて、情に訴えかけてみるか?
「なあ、こんなことしても無意味だと思わないか。地球を侵略して生物を皆殺しにして、それでどうなるっていうんだ。一体なにが楽しいんだ?」
「自分ハ使命ニ従ウダケダ。オ前達ノヨウナ不完全ナ生物ハ、存在自体ガ病気ダ」
 そーかよ。
 だめだこりゃ。試してみたが、やっぱり交渉の余地なしだ。
 ダーレクも黙って見てないで、さっさとズバッと撃ってくれればいいのに。
「じゃあ早く殺せよ。ほら、ここに立ってるから」
 腕を広げてみる。相手は動かない。
 消える間際の、苦しみに歪む長サンドラの顔が心に浮かぶ。
「なにしてるんだ。ほら、やれよ。ほら!」
 呼びかけに答え、目の前がまぶしく輝いた。
 
 
 だが、それはダーレクの光線の輝きではなかった。
 渡り廊下の向こうから、投光器でこちらを照らされていた。ダーレク越しに、逆光で影になったゾンビの群れが見える。
 ダーレクに向けて、銃弾の豪雨が降りそそぎ始めた。
 渡り廊下の向こうに陣取って、ゾンビ軍がこちらにマシンガンを撃ち込んでいるのだ。
 いや、それにしてはやけにうるさい……と思ったら、あの形はレールガンじゃないか。長門のを真似て量産しやがったのか。
 振り向いたダーレクが金属管からの殺人光線で応戦するも、一人倒れればまた一人補充され、また一人倒れれば二人追加される。
 隙が出来たところで、俺は急いで階段に退避した。
 俺が動くと同時に銃撃は止み、ゾンビ達は引っ込む。
 投光器の光の代わりに、金色の輝きが廊下に出現した。
 投光器とは別の光源が中にあり、廊下全体が光輝く金色のトンネルのように見える。
 目が慣れてくると、そこには光を発している小柄な人影と、その横に立つ長身の人影があることがわかった。
 もちろん、長門とドクターだ。
 二人はゆっくりと光のトンネルを歩き、こちらにやってくる。
 ダーレクが金属管から電撃を発射した。
 長門は歩きながら手のひらをかざすと、殺人光線を事もなげに受け止める。まるでピンポン玉でもキャッチするみたいに。
 防がれたことが信じられないのか、ダーレクはおびえたように電撃を乱射した。
 またも軽々と、全ての攻撃が防がれる。
 二人が廊下を抜け、ダーレクの、そして俺のすぐ近くまでやってきた。
 長門の身体からは、なぜか黄金の光る粒子が絶えず吹き出し、もやが出来ている。
 ついでに言うと、髪も脱色したように金色だ。それ、どっかで見たことあるぞ。
「スーパー宇宙人。怒りによって目覚めた」
 そうか、危ないからそのネーミングにはもう触れないからな。
 ダーレクがまたも電撃を発射した。
 今度は電撃の軌道そのものがぐにゃりと捻じ曲げられ、長門の後ろを半周してダーレク自身に戻ってきた。
 シールドに火花を散らせるダーレク。
「申請がようやく受理された。このインターフェイスにおける、全てのリミッターを解除済み。もうその攻撃は通用しない」
 ダーレクが恐れをなしたように後退し始める。
「わたしのターン」
 長門の腕の先から凄まじい電撃が放たれ、ダーレクのシールドをしたたかに打ちつけた。そのまぶしい光は太陽を直接見つめているようで、目をつぶってもほとんど意味がない。俺の周りにオゾンの匂いが充満しはじめ、うなじの毛が逆立ってくる。
 いかに鉄壁のシールドといえども、この規格外かつ莫大なエネルギーの奔流にはさすがに歪みはじめ、流されそうになる。
 ノイズに混じって、ダーレクの声が切れ切れに届いてくる。
「ナゼ、ダ……ナゼ味方ヲ……ス、ル…………!」
 ドクターとダーレクが電撃越しに見つめあう。
「病気、ノ…………人類、ノ……!」
 ドクターはその様子を、目を細めて静かに見守っている。
 ダーレクは短い悲鳴を放つと、粉々に飛散した。
 
