明日から書く。

□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

火災報知器は夜怖い

 旧館と中館を結ぶ渡り廊下。
 俺と長サンドラは、パソコン室に向かって徒歩で移動していた。
 長サンドラは俺の横で、眉間にシワを寄せながら大股で歩き続けている。
 当たり前だが外はもう夜も夜、深夜の時間帯だ。こんな時間に学校に居るってのもなんだか新鮮だと思うんだが、まあいまのところ雰囲気がよろしくない。
 部室を出てから、お互いに一言も言葉を交わしていない。
 場を和ませるジョークなんて口に出そうもんなら、その瞬間に右ローキックでひざ間接を砕かれそうだ。
 長門と歩くときも基本的に無言だったと思うが、それともまた違う。
 横のこいつの場合、単にこっちが見えていないだけだ。
 ときおり物騒な独り言まで聞こえてくる。一部抜粋すると、「ドクターめ」、「いまに見てろ」、「ダーレクの次はお前を」、エトセトラ、エトセトラ。
 別に何か話したいわけではないんだが、不機嫌オーラにあてられてこっちまで気が滅入りそうだ。
 長門の姿をしてるのに、こいつはひどく感情豊かだよな。突然使われた顔面の表情筋がビックリしてるんじゃないか。
 渡り廊下を出て、中館に入った。
 そこに壁があったみたいに、突然長サンドラが立ち止まった。もちろん俺も止まる。
「どうした」
「あれ、なに?」
 制服の胸元の布をぎゅっと掴み、反対の手で前方を指し示す。
 長サンドラが指差す方には階段があり、壁や床がぼんやりと血のような赤で光っていた。
 一瞬ぎくりとした、が。
「ありゃ火災報知機だ」
「なによそれ?」
 ああそうか、こいつは未来人なんだった。五十億年後にはそんなもん無いんだろう。
 ていうかいま気づいたんだが、こいつは未来人兼宇宙人兼異世界人なんだな。しかも今は幽霊だ。ちょっと不思議属性をてんこ盛りにしすぎじゃないだろうか。
「なんなのよ、なんで光ってるのよ!?」
 まあそんな愚にもつかない考察より、怯える女の子をなだめるのが先だな。
「落ち着け。別に危害を加えてきたりはしない。ただ光ってるだけだ」
「なんのために」
「火災が起きたらここを押すんだよ、っていう意味だろう」
「……それだけ?」
「それだけ」
 ふうう、と長サンドラが細い息を吐き出した。
「そう。じゃあ、行きましょう。あなた先頭ね」
 言うが早いか、素早く後ろに回られた。悪女の割りに意外と臆病なんだな。
「ひっ」
 歩き出そうとした瞬間、今度は後ろで短い悲鳴が聞こえる。
 振り返ると、長サンドラは横を向いて顔をこわばらせていた。
 同じ方向を見てみるが、あるのは真っ暗な廊下、それに点々と灯る赤い光だけ。
「なんであの光が怖いんだ?」
「別に理由なんてないわよ。じゃなくて別に怖くなんてないわよ」
 そうかい、じゃあ俺の白衣の袖を離してくれないかね。
 階段を降りる間も、ずっと袖を引っ張られていた。火災報知機の横を抜ける時には特に強めにだ。わけのわからんものを怖がるやつだな。
 でも学校のどこに殺人鬼がいるかわからない今の状況なら、少しは気持ちが分かるような気もする。
「まあ、あれはダーレクの目とは色が違うからな。見分けはつくさ」
 あれ、返事がないぞ。あまりの取ってつけた感に絶句したか?
 と思ったら、ちっさい声でレスポンスが返ってきた。
「馬鹿にしないで。ガキんちょのクセに」
 はいはい、悪かった悪かった。
 
 
 階段を降りてしばらく歩くと、また長サンドラに話しかけられた。
「ねえ」
「トイレならそこ曲がってすぐだ」
「違うわよ。一言目にそれってどうなの?」
 非難のまなざしが背中に刺さる。
 まったく、ジョークを理解する心の余裕ってのが欲しいもんだ。
「じゃあ何だ?」
「場違いな質問だと思うけど……あなた、この娘のことどう思ってる?」
 この娘? ああ、長門のことか。
 ……本当に場違いな質問だな。
 振り向いて顔を見ても、別にからかってるわけじゃなさそうだ。なんでいま聞く。
「どういう意味だ?」
「誰にでも、あんな風な感じで接するの?」
「あんな風って?」
 長サンドラはそれっきり、渋い顔で考え込むように、黙り込んだ。
 少し待つと、大きなため息ひとつ、腰に手を当てて再び口を開く。
「いいわ。あとの機会に話し合いましょう。いい? この娘にはくれぐれも無理させないようにね。ちゃんと考えて、大事にしてあげるのよ? わかった?」
「はいはい、わかったよ母さん」
「誰が母さんか!」


 地下ダンジョンみたいに延々と続く廊下を歩き通し、俺たちはようやくパソコン室の前までやって来た。
 長サンドラが扉を開け、首を突っ込んで、中を確認する。
 ちょっと見回して、頭を戻す。
「なんだ……」
 光のない瞳を作って俺を見つめる。
「中に誰もいませんよ」
「おいやめろ」
 理由はわからんがそのセリフは怖い。なんで言葉使い変えるんだよ。
 にしても、困ったな。ドクターはどこに居るんだ。
 むー! むー!
 そこで突然、廊下にオッサンがうなっているような声が響いた。
 俺と長サンドラがそろって、ちょっと床から浮く。
 むー! むー!
 声は聞こえ続ける。一体どこからだ? 正体を見せろ!
「あなた、パンツに何か飼ってるの?」
「はっ?」
 長サンドラの視線が俺の下半身に向いていた。
 おいおい、そんなところをじっと見るな。はしたない。
「たぶんポケットのところよ。そのパンツの」
 あ、ああ。
 ジーパンのことか。
 うなる物体をポケットから取り出す。つまり携帯だ。
 開くと、ドクターから電話だった。驚かすなよ。
 いやまて。
 なんでドクターが俺の番号を知ってるんだ、というかいつの間にドクターの番号が俺の携帯に登録されたんだ。携帯を触らせてもいないのに。ちょっとしたホラーじゃないか。
 恐る恐るボタンを押し、携帯を耳に当てる。
「もしもし?」
「ああ、キョン! 説得にいつまでかかるんだ? もう時間が全然無いんだぞ!」
 マジでドクターからだ。そうじゃなくても困るが。
「あの、どうやって番号を知ったんですか?」
「そんな細かいことの説明はあとだ。そっちの状況を教えてくれ」
 てことは、もう説明は無いな。
「いま、カサンドラと一緒にパソコン室の前に居るんですが」
「……もしかして、説得は成功?」
「いちおう」
「ファンタスティック! よくやったぞ、正直期待はしてなかっ……あーいや、なんでもない。とにかく、すぐ校庭に来てくれ。そこに停めてたターディスはバックネットの裏に移動させちゃったんだ」
「わかりました」
 一部ひっかかる表現があったが、これからどうすればいいかはわかった。
 校庭に向かって歩き出す。
「いよいよ、殺人鬼とご対面ってわけね」
 ため息と共に、長サンドラが不吉なセリフを吐き出した。
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Date:2014/05/14
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