明日から書く。

□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

渾身のビンタ

 俺たちは手分けして、三十分ほど学校中を探し回った。
 ドクターが北側(体育館と旧校舎、北側校舎の三階と四階)を担当し、俺が南側(北側校舎の一、二階および南側校舎と校庭、プール)を巡回した。
「居たか?」
「全然見当たりません」
 暗い昇降口で息をあえがせながら、途方にくれる俺とドクター。
 長サンドラが逃げ出したおかげで、計画が大きく狂い始めていた。
「僕のせいだ。あんなやつを信用してしまった」
 苦々しげに歯がみしながら、長サンドラを探してあちこちに視線を巡らす。
「いえ、俺のせいです。マシンガンを渡したのは俺だ」
 いくら姿が長門で油断したってのがあるにしても、迂闊だったな。
「いや、きみが謝ることはない。僕が……ああ、やめやめ!」
 両手を顔の横に広げ、ドクターがおどけたように言った。
 ふう、と息を吐き出すと、そこにはいつもの余裕が戻っていた。
「責任の被りあいは後ですればいい。それよりも、ああ、いま何時?」
 俺がポケットから携帯を取り出し、確認する。
「十時、三十二分です」
「時間がないな。あと一時間と二十八分以内でダーレクが、ゾンビ共に引率されて校庭に到着する手はずだ。それまでに校庭上空で時空間の裂け目を開けなければ、ちょっとマズいことになる」
 アゴに手をやって、考え始める。
 言われるまでもなく、かなりマズい状況だ。なんといっても、スケイサス・パラダイムを使って時空間の裂け目を開く作業は長門の担当だったのだ。
「……しかたない、僕がやろう!」
 ドクターがアゴから手を離すと、頭をがしがしと掻きながら言う。
「僕がターディスで裂け目を開くよ」
「出来るんですか?」
「ああ、もちろん。いや、たぶん。もしくは、ひょっとすると……運がよければ」
 おいおい、だんだん声が弱くなってるじゃないかよ。
「なんにせよ、誰かが裂け目は開けなければならない。有希がどこまで作業していたかによるが、そこは賭けるしかない」
 判断を間違えば即、人類絶滅か。カジノにも行ったことのない高校生が参加するには、少しばかりスケールのでかすぎる賭けだ。
 しかも負ければ、次のターンはもう二度と、絶対に回ってこない。
 ドクターがふいに、俺の両肩をがっしり掴んできた。
「大丈夫だ、心配するな。それぞれが精一杯やれば、道は必ず開けるものだ」
 そういうもんかね。
 いや、そう信じてやるしかないか。
「頑張ります」
「よろしい!」
「でも何をすればいいんですか? 俺は?」
「きみはカサンドラの捜索を続けてくれ。説得してほしい」
「説得って?」
「有希の身体を開放するようにさ。パソコン室に連れてきてくれ、頼んだ!」
 言うなり、パソコン室のある棟に向けて走って行ってしまう。
 いや、俺カサンドラとは初対面もいいところなんだけど。
 
