明日から書く。

□ 涼宮ハルヒの憂鬱VSドクター・フー □

子供のおもちゃ

 俺が単身パソコン室に乗り込む前、教室。
「今のうちに、あなたにこれを渡しておく」
 長門が俺の手に握らせたのは、なんというか、ぶっといペンライトのようなものだった。
 灰色のプラスチックで成型されたボディは少しざらざらした円柱で、先っぽに青く透明なドームがくっついている。
 反対側の黒いキャップを取ってみると、ボールペンの先が現れた。
 一体なんなんだこれは。
「おもちゃ」
 そうか、ってなんでだよ。
 なんでいま、俺に、おもちゃを、引き渡す。
 いやまて。この見た目はもしや。まさかとは思うが……。
「もちろん子供用」
 そうか、安心したよ。
「で、これはどう使うんだ」
「出っ張りを押して」
 どこだ? ああ、ボディにそれらしきものがあるな。
 押すってこうか。
 ビーッ!
「うわあっ!」
 俺は教室の床におもちゃを投げつけそうになった。ボタンを押したとたんにとびっきり大きな効果音が鳴り、さらに青いドームがまぶしく発光したからだ。
 び、びっくりすんだろうが!
「そうやって使う」
 いや、使い方っていうか、使う局面を教えて欲しかったんだが。
「それはダーレクの天敵が持っている装備を模したもの」
 なに? 俺は思わず立ち上がりそうになった。
 天敵なんてのが居るなら、可及的速やかにそいつを呼ぶべきだろ!
 俺が疑問を口に出す前に、長門が補足する。
「あなたもそれを見ているはず、昨日」
 昨日? だって昨日は学校に行って、ビデオ屋に行って、それから鑑賞会だぞ。
 こんな不思議ペンライトに覚えなんてあるはーずーがー……。
 あった。
「ビデオか」
 海外ドラマの主人公がこれに似たのを持ってたな、そういえば。
「そう。『ソニックドライバー』がその装備の名前」
 へえ、意外とかっこいいネーミングじゃないか。見直したぜ。
「なるほどな、あのダーレクとかいう野郎はドラマの世界から来たってわけか」
「正確に言えば間違いだが、当面の理解としてはふさわしい解釈」
 やれやれ。
 俺はようやく事の全貌を理解した。
 おそらく、ハルヒはブラウン管に展開する奇妙奇天烈で超現実的な世界に憧れたのだ。
 そして学校内に、無意識にその世界を再現してしまった。
 あのなんとかパラダイムだかパラダイスロストだかってのも、ドラマの俺がまだ観てない部分に登場するタームに違いない。
 その結果として(直接的にせよ事故にせよ)ドラマの悪役モンスターまで呼んじまった、ってわけだ。
 しかしだな。
「俺がこれを使っても、あいつは怖がったりしないだろ。俺は天敵でもなんでもないんだからな」
「天敵のフリをする」
 はあっ?
 長門の顔を見る。ああ、またしても冗談かどうか判断に困る顔をしていやがる。
 俺は言われたことが頭にしみこむまで待ったが、どうも無理だった。
「ちょっと待て、意味がわからん」
「あなたがドクターだと名乗り、その道具を証拠として用いる」
「いやいや待て待て。どう見ても格好が違うだろ! あいつは背が高く彫りが深く坊主頭で皮のジャンパーを愛用してたじゃないか」
「それは九代目」
「悪い、話が見えないんだが」
「ドクターは肉体が傷つくと再生を行い、見た目が変わるという設定がある。つまり役者交代のための方便。あなたが十一代目と名乗れば問題ない」
「なんで十代目じゃないんだ」
「それは第二シーズンで登場している。涼宮ハルヒはおそらくそれを鑑賞している」
 マジかよ。あいつ、そんなところまでいっぺんに見たのか?
 でもどうやって演技すればいいんだ。演技なんて学芸会以来で、想像もつかん。
 突然、俺の右手にひんやりした感触があった。冷たいのは長門の左手だった。いやいや、なんで俺の右手に長門の左手が乗ってるんだ。あと、なんだか顔が近いぞ。
 目の前に、オドオドと不安に震える心を全て見透かす、鏡のような瞳がふたつ。
「大丈夫。わたしが台本を考える。まかせて」
 俺は空いた手でソニックドライバーの先っぽを持ち、頭をこりこりと掻いた。
 まいった、降参だ。
 お前のその目には勝てん。
「わかった、協力するよ」
「感謝する」
 長門は小さく、しかしはっきりと、そう言った。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2014/05/14
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fluxcapacitor121.blog.fc2.com/tb.php/102-4124e0cb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)