明日から書く。

□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

学生服とレールガン

 つまりだ。
 俺は長門から渡されたおもちゃ(イギリスから直輸入)と覚えこんだ台本のみを頼りに、世界全体を破滅に追い込まんほどの怪物相手にハッタリをかましてるわけだ。
 我ながらイカれてるな。
「テ、提案トハ、ナンダ」
 おっとと、危ねえ。今は演技に集中、集中。
「結論から言うと、きみにここから出て行ってほしい」
「だーれくハ、敵前逃亡ナド、シナイ!」
 コショウ瓶が激昂して金属管を向けてきた。
 それを笑顔と右手を上げる動作で軽く制し、話を続ける。
 あんまり急に動かないで欲しいもんだ。慣れてきたが心臓が痛い。
「そう、そうだろうな。きみにもプライドってものがある。僕だってそうだ。どんな信条を心のよりどころにして生きていくかは個人というか種族の自由だし、ちょっと言い方に配慮が足りなかったかな、ごめんよ。悪気はなかったんだ」
 一気に適当な言葉をまくしたてると、頭をかきかき苦笑いで謝罪する。
 いいぞ、相手は煙に巻かれちまって黙り込んだ。また少し寿命が延びたな。
「つまり、きみをお家に帰してあげよう、ってことさ」
「だーれくハ、敵前逃亡ナド」
「しないんだろそれは聞いたよ! でもちょっと考えてみてくれ」
 ダーレクから離れ、目の前を右に左に行ったりきたりしながら、話を続ける。
「この惑星の、地球の全生命を抹殺したとしよう。それできみはどうなる?」
「ドウナル、トハドウイウ意味ダ」
「そのままの意味さ。きみは一人、たった一人ぽっちでこのコンビニエンスストア一軒も見つからないようなド田舎の惑星に取り残されるわけだが、それをどう思ってる」
「仲間ニ連絡ガツケバ、回収サレル!」
「本当かな」
 ここぞとばかりに立ち止まり、じっとダーレクを見やると、相手は黙ってしまった。
 よし、ここも長門の推測通りだ。
「連絡がつかないんじゃないか?」
「イマハ、偶然ツカナイダケダ」
 弱々しい声で反論を試みるコショウ瓶。
「いいや違う。きみは永久に、仲間を見つけることなど出来ない。なぜなら」
 ずい、とダーレクのカメラに顔を近づける。
 なるべく得意げな顔を作らないとバレちまう。まったく命がけだ。
「この宇宙に、ダーレクなんて、存在しないからだ」
 なるべくゆっくり、間違いなく聞き取れるようにはっきりと発音すると、顔を離す。
 ヤツは当惑もあらわに、カメラを上下に動かしたりラバーカップを振ったりしていたが、やがてかぼそい声で言い返してきた。
「嘘ヲ、ツクナ」
「嘘じゃない」
「嘘ヲ、ツクナ!」
「しーっ! しっしっ! しーっ!」
 口に指を当てて、ダーレクを黙らせる。
「なにか聞こえるか? 世間話とか陰口とか軍事用亜空間通信とか」
 再び黙りこんでしまったのにも構わず続ける。
「聞こえないだろう。何も。何も! きみも本当は知っているはずだ。この惑星の全ての通信チャンネルを傍受して解析したんだろう? 地球の半径百五十億光年以内には宇宙の始まり以来、一度も、一度たりとも、きみのお仲間からの通信など入ったことは無いし、それどころかお仲間が存在した形跡もない。そうこれっぽっちも」
 カメラの前に親指と人差し指をくっつけて突きつける。
 ダーレクはまたも怯えて後退し、パソコンデスクに身体をぶつけた。
 今度はデスクが倒れ、経年劣化で表面の黄色く変色したブラウン管ディスプレイが床に落ちて大きな音を立てる。
「しかも、なお悪いことに、僕らはドラマのキャラクターだ。きみは有名人だよダーレク。お茶の間のブラウン管にきみたちが映れば、子供達は大はしゃぎさ。つまり」
 劇的効果を狙って、ちょっと間を置く。
「きみは創作物なんだよ。フィクションだ」
「嘘ダ!!」
 いやいやをするようにダーレクが頭を振り出した。
 混乱する様子ってのは全宇宙共通なんだな。
「インターネットにはちゃんと情報が載ってるのに、きみが読んでないはずはないだろう。見て見ぬ振りなんて誇り高き惑星スカロのダーレク族らしくないじゃないか」
「チガウ! チガウ! 偶然情報ガ似テイルダケダ!」
「現実を見るんだ!」
 俺の一括で、部屋はしんと静まり返った。
 ごほん、と咳払いして仕切り直す。実際ノドも痛かったしな。
「ごめん、ちょっと言い過ぎたよ。ダーレク、きみは間違いなく現実に存在してる。ただ場所が間違ってるんだ、って言いたかったんだ」
 ゆっくりと諭すように言うと、カメラが希望の光にすがるように、そろそろとこちらを向いた。
「我々ハ、ナゼココニ居ルノダ」
「この宇宙におけるスケイサス・パラダイムの実験で、時空間の裂け目が開いた。そのおかげで僕らは元の宇宙からこっちに呼び込まれてしまった」
「ドウヤッテ、帰ルノダ」
「もちろん、ターディスを使う。虚空(ヴォイド)を越えて平行世界に行くのは、前にも経験があるしね。きみもよければ乗せていってやろうと思ったのさ」
 ちなみにターディスってのは、ドクターの乗るタイムマシンのことだ。
「ナゼ、自分ヲ助ケル」
 肩をすくめて答える。もう一押しってとこか。
「当然さ。元の世界に戻れればきみも助かるし、この惑星も助かる。みんな幸せ。だろ?」
 ダーレクがまた沈黙したのを見て、たまりかねたフリで歩き出す。早く目の前のドアを開けてくぐってしまいたい。そうすれば俺の仕事は終わりだ。
「とにかく、僕は帰る。帰りたくないなら好きにすればいい」
「チョット待テ、どくたー」
 よおし、予定通り食らいついて来たな。
 あとはパソコン室から引き離せば、長門がなんとかしてくれる手はずだ。
「心音ガ、ヒトツシカ、聞コエナイ」
 なに? いきなり何を言い出すんだこのブリキ野郎は。
「どういう意味だ」
「どくたーノ心臓ハ、右ト左、ソシテ予備ノ、合計三ツアルハズダゾ」
 マジで心臓が止まりそうになる。
 そんなこと聞いてねえぞ長門!
「ああそれは、今ちょっと止めてて、というか止まってて。というのも」
「オ前ハどくたーデハナイノカ」
 ちょっと待て、考える時間をくれ。
「どくたーノ心臓ハ三ツモナイ」
 引っ掛けかよ!
「ああもちろんそうさ、きみの冗談に付き合ってあげただけだ。心臓は一つきり。だから大事なんだ。そうだろ?」
 俺が言い終わると、室内は静寂に包まれた。
 おい、なんか言ってくれよ。
「どくたーノ心臓ハ、二ツ、ダ」
 一気に心臓の鼓動が早まった。
 頭に血が上って、何も考えられなくなる。
 ダーレクの金属管がこちらを向いた。
「ヨクモ騙シテクレタナ!」
 金属管から青白い光がほとばしったと思うと、俺の隣で爆発が起きた。
 壁の表面が粉々に砕けて穴が開き、焦げた破片が床に散乱している。
 顔をダーレクに戻すと、金属管がこちらを向いていた。
「次ハ、当テルゾ」
 ああ、一分前に戻ってやり直せるなら、財布の中身を全部捨てたっていいのに。
 諦めて目をつぶろうとした、そのとき。
 ドガン!!
 凄まじい音を立ててパソコン室のドアがひしゃげ、こちら側に倒れてきた。
 俺の横に、ドアだったものを踏みつけ、両手にマシンガンを持った長門が居た。
 