 
「ありがとう、長門。かなり助かった」
 ダーレクの破片を踏まないように避けながら長門に近づき、その手を両手で包む。
 長門はやや面くらっていたが、
「どういたしまして」
 普段より長く答えた。
「ん、ん!」
 咳払いに気づくと、長門のとなりには渋い顔のドクターが立っている。
 しまった、ちょっと見えていなかった。
「……すみません、ドクター。電話を無視して」
 ドクターは無言で、握った長門の手のあたりを指している。
 あ、やべ。
 慌てて手を離す。いかんいかん、女性の手をいつまでも握ってるとか失礼だよな。
「すまん、ずっと握ってた」
「いい」
 だが、ドクターはまだ指を差している。よく見ると、俺の手のほうだ。
 もう少し正確に言うと、持っている髪飾りだった。
 さっき退避するとき、とっさに拾っておいたものだ。
「すみません、ドクター。俺のせいで……」
「言わなくていい。それを貸してくれ」
 ドクターは髪飾りを受け取るなり、ソニックドライバーの青い光を当て始める。
 祈るような気持ちでそれを見守る、俺と長門。
 なんとか、なんとか助かってくれればいいんだが。
 しばらくしてドクターはドライバーをしまうと、重々しくため息をついた。
「キョン、いいニュースと悪いニュースがある」
 そうか、あまり聞きたくないな。
 その沈んだ声を聞けば、いいニュースにも大して期待できないことくらいわかるさ。
「じゃあ悪いニュースから、お願いします」
 一拍おいてドクターの声が返ってくる。
「このモバイルホロエミッターは、残念ながら修理できない」
 謝るように目を伏せる。
「中のメモリー……カサンドラの意識も完全に消滅していて、元に戻せない」
 やはりそうか。わかっていてもなんというか、胸が痛い。
「いいニュースのほうも聞くかい? キョン」
 何気なさを出すため、髪飾りをもてあそぶドクター。
「そうですね……聞いてもしょうがないかもしれないけど」
 言った瞬間、ドクターが俺の両肩をガッチリつかんだ。
 なんだなんだ、なんですかその笑顔は!
「メモリーが丸ごとターディスに送信された痕跡がある! バックアップだよ!」
 俺がドッキリの被害者みたいに困惑していると、やや落ち着きを取り戻したドクターが説明を加えた。
「つまりカサンドラは自分自身をコピーして、ターディスに保存してたんだ。ダーレクに襲われる前に」
 ゆっくりとその意味が、俺の心に染み渡っていく。
「じゃあ……助かったんですか、カサンドラは」
「そうとも助かった! 助かったんだよ、キョン!」
 俺は笑った。ドクターも大笑いした。
 そしてひとしきり小躍りしたあと、三人はターディスに戻った。
 
 
 ターディスのドアを開けると、長サンドラが怒っていた。
「あっ、帰ってきた! ちょっとこれどういうこと、わたしなんでここにっ!?」
 突然駆け寄ったドクターに抱きしめられて驚き、言葉に詰まる。
「よかった、無事で」
「むーむー、むー」
 というか、身長差のせいで顔が埋まって声が出てない。
 やれやれ、俺も握手くらいしようと思ってたのに。この雰囲気じゃムリだな。
 長サンドラがドクターの背中をタップすると、抱擁から解放された。
「ぷはっ!」
「そうだ、キョンも心配してたよ」
「あ、キョンも居るの!? あなたレディーにあんなひどいことっ!?」
 これまた突然、俺に手をがっちり捕まれて驚く長サンドラ。
「な、なによ、なんで手を握ってるのよ」
「すまなかった。心から謝る。悪かった」
 俺の深刻すぎる声色に、長サンドラの勢いが一気に削がれる。
「えーとその……わかればいいのよ、うん。わたしも悪かったし。だからもういいわ」
 手を離すと、今度は長門が握手を求めた。
「なんであなたも、って! その髪どうしたの!? 不良になっちゃったの!?」
 驚きっぱなしの長サンドラだった。
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Date:2014/05/15
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