 
 とりあえず、俺は旧校舎の部室に向かうことにした。
 ドクターがすでに見回った部分だが、他に居そうな場所が思いつかなかったのだ。
 正直、根拠は半紙よりも薄い。単なる直感というか霊感だ。カサンドラの行動パターンなんざ知らないし、長門が来るとすれば部室。それだけのことだ。
 ドアノブをゆっくりと回し、押す。
 顔だけ突っ込んで中を慎重に見回したが、やっぱり誰も居ないようだ。
 いや安心してる場合じゃないぞ俺。
 なんとか、長門が残したメモとかそういう類の手がかりを見つけないとな。
 そんなもんあるのか?
 中に入って、ドアを閉める。
「遅かったのね」
「ぶるああっ!?」
 卑怯じゃないか、ドアの陰に隠れてるなんて! 驚きすぎて自分でもわからない台詞を吐いちまったじゃないか。
 壁際の本棚に身体をぶつけながら、後ろ足で団長席に向かう。
「驚きすぎよお。ほら別に、なんにも持ってないでしょ?」
 両手を広げながら近づいてくる長サンドラ。
 いやむしろ、そのポーズが威圧感を増してる気がする。
「ドクターはここを見なかったのか?」
「見たわよ? でもこの身体ってすごーく便利なの。気配を消したり、あとは」
 そこまで聞いた瞬間、音も立てずに長サンドラが動き、二人の距離がゼロになった。
 突き飛ばされ、床にあお向けに押し倒される。
 頭打っちまっただろコノヤロウッ。
 勝ち誇った笑みが薄暗い逆光の中にある。
「こうやって機敏に動けたりね。まるで猫みたいでしょ? にゃあーお」
 くそっ、肩に全体重が乗ってて動けねえ。殺される、のか?
「んふふ、殺しやしないわよ。ただちょっとこの若い身体で楽しみたいだけ」
 なんだって?
 長門のものだった瞳が、なんだか見たこともない色に輝いているように見えた。
 異常な熱。沸騰する液体窒素。
「というわけでー」
 長サンドラがゆっくりと顔を近づけてきた。
 いっ、いかんいかん、これはいかんぞ! 
 全年齢向けじゃない展開になっちまうぞ!
「ちっ、ちょっとまったあ!」
「待たないわよ~」
「今はそれどころじゃないんだって! 大変なことになってんだって!」
「なにも『地球最後の日』ってわけじゃないでしょ」
「いやもしかしたら……」
 そうなるかも、と言いかけて、俺は固まった。
 地球最後の日。そうだ、俺はドラマでそれを見てる。
 思い出した。カサンドラ。
「カサンドラって、あのカサンドラか?」
 俺の言葉を聞いた瞬間、長サンドラの顔がぴたりと止まった。危ねえ、あと三センチでアブない課外授業に発展しちまうところだった。
 顔を離して、今度は怪訝な表情でこちらを覗き込む。
「どこかでお会いしたかしら? ごめんなさいね、男性のお知り合いが多くて」
「トランポリンの化け物みたいな、あのカサンドラ?」
 そう、ドラマに登場したカサンドラは、整形を繰り返した結果、引き伸ばした顔の皮を金属の枠で固定した化け物になっていたのだ。
 長サンドラの顔が、急に無表情になる。
「だ、だ、だ……」
 さらに数秒かけて、憤怒の形相に移行していく。おおすげえ。
 まるで金剛力士像、あるいはハルヒみたいだ。長門ってそんな顔も出来るのか。
「だぁぁれぇぇがぁぁトランポリンかぁぁぁぁ!!」
 バッチーーーン!!
「いっでえぶう!?」
 左ほほで痛みが炸裂し、一瞬意識が飛んだと思ったら顔が右を向いていた。
「お前何すんだあ!?」
 ひりひりじんじんするほっぺたを押さえながら涙声で抗議とは、我ながら情けない。
「何じゃないでしょうが! よりにもよってレディを、このわたしを、ト!?」
「いやだってトランポリンだったじゃうおっ!」
 とっさに上げた左腕が、長サンドラの右フックを防いだ。いでえっ!
 な、なんつー重い拳だ。骨にヒビとか入ってないだろうな?
 しかし今がチャンス。急いで長サンドラの下から身体を引きずって抜け出す。
 更なる追撃に備えて素早く立ち上がり、ファイティングポーズをとる。
 数秒の間。
 なぜか追撃がない。
 長サンドラはひざ立ちのまま、顔をうつむかせて黙っている。
「……グスッ」
 え?
「誰が……」
 おっと、立ち上がったぞ。来るか?
「トランポリンだあ!」
 思ったとおり突進してきた。
 おっと、そうはいくか! どっせえい!
 全力で頭をつかんで押しとどめる。闘牛の角をつかんで止めているような感じだ。
 長サンドラはなぜか、そのまま頭を押し付け続ける。
 しかも腕をめちゃくちゃに振り回し始めた。
「うあああああ」
「むぬぬぬぬぬ」
 いかん、押し切られそうだ。負けるかあ。
 と、力を入れた瞬間、長サンドラが頭を引いたので、倒れそうになる。あぶねっ。
 長サンドラは俺と反対方向を見ながら、乱れた髪を手で撫で付けたりしつつ、
「今日はこのへんにしといてあげるわ」
 と言った。
 何をこのへんにするんだ。コントか?
 まだ痛むほほをなでる。思い切りビンタしやがって。
 やれやれ、長門が憑依されちまってから、事態は悪くなる一方だ。
「ったく、ダーレクやらカサンドラやら。ドラマのキャラ全員は出ないだろうな」
 ため息まじりのつぶやきに、突然長サンドラの動きが止まった。
「いまなんて?」
「ドラマのキャラ全員が」
「そっちじゃなくて、最初のほう」
 えーと、なんて言ったっけか。なんとなく言っただけだからよく覚えてない。
「ああ、『ダーレクやらカサンドラやら』だ」
 突然、長サンドラが本棚に身体をぶつけた。
 腕は小刻みに震え、不安げな視線をこちらに向ける。突然どうした、具合でも悪いか?
「ダーレク……?」
「そうだ」
「絶滅したはずだわ!」
「よくは知らんが、いま校内に居るぞ」
 言葉を失い、瞳がまん丸に開いた。本棚に身体を預けたまま放心する。
 目の前に居る俺が、彼女に悲報を届けたかのように。
「なんてこと」
 消え入りそうな声で、つぶやいた。
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Date:2014/05/14
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