 
 いや、正確には右手はマシンガンではなく、なにか金属のオブジェだった。
 腕くらいの幅で一メートルほどの長さの金属製角材は、左右に一定間隔でボルトが刺さっており、よく見るとその後ろから伸びた二本のコードが、いつの間にか廊下に詰まれた大量の黒い缶みたいなものにつながっている。
 なんか、なんとか動画で観たな、これ。
「耳をふさいで」
 オブジェに見入っていた俺に、長門が小さく声をかける。
「なんだって?」
「耳をふさいで。レールガンを撃つ」
 まさか、そのオブジェは。
 俺が急いで両耳に人差し指を詰めるが早いか、長門が引き金を引いた。
 角材の根元で光の爆発が起き、凄まじい爆音が室内に反響する。
 体中がビリビリとしびれるほどの音だ。
 耳が! 耳が痛い!
 顔を上げ、ダーレクの様子を確認する。
 なんてやつだ、傷一つついてやがらねえ。
「ヤラレタ! 外殻破損! びーむ出力低下!」
 金属管を振り回しながらキイキイ吼える。
 見た目にはわからないダメージがあったみたいだな。
 長門は煙を上げるレールガンを捨てると、左手のマシンガンをダーレクに向ける。
 パパパパ! パパパパパパ!
 今度は連続した炸裂音がこだまする。
 しかし、ダーレクには当たった様子がない。
 いや、撃つ方向は合っているのだが、どうも何かに阻まれているらしい。
「グアアッ! 視覚装置、破損!」
 今度はカメラを振り回す。
 おお、確実にダメージは与えてるみたいだな。
 だんだんと、ダーレクが後退し始めた。
 さすが長門だ。これならいけるぞ、もう少し!
 ビウン!
 ダーレクの金属管から出た青白い電撃が、長門を捉えた。
 ちりちりと、肉の焦げたような匂いが一瞬漂ってくる。
 長門は一瞬苦悶の表情を浮かべると。
 マシンガンを落とし。
 ひざをつき。
 倒れた。
 ごとんと嫌な音がして、頭が床に叩きつけられる。
「びーむ、出力回復」
 ダーレクの勝ち誇った声が聞こえる。
 なんだ、どうした? 状況が把握できない。
「次ハオマエダ、偽どくたー」
 ちょっと待ってくれ。どういうことなんだ。
 長門は目を開けたまま、ぴくりとも動かなくなった。
 そんな。
 そんなこと、あるわけないだろ。
 なあ冗談だろ、長門?
 心に何か、真っ黒な穴みたいなものが出来て広がっていく。
 認められるわけがない。
「ソノ娘ハ、死ンダ」
 嘘だろ、なあ?
「オマエモ、死ネ」
 ダーレクをにらみつける。
 だが、金属管が俺を狙っている。
 あと数秒で、俺の人生は終わりそうだ。
 そのとき、思ったことは一つだった。
 力になれなくてすまん。長門。
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Date:2014/05/14
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